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「幻想郷世界 II」こぼれ話 (13)

続きです。前回はこちら。

第1回から読まれる方はこちら。

※ 記事の特性上、同一動画へのタイムスタンプを用いたリンクが複数貼られます。あらかじめご了承ください。


第4楽章「ADAGIO」(続)

#71 妖精大戦争 ~ Fairy Wars / #72 いたずらに命をかけて / #73 真夜中のフェアリーダンス

「三妖精」のエピソード。「妖精大戦争 ~ Fairy Wars」は原曲がめずらしく長調なので、ここもそれに倣って明るくてかわいい曲調にしました。

最初の部分、初期版では1回目が大きくて2回目が小さいという、繰り返しのときによくある構成になっていました。

これで作っていったあと、中間部が終わって戻ってきた部分でもまた大小の対比になってしまって、同じことを2回やるのもちょっとおもしろくない。ということで最初の方の2回目にコルネットを追加して、1回目 < 2回目となるように変更したのが、完成版(40:26~)です。

このセクション、3つのテーマは2拍ずつずれて登場してきます。リズムもそれぞれに特徴的なので、分かりやすいですね。

中間部では「妖精大戦争 ~ Fairy Wars」以外は一旦おやすみしてもらって、これの反行型が2拍遅れで付いていく形になります。

主部に戻ってきたあとは、2回目を拡大して次へのブリッジにしているんですが(41:13~)いきなり深刻な顔して何を言い出すんだって感じですよね。たいへんよい。


#74 古きユアンシェン / #75 リジッドパラダイス

「不死」のエピソード。このあたりからいよいよ音楽が怪しくなっていきます。だいぶ死の匂いがする。

ここは前作における「季節」のエピソードのカウンターパートなので、もっとも複雑で分かりにくい構築にしてあります。とはいえ、前作では5曲マッシュアップだったものに対して、こちらで使うのは2曲。
そこで、同じテーマを音高を変えてカノン形式で重ねることで、複雑性を増大させることにしました。「古きユアンシェン」から2テーマ、「リジッドパラダイス」から1テーマの合わせて3声をひとまとまりにして、それを4グループ重ねる。これで合計12声部になるわけです。
それを、半音下降し続けるベースの上で鳴らします。ベースが基準、という構築は前作と変わらないわけですね。

譜例では簡便のためにテーマの最初2小節のみを四角で囲ってますが、各テーマは8小節のフレーズになっていてループします。音高は各グループごとに6度ずれているので、これで開始点と音高が一致しない声部が12個できました。

これだけ入り組んだことをしているので、もちろん形になるまでにはいろいろと変遷がありました。
最初期版は音源が残っていないのですが、12声部をそれぞれ半音12個の別々の音から始めるというものでした。ただこれは音の濁りがひどすぎて苦痛になってしまうのでボツに。
全音階的になるように組みなおしたのが以下の版です。

この段階は6度ずらしてそのまま置いてあるだけなので、まだ音のぶつかりがかなりあって結構しんどいです。あと、「リジッドパラダイス」のテーマが完成版と異なっています。
そこからぶつかりをある程度、取り除いたのがこちら。

だいぶ聴けるようになりました。
ただ、ここで「リジッドパラダイス」のテーマが分かりにくい、という別の問題が浮上します。入りのところの音価が長いので、旋律らしく聴こえないんですよね。
「古きユアンシェン」の2つ目のテーマの方は、わりと埋めてあるだけっていう感じの扱いなので、これでも良いのですが、「せいよし」がちゃんと見えてこないのはよろしくない。

というわけで、「リジッドパラダイス」のテーマの切り取り方を変えて、さらに徹底的に非和声音を整理したのが、完成版(42:03~)です。
カノンにする、という当初の目的からはけっこう外れてしまっていますが、こういうところは総体としての響きが優先されますね。
ちなみに、非和声音は全部なくしたのではなく、「鳴って良い」ものと「鳴っちゃダメ」なものに分類して、後者を処理したって感じですね。複雑性を残しつつもちゃんと聴けるもの、というバランスを探りました。

頂点の和音はDM9 (#11, 13) で、ベースが半音下がると同時にホルンのクラスターっぽい和音(Cis, D, Fis, Gis)のみが残ります。こういう変な和音はすぐに思いつくんですよね(笑)
そのあと、Cisの保続低音上で展開されるコラール(43:50~)は、銅鑼の深遠な一打も含めてチャイコフスキーの交響曲第6番を参考にしました。

ここのコラールとフルートの対旋律は、いちおう「リジッドパラダイス」と「古きユアンシェン」の要素、ということになっているようです。こじつけとか言わない。


けっこう長くなってしまったので、続きは次回にしましょう。


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