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Camp Inc.・新田晋也さん×イラストレーター・黒木仁史さん×ヴィジョントラック・光冨章高―「make (a) Camp」で繋がった3人の想い

「カルチャーが交錯する価値観のたまり場」をコンセプトに、昨年12月23日から渋谷ヒカリエにて「make (a) Camp」というカルチャーショックスタジオが期間限定でオープンしています。このmake (a) Campを主催しているCamp inc.の共同代表・新田晋也さん、vision trackに所属するイラストレーター・黒木仁史さんvision track Inc.の光冨章高。
違うカテゴリから集まった3人が対談し、どんな活動をしているのか、またお互いの共通点や関係性についてお話を聞きました。

「作り手に対してリスペクトがあって、一緒に何かやりたいなという気持ち」


―まずは簡単に自己紹介をお願いします。

vision track Inc.の光冨章高

vision track Inc. 光冨章高 (以下、光冨):普段は所属しているイラストレーターのエージェントをしております。作品づくりのサポート、展示やイベント企画などを通じて、イラストレーターさんのクライアントワークに繋げています。
今回のmake (a) Campでは、会場3区画の内1つのキュレーションやイラストレーターさんに向けたポートフォリオレビューの企画などをさせていただきました。

Camp Inc. の新田晋也さん

Camp Inc. 新田晋也(以下、新田):うちはイラストレーターさんだけでなく、いろんなジャンルのものづくりをしている人と多くの仕事をつくるために、主に広告の企画制作や、Webサイトの制作、編集の仕事をしていて、その一環としてイベントやPOPUPスペースの企画運営もやっています。
共同代表の横田大と2人で、自分たちは作り手になれなかったけど、才能ある人の活動に関わりたい、応援したいという気持ちで会社を立ち上げました。

光冨:まさにそこに共感します。vision trackも作り手ではありませんが、作り手に対してリスペクトがあって、一緒に何かやりたいなという気持ちのメンバーが集まってます。

新田:挫折組ですね(笑)。いや本当にやばい人たち(いい意味で)っていっぱいいて日々驚嘆してます…(笑)。同時にもっと世の中に知られて欲しいという想いがあって、自分たちが作り手にはなれなかったけどビジネスを通じて伝える仕事はできるので、企業さんに純粋に「アーティストさんってすごい」と思ってもらえるような成果物や場づくりを実現するために会社にしました。

光冨:挫折した組と、作り手として挫折しなかった黒木さん。いや、でもある意味で黒木さんも挫折しているのかな…?

イラストレーターの黒木仁史さん

イラストレーター 黒木仁史(以下、黒木):挫折して、逆にイラストレーターになるしかなかったっていうのもありますね(笑)。
イラストレーターとアーティストって違うんですよ。イラストレーターは1人で作るものじゃなくて、相手の求めるものと、自分の表現したいもの、その中間地点を探りながら作る。一番理想的なのはWinWinで、その中でより結果を出せることが僕の理想ではあります。

挫折というのは、イラストレーターになるには東京にいないと話にならない時代だったので、一度東京に出てきたんですけど、どうしていいかわかんなくなっちゃって。
一回福岡に戻って(鹿児島出身)、そこで就職しちゃおうと思いましたが、ここでちょうど東日本大震災があって、社会状況が変わり色々と考えた結果、僕にできることは何かと考えたら「イラスト」しかないと。ずっとイラストレーターを目指していたので就職活動もしてこなかったし、これしか道がなかったので、本気で頑張ってみようと思ったのが福岡時代ですね。そこから細々と続けてきて今に至ります。


「プレイヤーと仕事を繋げることに力を発揮できる人もいる」


―Camp とvision trackの関係性を聞かせてください

新田:会社を作るためにフリーランスになったのですが、その前の会社員時代、勤めていた会社のボードメンバーの中にvision trackの代表・庄野さんがいたんです。アートやクラフト、工芸品を扱うITスタートアップだったのですが、庄野さんはそこのアドバイザー的な立場でいらっしゃって、その後に僕がフリーランスになって会社を作るか作らないか、という時に意を決して連絡をしたのが始まりだった気がします。

当時は自分たちが知ってるイラストレーターさんとしか仕事ができなかったのですが、その範囲を広げたいと思ってご連絡をして、イベントに協力していただいたのがきっかけでした。

光冨:そういうご縁から今じゃ年間を通して一緒にいろんなことをやるようになりましたね。一番大きかったのは渋谷デザイナーズマーケット(以下、SDM)に関わらせてもらうようになってからですかね。コロナが始まった2020年の時にSDMもお休みして「一回リセットしよう」ということになって、その年末に改めて仕切り直しのイベントに向けて、オンラインでヒアリングやアンケート会をしたり、お客さん側の人たちにも意見を聞いたり。どういう会にしていくか、実行委員のような感じで1年間かけて関わらせてもらいました。

