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目を閉じれば細かな雨を思い出す

グーグポッポポー
グーグポッポポー

キジバトが鳴く。
白んだばかりのまだ手つかずの空に、鳴き声だけが響きわたる。

***

明石に住んでいた頃はキジバトを知らなかった。
国道沿いの住宅街に住んでいたから、おそらくキジバトは寄りつかなかったのだろう。
今でこそ町なかで見るようになったが、昔は山にしかいなかった。
ヤマバトともいったくらいだから。

小4の夏休み、神戸に引っ越した。
神戸といっても垂水区塩屋、源平の古戦場にほど近い山に接した町だ。
家から見える景色は、緑の山と青の海だけだった。

引っ越し早々、夏休みの宿題のために模造紙が必要になり、近所の小さな文具店に母といっしょに買い物に行った。
しとしと雨の降る、8月とは思えない肌寒い日だった。

帰宅して模造紙を広げた時――

グーグポッポポー
グーグポッポポー

え? 何このリズミカルな鳴き声…
未知の生命体と遭遇した気分だった。

まだ引越の荷解きは済んでいなかったから、段ボールをいくつもひっくり返してようやく図鑑を取り出した。
今のように「OKグーグル! グーグポッポポー」ではないのだ。
そしてその未知の生命体がキジバトであることを知る。

図鑑には早朝に鳴くとあったが、暗い空で時間を間違っているのだろうか。
雨は細く静かに降り続く。

グーグポッポポー
グーグポッポポー

この日が僕の神戸の記憶の始まりだ。
暗く寒く、雨、そしてキジバト。

***

Wikipediaによるとキジバトの鳴き声は、

伝統的には「デーデー ポッポー」と表現される。

うそ、なんで4音?
どんだけ先入観を排除して聞き直しても、絶対5音あるでしょ。
しかも「デーデー」とは。

さらにWikipediaの筆は止まらない。

「ホーホー ホッホー」と表現する人もいる。

いやもう全然感覚違う…

しかも読み進めると、

通常5音の発声であるが、4音でさえずる個体も確認される。

ほら、5音やんか。
ならなんで「デーデー ポッポー」「ホーホー ホッホー」…

とどめは採譜だ。

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え? 「デーデー ポッポー」ではなかったん?
というか、8分の9拍子とかに落とし込んでしまうのか。
無粋な。

***

今でもキジバトの声が届いた時、目を閉じれば細かな雨を思い出す。
開け放した窓からひんやりと流れ込む風の匂いとともに。

(2022/4/19記)

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