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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2016年3月の記事一覧

【so.】福岡 則子[3時間目]

【so.】福岡 則子[3時間目]

「今日の体育は小ホールで卓球だそうですー!」

 委員長が叫んでいて、卓球なら出てもいいなと思った。教室はやっぱり異常に寒かったけれど、さっと着替えて小ホールへ行くことにした。自然、ヨシミと目が合ったからそのまま連れ立って廊下へと出た。

「寒い寒い寒いー。廊下寒すぎ」

 ヨシミはコチコチ歩きながらそう言った。

「でも教室が一番寒い」

 あたしには廊下の方がよっぽどマシだと思えたけれど、ヨシ

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【so.】福岡 則子[4時間目]

【so.】福岡 則子[4時間目]

 ヨシミ無双を見せつけられて、同じ美術の授業に出る気も失せた。底冷えのする教室で、あたしは手早く着替えたけれど、つだまるはいつもモタモタしている。奴がジャンスカを被った所で声をかけた。

「つだまるー、ミルクティー買いに行こう」

 和泉も呼ぼうかと思ったけれど、深刻な顔をしていたからやめといた。悠々と階段を降りて、1階の自動販売機の前まで行った。あたしはロイヤルミルクティー、つだまるはミルクココ

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【so.】井上 真[始業前]

【so.】井上 真[始業前]

 教室に入ると、郷さんが自分の席でひとりポツンと座っていた。わたしは最前列の自分の席にかばんを置くと、一番後ろの郷さんの所まで歩いていった。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

 考え事でもしていたらしい郷さんは、わたしをゆっくりと見上げてぼんやりと返事をした。

「朝、早いんだね」

「そうかな…そうか」

 郷さんの辺りからは新鮮な花のにおいがしたけれど、花の名前やにおいに詳しくないわたし

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【so.】井上 真[1時間目]

【so.】井上 真[1時間目]

 ホームルームが終わって三条先生が外へ出ていくと、忠代ちゃんはノートを広げた。

「おはよう!」

 逸見先生が大きな声と共に入ってきて、窓際のつぐちゃんがびくっとなったのが見えた。授業が始まると先生は黒板に、とても難しい漢字を2文字書いた。筆圧が強くって、チョークの破片がポロポロ落ちて粉になったのが見えた。

「新藤、これなんて読むか分かるか?」

「どう…もう?」

 わたしもそう思った。けど

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【so.】井上 真[3時間目]

【so.】井上 真[3時間目]

「今日は寒いから暖房の効いた小ホールで卓球だ。喜べおまえらー。って、何だ少ないな今日。まぁいいや。トーナメントやるぞー」

 体育の石堂先生のよく通る声。小ホールは暖房が効いていたけれど、床はまだ寒かった。くじ引きが行われて、わたしの相手は、バスケ部の佐伯さんになった。適当なラケットを握ってみたけれど、小学校の時にレクリエーションでやって以来だなと思った。

「よろしくお願いします」

 佐伯さん

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【so.】井上 真[4時間目]

【so.】井上 真[4時間目]

 制服に着替えていると、一番後ろの席で郷さんが机に座って頬杖をついていた。体育の授業の間も座っていたんだろうか。わたしは書道の道具をロッカーから出すついでに、郷さんの席のそばへ行ってみた。

「ここにいるの?」

 小声で聞くと、郷さんはこくんと頷いた。

「なんか…ダメだー私…」

 なんと声をかけていいか分からなかったから、「またね」と手を振って廊下へ出た。堀川さんがロッカーから書道の道具を出

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【so.】津田 満瑠香[始業前]

【so.】津田 満瑠香[始業前]

「先輩の教室に、幽霊が出るってウワサ知ってます?」

 朝練の最後に体育館をランニング中、後輩の三上が隣を走りながら聞いてきた。

「初耳。どんなウワサ?」

 平静を装ったけれど、悪寒のような変な感じが胸をギュッとするのが分かった。

「冬休み中に、私のクラスの子が、閉門したあとにスマホを教室に忘れたの思い出したんですって」

「はいあと3周!」

 部長の声が体育館に響き渡る。足元からはそれぞ

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【so.】津田 満瑠香[1時間目]