うちは場所を持っていないしイベントの機会もなかなかないので、Campさんのやられていることに一緒に参加させてもらって、いい機会をいただいています。vision trackって普段は広告などのBtoBの仕事なので、会社が公になるようなイベントの機会が少ないのですが、一緒にSDMをやっていく中で、活動の幅が広がったような気がします。

昨年5月に開催したSDMの様子

新田:vision trackさんと関わり始めたくらいの頃、vision trackさん主催のイラストレーターさんを繋ぐ仕事に興味のある人を募っていたイベントに僕たちも参加させてもらって、そこで改めて“クリエイターと仕事を繋ぐプレイヤー”という存在を客観的に認識することができました。
「あぁ、その視点あるな」って。最近でこそ、そうした繋ぐ役割のプレイヤーが増えてきていると思うんですけど...

光冨:自分で作り出せる人はいいけど、挫折した組の収容先がなかった(笑)。

新田:そうそう。その視点があるからこそ、自分のような人間も繋ぐことで力を発揮できるんだと気づかされました。SNSを活用して世に売れるのとは違う活躍の経路があるという発見もあり、自分たちの方向性も鮮明になったと思います。
あとCamp的には、その辺を歩いている通行人の人に偶然発見してほしいという、ちょっと雑多な感覚があるから、逆に少しスタンスの違いがあるvision trackさんとは相性が良いなと思います。

光冨:ある意味で領域が被らないというか。いい意味でお互い利害関係にないというか。なんか面白いことをやって、いずれそれがビジネスに繋がればいいかな、くらいのマインドなので。今回の「make (a) Camp」もあんまり準備期間がなかったけれど、やれるかどうかより、なんか面白そうだから乗っかっておこう!とりあえずやります!という感じ。この関係性がすごく心地良い気がしています。

新田:今回の「make (a) Camp」もそうですが、Campの思想のひとつとして、実は社会教育やアート教育的な側面もあって。
「まだあまり知られていないけど、実はこういう面白い人がいるんですけど彼を起用しませんか?」とか「こう編集したらもっと面白く見えると思いませんか?」といった感じで、クリエイターさんの様々な可能性を企業さん側に積極的に提案させていただいています。
大きい企業さんがそうした提案やクリエイティブに興味をもって採用してくれることで、新しいユーザーとの接点が生まれたりして、直接的な売上や利益とはまた視点が違う評価が得られ、企業価値が高まると信じています。

売れそうなものだけをリリースするのではなくて、自由な感覚を持って面白いものを作る。視点を変える、見方を変える、コミュニティを変える…などの多様な考え方を企業さんに根付かせる動きによって、アーティストさんやクリエイターさんが生きやすい社会環境になるんじゃないかと思っています。

そういった意味では、東急さんには“面白い発想や、面白いつながりを持った人をちゃんと評価しよう”という意識を持った方がすごく多く感じるので、Campの考え方と相性が良いのだと感じています。

黒木:そういうふうに思ってくれる人がいるっていうはすごく嬉しいですね。ギャラリーという空間で展示をすると、そのジャンルにいる人たちだけに向いてしまって。もっと広く、いろんなカルチャーや違うジャンルから、もっと言えば一般の人にも興味を持ってほしかったので、ここがまさにその場であると思っています。

黒木さんが今回実験的に挑戦した
オリジナル作品の生地へのプリント

光冨:イラストレーターさんが新しいタッチを試してみたり、これまでとは違う作品を制作している中で「一度リアクションが欲しいな」という瞬間があると思うんです。ギャラリーを借りて発表となると時間をかけてじっくりやる必要があるので、クイックに発表してみる、ちょっと反応を身近で感じられる実験機会として、このスペースは必要だなと感じました。


―「make (a) Camp」はどんな場所だと思いますか?渋谷ヒカリエに存在することで生まれるメリットは何だと思いますか?


黒木:
秘密基地感がありますよね。個人的にいいなと思うのはベンチがあるところ。座らなくても“ここにいていいんだよ”という空気がすごく好きです。

新田:それはすごく嬉しいですね!(笑)
最初に「秘密基地」とか「たまり場」というコンセプトの資料を提示したので!

売上を気にすると、どうしてもショップとしての効率を求めるところがあるんですけど、ベンチに座って何か食べるのもいいし、酒販免許が取れなかったので断念しましたが、本当はここにビールを置きたかったし(笑)。

あとヒカリエって実は上がオフィスビルなんですよ。そのオフィスビルの中に謎のゆるいたまり場があることで、街外れの一角にあるようなギャラリーに足を踏み入れることに怖さを感じるような人も、オフィスから8階まで降りてふらっと寄った先に秘密基地があったら来てくれるかもと思って。

感度の高い人は小さなギャラリーまで足を運ぶと思うんですけど、その手前で入門的に一度遊びに行ける場所って感じの役割って必要だと思うので、今オフィスにいる方にももっと足を運んでもらえたら嬉しいですね。

「何か化学反応が起こるんじゃないかという期待をしています」



―依頼を受けてイラストを描くメイン軸の仕事と、今回のように自分の好きなものを好きに描くサブ軸があることで、メイン軸の仕事に生かせる何かはありますか?


