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ありゃ。ありゃりゃ。

たまに〈シイラ〉という魚が店頭に並ぶことがある。
今が旬の大型魚。
最近はハワイ名の〈マヒマヒ〉も使われるようになってきた。

成魚は2mにもなるらしく、残念ながらスーパーでは切り身だ。
いつもの「ねぇ、連れて帰って」と訴えかける肝心の「目」がない。
僕は切り身と「高知産しいら 1切100円」のプライスカードをただ漫然と眺めていたが、急に「ねぇ」と聞こえた気がして、連れて帰ることにした。

水分も脂分も少ない魚だから、しっかり粉をまとわせて、たっぷりのオリーブオイルでムニエルに。

枝豆ごはん、お揚げさんの焼いたん、菊菜のおひたし。
そしてシイラのムニエル。
夏やわぁ。

シイラってこんな魚だ。

色や形から深海魚っぽいが、意外なことに海水面あたりにいるらしい。
名前もついシーラカンスを思わせるから、そんな考古学的な魚を釣って食べていいの?と思いがちだが、考古学的ではないし、釣って食べていい。
これがまた見た目とは裏腹に淡泊で美味。

そもそもシイラという語は響きからして外来語に思えるが、実は「粃」というれっきとした日本語。
「粃」は「しいな」あるいは「しいら」と読んで、そもそもは中に実が入っていないハズレの稲のことを指す言葉らしい。
皮が硬く身が薄いこの魚もハズレやん…と思われたのかは知らないが、シイラと呼ぶようになった。
遠くから空輸されてきたものとばかり思っていたが、日本の魚だったのだ。

江戸時代の魚辞典『魚鑑(うをかがみ)』にも出てくる。

志いら
『魚鑑』(天保2年)京都大学附属図書館蔵

ふむふむ、漢字では魚偏+暑で「鱪」と書くらしい。
魚偏の漢字がぐるりと書かれた湯呑みを誰しも見たことあると思うが、あれらの多くが日本で作られた漢字、いわゆる国字だ。
この鱪も国字だけど、今が旬の夏の魚というのがよく分かる。

「紀伊(和歌山)、土佐(高知)、二肥(長崎)、薩摩(鹿児島)に産す」
やっぱり日本の魚だ。
マヒマヒなどと呼んで日本語を麻痺麻痺させている場合ではない。
昨日のムニエルもそういえば高知産だった。

「頭角(かく)く、身扁(ひらた)く、青黒色」
まさにそのとおり。
そんな出で立ちだから深海魚かと思ってたんよ。

「鱗細く、皮厚く、肉白し」
そうそう、皮が厚いから粃、それでシイラだったんよね。
たしかに身は白かったけれど、白身魚ではなく青魚だ。

ん?

「味わいよからず、小毒あり、主治(効能)未だしらず」

ありゃ。
ありゃりゃ。

(2024/7/8記)

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