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【so.】福岡 則子[始業前]

 冬休み明けでまだ正月気分も抜けないってのに、連休明けとなるとさらに気だるい。丸々バックレたいなあと思いながら今日もバスに乗っている。8時過ぎの車内はいつも結構混んでいるけれど、駅から乗ったあたし達は二人がけの席に座れていた。

「なんで女の制服はスカートって決まってんだろね?」

 隣に座っている和泉がまたどうでもいいことを言ってきた。知らねえし。答えるのも面倒だから話題を変えてやった。

「今年に入ってから、寒くね?」

「今日は冷えるってテレビで言ってた」

「なんかさあ、教室いるとすっごい寒いのよ」

 実際、1月に入って先週は2日しかなかったけれど、教室が随分冷えるなと思っていた。

「薄着なんじゃないの?」

 真面目に聞いてんだかどうなんだか、和泉のニヤけた顔は、たまに無性に腹が立つことがある。まあ、あたしがこんなことを突然言われたら、やっぱり同じような返しをすると思うけど。

「ちゃんと暖かい下着着てるし、金曜日は2枚重ねで着てたし。それでも寒くて、足にコート掛けてたし」

「マジで?」

 やっと真剣に受け止めたのか、和泉は組んでいた足をほどいた。

「風邪引いてんじゃない? 熱は?」

「熱はないし、風邪じゃないと思う」

「インフルじゃない? わたし前に引いた時、ものすごい寒気したもん」

 あたしはインフルエンザはやったことがないから分からない。そういうものなんだろうか。

「マスクしといたらいいよ。購買に売ってたっけ」

 インフルパイセンが言うことだから聞いておくのも良いのかな。

「次は、橘女子学院入口。橘女子学院入口。お降りの方はブザーでお知らせください」

 窓際の和泉がピンポン鳴らしてバスを降りた。外は吐く息が白く見えるくらいに寒かった。

 バス停からお堀端を歩いていると、向こうの電停に停まった路面電車から何人か降りてくるのが見えた。その中にヨシミの姿もあった。

「あ」

 同じことに和泉も気づいたらしく、それ以上何も言わなかった。ヨシミの後ろの方を、曽根が歩いて行くのも見えた。

「ぶっちゃけさ、サトミのことどう思う?」

「…どうって?」

 和泉の返事に変な間があった。

「あたしら、なんか関係してると思う?」

「知らないよ」

 吐き捨てるように和泉は言った。正門を抜けると、ソフトボール部が練習をしているのが見えた。マウンドでキミが投げている。この寒いのに運動部はよくやるわ。

「ま、あたしそこまで仲良かったわけじゃないし」

 解き放ってやるように言うと、和泉も乗ってきた。

「ヨシミでしょ、一番仲良かったの」

 遥か前の方を歩いているその背中を見つめながら、追いつかないような距離で和泉と歩いている。あの女、あんなことになって何を思っているんだろうか。

 下駄箱で靴を履き替えると、和泉と分かれて購買でマスクを買ってさっそく付けた。久々に付けるマスクの内側の匂い。これを付けてると病人みたいに思われそうで好きじゃない。
 それから教室に入ったけれど、やっぱり底冷えする寒さを感じて、膝の上にコートを掛けて、三条が出欠を取る間ずっと両ももを両手でさすり続けていた。

次の時間


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