黒木:
この空間に合わせて作ったものもありますが、普段描かないイラストを描いたりグッズを作ったり、何か仕掛けてみたことで化学反応が起こるんじゃないかという期待はしています。

光冨:黒木さんに限らず、イラストレーターとして長く仕事をしていると、売れるもの、求められるものを描くことの繰り返しになる。イラストの仕事が増えれば増えるほどニーズありきになってしまい、なかなか新しい発想や自分からオリジナルの作品を生みだす機会がなくなっていってると思います。これからAI時代に突入していくなか、イラストレーターさん自身から生まれる、その人にしか描けないもの重要性をより感じています。
中堅の人のセカンドキャリアというか、ここから先の10年20年の機会を考えたときに、実験を重ねられるこういった場を我々も作っていかないといけないなと思います。

新田:この場を実験の機会として使ってくれるのは嬉しくて。今回の「make (a) Camp」って、ある意味初めて「Camp Inc.」の名前を表に出した活動だったので、基本的に裏方で制作していた立場からちょっと前に出て世の中にアピールしたような機会になりました。
普通にしてたらなかなか出会えないような面白いものを実験的に見せられる場を作れたのはよかったです。

なんなら黒木さんみたいな人にはここに住んでもらって、新作が出来たらちょっと出してみるのもいいし(笑)。

光冨:アトリエとギャラリーがくっついたようなね。パン屋とかケーキ屋って、裏で作ったものがそのまま表にすぐ出てくるじゃないですか。あれのイラストレーター版というか、「描きたてです〜!」って感じで(笑)後ろで描いたものがどんどん発表されるような場所があったらいいですね。

新田:そんな感じのビル、作りたいですね…(笑)。

ビルを作るってことは、不動産会社さんやデベロッパーさんたちに魅力を感じてもらえるように、まずプレゼンをしないとですね!
僕らももっと街づくりとして場を開発する企業さんや自治体さんと関わりたいし、ちょっとお堅い人に「これ、面白くないですか?」って説得したいです!


「最終的にCamp、vision trackのビルを同じ丁目に欲しい」



―今後の展望を聞かせてください

黒木:今までイラストの評価ってわりと内輪の人しか知らなかったものだったんです。SNSのフォロワー数が多いとか、そういうものが全てだとは思わないんですけど、フォロワーの数って目に見えるので、今度はSNS内で魅せるのが上手い人が評価される空気になった。ただ、魅せることが下手な人でもいい絵を描く人が結構いて、そういう埋もれた描き手が、こういう場を使って展示をすることで、また新しい価値が生まれる風潮はすごく面白いと思っています。
僕はまだどうしたいのかわかんないけれど、どう振舞っていくのがいいか考えてみたいなとは思います。また、カルチャー系と呼ばれる人たちが愛でているものをもっと掘り下げて、こういう開けた伝える場があることによって新しい鑑賞者が増えるんじゃないか。増えることでこれまでとはまた違う価値観が生まれるのを見てみたい気持ちもあります。

新田:この「make (a) Camp」は自社プロジェクトの第一弾。
4月末にはECサイトをリリースしようと考えています。この場にある什器もオリジナルで作っているのでリースしたり、カスタマイズして販売したり…。
僕は元々アパレル業界出身なので、イラストレーターさんの作品をアパレル雑貨・グッズに落とし込みたいし、日本の職人さんたちの技術とクリエイターさんの表現を合わせたものを販売して、ゆくゆくは海外へ流通させたい。
まずはECサイト、次にものづくり、ものの流通を自社でやって、あとは最終的にビルを買いたいです(笑)。

光冨:期間限定で開催されているので「make (a) Camp」は終わってしまうけれど、リアルであることの価値を見出せたいい機会になりましたので、今後も続けていきたいですね。SNSで簡単に繋がれる時代になったとはいえ、実際にものに触れて、現地の人と話すことで関係性もだいぶ変わるし、「make (a) Camp」のような場所が増えれば、日本だけでなく海外のイラストレーターさんとも交流ができるし、逆に我々が海外へ行ってエクスチェンジできたら面白いなと思います。
そうなると、vision trackもビルが欲しいですね…(笑)。大きい作品を描く場所、イラストレーターさんが作業できるアトリエのような…。Campさんと同じ丁目の中にビルを建てて。いろんなビルがあるっていうのも面白いですね(笑)。

新田:空き物件、今後いっぱい出ますからね。可能性ありますよ(笑)。

企画・編集:ヴィジョントラックメディア編集部
ライター:陰山良恵
フォトグラファー:鈴木友莉
協力:Camp inc.


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