【体験談】矯正手術も困難な「受け口」と声のコンプレックスに悩んだ36年の末、辿り着いたもの
今回は、声楽・コーラス指導歴20年のプロフェッショナル金子陽子さんが体験談を寄稿して下さいました。
歌が大好き、けれど受け口による歌いづらさやコンプレックスを乗り越えるまでの奮闘記、あくなき探究心に脱帽です!
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こんにちは。声楽科卒でコーラス指導等をしている金子陽子と申します。
私は36年間、受け口と付き合ってきました。これまで何度も歯科医院で相談してセカンドオピニオンも様々聞いてきましたが、手術が難しいくらいの受け口です。
先日「これで最後にしよう」と精密検査を受けたのですが、正常咬合の平均と比べ、あまりにも下顎から耳までの角度が鋭いため、やらない方が良いだろうという結論になりました。顎骨切りの外科手術をしたとしても、理想に近づくのは難しい...
今回はそんな私の受け口奮闘記と、喋りやすく歌いやすくなった意外な改善方法をご紹介します。
1. 受け口(反対咬合・下顎前突症)とは?
受け口・しゃくれ(反対咬合・下顎前突)とは、下の歯が上の歯より前に出ている状態のことを言います。しゃくれは一般的に輪郭の形で判断されますが、受け口は噛み合わせで判断されるため、少し定義が違います。
2.受け口の原因6つ
ここでは受け口の主な原因6つを挙げます。先天的なものは治すのが難しいと思いますが、小さいからの癖が受け口の原因になることもあります。心当たりがあるものは、なるべく早めに改善するようにしましょう。
①遺伝
両親のどちらかが受け口の場合、子供にも遺伝しやすくなり、その影響で口や舌の使い方も似てくると言われます。
我が家の場合、夫は正常咬合ではありますが、歯列乱れと低位舌(舌があるべき上顎になく、下顎にあること)で、現在歯科矯正中です。
私の両親はどちらも正常咬合で、自分自身も正常咬合でしたが、途中から上顎の発達が停滞したことと、顎の癖により受け口になりました。
②骨格的な発育過剰・不全
下顎と上顎のバランスが悪くなってしまうケース、また上顎の発達が悪く下顎が出てしまうケースがあります。
③舌癖
舌で歯を押すといったような歯を強く圧迫する癖があると、押された歯が外へ出ようとして、よりその部分が歪んで成長してしまいます。
また、飲み込む際に舌がうまく使えず頬を内側にすぼめて飲み込む癖なども、口のアーチに影響します。そういう場合は、歯科医で行われる「口腔筋機能療法(口や舌の筋肉を鍛え、正しい動きを促す療法)」が行われます。
④口呼吸
鼻づまりやうつ伏せ・片方だけを向いて寝ることが口呼吸につながることがあります。
口呼吸だと本来上顎にあるべき舌が下顎にあることが多く、舌が上顎を押し広げないので、上顎の成長が停滞してしまいます。
我が家の娘は生後間もない頃から母乳を飲む時の舌の動かし方が上手ではなく、またうつ伏せ寝が自然でした。初めての子供のため、私自身何も疑問に思わないまま娘は大きくなりましたが、いつの間にか口呼吸が当たり前になっていました。前歯の抜け替わり時期になってやっと疑問をもち、歯科を受診。
そこで7歳から、口呼吸の矯正のために日中と就寝中にマウスピースを付け、歯科指定のトレーニングを日課として行っています。すると、数ヶ月で歯列が綺麗になってきて、また口を閉じることもできるようになりました。
親として気をつけていることは以下のことです。
できるだけ噛みごたえのあるものを食べさせる
日中口が開いていたら注意する
食事の時には足裏をつける
読書や勉強の時は姿勢よくする
⑤頬杖を突く
頭の重さが顎に集中し、いつも同じ部分を押していることになるので顎が歪むことにつながります。
⑥子供の頃の指しゃぶり
指しゃぶり自体は悪いことではないですが、3〜4歳までにやめておいた方が良いと言われます。それ以降も続くようだと歯を指で押すことになり、歯列に影響が出ます。
3.コンプレックスと悩み
人により下顎が出ている長さや歯列の並び方によって様々だと思いますが、多くの場合、舌が口の中に収まりきらずに下顎に乗って前に出ていて、『上顎のスポット』という本来あるべき場所から外れていることが多いようです。
そのため、舌っ足らずのように聞こえたり、「さしすせそ」が大袈裟に言えば「しゃししゅしぇしょ」のように息もれ音に聞こえたりします。
また、舌が前に出ているので「たちつてと」の発音を歯切れ良く、というのが難しくなり、歯に舌を挟んだような発音になります。「しゃ」に聞こえるから「さ」に直して、と言われることがあるかもしれませんが、物理的な困難を伴うのですぐに直せるものではありません。
