英国ファンドにトライが買収されることについて

世の中は動く。予想もできない速度で動く。
家庭教師のトライを、英ファンドCVCキャピタルパートナーズが約1100億円で買収することが決定したそうである。
CVCは、すかいらーくや資生堂に出資し、また東芝買収も噂されたファンドグループである。
ファンドグループの目的は、所有する株式価格の上昇がその中心であろうから、非上場のトライを株式会社化して上場し、そこでついた価格の総合値が1100億円を上回ると判断されたことになると言うことなのか。
トライは富山県出身の平田修氏が1987年に郷里富山で立ち上げた家庭教師サークルがその母体であるが、テレビのコマーシャルでも知られ、全国的な家庭教師派遣システム産業に成長した。
N高などオンライン学校が隆盛なことを見てもわかる通り、トライもオンライン教育に力を入れている。
この流れは今後も緩まることなく、やがて AmazonやUber-EatsといったAIを活用した経営システムと同様のやり方で家庭教師の労働を管理して、その上前を確実にはねることを志すことになる。
ファンドは、「これは確実に成長する」と読んだ。多分そうなのであろう。学校教育が完全に機能しなくなる前に、国ではなくて民間企業が、しかも外国のファンドを受けて教育の世界に乗り込んでくることになる。これを見て、塾業界のドン、元文科大臣の下村博文氏などの自民党の人たちはどのように思うのだろうか。既に彼らもその仲間なのか。ともあれ時間の問題でトライは「学校化」することだろう。
それにしても、一体誰がCVCとトライを結びつけたのであろうか。トライの会長の平田修氏のご夫人は元郷ひろみ夫人の二谷友里恵氏であり、彼女が現在のトライ社長である。この辺りに「上流社会」とファンドとの個人的な繋がりの元があるのかもしれない。
筆者は過去に、トライでバイトした学生たちからそのピンハネ率が高すぎると何度もこぼされたことがある。
本来個人指導塾経営は儲からない。儲かるためには、授業料などを上げるか教師たちの賃金をケチるしかない。
働く者は、なぜ広告費が出るのかわからなくなる。
授業料を上げるとお客が来なくなるから、そのしわ寄せはとかく現場で働く学生たちになる。
東進スクールは最初にビデオ学習システムを構築した。これはサテライト化し全国に拡大した。関係ないが、東進スクールを経営するナガセ社の社長の永瀬昭幸氏は東大経、旧野村証券出身で、現野村ホールディングス社はCVCと共同出資することが多い。東進スクールにも打診が来ていたと見ても良いだろう。他の予備校も同様だと思う。元代ゼミの会長は「しまった!」とほぞを噛んだかもしれない。
塾や予備校に行くのは、自分では勉強できない人がわかるように説明してくれる先生に出会いたいからである。
だから「人気講師」の喧伝ということになるが、その授業をビデオ化して貸し出すとは、今日のネット化した社会のYou-Tubeでやられることの先取りである。上手い先生の説明を映像で見て理解できれば、他のほとんどの教師は不要である。それどころかどんどん自分で学習を前に進めることができる。ある意味でそれはゲーム感覚とも呼べるかもしれない。
知識ではなくて「実技」を教えることに現場教師の「仕事」が制約されていく。
ここで生徒の理解力や感受性や好奇心を分析し、それに合わせた説明をする、兄さん姉さん、オッさんオバさんの教育映像作品を生産し、それをAIで生徒の資質性格と好みに合わせて適宜に寄り分けるという、婚活のようなシステム構築が目指されるはずである。
教育のAI化―そのことがこの「投資」の中心目的なのではないか。こうなると教師はまるで「芸能人」と同じ扱いになる。必然的に授業の下手な教師は淘汰される。ところで、そのお金は誰が受け取るのか。
植民地システムとは、軍事的に制圧した地域における有益な産品の生産・産出を実行し、それを安く買い取り、おまけに本国で生産したものを売りつけるというものだった。しかしそこでその生産に携わる末端の労働者は、自己の生産性に見合わない苦しい生活を強いられる。場合によっては、拉致されて奴隷としてプランテーション農園に送り込まれる境遇に陥る人もあった。
他国の労働者の生産したものを横取りする。上前をはねる。これを軍事的に有無を言わさせない。運搬は船で行う。
しかし、今、我々の目の前に見えるのは、秋霜烈日黒くて四角いリュックを背負って自転車で走って配送する若者たちの姿である。彼らを管理する会社は米国にあり、その上前はその会社に入り、国への寄与は少ない。つまり、本国のAIを管理すれば、外国人の若者に肉体労働させ、お客が支払う料金のその上前をはねることができるシステムである。こんなことは既にそこら中で行われていることかもしれないが、目の前でリアルに見えるのは珍しい。それにしても、なんとものすごいアイデアであろうか。本国でAIさえ管理していれば、国外の人間の労働を搾取できるのである。植民地政策なんて古臭くて面倒くさいものに思えてくる。
ところが今度は日本の教育に外国資本が本格的に投入されるというのである。
物は手から手へと流通させなければ利潤をあげられない。しかし、無形物である教育は、ネットで済ませられる要素が大きい。これは確実に儲かる。だから公開する株式価格も高くできる。
だが、教育の本質がネットで伝えられるであろうか。知識習得ではなくアタマをよくすること。能力開発を行うこと。さらには人間性ということの伝達。それすらもいつか可能になる日がくるのかもしれないが、その時はロボットが教師になっていることになるのか。
オンラインサロンを始めたが、こうした動きと全く逆のことを画策していると感じる。
真の追体験はネットの中では得られない。
また、そのことによって知性を後押しする「エネルギー」も得られない。
そして自然環境がなければ目覚めることができない。


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