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最初の動物病院に勤めて3年経ったある日。

私はある一人の飼い主さんから、待合室で声をかけられました。

「うちの子、前よりも目が白くなってきて。このまま見えなくなっちゃうのかな…」

その時の悲しげな声や表情を見て、私は何と言ってあげたら良いか。

すぐに返す言葉が見つかりませんでした。

後悔の気持ちを原動力に

その答えを見つける為、私は眼科のセミナーに積極的に参加をしました。

そこで、ある動物眼科の専門医の獣医と知り合いました。

講義の中で、私は犬の眼科疾患について深く知ることができ、

「眼が見えなくなる」ことへの動物自身の恐怖心、飼い主さんのショックは、

計り知れないものだということに気付きました。

私は、あの瞬間に、飼い主さんに何も言ってあげられなかったことをとても後悔し、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

それ以来

視力が低下した動物とどのようにして接することが良いのか、
恐怖心やストレスはどう軽減させてあげられるか。
不安や悲しみの中にいる飼い主さんになんと言ってあげるべきか、
反対に、関心のない飼い主さんには、今の状況をどう伝えていけば良いのか。

一人の飼い主さんとの出会いがきっかけとなり、動物の眼科について、より深く学び、動物看護師として出来ることを考えるようになりました。

しかし、当時の飼い主さんへの申し訳なさはずっと、心の中に留まったままでした。

そして病気のことを知っても、私の求めている答えはそこにはなく、医学的なことではない視点で、飼い主さんの心を癒せるような方法、私なりの答えを、探していました。

出会いから7年経った2020年夏。

その答えは、突然見つかりました。

コロナ禍で自宅にいる日が増えたこともあり、かねてから興味のあったグリーフケアについて学ぼうと、ペットロス専門士のオンラインコースを受講していました。

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グリーフの言葉の意味を知った時、7年前の飼い主さんとの会話が脳裏によみがえりました。

あの時、飼い主さんはグリーフの状態だったのかもしれない。

だとしたら、私が探し求めていた答えはグリーフケアの学びの中にある。

そして数日間の講義の中から、私なりの答えが見つかったような気がしました。

もちろん、グリーフの状態だったのではないか、というのは私の憶測にすぎません。

ただ、もしも、あの瞬間に戻れたとしたら、私はきっと、

飼い主さんの隣に座って、「目が見えなくることへの気持ち」を、静かに聴いていたと思います。

探し求めていた答えが出た瞬間、7年という時間が私にとって必要な時間だったと、ずっと答えを追い続けてきて良かったと、素直に思いました。

同時に、後悔の気持ちも薄れていきました。


飼い主さんや動物が、私の知らなかった世界を教えてくれて、そこで初めて気が付くことがあり、成長させてくれます。

私にとって、経験はお金で買えない、最も貴重な財産であり、動物からの贈り物です。

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