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第六回こむら川小説大賞結果発表2 大賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「短編幻想SF『アボガド』」に決定(No131~No171 大賞選考)

第六回こむら川小説大賞結果発表 大賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「短編幻想SF『アボガド』」に決定(受賞作品とFAの紹介 講評No1~No130)

▼講評の続きです

131:都立オホポニア高校オカルト研究部活動録(抄)/ささやか

謎の有袋類:
 前回は「今日はとっても完璧な日」を書いてくれたささやかさんです。参加ありがとうございます。
 落武者に呪われて誘拐婚(冥婚?)されそうになる重松、謎のサークルクラッシャーの襲来とどたばたホラーでした。落武者がやけにノリの良いやつなのが好き。
 そして鶴巻、本体は登場してないのにめちゃくちゃ万能ないいやつ……!
 登場人物は多いのですが、一万字にまとまっているのはめちゃくちゃにすごい!
 なのですが、やはり一万字だと登場人物に入れ込む前にバンバン物事が進むので、誰が誰なのかわかりやすいくらいの名前にしてもよかったかもしれません。でもそうするとクラッシャア子のインパクトが薄れてしまうので難しいところですね。
 怪異のクラッシャア子と落武者がくっついてハッピーエンド! そして新たな騒動の種になりそうなメカメカしい新入部員が来て終わるふろしきの広げ方が好きです。名前で正体がわからなかったのですが、ロボと言うことだけわかりました。
 鏑木とクラッシャア子が名前を呼び合うところや、男子会での落武者の気さくな様子がめちゃくちゃに好きでした。
 黒岩さんの頭脳明晰キャラも好き。キャラクターの個性が混ざり合う面白く読めるホラーコメディでした。

謎の概念:
 大渋滞を起こしたプロットにさらに足せるだけ要素を足して大渋滞したままパワーで押し切って進行する、馬力のある楽しいバカ小説ですね。やり方としてはぜんぜんアリなので馬力で振り切っていきましょう。
 都立といいつつ名称がオホポニア高校だったり、チャルシッカ地方とかいう見慣れない地名が出てきたりするのはクロマティ高校てきなノリなのかもしれませんが、一瞬混乱するので、普通に現代日本っぽい名付けでもよかったかも。
 今回のお題は逆境なのですが、カメラの位置がわりと遠い感じの三人称叙述なので、あまり逆境という雰囲気はありませんね。一番ヤバい目にあっているのは重松なので、重松メインで進行したらもうちょっと逆境ムードになったかもしれません。
 バケモノにはバケモノぶつけるんだよ! なアイデアは、キャラ配置を見た時点で予想はつくんですけど、収まりは悪くはないです。でも、明確に因縁や背景があってだんだんにじりよってくる生姜右衛門に比べて、クラッシャア子は名前がサークルクラッシャーなだけで、どういう怪異なのかとか、どういう因縁でオカルト部にきたのかという説明がないですね。「知っているのか、雷電っ!」レベルの民明書房でもいいから、ここもある程度説明されていると納得感が高まったかと思います。
 最後の「こんどはアンドロイドかいな!」は、名前だけだとヒントが少ないので、もうちょっと露骨に提示されててもいいでしょう。

謎の巡礼者:
 オカルト研究部にサークルクラッシャーが現れるお話。めちゃくちゃ面白かったです。愉快なオカ研の奴らがわいのわいのしてシュールに物語が進む様が本当に楽しい。オカ研のメンバーがどいつもこいつも濃いアニメ調のキャラクターでちょっとの会話だけでも魅力が溢れているのは流石です。全然出てこないのに有能でインパクトを残すキャラクターが好きなので私は鶴巻が好きです。謎のバイトで欠席の天丼も好き。落武者がオカ研に入部してきたところで大笑いしました。柔軟過ぎる。今回の数多あるコメディ系の参加作だと個人的には一番好きな笑いの質かもです。
 サークルクラッシャーを題材にしたコメディもなんかもはや懐かしさの風情を感じるような気がするのですがやっぱり面白いもんは面白いですね。
 バケモンにはバケモンをぶつけんだよ! のメソッドで序盤脇に置かれそうになった落武者問題とサークルクラッシャーの怪異クラッシャー子をオカ研から駆逐することに成功するわけですが、一応は本作のメイン怪異のクラッシャー子がオカ研に来た動機がハッキリしないまま終わってしまったのは正直モヤモヤが残りました。
 クラッシャー子の脅威が去ったと思いきや今度は人造人間が来ちゃったところでオチるところも伝統的ギャグといった風情で良いのですが、クラッシャー子の名前がわかりやすくバカバカしくて好きだったので、こいつもアンドロイ美とかわかりやすい名前で良かったと思います。この辺は好みの問題かもしれません。
 トンチキで愉快なオカ研活動記録、最高に笑わせてもらいました。

132:楽園/ムラサキハルカ

謎の有袋類:
 前回は視線と白い女で参加してくれたムラサキさんです。
 うんこを我慢するゲームで一万字書いたのは単純にすごい。そういう性的嗜好でもあるのかなという邪推は置いておいて、たくさんうんこを漏らす人が出てくるうんこ小説でした。
 最後のシーンといい、作者の性的嗜好を邪推してしまいそうになるのですが、どうなんでしょう。
 うんこを漏らすのは嫌だ! と思うのですが、配信されるとは言え、ここまでみんなで漏らしていたらもう漏らしてもアドな気はするので、緊張感を持つ一工夫があると更によかったかも?
 バカの小説なので文体の知能を下げたり、もう少し勢いがあると「わはは」と笑えた気がします。
 ただただそういうヘキの開陳をしている可能性もあり、どっちなんでしょうか。
 ストリングスタイルうんこ小説、一万字の重みを感じながら読みました。
 この世界はそういう性的嗜好の人にとっては楽園なんだろうな……。

