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【so.】新藤 五月[2時間目]

 キミとトイレへ行こうとしたら、ナオが付いてきてなにやら終業式のアレがどうとかタグっちゃんがこうとか言ってる。わたしは冬休み中に後輩から聞いた話をふっと思い出した。

「終業式のアレって、パン屋のことでしょ! 終業式なのに間違えてパン屋が来ちゃって、廃棄にするのも勿体無いからってことで、無料でパンをもらった奴がいるらしい!! それがタグっちゃんだったってこと!?」

「お前はパンのことばっかだな!」

 すぐにキミのツッコミが飛んできた。

「サトミちゃんのことでしょー?」

 わたしとキミの掛け合いを無視するようにナオは言葉を続ける。

「なんかいずみちゃんが言うには、ヨシミが犯人とかって噂があるらしいよ? 怖くない? 信じられなくない?」

「やめなよ」

 キミが一言で黙らせた。さすがだ。そのまま外へ出たキミを追って外へ出ると、黙って立っていたノリカもやって来た。

「私、ナオ苦手だわ」

 キミがポロッと漏らす。

「でもナオは前にクリームパンくれたからいい子」

 食べきれないからってくれたクリームパン…天の恵みかと思ったなあ…でも、菓子パンはもう席が一杯だからやめとこう。ナオを例えるなら…カレーパンだな、うん。外から見たらそうでもないのに、中身は激辛。

「あっそ」

 無骨なキミは、ジャーマンポテトみたいだなと思った。

 生物室へ移って、メダカの観察。先生から配られた小さなビニール袋の中に、メダカが1匹入っている。

「こいつ動くわ」

 手元でメダカがぴちぴちと動いた。

「動かないと困るでしょ?」

 ジンさんの最もなツッコミ。声の小さい先生が少しだけ声を出して指示を飛ばした。

「各テーブルに顕微鏡を用意しているので、メダカの尾ひれが見えるように置いて、スイッチを入れてピントを合わせてください」

 わたしは手にしているメダカを顕微鏡に載せると、ジンさんに顕微鏡ごと差し出した。

「ジンさんやってよ。わたしゃレンズでメダカ突き破っちゃいそ」

「しょうがないなー」

 手慣れた手つきであっという間にピントを合わせるジンさん。このジンさんの爽やかで健康的な感じは、ハムサンドだな。ハムサンド、ああ、美味しそう。慌ててノートに書き加える。

「はいどうぞ」

「ありがとうジンさん」

 覗き込んで見つめていたら、素朴な疑問が湧いてきた。

「メダカって、食えるのかな?」

「もーやめてよさっちん。可哀想」

「うーん食べる所もほとんどなさそうだしねぇ。カラッと揚げてポリポリ食べれるかな。ノリカ! どう思う?」

「えっ」

 ノリカは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしている。

「メダカ食えると思う?」

「え、いま食べるの?」

「ばか。こんなんじゃ腹の足しにならないわ!」

 わたしが笑うと、ノリカはニコッと笑った。

「おばあちゃんの田舎で、メダカの佃煮が出てきたよ」

「ノリカのおばあちゃん、どこの人?」

「新潟」

「ふぅん」

 先生がまた声を上げた。

「はい。見えましたかぁ? 見えないテーブルは、他のテーブルの人に手伝ってもらってくださいねぇ。見えたテーブルは、観察した絵をプリントに書いて、観察結果も書いてくださいねぇ」

 先生が配ったプリントを見つめながら、佃煮とパンの不釣り合いさを考えた。

「佃煮は不味いなあ」

 そんなパン、ねーし。近いところで言えば、ちくわチーズかな。ノートに書こう。

「ノリカ、大丈夫みたいで良かった」

「えっ、何で?」

「うつむいてるから、体調悪いのかなって心配だったよ」

「お腹空いたんでしょ? わかるわー」

 2時間目なんてもう、砂漠の中でオアシスを探してるような感じだもんね。そこにはパンチの強いパンが必要なわけで、調理パンの両巨頭といえば、グラタンデニッシュ御大とソーセージドッグ師匠しかいない。よし、ノートに書こう。

「もー、さっちんは食べ物のことばっかり!」

 そりゃそうだよジンさん。むしろわたしから食べ物を取り上げたら何も残らない。これでもし昼にパンにありつけない、なんてことになったら、わたしは自分でもどうなってしまうか予測もつかないんだからね。

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