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【so.】青江 つぐみ[3時間目]

「今日の体育は小ホールで卓球だそうですー!」

 生物室から戻ったら、委員長がそう叫んでいた。体育がグラウンドじゃないだなんて、幸せだなあ。さっそくジャージに着替えて、まこちんと小ホールまで行った。

 卓球はトーナメント制で戦うから、ってくじを引いたら、わたしの相手は委員長になった。

「朝に話してくれたこと、誰にも言ってないよね?」

 いきなりそう言われて、何のことか分からなくって、あ、朝に相談したハナスのことだと気がついた。

「言ってない。言ってないよー。大丈夫」

 笑顔でそう言って、委員長から卓球のルールを教えてもらった。テニスみたいなもんだなあと思ったけど、ボールとラケットが全然当たらない。当たってもどっかに飛んでいってしまう。よく分からないまま負けてしまったらしい。

「がんばってね~」

 委員長を次の試合へと送り出して、さてどうしようかなと辺りを見回した。すぐにアヤリンと目が合ったから、一緒にまこちんの所まで、きっと負けたんじゃないかなと期待して行った。

「つぐちゃん、誰に負けたの?」

「わたしは、いいんちょー」

「アヤリンは?」

田口さん強い」

 うわあ、強そう。まこちんも案の定敗退していたみたいだった。

「わたしは佐伯さんに負けたよ」

 先生が負けた物同士で適当に試合をしてろと言うから、床のボールを拾ったまこちんが、アヤリンと試合をすることになった。わたしは卓球に興味がないから、卓球台の脇でふたりの試合を見ていることにした。
 勝ち負けの関係ないユルい打ち合いを眺めながら、このふたりにだったら、昨日のことを相談できるなと思った。生物の時だって、まこちんだけだったら話したかったけど、和泉ちゃん伊村さんもいたしね。

「あのねー、わたし、ふたりに相談があるんだ」

「えー、どうしたの?」

 アヤリンがラケットを振りながら答えた。

「うんとねー、昨日ね、雑誌の撮影に行ったの」

 まこちんはサーブを失敗してボールを落としてしまった。

「何の雑誌?」

 アヤリンが、私に顔を向けて尋ねてきた。

「ハナスの、お店レポート」

「あー、読んだことある。読者モデルのナントカさんって名前が小さく出てて、ハンバーガーとか食べてるやつだ」

「昨日はケーキ食べた」

「いやいやいや、つぐちゃん、急にどうしたの? モデルだったの?」

 アヤリンが色々聞いてくれる。まこちんはそれを黙って聞いている。

「年末に、モデルして欲しいって誘われたの」

「モデルデビューってこと? すごいね!」

 アヤリンに誉められると、なんだか誇らしく思えた。

「今回だけって話だったんだけどー、来月も来て欲しいって言われちゃったの」

「どうするの?」

 黙っていたまこちんが尋ねた。わたしは首を傾げ、頭の後ろで両手を組んで、大きなため息を吐いた。

「どうしたらいいかなあ…」

「やっちゃえばいいじゃん」

 すぐにまこちんが賛同してくれて、とても嬉しかった。

「大丈夫かなあ?」

 なおも不安はあるけれど、賛成してもらえるとすごく心強く思えた。

「それは、つぐちゃんのやりたいことなの?」

 アヤリンは、大人な返しをしてきた。

「えー、どうだろう。考えてなかったな」

 そう言われてみれば、出て欲しいと強く言われたから出てみただけで、わたしから出たいと思ったわけではないよなあ。だけど次回も出て欲しいって言われてるし、こんな機会滅多にないし…。

「それがつぐちゃんのやりたいことだったら、私も応援する」

「そっか~、そうだよね~」

 アヤリンも反対というわけじゃないんだね。なるほどなあ。わたしがどうしたいかって、大事だなあ。やっぱり相談してみて良かった。

「つぐちゃん、試合しよう」

 伊村さんがラケットをくるくるさせながら近づいてきたから、話はそこまでで終わってしまった。
 自分がどうしたいかって、それはなかなか分からない。あまり考え過ぎると頭が痛くなってくるから、一旦考えるのを止めて、寝かしておこうと心に決めた。

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