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みせとものときろく "Real Leather Dressing"

はじめに

革。レザー。

新品の美しい状態もカッコいいですが、経年変化して風合いが出ると唯一無二の存在になり、愛着も込みで魅力が何倍にも増す素材。

紙ものが集い歴史的に印刷業が多い深川地区ですが、そんな地に革製品修理を専門に扱う上質なお店があります。

今回ご紹介するのは「Real Leather Dressing | 江東区 森下にある革製品の修理屋

「ものときろく」と関わりが深い、森下の高橋のらくろード(高橋商店街)にある古着屋「THINK」のオーナー武田氏が注文したパターンオーダー靴の受け取りに同行し、その背景を取材してきました。

基本情報

観葉植物とマッチした洒落た外観

Shop name: Real Leather Dressing
Owner name: 山田氏
Category: 革製品の修理&メンテナンス&リメイク、革靴パターンオーダー
Adress:東京都江東区新大橋2丁目9-5 ユーハイツ 1F
Business Hours: 11:00〜20:00(水曜定休)
Web:
Real Leather Dressing | 江東区 森下にある革製品の修理屋
Instagram:
real_leather_dressing

特別企画:THINK武田さんのパターンオーダー靴の納品

THINK武田オーナーが注文したパターンオーダー靴

注文のきっかけ

神谷:本日のメインイベントです。THINK武田さんがオーダーしていたパターンオーダー靴の納品です。武田さん、オーダーの背景を教えてください。

THINK武田:出会いはウチで扱ったジャーマントレーナーを購入したお客様の紹介で、お店の靴を修理してもらいました。

それから、うちの商品のリペアをお願いするようになって。お世話になっているので折角ならと注文しました。国産カーフを選択しましたが色味がむら感があって経年変化を楽しめそうかなと。ラフで繊細過ぎないのが好みです。

THINKで取り扱っているAYANのデニムに合うネイビーにしました。革靴とデニムを一緒に経年変化を楽しもうかと思います。

むら感は染料で染められているからこそ。透明感もありますよね。顔料ではなく染料な点もデニムとの共通点として惹かれました。

山田:デニムの話も聞いていたのでクラシックよりカジュアルな方が良いかなと。色落ちもしやすいし楽しめると思う。国産カーフの注文は初めて。みんな仕事用で選ぶ方が多いのでクラシックな木型を選びますね。

THINK武田:はじめはモンクストラップにしようかと思ってましたが、カジュアルに履けそうなVチップにしました。

山田:Aldenのモディファイドラストをオマージュしてます。履いた感じ合うよね。

THINK武田:サイズの相談にめちゃくちゃ親身にのってくれました。2足目も狙っています。

オーダーシューズを受け取るTHINK武田氏
早速履き心地を確かめる
THINKで取り扱うAYANのデニムと相性が抜群

Chapter1. 原点

神谷:今に至る原点を教えてください。

山田:元々革が好きだということは実はなくて。高校時代がモード全盛期でジャンポール・ゴルチエCOMME des GARÇONSミルクボーイ : MILKBOYなどファッションが好きで。ヴィヴィアン・ウエストウッドの厚底とか履いてました。

当時、美容師が流行る黎明期で。大学を辞めて美容師になりましたね。

神谷:なぜ美容師を選択したんですか?

山田:美容師って全ての仕事に繋がるなと。海外に行けば感性が刺激されるし、お客様とのコミュニケーションも磨くことができる。

雑誌で有名な美容師が特集されていたり、シザーズリーグという美容師がカット対決をする番組があったりしましたね。

ファッションデザイナーのように生きてきたバックボーンが反映されることに魅力を感じました。

神谷:美容師は何歳まで続けられたんですか?

山田:19-27歳までで北九州のお店で店長まで勤めました。真剣でしたね。

美容師は朝から晩まで本当に忙しくて。やめた瞬間開放感が半端なかったです。笑

美容師時代はフランスに1週間ほど勉強に行ったり、バックパッカーで15カ国ぐらいは回りました。

インタビューに答える山田氏

神谷:美容院をご自身で経営するなどは考えなかったんですか?

山田:ピンと来なかったですね。美容師は完全燃焼しました。

ヨーロッパを旅している時に靴の美しさに魅了されて靴作りなんかいいな。革製品いいなと。そこから革製品修理の道を志しました。

パターンオーダーの見本

Chapter2. 開店までのストーリー

神谷:革の修理技術はどのように学ばれたんですか?

山田:最初は革靴を作ろうと飛び込みで何軒かお願いしたが断られました。27歳で専門学校にも行っていない人間だからそれはそうですよね。よくよく調べてみると靴職人は1人前になるまで分業制で10年ぐらいかかると。

流石に10年は長い。それであれば修理屋でもいいんじゃないか?と考えました。革製品に触れられるし、工程も完結できるから楽しいかもと思いました。

福岡で革の修理屋が流行っていなくて。高齢者がやっているイメージしかなかったのでオシャレな感じでやりたいなと。

神谷:なるほど。修行はどのぐらいされたんですか?

山田:東京の修理屋で修行しました。たまたま拾ってくれて。運が良かったですね。技術職なので雇われは給料が少ないので、最初から独立前提で飛び込みました。

入って半年経ったタイミングで六本木店の店長が辞めることになって店長になるチャンスがきて、店長を6年ほど勤めましたね。1店舗を1人で回すのも良かったです。

技術職は続けていかないとと楽しさがわからないですね。最初は大変なばかりだけど。仕事そのものは嫌いじゃなかったです。

インタビューに答える山田氏

神谷:美容師と比較してどうでしたか?

