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【REVIEW】 GUTS - Olivia Rodrigo

↓↓『GUTS』全曲和訳したので先にどうぞ↓↓

女優としての歌唱


Olivia Rodrigo の歌唱に注目すると、彼女の感情や細かな表情まで目に浮かぶことに気づく。それはおそらく、彼女がディズニーチャンネル出身の女優であることが大きいはずだ。Rodrigo はレコーディングの際も、感情を引き出すために目の前にカメラを置いておくらしい(ソースは忘れました、ごめんなさい)。その甲斐あってか、怒り、絶望、後悔といった感情が声を通じて伝わってくる。これは間違いなく彼女の強みである。

状況描写と自己描写


もうひとつの彼女の最大の強みは、状況と自身の描写の巧みさだ。前作『SOUR』(2021) でも、「drivers license」の失恋とドライブの組み合わせ、「deja vu」の嫉妬と Billy Joel など、例を挙げれば枚挙にいとまがない。今作においても「ballad of a homeschooled girl」にて、「コップを割っちゃった つまづいて転んじゃった(I broke a glass, I tripped and fell)」など、クスッと笑ってしまうような不器用さを自分で表現するのが上手い。Taylor Swift でいうと「You Belong With Me」の「彼女はミニスカート履いてるのに私はTシャツ(She wears short skirts, I wear T-shirts)」の部分だ。しかし固有名詞の使い方は Rodrigo の方が一枚上手(うわて)だと、個人的には思っている。

「若くていいね」 なんて言われたくない


オトナたちは、「◯歳が一番楽しいよ」とか、「◯歳までにやりたいことはやっておきなよ」とか、聞いてもないのに助言してくる。でも、10代だって自分の年くらいわかる。新作アルバム『GUTS』の1曲目「all-american bitch」で「自分の年齢はわかってるし 年相応に振る舞ってる(I know my age, and I act like it)」と歌う。

偶然か必然か、Billie Eilish のセカンドアルバムの1曲目も「年を重ねること」についての曲だった。「年をとってきた 背負うものが増えた でも自分が間違えてるときに認めることが得意になってきた(I'm getting older, I've got more on my shoulders, but I'm getting better at admitting when I'm wrong)」「今までよりも幸せ 少なくともそうなるように努力してる 自律して自分の喜びを優先できるように(I'm happier than ever, at least that's my endeavor to keep myself together and prioritize my pleasure)」

Rodrigo の「teenage dream」は、いつになったら成長できるのだろう、いつになったら今の価値観を捨てられるんだろうという不安のついての曲だ。Z世代は、今までで最も「未来がない」世代。自分の未来も不確定で、自信がない。地に足をつけて、毎年成長していくしかないのだ。

2000年生まれのカルフォニアのシンガー Reneé Rapp も「23」にて、喜べない誕生日について歌っている。「願い事はもっと違うもののはずだった(My wish should be different by now)」「みんなから嫌われてる気がする 何歳になったら若くて気取らずにいられるの?(It feels like everyone hates me so, how old do you have to be to live so young and careless?)」

Taylor Swift「22」のような無邪気なバースデーソングは、もう生まれづらい時代なのかもしれない。

ルッキズムと資本主義に争う


「all-american bitch」に「コカコーラのボトルは髪を巻くときにだけ使う(Coca-Cola bottles that I only use to curl my hair)」というラインがある。Rodrigo にとって資本主義の象徴であるコカコーラは飲むものではなく、美を追求するための道具にすぎない。コーラを飲まなけば健康は保たれるが、その動機がルッキズムに由来するのであれば心の健康は保たれない。この女性が抱える葛藤を、ユーモアをもって一文で表した秀逸なパンチラインだ。

ルッキズムと資本主義への批判は「pretty isn't pretty」で再び大きく取り上げられる。「鏡を見ると 気に入らないところがいつもある(There's always somethin' in the mirror that I think looks wrong)」「"キレイ"でも十分に"キレイ"にはならないから('Cause pretty isn't pretty enough anyway)」といった過度のコンプレックス(あるいは醜形恐怖症)を告白するラインが並ぶ。「ballad of a homeschooled girl」でも「私の肌は骨と上手く合ってない気がする(Feels like my skin doesn't fit right over my bones)」と、自身の骨格診断に納得していない様子が歌われるように、見た目に対する嫌悪感が常にテーマの根底にある。

しかし Rodrigo は、これほどまでのルックスへの執着がどこから来ているのかも同時に理解している。「壁のポスターとか ひどい雑誌とか ケータイの中とか 頭の中とか ベッドに連れ込んだ男の中とか そこら中にいつでも存在する(It's on the poster on the wall, it's in the shitty magazines, it's in my phone, it's in my head, it's in the boys I bring to bed, it's all around, it's all the time)」と、資本主義に支配された日常ではルッキズム(やメールゲイズ)から逃れることはできず、男の頭の中だけでなく Rodrigo 自身の頭の中にも、そういった美的価値観が潜在的な意識として刷り込まれてしまっている。理屈では全部わかっていても「自分でもなんでやろうとするのかわからない(I don't know why I even try)」のが本心なのだ。

Jennifer Lopez はかつて、「私はラティーノだから、白人的な美的価値観には骨格的に目指せない、いや目指さない」と語った(ソースを忘れたので意訳で申し訳ない)。フィリピン系の Rodrigo も、皮肉混じりで自身の身体は「完璧なアメリカスタイル(perfect all-American)」だと誇る。自分が完璧だと思えれば、それが正解。

音楽業界とトキシックな恋愛にも争う


先行シングル「vampire」は、Rodrigo の成功を利用しようとした音楽業界をヴァンパイアに例えたナンバー。若いうちに短期間で成功したアーティストの登竜門のテーマである。かつて Billie Eilish も、「Happier Than Ever」で似たことを歌った。トキシックな男性へとの別れを歌った曲ではあるが、その対象は音楽業界あるいはトキシックな彼女自身へのファンダムとも読み取れた。

『Twilight』シリーズ(2008~)の人気から分かるように、ファンガール・カルチャーにおいてはヴァンパイアは危険ながらも魅力的な存在として認知されている。このフォーミュラに則れば、Rodrigo が歌うヴァンパイアにもロマンチシズムの匂いが立ち込める。この人はダメだとわかっていながらも、傷つけられていながらも、簡単には離れられない。なぜならトキシックな恋愛も成功も「魅力的で 麻痺するような スリル(what a mesmerizing, paralyzing, fucked up little thrill)」を有しているから。

折り合いのつかなさ


このアルバムのリリックは矛盾ばかりだ。「all-american bitch」を例にとれば、曲の構成さえも二面性を有している。欲望と批判、憧憬と皮肉が、至るところで両立している。一見するとアルバムのテーマが一貫性に欠けているように思えるが、それこそがまさに Rodrigo が表現した真実なのだ。今の自分に満足している/満足していない様子、クズ男を批判する/愛してしまう様子、つまり「折り合いのつかなさ」を受け入れることこそが、この混沌の時代を生き延びる術だ。

Olivia Rodrigo のカムバックは、大成功だ。


Best Tracks
M1. all-american bitch
M2. bad idea right?
M3. vampire
M5. ballad of a homeschooled girl
M6. making the bed
M11. pretty isn't pretty
M12. teenage dream







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