【so.】津田 満瑠香[1時間目]

 出欠を取られている間、三上の言っていたことを思い返していた。うちのクラスに幽霊が出るだなんて。あたしが実は怖がりだということが三上には見抜かれていて、怖がらせようと思ってそんなことを言ってきたに違いない。随分となめられたもんだ。

「おはよう!」

 逸見先生の大声にドキッとしたけれど、視界の遠くでつぐちゃんがビクンと動くのが見えた。あの子毎回慣れることなくああだよな。

 先生がなんだか難しい

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【so.】津田 満瑠香[2時間目]

【so.】津田 満瑠香[2時間目]

 授業が終わると、厚着ののりんが教室を飛び出していった。あたしは左隣のイズミンに話しかけた。

「ねえ、さっきのさ」

「書き込んでみればいいじゃん」

 イズミンは投げやりにそう言った。何をそんなにイラついているんだろうか。

「このクラスの誰か?」

「なんでしょ。大体想像つくけど」

 そう言ってイズミンは教科書を机に投げ込むと席を立った。

「あっ待ってよ」

 慌てて生物の教科書とノート

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【so.】津田 満瑠香[3時間目]

【so.】津田 満瑠香[3時間目]

「今日の体育は小ホールで卓球だそうですー!」

 生物室から帰ってくると委員長が叫んでいた。体育の中での卓球のユルさ、ラクさは、真冬の1時間では当たりな種目だと思う。イズミンにネットの変な書き込みを教えられてからずっと嫌な気分だったから、それを紛らわすにも体を動かしたほうがきっといいんだ。教科書をロッカーに入れて着替え始めたら、イズミンはとっくに着替えてしまっていた。

「わたしー?」

「そう。

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【so.】平 安代[始業前]

【so.】平 安代[始業前]

 7時半の朝練に間に合うように、家は6時50分に出ることにしている。自転車の鍵を開いてサドルに座ったら、雪の上に座ったみたいに冷たかった。
 連休中はいっぱい寝たし、もっと寝たかったなあ。横になればどれだけでも寝られるんだ。たくさん夢も見たし、楽しかった。その中でわたしは三条先生と何故か同級生で、わたしの隣の席に先生が座ってた。教科書を忘れてしまったわたしに、机をくっつけて真ん中に置いてくれる三条

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【so.】平 安代[1時間目]

【so.】平 安代[1時間目]

 出欠を取った三条先生が出て行くと、山浦さんも外へ出て行った。わたしだって先週に地理準備室で面談をしたっていうのに、その時は何も思わなかった。年末のことで知っていることがないかって聞かれても、わたしは直接関係がないし話したこともほとんどないグループのことだったから、答えられることも全然なかった。先生が出してくれたお茶を飲んでクッキーを食べて、それで授業に戻っただけだった。まったく、その時は何も思わ

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【so.】平 安代[2時間目]

【so.】平 安代[2時間目]

「ねえねえそねちゃん、どうお?」

 生物室へと歩きながら、もじゃがそねちゃんに尋ねた。

「何の話?」

「タイラーがジョーサンと親密になれるよう、応援しようって、FILOで言ってたのよ~」

 もじゃは朝からずっと嬉しそうだ。

「どうなのよ~?」

 もじゃがそねちゃんの肩を揉むと、そねちゃんはくすぐったそうに払いのけながら「いいよ」と笑った。

「決まりね。色々作戦を練らなきゃね」

 生

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【so.】平 安代[3時間目]

【so.】平 安代[3時間目]

 体操服に着替えて、ヒロさんが着替え終わるのをもじゃと廊下で待っていた。

「部長とそねちゃんは?」

 わたしともじゃしかいないのを見てヒロさんが聞いた。

「そねちゃんは体調悪いとか言ってどっか行っちゃった」

 そういえば生物の時にわたしにもそんな事を言っていた。大丈夫かなあ。

「保健室かな。部長は?」

「なんかー、和泉さんと行っちゃったー」

「じゃあ行こっか」

 3人で小ホールまで

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