見出し画像

思い込む力が成果を引き出す? ビジネスにも使えるプラシーボ効果

「プラシーボ効果」という言葉をご存知でしょうか?

一般的には「偽薬効果」として知られ、実際には有効成分を含まない“偽薬”を服用しても、「これは効く薬だ」と信じることで実際に症状が改善する現象などを指します。


「思い込む」ことの科学的作用

プラシーボ効果については私も「なんとなく聞いたことがある」程度だったのですが、脳科学者の中野信子さんの著書を読んで、プラシーボ効果が私たちの生活やビジネスにもうまく活用できるのでは? という新しい気づきがありました。

中野さんの解説によると、プラシーボ効果は単なる錯覚ではなく、脳科学的にも効果が証明されている現象だそうです。

偽薬効果の話でいえば、被験者が「これは効く」と思い込むことによって、脳からオピオイドという鎮痛物質が分泌され、薬を投与したのと同じような効果が出ていることが実証されています。

つまり、私たちの「思い込み」は、身体的な変化を引き起こす力を持っているのです。

行動の意味づけがもたらす変化

「思い込みの力」がもたらす効果を、さらに明確に示す研究が2007年にハーバード大学で行われました。

ハーバード大学の心理学者 アリア・J・クラムとエレン・J・ランガーは、ホテルの清掃スタッフ84名を対象に、マインドセットが健康に与える影響を調査しました。

被験者を2つのグループに分け、一方のグループには、
「あなたたちが担当する日々の清掃業務は、健康を維持するのに適度な運動量に相当する」
と伝え、ベッドメイキングや掃除機がけなどの作業が、どの程度の運動効果があるのかを具体的に説明しました。

もう一方のグループにはこういった話はせず、これまで通りやってほしい業務内容だけを指示しました。

4週間後、血圧、体重、体脂肪率などの身体的指標を測定すると、驚くことに、運動効果の説明を受けたグループで、体重の減少、血圧の低下、ウエスト周りの減少などの健康指標の改善が見られたというのです。

同じ作業量、運動量だった「説明を受けていないグループ」にはそうした有意の差が見られず、この実験結果は同じ行動をするにしても、それに対する認識や意味づけによって身体への影響があり、成果が大きく変わることを示しています。

筋トレをする際に、どこに効いているのか意識してやると効果的という話を聞きますが、実はあれも科学的根拠に基づいた話だったというわけです。

仕事の意味づけがもたらす差

効果を意識することで結果が変わるというプラシーボ効果は、私たち経営者に重要な示唆を与えてくれます。

つまり仕事も、単に作業としてやっているだけでなく、その仕事にどんな役割があるのか? 自分にとってどんな意味合いがあるのか? を理解して取り組めば、目的に沿った結果や成果を得られやすいということになります。

バリュエンスの業務を例にとれば、各店舗の買取担当(弊社ではバリューデザイナーと呼んでいます)が、ブランド品を単に「査定する」という作業レベルの認識をしている場合と、「お客さまの大切な思い出の品に新たな価値を見出す」という意味づけができている場合とでは、まったく異なる成果が生まれるということになります。

これは実際に決して小さくない差になっていて、後者は、自然とお客さまとの関係性も深まり、結果的に継続的な取引につながるケースが非常に多いのです。

パレートの法則と営業現場の実態

バリュエンスに限らず、多くの企業が直面している課題の一つに、「成果をあげる社員の極端な偏在」があります。

「80:20の法則」または「パレートの法則」として広く知られているように、「社員の上位2割が成果の8割を生み出している」というのは大胆なようでいて真実に迫る説です。

この法則は経営者なら割と高い確率で共感いただけるのではないでしょうか。

要するに、上位2、3割の優秀な社員が企業の売り上げを支えているという現実があるのです。だからと言って、その2割さえいれば会社が回るかといえばそんなことはまったくなく、成果を出すための役割の違いという側面もあります。

しかし、いわゆる「優秀な社員」の割合が増えたほうがいいのは間違いありません。

一般的には、「優秀な社員」とその他の違い、偏りは経験や能力の差として片付けられがちです。しかし、同じ研修を受け、同じ商品を扱い、同じ環境で働いているにもかかわらず、なぜこれほどまでに大きな差が生まれるのでしょうか?

これを掘り下げていくと、モチベーションや志、同じ仕事、作業をするにしても取り組みへの視座の差があることに気づきます。

つまり、多くの社員はプラシーボ効果が効かない状態で仕事をしている、またはやらされているとも言えるのです。

プラシーボはネガティブも作用する

プラシーボ効果にはもう一つ重要な側面があります。
それは、ネガティブな思い込みが実際のパフォーマンスを低下させてしまうという点です。ハーバード・メディカル・スクールの研究では、「この薬は効かない」と思い込むことで、実際の薬効も減少することが確認されています。

これは仕事においても同様です。「この仕事は意味がない」「やらされている」という認識は、実際のパフォーマンスを低下させてしまいます。例えば、ファストフードを「体に悪いもの」と思って食べると、より体に悪い影響が出るという研究結果があるように、仕事に対するネガティブな思い込みは、実際の業績にも悪影響を及ぼすのです。

プラシーボ効果を企業経営に活用する

この知見は、業務改革や新しいシステムの導入を行う際に特に重要です。私たちは最近、顧客とのコミュニケーション強化に向けてさまざまな施策を展開していますが、「なぜこれが必要なのか」「今までのやり方で十分では」という声が多い状態でそれを推し進めてもなかなか成果にはつながりません。

施策の意味や価値を丁寧に説明し、実際の成功事例を共有していくことで、徐々に社員の認識を変化させ、あるべきビジョンを共有し、主体的にコミュニケーション強化に取り組むようにしなければ何をやっても同じだと気がついたのです。

知っていても行動するのは難しい

ただし、ここで一つの重要な課題に直面します。それは、どれだけ明確な意味づけや価値を示しても、すべての社員がすぐにそれを実践できるわけではないという現実です。知識として理解することと、それを行動に移すことの間には、大きな隔たりがあるのです。

実際、新しい取り組みを導入する際、その意義や重要性を理解し、すぐに行動に移せる社員は、パレートの法則のとおり全体の2割程度にとどまります。そして、この2割の社員が率先して成果を上げ、結果として成果の偏在が生まれてしまうのです。

知識を行動につなげるにはどうしたらいいか?
経営者ならずとも管理職、上司の立場ではいつも頭を悩ませるところですが、この課題に対する具体的なアプローチについては次回お話ししようと思います。

いいなと思ったら応援しよう!