見出し画像

そこに関わる人は誰一人として取り残してはいけないと思うのだ

「廃棄物を価値に変えよう」

最近、錬金術のごとく囁かれる言葉だ。
しかし錬金術と違ってイカサマではない。

食品ロスは発酵させることでメタンガスと堆肥に変えることができる。
そのメタンガスは燃料として使えるし、堆肥は畑に使える。
植栽の刈り込みで出る剪定枝は燃料にすることができる。

これまで費用を払って処理していた廃棄物が価値あるものに変わるのだ。
これはすばらしい。
ぜひそんな世の中を作っていくべきだ。

だけど。

廃棄物処理で収入を得ていた人がいることを忘れてはならない。
もちろんその人たちのために廃棄物をどんどん生もうという話ではない。
廃棄物を減らしながら、処理業者の今後も考える必要があるということだ。

これまでやってきた廃棄物処理の仕事を奪うのは何か。
それはもちろん、廃棄物を価値に変えようとする新しい仕事だ。
なら処理業者がその新しい仕事をできるよう、いっしょに組めばいい。

もちろん世の中さまざまなしがらみがあることは百も承知で言っている。
ただ、新しい仕事が未来志向であるのなら、そこに関わる人は誰一人として取り残してはいけないと思うのだ。

***

神戸に、本四海峡バスというバス会社がある。
本四というのは「本州-四国」という意味。
バス会社ではあるが、船乗りの失業対策として作られた会社だ。

その昔、淡路島は神戸や和歌山、徳島等と多くの船便で結ばれていた。
しかし淡路から徳島や神戸に橋が架かると、ほぼ一斉に廃止された。
大混雑の中で何時間も前に乗船手続きをして出航を待つフェリーと、思い立ったらいつでも渡れる橋とでは利便性の差は歴然としているからだ。

多くの船便が廃止になるということは、船乗りが失業するということ。
その失業対策として設立されたのが本四海峡バスというわけだ。

長らく危険と隣り合わせで島の内と外を繋いできた船。
新しく架かる橋を使った利便性を売りにしたバス。
バスが船を駆逐する構図の、バチバチのライバルだ。

しかしそのバスを船乗りが運行するなら、なんとも丸く収まるではないか。
もちろん舵からハンドルに持ち替える船乗りに葛藤はあったに違いない。
プライド持って渡船業を担ってきたのだから。
でもバスが未来志向の仕事なら、そこへの転身もまた未来志向だ。

廃棄物を価値に変えることを考える時、失業対策としてライバル業をも取り込んだ本四海峡バスから学ぶことは多いはずだ。

(2022/4/18記)

サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!