香りと時間


何年もずっと探している香りがある。
似たような香りにも出会えなかった。

鼻の奥から入った香りが脳に記憶されていて、忘れられないでいる。
それはパールで有名なミキモトから出されていた香水だった。
買ったのではなくてサンプルでいただいたんだと思うのだけれど、とても好みの優しくフレッシュな香り。

私は気に入ったものや欲しいものがあった時、見つかるまでは探し続けるタイプだ。
似たようなものを間に合せで持つことはない。

適当に選んだものは、私が心地よいと思っているリズムを狂わせてしまう。
その心地よいと思うリズムを自分で狂わせると、自分自身に対して怒りを覚えるのだ。
だから気長に探し続け、その時間も嫌いではない。


つい先日、探している香りが作られていないことを知った。
ショックだったけれど、ちょっとホッとした気持ちも実はあった。
自分の記憶に残る香りが、記憶と違ったらもっとショックだったかもしれないからだ。
あの香りとはあの時でお別れだったのね。
そう思ったら新しい香りと出会いたくなった。

そんな話を東京に行く日の朝に友人にしたら、カルティエのフレグランスのポップアップに誘ってくれた。
夕方の用事を済ませ、表参道と青山通りの交差点にある会場で待ち合わせ。
ライトアップされた会場は賑やかな場所でも一際輝いていた。

入った瞬間のいい香りとラグジュアリーな雰囲気が、私達のテンションをアップさせる。

カウンターの椅子に腰掛けて、ちょっとした質問に答えると数本の香りが選ばれる。
その香りについての物語を聞きながらテイスティング。
その中から自分の好みを探していく。

目を閉じて香りを鼻の奥から脳に届けることに集中する。
この時間が好き。

選んだ香りは時間が描かれたボトルに入っていた。
これも今回の試みだそうだ。

私のボトルは深夜の2時。
それを聞いただけで香りの深さが想像できる。きっと大人の香りだ!

目を閉じて集中!思っていたより重くはなかったけれど、香った瞬間に私の香りだと思った。一緒にいた友人も同時に「恵子さんだ!」と発した。

他人からも同じようなイメージを持たれると嬉しいものだ。

重くはないけれど深みのある香り。成熟した女性。そして厳格な修道院を想像させた。
古い建物に入った時に感じるちょっと湿った空気感。それは嫌なものではなく高貴さを感じられた。

あくまでも私が香りから想像したイメージだけれど。

あんなに長く探していた、優しくフレッシュな香りとは真逆の香りに魅了されてしまった。

とても気に入ったけれど、その場では購入しなかった。

この香りがどれくらい脳裏に記憶されるのかを確かめる時間を持ちたいのと
この香りが似合う空気が冷たく分厚いコートを着る頃に、もう一度テイスティングしたいと思ったからだ。

冬の夜にこの香りを纏う私。
想像するだけでワクワクする。

探している時間。見つける時間。試している時間。
香りに記された時間。

見に纏うまでの時間。纏ってから香りが変化する時間。

身に纏ってすぐより、自分の体温と重なることで変化する香り。
香りは時間と相性がいい。


昔の男を忘れられずにいたけれど、今までとは全く違うタイプの男に偶然出会い、魅了された感じ。。

さあ、新しく出会った香りと私の相性はどうなのかしら?

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