見出し画像

「幻想郷世界 II」こぼれ話 (14)

続きです。前回はこちら。

第1回から読まれる方はこちら。

※ 記事の特性上、同一動画へのタイムスタンプを用いたリンクが複数貼られます。あらかじめご了承ください。


第4楽章「ADAGIO」(続)

#76 お宇佐さまの素い幡 / #77 兎は舞い降りた / #78 湖は浄めの月光を映して

「地上と月の兎」のエピソード。
複雑なことをやったあとは単純で分かりやすいことを、ということで、ここでは「お宇佐さまの素い幡」のリズムがシロフォンを中心に鳴り続ける中で、それぞれのフレーズが展開されます。

次に思いっきり不穏な空間が控えているので、ここは小休止って感じですね。音楽もやや停滞しています。

背景にピチカートを鳴らして寂寥感を出す手法は、マーラーの交響曲第5番を参考にしました。


#79 もうドアには入れない / #80 イントゥ・バックドア / #81 禁断の扉の向こうは、この世かあの世か / #82 クレイジーバックダンサーズ

「後戸の国」のエピソード。今楽章のクライマックスです。
下降動機を続けるベースラインに乗っかって、のっけからおどろおどろしい雰囲気になりますが、初期版ではかなりマイルドな感じでした。

これだとまだ「普通」なんですよね。
もっと「とんでもないところに来てしまった」という雰囲気が欲しいよね、となったので、完成版(45:58~)では全体をオクターブ下げて、低音域に音を寄せました。

次の部分は「もうドアには入れない」+「イントゥ・バックドア」から「もうドアには入れない」+「禁断の扉の向こうは、この世かあの世か」へと繋がっていきます。

ここも冒頭と同じで、初期版ではマイルドだったのですが、

背景和音をオクターブ下げたり銅鑼を鳴らしたりして、完成版(46:24~)では異質な雰囲気を強調しました。
ここではバストロンボーンがペダルトーンを吹いていたりするのですが、そのあたりはベルリオーズのレクイエムを参照しました。

続く「もうドアには入れない」+1小節遅れでの「クレイジーバックダンサーズ」の部分は、木管とハープによる牧歌的な雰囲気です。ただし、ティンパニのロールが保続することで、不穏さを残しています。

このあとは前述の「異質な雰囲気」の部分が繰り返されますが、オーケストレーションが拡大されて、マッシュアップが3曲に増えます。

そしてようやく4曲が揃ってマッシュアップされます。
ここでは2曲を1小節遅れて入れることで、それぞれのメロディが分かりやすくなるようにしています。

この部分、初期版では4つのメロディに1パートずつ弦楽器を割り当てていて、同程度の音量でずっと鳴らしていたのですが、

なんかくどいしメリハリもないしで、微妙だったんですよね。
そこで、チェロを「もうドアには入れない」に重ねて前景に出し、「イントゥ・バックドア」はクラリネット属だけにして背景に引っ込ませる、という形でメロディ間の音量バランスを崩しています。さらに、短い区間だけ弦楽器を休ませて、ほぼ木管だけが鳴るようにしました。
完成版(47:37~)では主役がハッキリして聴きやすくなり、音量差によるメリハリも出ています。

繰り返し後はtuttiでクライマックスに向かいますが、ゼクエンツで出てくる金管の休符は、一応ブルックナーの交響曲第9番が念頭にあります。

クライマックスのあとは和音進行主体のブリッジで、徐々に明るくなって次に繋がりますが、ここの一番沈んだ部分(48:58~)で出てくるチェロとコントラバスのdivisiによる四声体、前からやってみたかったんですよ。

音が低い位置に固まるので使いどころが難しいのですが、ハマると独特の重厚さがありますよね。
厳密な四声体ではないですが、チャイコフスキーがすばらしい作例を残してくれています。


#83 不思議なお祓い棒 / #84 反則の狼煙を上げろ

ラストはエピローグ的、かつ次の楽章の準備、という感じですね。
基本的にはシンプルに作ってあるのですが、ここは前作に比べてだいぶ長さが伸びたので、そのぶん表情付けをする必要が出て、バランスの取り方に試行錯誤した部分でもあります。

ハマりが発生したのは後半の部分。ここは残っている中間ファイルをすべて並べてみましょう。
まずは初期版から。

ウォーキングベースとフガートを基調に組み上げているのですが、前半までで作った素朴な曲調に対して、重厚すぎてマッチしないんですよね。
しかし編曲中は、即座にこれを捨てるのも忍びなくて、雰囲気をすり合わせるための微調整が続きました。

次の版では、最後の部分がほんの少しだけ書き換わっています。

さらにその次。
これも書き換えはたぶん最後の部分だけで、ピッコロが追加されています。

そして大きく変わるのは、その次の版。

ここでようやくウォーキングベースを捨てて、伴奏をシンプルに整理しています。とはいえ、今度はシンプルになりすぎてなんか足りない気も。
まあこれはたぶん、まだ弦楽器しか書いてないからだろう、ということで肉付けしたのが次。

後半にホルンの裏打ちが付け足されているのですが、これがまた微妙にズレてる感じがする。納得感はまだありません。

というわけで、さらに伴奏型を書き直したのが以下の版です。

これは、前半のメロディをかなり変形したものを、内声に入れた形になっています。
原曲でも、もともとこの部分には前半のメロディがバックで入っていたのですが、オーケストラにすると濁りすぎるだろうと思って抜いてたんですよね。だいぶ遠回りしましたが、それを復活させることで、ようやく落ち着きました。
少しバランス調整をしたのが、完成版(50:26~)ですね。

さらに続きの部分には、だいぶ違った初期版がありました。

これはまた、だいぶ今より長いのですが、何度も「反則の狼煙を上げろ」の動機を繰り返していてくどいし、そのわりに何が言いたいかイマイチ伝わらない。というわけで、こっちはスパッとボツにして、現在の正邪が一回だけささやく形(50:50~)に書き直しました。


次回は5楽章に入ります!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?