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人材マネジメントの動向⑨

1)経験学習の概念について本人理解、管理職の理解を進める
2)中間管理職のマネジメント能力を高めて、職場学習機能を強める
3)顧客からの学習という概念について本人の理解を進める

これは、中原淳先生、保田江美先生が編まれた「中小企業の人材開発」での一般従業員の育成についての実践的示唆です。
直観的に思えたのは、経験学習で課題を持たれている人たちに貢献できるのではないかということでした。

松尾睦先生は、「職場が生きる 人が育つ 経験学習入門」で経験から学ぶ力をモデル化されています。
ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントの三つの要素に、思いつながりという原動力から成るモデル」を示されています。
エンジョイメント系の学ぶ力を高める方略の一つが、「仕事の背景を考え、意味を見いだす」ことです。
私たちの考え方と重なります。

そして、この「経験から学ぶ力」と、経験を通じて学んだ教訓とは異なります。
(教訓については、「実践知 — エキスパートの知性」を参照してください。)

経験学習で役に立ちたいという思いに向き合っていくと、それは、僕自身の学習課題に向き合っていくということでした。
「自分で考える」という学習課題です。

研究者によって明らかにされた経験を通じて学んだ教訓を正解と思い込んで、そこに仕事経験を当てはめていました。
固有の仕事経験から、抽象化して教訓を引き出していませんでした。
「自分で考える」ということができていなかったのです。

そして、教訓間のつながりを考えて、学びのプロセス、軌跡、うごきを明らかにすることもしていませんでした。
「自分で考える」ということができていなかったのです。

学びのプロセス、軌跡、うごきを明らかにすることができないと、
ダクラス・マクレガー先生が言う「自分の意思決定やアクションを左右する仮定群」に近づけないと考えました。
この「仮定群」を明らかにし、検証しないと、働く人のメンタルヘルスに影響を及ぼし、また、経営機能の人材マネジメントの持続可能性に影響を及ぼすとも考えているからです。
松尾先生の「仕事のアンラーニング」では、「批判的内省」、つまり深い内省の測定尺度が紹介されています。
その中の一つが「自分自身の学習プロセスについて考えることが多い」ということでした。
学習プロセスを自分で考える必要があります。

EAPのルーツであるアルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)から学んだことの中には、知識を消費する側ではなく知識を生産する側に立つということ、人の主体性、自律性を考えるということは、人をどうとらえるかを考えるということがあります。
「仮定群」を明らかにしていくこととの重なりを感じます。

「仮定群」は氷山モデルで言うところの水面下です。
まずは、借り物の概念やモデルでもいいから「現状」を明らかにすることからスタートです。
これより「現状」を明らかにしていく作業に入ります。
そして、得られたものからサービス(ワークショップ)をデザインしていきます。

本コラム「人材マネジメントの動向」シリーズは、一旦ここで区切らせて頂きます。コラムの再開はあらためてお知らせいたします。

【参考文献】
中原淳・保田江美(2021)『中小企業の人材開発』東京大学出版会
http://www.utp.or.jp/book/b570346.html

松尾睦(2011)『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社
https://www.diamond.co.jp/book/9784478017296.html

金井壽宏・楠見孝〔編〕(2012)『実践知 — エキスパートの知性』有斐閣
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641163867

松尾睦(2021)『仕事のアンラーニング — 働き方を学びほぐす』同文舘出版
www.dobunkan.co.jp/books/detail/003178

小西さん202203

■ プロフィール
小西 定之(こにし さだゆき)
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント

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産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、証券会社で企業金融に従事、その後、独立系コンサルティング会社において人材マネジメント分野のコンサルティング業務(主に人事評価制度)に従事、そして株式会社ジャパンEAPシステムズで会社におけるメンタルヘルス対策のあり方について探究。

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