実際私も、あるレッスンで「さ」音が「しゃ」に聞こえると指摘されました。しかし、その場にいる先生方は皆、私が直したつもりで歌った後も「うーん」という表情で、納得のいかない雰囲気。出来ないのが悔しかったし、分かってもらえないのがもどかしかったですが、私自身も、声楽の世界では矯正していないことが言い訳にならないと思っていたので何も言えませんでした。
声楽学科は受け口であることを逆にエネルギーに、人より練習して大学の上に当たるディプロマコースへ進学できました。しかし在学中も卒業後も
「この顎のせいで人より劣っているんだ、自分は顎のせいで音楽も見た目もダメなんだ...」
「あの時親が矯正に踏み切ってくれていればこんなに悩まなかったのに、矯正したいけど莫大なお金がかかるからこれ以上は親に出してもらえない...」
「あの人はいいな、綺麗な骨格で...声が良くても受け口じゃダメなんだ。」
と、不満や受け口による自己嫌悪をいつも感じていました。
②歌いづらさ
私が受け口になり始めたのは、小学校中〜高学年でした。顎の成長時に顎関節がモヤモヤと気持ち悪く、下顎を出す癖がありました。両親も正常咬合で、自分も幼少期は正常咬合だったことを考えると、その癖のせいで受け口になったと思われます。
また当時は気づいていませんでしたが、低位舌であったことも上顎の成長を妨げたと考えられます。
幼少期から教会で歌う時のオルガンに合わせた声の響きに心を奪われました。
また歌って踊ることが大好きで、小学校では合唱クラブに入りました。皆で声を合わせる時に、響きが塊となって体に入ってきて、背中がゾクゾク!としたのをよく覚えています。
それ以来、合唱の虜で中高をコーラス一筋で過ごし、もっとコーラスをやりたいと思って、大学は声楽学科へ入学し、同時に他大学の数百人の大合唱団に所属しました。
私は大学入学まではあまり発声に関して受け口の問題を感じていませんでした。しかし、とある先生から「手術したほうがいいね」と言われたことがあり、その辺りから、声楽には不利なのだと思うようになりました。
当時から私が声楽の中で一番問題と感じていたのは、「どうしても響きが下顎に引っ張られてしまうこと」でした。口を開ければ下顎に力が入り、声を出せば舌が盛り上がって舌根が硬いと言われました。
当時は受け口が最大のコンプレックスで、容姿をよく見せようとして、下顎を後ろに引っ込めようと力を入れていたので、余計に無駄な力が下顎に入っていたと思います。上顎に響かせるために、首や肩、下顎の脱力をよくやりましたが、実際発音時にはそのままで発音できないので困っていました。
家族をはじめ、同級生や声楽学科の先生にも受け口の方はおらず、同じ悩みを共有できる環境ではありませんでした。
「受け口の歌手もいるよ~」と言われたことはありましたが、実際どこの誰かは分からずじまいでした。そのため、1人で悩むしかありませんでした。
また、「『さしすせそ』がちょっと息もれ音に聞こえるから、もう少し鋭く発音してみて」と言われることもありましたが、口や舌について何の知識もなく、なぜそう聞こえるのか、どうしたら良いのか、全くわかりませんでした。
しかしそんな中でも、教えて下さる先生が私の口のことを考えてトレーニングしてくださり、大学卒業後、その上のディプロマコースまで進学することができました。
③見た目のコンプレックス
見た目を気にする中学生の頃
受け口
太っている
毛深い
メガネ
田舎者
というたくさんのコンプレックスを抱えていました。
その中でも、受け口は自分ではどうしようもないものでしたが、少しでも良くしようと、下顎を引っ込める癖がありました。
周りの友達に何か言われたことはないのですが、都会の素敵な同級生に囲まれて、そんな人たちと比較して、「自分はなんてダメなんだろう...」と落ちこんでいました。
大学に入ると、私はまたもやコンプレックスの嵐となりました。ボディコンワンレン時代の名残でスタイル抜群の同級生に囲まれ、彼女達の彼氏が車で迎えに来るような世界の中、私はジーパンを履いて自転車で一山越えて通学していました。私はそれが普通だと思っていたのですが、同期生とはあまりにも世界が違う感じがしました。
彼女たちは受け口ではなく歯並びが綺麗、かたや自分は受け口で発音も変えられないし、相談する人もいない。
楽しくコーラスをしたかったのに、声楽という1人で舞台に立つ孤独な修行の道に入ってしまったギャップ
元々世界の民族音楽が大好きで多様性を求めていたところからオペラという1つの世界を自分で選んでしまったギャップ
そんなことからうつ状態になってしまいました。学校の健康診断では精神状態が良くないのでカウンセリングを勧められました。
ただうつ状態と言っても学校には行けたし、友達と会話もできたのですが、私の中ではドロドロとした闇のカプセルの中にいるようでした。
音楽が楽しくなくて苦しい...
