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【so.】中島 来未恵[2時間目]

「終業式のアレって、パン屋のことでしょ! 終業式なのに間違えてパン屋が来ちゃって、廃棄にするのも勿体無いからってことで、無料でパンをもらった奴がいるらしい!! それがタグっちゃんだったってこと!?」

 そういえば冬休み中、ずっとこの事に怒りを表明していたさっちん。まだ根に持っていたとはなあ。

「お前はパンのことばっかだな!」

 すかさずさっちんにツッコミを入れると、ナオは一歩踏み込んできた。

「サトミちゃんのことでしょー?」

 そこはみんな考えないようにしている事じゃないのか。今更それをほじくり返そうっていう魂胆が信じられない。

「なんかいずみちゃんが言うには、ヨシミが犯人とかって噂があるらしいよ? 怖くない? 信じられなくない?」

「やめなよ」

 たまらず私は語気を強めて言った。終業式の前日に休んでいたタグっちゃんこそ、一番関わりのない人物なんじゃないのか。私がナオに背を向けてトイレのドアを開けて外へ出たら、さっちんとノリカもついてきた。

「私、ナオ苦手だわ」

 ついつい本音が出てしまう。

「でもナオは前にクリームパンくれたからいい子」

「あっそ」

 さっちんの評価基準はいつも食べ物だ。


 生物室に着いて、もう来ていたつだまるの隣に座った。机の上には顕微鏡が置いてあって、ついついダイヤルをいじってしまう。授業が始まったらしいけれど、島田先生の声が小さいからよく聞こえない。

「これ見えるかな?」

 ふと、ペンケースから取り出した鉛筆の先を、顕微鏡のレンズに近づけてみた。

「見えないっしょ。黒いもん」

 つだまるの言うとおりで、覗いてみたけど何も見えなかった。

「何も見えねー」

 前から実験の道具か何かをもらってきた橘さんに顕微鏡を任せると、手際よくセットして覗かせてくれた。見えた半透明のメダカのしっぽは気持ちが悪かった。
 やがて島田先生がやって来て、ベロで舐めた指でプリントの隅をめくって配っていった。その様子にぎょっとして、先生の触ったエリアを見つめていたら、つだまるがそこを指差したもんだから、ふたりで顔を見合わせてニヤっとした。そんな不真面目な私たちを尻目に、向かいのツッキーと橘さんは真面目にスケッチをしている。

「月山さんってさ。絵、上手いよね?」

 ツッキーの絵を見て橘さんがそう呟いた。

「え、そうかな」

 その声に反応して、身を乗り出したつだまる。

「ほんとだ。ツッキー見せて。写させてー」

 有無をいわさずプリントをかっぱらったから、私もそれを写させてもらおうと鉛筆を手に描き始めたのだけれど、ツッキーの巧みな絵とは程遠いのが出来上がった。描き終えたらしいつだまるとお互いの絵を見比べて、ふたりしてなんだか惨めな気分になった。

「何が違うのかな?」

「才能?」

 そう答えるしかない。私は美術の成績なんて2以上取ったことがないんだもの。

「そういえば一昨日のドラマ見た?」

 つだまるが聞いてきたのは光兄弟揃って出ている深夜ドラマ。もちろん録画して3回は見たわよ! だけどつだまるは別にヤニヲタじゃないっぽいから、突っ込んだ話が出来なくって残念だ。この思いの丈をぶつけたら、どう思われるだろう。

「キミ、きっもー」

 半笑いで茶化してくるつだまるの顔がすぐに浮かんで、そっと想いに蓋をした。

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