山田:美容師より好きになりましたね。美容師は0→1の仕事で。たとえばロングヘアをショートヘアにするにも感性でイメージできないといけないし、お客さんの要望にも応えないといけない。

一方、修理屋は原型・ベースがあります。履き方によってアレンジしないといけない点にもちろん想像力は必要ですが、美容師と比較すると必要性が低くて。

私は単純にそっちのほうが向いていました。美容師時代に400-500人指名してもらうお客さんがいたので向いていないわけではなかったと思いますが。

この仕事の良いところは全国から預かれるところです。一方、美容師は店舗周辺の商圏だけです。

神谷:東京での修行後、独立されたのですか?

山田:地方に行ったり若干の空白期間がありますが、再び東京に戻ってきたタイミングで現在の師匠のお店で半年間お世話になって。技術を学びながら物件を探しました。

山手線の内側は家賃が高いし、東京の西側は修理屋が飽和状態。東側は未開拓だなと。最初は清澄白河で探していたのですが珈琲屋とバッティングしてしまって。

固定費を抑えながらも、せめて大通りから1本入ったところで検討して現在の場所に落ち着きました。

楽観的になれないとお店は出せないですね。

お子様がいらっしゃった際に回すことができるガチャポンも革製

Chapter3. 開店から現在まで

神谷:実際にお店を出してみていかがでしたか?

山田:2年目に潰れかけました。笑

ダメかなと思った時に外注(メーカーの仕事を一手に引き受ける)が増えてきて。そこで耐えて今に至ります。

神谷:新型コロナの影響はありましたか?

山田:最初の緊急事態宣言の時はありましたけど、それ以降はそこまででしたね。当時支えてくれたお客さんには感謝しかありません。

ただ、潰れかけた時もですが、延命は考えていませんでした。

修理・リペアが完了した革靴は丁寧に保管

Chapter4. こだわり

神谷:リアルレザードレッシングさんのこだわりだったり、特徴はありますか?

山田:最初は靴の修理だけでしたが、カバンだったり財布だったり。やるからには何に対してもできないと片手落ちだと思っています。

お客様にできないと言いたくないんです。できる限りやりたいのでお客様との一緒に考えます。なので門前払いはしないです。

自分で全てできるからこその提案かなと思います。

山田氏とTHINK武田氏。

THINK武田:私も革製品についてはとりあえず山田さんに一回見てもらおうとなります。修理+αが欲しい。修理してもらうならこの人がいいという感覚ですよね。

山田:もちろん一人なのでやれる量には限りがあります。時計の電池交換とか鍵とかは手を出さないですが、革に付随するところは可能な限りやっていこうと思っています。

好きでやっていると必然的に知りたくなるし、追求したくなるんです。

美容師時代の経験も生きています。革染めは、美容師時代のカラーの知識がリンクしていて根本的な考え方が一緒でした。人と接するのも美容師時代に人生相談も受けたり、それこそお子さんの成長の過程を見てきたことが今に生きています。

神谷:THINK武田さんが受け取ったパターンオーダー靴の販売もされていますよね。

山田販売から修理まで全部責任を持てるので修理屋が靴を売ると言う事は理にかなってます。

自分で作ることはできないのでパターンオーダーですが、初めて1年ぐらいで感覚も掴めてきました。

オーダーは常連さんが応援半分で買ってくれるのが多いですが、今後はさらに力を入れていきたいですね。

神谷:来店されるお客様はどういった方が多いでしょうか?

山田:30-50代ぐらいまで幅広いですね。6-7割は地元の方で、3割はそれ以外です。普通の修理屋はもっと商圏が狭いと思いますが、うちは豊洲や大島など数駅離れたところからもいらっしゃいます。

女性のお客様も増えてきています。以前頼んでくれた男性の奥さんとかですね。

Chapter5. お店を象徴するもの

神谷:お店を象徴するものをご紹介いただけますか?

山田:什器に使っている家具は全てヨーロッパのアンティークです。オープン時に半分しかない状態から少しづつ集めました。

特にこのテーブルは北九州で日本一オシャレなアパレルショップDresswellを営む小学校からの同級生の友人から開店時にいただいたアンティークで特に思い入れが強いです。服はいつもそこで買っています。

同級生から開店祝いにプレゼントされたテーブル

Chapter6. 今後の展望

神谷:今後の展望を教えてください。

山田:もう少し広い場所に移りたいのはありますね。この空間だと世界観作りに限界がありますし、その方がお客様も嬉しいと思います。

神谷:清澄白河・森下エリアでお店を始めて良かったですか?

山田:本当に良かったです。人が良いんですよね。良くも悪くも下町で、その良さが残っています。THINK武田君はじめ、周辺のお店も本当によくしてくれて。お客様でいらっしゃたり、こちらも伺ったりします。

Chapter7. これからいらっしゃるお客様へのメッセージ

山田: ハードル高いと思われることが多いですが、そんなことはありません。困ったことがあったら気軽にフランクにいらっしゃってください。

編集後記

美容師から革修理へ。一見、共通点はなさそうに感じますがお話を伺う中で美容師時代に培われた感性や技術が今に繋がっていることに気づかされました。

革職人として修行して独立するという王道ではないルートを歩むからこそ、滲み出る個性。気軽になんでも相談できるけど、ちゃんとカッコよくて技術も高い。チェーン店と職人肌のお店のいいとこ取り。

また、THINK武田さんのパターンオーダー靴の引き取りに同行できたことも嬉しくて。人が心待ちにしていたものを受け取る瞬間って最高ですね。こちらも幸せな気持ちになりました。

ものときろくは、”もの”を扱うメディアですが、”もの”と”ひと”は表裏一体。人と人が繋がるご縁も大切にしていきたいです。

ものときろく代表 神谷

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