同期と話していても他の人が輝いて見え「自分なんてダメだ」と思う。日中は人と頑張って話もするのですが、1人になると全く落ち込み、思いを紙に書いては思考がグルグルと巡っていました。
過食気味になり家で1人の時に冷蔵庫のものを食べあさったり、菓子パンを沢山買い込んで家族が誰もいない時に思いきり食べました。甘いものは、自分を否定しない優しい存在に思えたのでした。そして太り、また自己嫌悪になるのでした。
また学校の近くにあった祖母の家に逃避しては「がんばれ」と祖父に言われたり、祖母の作り置いていたケーキに癒されたりしていました。
このようにうつ状態となった私ですが、小心者ゆえレッスンはどうしても休む勇気がなく、毎回出席していました。その中で、先生の言われるままに無心になって指示についていき、ストレッチ、呼吸、音階練習、曲、などに取り組みました。
当時は自主性がないままそれらを繰り返していたのですが、いつの間にか「あれ?楽になっている!」と発見するような感じでうつ状態が解消していました。
今思えば、通学で自転車をこいで日光を浴びて通い、発声練習というリズム運動をし、声楽レッスンを通じて口や顔を使って沢山呼吸をするなど、うつ解消に良いとされることがレッスンで全て行われていたのだと思います。
そのようなことを経験し「声を出すことは心身の開放につながる」ということを確信しました。
受け口の発音に関しては、30代になるまでモヤモヤとした霧の中にいました。
「どうして自分が人に指摘されるように発音を直せないのかわからない、声楽の先生方は自分のことをどう思っているのだろう?」
「人の発音がとても好きで真似したいのに出来ない!」
「「響きをもっと上顎に」というのは分かるけれども出来ない!」
「正常咬合の人たちはもっと楽に出来ているのじゃないか?」
「こんなに苦労しているのは受け口だからなのでは?」
しかし、ある時歯科のコーラス指導で関わっている歯科衛生士さんから、舌の使い方について教えていただく機会がありと目から鱗でした。
自分の舌が人より前に出ている
舌が下顎にある
舌に力がない
全く知らなかったのです。
それまで誰も教えてくれなかった事実が初めてここで分かり、目の前が明るくなりました。それから、口腔筋機能療法を個別に受ける機会に恵まれ、舌のトレーニングを学びました。
4.受け口の一般的な治し方
子供の場合
まだ骨が発育段階なので、顎の骨と歯も動かしやすい状態です。顎の骨を正しい方向に誘導して、受け口、下顎前突、しゃくれ、反対咬合の改善をはかります。
大人の場合
骨の発育が終了してしまったので、骨格を改善するように移動・誘導することができません。そのため矯正装置(ブラケット)を装着して歯を動かして改善をはかります。重度の受け口、下顎前突、しゃくれ、反対咬合の場合は外科処置をして顎を移動することもあります。
5 . 発音を改善するために試したこと3つ
私がこれまで試した3つのことをご紹介します。
①舌のトレーニング
舌癖や低位舌を直すために過去に歯科で舌を細くまっすぐ前に出すポッピング(口を開けて舌を上顎の前歯の後ろあたり(スポット)につけ、ぽんっと大きな音が出るように舌を外す)やスラープスワロー(舌をスポットにつけたまま歯をとじ、水を飲み込む)などの舌のトレーニングも教わりました。
②下顎を脱力する
口を開けたときに下顎に力を入れないために、意識を上顎に持つことがポイントです。口はぼんやり開けておけばいいと考え、上顎で発音する意識をしましょう。
③ 姿勢を良くする
首は楽に、身体にフワッと頭が乗っているだけ、と考えて立ってみましょう。これはアレクサンダーテクニークで学びました。そういう意識でいると、口や顎に無駄な力が入らずにすみます。
6.「声ヨガ」で乗り越えた受け口の悩み
このように、受け口による発音の問題改善のために様々なことを試してきた私ですが、うつから回復した時に心と声を出すことが繋がっている、声を出すことで心身が開放されるのだ、と感じたことから、それを何かの形で人に役立てたいと調べているうち、2021年に「声ヨガ」に出会いました。
