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ホンマにそれ乗って帰らはるん?

京の都で大学生活をスタートした頃、ようやく学生の分際でも電子レンジを持っていい雰囲気は漂いはじめていた。
それでも依然贅沢品には変わりなく、入学当初から持っている下宿生はまだまだ少なかったものだ。

貧乏家に育った僕にとって、一人暮らしで電子レンジなど願うべくもない。
食品を温める能力があるのは、兄が同じ京都の下宿時代に使っていたオーブントースターのお下がりだけだ。
同じくお下がりの炊飯器にはタイマーもなければ保温機能もなかったから、朝は必然的にパン食になった。

パンの横に弁当用アルミカップに割り入れた卵を並べ、3分ほど。

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古くなったバイト情報誌のページを引きちぎって皿にしていたから洗い物も出ず、いたって快適なモーニングだった。

大学生活も3年目に入った頃、その日は突然やってきた。
生命線ともいえるオーブントースターが赤く光ることをやめたのだ。
兄から数えて7年目、頼りすぎたのだろうか。

仕方なく新調するかと調べたら、世はすっかりトースターレンジの時代。
知らない間にトーストできる電子レンジが出回っていたのだ。
しかもすでに十分手の届く価格に下がっているではないか。
ここはひとつ奮発してトースターレンジを買っちゃう?

ちなみにトースターレンジは使い勝手よかったのに、その後オーブンレンジに席巻されて絶滅。
今主流のトースト機能つきオーブンレンジは、トーストに10分かかる、途中でパンを裏返さなければならないとか、正直ありえない。

京・寺町の電器店街へ買いに行った。
帰りはきっと重い荷物になるだろうと想定して原付で。
まさかこの準備のよさが後に厄介を生むとは、この時点では知らない。

目星をつけていた、お手頃値段でシンプルな機種を購入。
ついに数万円もの家電を買えるようになったかと自分の成長をちょっぴり嬉しく思ったりもした。
しかし、喜びもここまでだった。

店員が奥から出してきた箱のサイズを見て顔が引きつった。
陳列されていた商品はあんなにコンパクトなのになんで?
そんなん原付で持って帰れへんて…

――まいど!

笑顔の店員に見送られたが、それどころではない。
しかもあろうことか、外に出てみると雨がポツポツ降りはじめている。

原付を店に置いて、バスで持って帰るという選択肢もなくはない。
しかしせっかく原付で来た意味、あとで原付を取りに戻る手間、きっとその頃には本降りになっているだろうことなど考えて、この線はすぐ消えた。
となると、原付で帰るしかない。

――ホンマにそれ乗って帰らはるん?

心配になって出てきた店員が、原付の狭い足元に箱を押し込むのを手伝ってくれる。
ギュウギュウ、ギュウギュウ。

覚悟を決め、世界中から京の雅を堪能しにきた観光客の中を一目散に駆け抜けた。

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つ、つらい。

(2022/8/23記)

チップなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!