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「幻想郷世界 II」こぼれ話 (1)

こんにちは、Virus Keyです。交響曲「幻想郷世界 II」のご視聴、ありがとうございました。まだの方は下記リンクからどうぞ。

今回は作成過程の中間ファイルを結構残してあるので、この記事では各曲を振り返りつつ、オーケストレーションの考え方や、ボツ案がなぜボツになったのか、とかを書いていこうかなと思っています。

※ 記事の特性上、同一動画へのタイムスタンプを用いたリンクが複数貼られます。あらかじめご了承ください。


全体の構成

構成については、前作を完全に踏襲しました。楽章の組み立てのみならず、各楽章での展開の仕方や、曲のアレンジの仕方なんかも意識して真似ているところがそこかしこにあります。先達がいると楽ですね!

曲順は5楽章から遡るような感じで決めていきましたが、1楽章には比較的思い入れのある曲を寄せたので、2楽章の調性パズルを埋めるのが結構大変でした。
3楽章は例によってワルツなんですが、3拍子の原曲が足りなくなってしまったので、4拍子の曲の中からワルツリズムにアレンジしやすいものをいくつか選んできて3拍子化することで、曲数のバランスを整えました。

今回は各曲の時間をシビアに区切ることよりも、やりたいことをやり切ることを優先したので、前作より長くなることは想定の範囲内でしたが、さすがに全体で80分を超えるほどでかくなるとは思ってなかったですね(汗)
5楽章に至っては単体で28分あるので、過去作の「東方管弦組曲」シリーズのどれよりも長いです。
おかげさまで、393ページの「鈍器」ができあがりました。


第1楽章「MAESTOSO」

#1 宇宙巫女現る

いやー、いい曲ですよね! 原曲のあのサイバー的な雰囲気というか、無機質な感じというか、あれ好きなんですよ。
この曲を冒頭に持ってきたことについて、「ブルックナーオタクだからタイトルに宇宙が入ってるのを選んだんでしょ」とか言われそうですが、まあそれもあるんですけど(!)、この原曲の雰囲気をオーケストラで表現したらおもしろそうだなーっていうのがあったんですよね。

そういうわけで、初っぱなのオーケストレーションはかなり異質です。クラリネットの超高音域が4度で浮いていたり、ベースはコントラファゴットとコントラバスのピチカートしかなかったり。

あと、調性がes-mollなので、コーダの最後でEs-Durに持ってこれるのが宇宙っぽくていいよね! っていうのもありました。

さて、ここはわりとすんなり書き上がったのですが、当初はチェレスタが編成に入ってなかったので、初期版では冒頭の音の印象が少し違います。

完成版(0:00~)と聴き比べると、こっちの方がややドライな感じがしますね。


#2 希望の星は青霄に昇る

いやー、いい曲ですよね!(2回目)
爽快感と疾走感が心地よくて、1面道中では一番好きな曲です。まさに長旅の幕開けに相応しい、ということでのチョイス。

この曲もスムーズに書き上がったので、お出しできるような初期版がありませんでした。主部前半(1:22~)のキラキラした対旋律も、最初から入っていたっぽいですね。

中間ファイルが残っていないのですが、曲順を最初に組んだときは、ここから「ミストレイク」→「魔法の笠地蔵」→「ジェリーストーン」→「柳の下のデュラハン」と繋げるつもりでした。
しかし、イントロから入って2曲目でテンポが落ちてダウナーな雰囲気になるのはちょっと違和感があったので、「ジェリーストーン」と入れ替えて、「ミストレイク」には「柳の下のデュラハン」とのコントラストを強調する役割を担ってもらうことに。


#3 ジェリーストーン

というわけで1面道中から1面ボスに繋がります(作品は違うけど)。
この曲はなかなか盛り上がるんですが、時間的には短いので、次へのブリッジって感じで使ってますね。

最後の「魔法の笠地蔵」に繋がる直前の部分は、初期版では今とは違っていました。

こちらの方が音形としてはその前と統一されていて一貫性があるのですが、次の曲になだれ込むぞーって感じはしないので、16分音符を使った今の形(2:04~)に変更したんですね。


#4 魔法の笠地蔵

この曲もチェレスタを編成に入れる前に書き上げたので、後半部(2:38~)にちょっと違うバージョンが存在します。

チェレスタが入ってる方がアルペジオの解像度が上がりますし、きらびやかな感じがしていいですよね。
ちなみにここのメロディは拍子の外し方が結構トリッキーで、リズム通りに演奏するのはちょっと大変。


#5 ミストレイク

「ジェリーストーン」から「魔法の笠地蔵」への流れでしっかり盛り上がったので、満を持してのダウナー系です。
とはいえ、この曲はストーリー性が強く、最後の方はテンション的にはかなり上がってくるんですよね。そこを生かして、「柳の下のデュラハン」に繋いでもらおう、という魂胆でした。

この曲の後ろの方(3:56~)では、初めて「2拍遅れでメロディをなぞる対旋律」が出てくるのですが(この部分では反行型)、これは使い勝手が良かったので、今後もしばしば登場することになります。

このページの後に「柳の下のデュラハン」へのブリッジが来るのですが、中間ファイルを漁っていたら、今とは結構違う初期版が出てきました。

これは作った直後にボツにしたやつですね。せっかく原曲がいい感じに属和音終止に持っていっているのが活かされていないですし、直前の16分音符のリズムをストレッタにするのはアイディアとしては分かるのですが、それまでの伸びやかな曲調に合っていません。
完成版(4:02~)の方は原曲の属和音を生かした上で、トリルによる緊張感を利用した急激な転調を仕掛けて、次に繋がっています。


今回はこのへんで一旦終わりにしましょう。続きはまた次回!


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