ここでは、声ヨガを通じ自分自身で人体実験して感じられた変化をご紹介します。
① 歌いやすくなった
歌いやすく、かつ無理をしないで歌える感じが出てきました。自分で声ヨガを教えることになり、1〜2ヶ月ほど、毎日声ヨガのトレーニングをしていました。
声ヨガトレーニングでは
舌を出したり動かす
口角を上げる
表情筋を動かす
肩甲骨周りのストレッチ
呼吸
などを鍛えていきます。
歌の練習についてはハミングや呼吸の練習以外は、毎日フルで歌ったわけではありません。1〜2ヶ月後数日間歌ってみると、自分でもびっくりしたのですが前と比べて歌いやすくなっていました。
②身体の変化
まずは舌で頭を支えている感じがわかってきました。これまで、私の舌は力がなく下顎にあったのですが、舌の力がつくことで、以下のような変化を感じました。
歌いながら舌で頭部や頸椎を支え、それにより頭頂部が上前に少し引っ張られている感覚
顎を引いた感覚
上顎が下顎よりも主役になっている感覚
「おお、正常咬合だと自然とこうなるのか?」と思いました。
次に、例えば「さ(SA)」という発音をする時、これまではどちらかというと下顎に落ち、息に無駄が多くて響きになっていなかったという感覚がありました。そしてかなりの受け口のために上の前歯と下の前歯に数ミリの隙間があるので摩擦音であるSが息漏れ音になっていました。
それが声ヨガのトレーニングを積極的に行ってからは、
「S」がより上唇のあたりと上顎で言える
発音に鋭さが増しクリアなSになった
「A」の時に下顎で「あ」を作ろうとしないで上顎を使って言える
「SA」発語時に下顎が落ちない
息がへそ下から送り込まれて軟口蓋まで届く感覚
体幹がブレない
ということを感じました。
また、これまでは息継ぎの時に、特に腰を緩めようとして胸が落ちていたように感じるのですが、歌っていて要所要所で舌で頭部を支えることができていると、特に姿勢を大きく変えなくても息継ぎができる感じがありました。歌いながらの鼻呼吸も楽にできるようになりました。
私は歌の時は、口でも鼻でも、休符で息が吸える方どちらかでさっと吸うということをやってきました。特に鼻呼吸は息の音がするので、それだけに拘らず来たのですが、今回のことで、改めて鼻呼吸が私には向いていると思いました。
③心の変化
これは自分にしか分からないのかもしれないと思ったのですが、声ヨガを行っていくことで、レッスンで声楽の先生にも「よくなった」とお褒めの言葉をいただいて自信になりました。
緊張して硬くなりがちな体を緩めながら効率よく使い、母音に吐く息を乗せてより響く音にすることができたからだと思います。特に、歌い出しがいつも緊張して声が潰れた感じになっていたのですが、その部分も改善傾向にあります。
また、ライブ配信など人前で話す時、緊張したり不安になりがちですが、今回の鼻呼吸や舌の位置が変わってきたことで、心が落ち着いて集中して臨むことができるようになりました。
7.さいごに
受け口の手術を若い頃から何度も決断できず、検査の結果受けないほうが良いと判断した私が辿り着いた「声ヨガ」による喋りや歌の改善体験をお話しさせていただきました。
私の人体実験により実感している効果は、
舌と唇の力をつけることができる
上顎が使いやすくなる
舌の動きがより柔軟&強力になる
息が効率よく使えるようになる
などです。
舌のトレーニング自体は歯科医院でも教わりましたが、声ヨガの良さはそれを「楽しんでできる」ということです。受け口が当たり前になって生活している日々の中で、心の底ではいまだ乗り越えていないコンプレックスがあるという方の希望になれたら嬉しいです。
金子 陽子 (かねこ ようこ)
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また声ヨガの学びをもっと深めたいという方がいましたら、声ヨガインストラクターの取得講座もありますので、興味がありましたらそちらもチェックしてみて下さい。
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