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狙ったアーチを一回で作る方法

 ヴァイオリン製作において、たぶん
 
「一番大事なのに、一番適当になってしまう」のが、
 
表板や裏板の膨らみ、「アーチの作り方」
だったりするかと思うのですが、いかがですか?
 

かなり前ですが、2013年11月3日放送のNHKスペシャルで
「至高のヴァイオリン ストラディバリの謎」という番組があって、
この中で、医療用CTスキャンで解析したものがあり、
その時の私に、大きな影響を与えてくれました。
 
これは、ヴァイオリンのf字孔Bottom付近の断面図ですが、
テレビ画面を写真に撮って、表板底面に直線を引いてみると、
 
「表板左右のアーチの形って、かなり違うやん」
と思いました。


ちゃんと比較してみたくなりますよね?
 
まず、写真をパソコンに取り込んで、表板アーチをトレースして、
バスバー側を赤線にして、魂柱側と比較してみると、
やっぱり、かなり違いがある。


気付いたことは、
(1) 「表板にアーチの強弱がつけられていること」

わかりやすく、駒を配置して、色分けすると、
下図のようになります。

そして、もう一つの気付きは、 
(2) 「この表板アーチの左右の違いは、見た目には変化が小さいこと」
 
とにかく、アーチは「適当に作ったらあかん」
そう感じたのです。
 

ここからが本題で、「狙ったアーチを一回で作る」ための
私のやり方を紹介します。 

まずは、前述の強弱のアーチを取り入れた「断面図」を作り、
 「等高線図面」を作ることです。
 
それはそれは、恐ろしく面倒な作業なのですが、
 
Bスプライン曲面という曲線描画ができる、
「CorelDraw Graphics suite」というソフトのおかげで
気が狂わないぐらいには、こなせています。
(この図面を1つ作るとマウスのボタンが壊れます。
マウスって消耗品やったんや、と気付くでしょう)
 
下図は私が作成している図面ですが、
等高線が右側が膨らんでいることがわかります。



そして次に、この図面のアーチを、等高線を
正確に作り込む作業です。
ここでも、根気よく、几帳面さ、が要求されます。
 
何回も、何回も、何回も、何回も、
等高線を表板に書き込むので、作業効率を考えて
下図のようなプラスチック板を用意します。

そして、彫刻刀で地道に削りながら、
同じ厚みの位置をマークしていきます。
 
下図の道具、私は「等高線引き器」と呼んでいますが、
マーカーにフリクションボールペンを使用し、
6角ボルトで隙間を調性することで、
所定の厚み位置、等高線をマークできるようにしたものです。


目的の等高線ラインに対して、現状の厚みとの乖離を調べ、
少しずつ地道に削っていきます。
削ると書き込んだ等高線が消えるので、
プラスチック板を使って書き入れます。
 
これらの作業の繰り返しです。
私の作業に、格好良さは無いです。
ひたすら、面倒な作業の繰り返しです。
その代わり、狙ったアーチを一回で作り込みます。
 

このような作業にすれば、慣れとかイメージとか
感覚的なものではなく、誰しもが、根気強く、丁寧に作業できれば、
前述したストラディバリのアーチの機能的な仕組みを
作れるのです。
 
そして、問題点を見つけたら対策して、図面を更新して、
その図面通りに作れればよいのです。
 

几帳面で、丁寧な作業ができる人は素敵だと思います。
私は、物作りの速さよりも、
思慮深さ、丁寧さ、根気強さがある人が好きです。
そういう人は、センスを自分で創り出し、
自分自身の性質を変えていける人だとも思います。

そのようなパートナーと出会えることを
期待しています。

 





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