謎の概念:
 うんこやね。ほんで今回はまたえらい派手にうんこを漏らしはるんやね。やっぱり中年男性(断定)にとっては逆境といえば一番はうんこを漏らすことで、うんこを漏らさないというのが自尊心の最後の砦なんやね。
 まあでもデスゲームもののテンプレでうんこ漏れる話をやられると、うんこ漏らすくらいは別にええんちゃうの? よかったやん命までは取られんくて、って感想になってまうんはしゃーないんとちゃうかな。
 せやし、やっぱうんこを漏らすんが恐ろしいのは、うんこを漏らすっていうそのこと自体やなくて、ほかの誰もうんこを漏らしてないのに自分だけがうんこを漏らしてまうっていう、一種の不甲斐なさに起因するもんやと思うんやな。
 みんなしてうんこ漏らせば漏らすほど、ひとりあたりのうんこ漏らしのインパクトは薄められるわけやし、ここまでくると、まあええかうんこ漏らしてもみんな漏らしてるしってなってまう気がするんやね。状況を派手にしたつもりが、かえってヤバさを薄めてしまう結果になってもうた感じするわ。
 これやったら、普通に次の停車駅が20分後の急行電車の中でうんこしたくなってしまったみたいな日常的なシチェーションのほうがよっぽど恐ろしいんとちがうかな。知らんけど。

謎の巡礼者:
 高校生たちが金持ちの道楽でクソゲーをやらされる話。クソゲーってそっちのクソね。まんまうんこですね。うんこゲーム。
 修学旅行中にデスゲームに巻き込まれるまでテンプレですが、そのゲームは生死を分かつものではなく、旅行の夕食に下剤を巻き込まれたため、脱糞する姿を全世界に放映されぬように「楽園」を目指すという話でした。
 周りが便意に耐え切れずクソを漏らし続ける中、自分だけはああはならない! と息巻く女の子が結局は最後クソ漏らして終わる、ホントにクソなお話なわけですが、それが終始シリアスな文体で描かれ続けるわけなので独特の味がします。汚ぇ味だな。
 シリアス調で描かれるうんこゲームは本作の良さなのですが、その代わりに勢いが殺されてしまっているせいで細かい部分が気になってくる作品でした。たとえば最初、修学旅行の広間と書かれているのが教室と言い換えられていたりだとか、そもそもこのゲームは本当にゲームとして成立しているか? とか。もちろん金持ちの道楽なのでゲームとして成立していない、ダブルミーニングとしてのクソゲーというのも全然いいのですが、たとえどこからともなくカメラマンが現れて脱糞の様とパンツを全世界に晒されるのだとしても、こんだけドッカンドッカンみんなクソしてたらもう――良くない? そんじょそこらでドッカンドッカン脱糞される様は豪勢でとてもよろしいのですが、下剤が効くタイミングも作者次第の感じがあったのも気になる。下剤には特殊な加工がなされており、衝撃によって発動する、とか。衝撃を受けなくとも明確な時間制限があってそれまでに楽園を見つけないとゲームオーバーでブリュブリュとか、多少のゲーム性を開示してくれても良かったように思います。そちらの方がうんこゲームに巻き込まれる側の応援もできる。あ、もらいグソの仕様はそのままで。
 うんこ漏らしゲームで一万字を続けただけですごい尊敬の念を抱いてしまうところはあったので、そこは本当にすごいと思います。なんか文字からも臭いが漂ってくる気がするくらいに豪勢なうんこ小説でした。

133:こむらがえりアポカリプス/瘴気領域

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 ○○村という名字にちなんだ能力を持つ凶暴な生物が大量発生して文明が崩壊気味の世界で二人の男がなんとか生き延びるという話でした。
 元村が自分は元凶だと言っていたけれど、実際は日村が太陽を二つ作った原因でした! というオチなのですが、ここら辺の設定がちょっとわからなかったかも?
 全部の日村姓が死んで生き残った最後の日村だったのでしょうか?
 これは例えなのですが、大量の小村が発生したときに生きている○○村姓は滅ぼされたとか、小村を怖れた他の民衆による○○村狩りが起きた的な補足があると最後の結末の説得力が更に増すかもしれないです。
 志村が背後から襲ってくる存在なのがめちゃくちゃよかったです。モデルになった人物との差がすごい。田村などはやはり田園なのかな……と想像の余地が膨らむところも好きです。
 ヒムとモトの二人は悲しい最期でしたが、きっと人類は復興していくことでしょう!
 めちゃくちゃガンガン作品を書いている方なので、今後もバリバリ色々な作品を書いていって欲しいと思います!

謎の概念:
「小村還り」という言葉遊びから発想して、そのワンアイデアだけで走り切った感じですね。この手のワンアイデアものは走り切るのに意外と基礎体力と集中力が必要なので、まず走り切れたのがえらいです。
 とはいえ、小村の大量出現から中村の登場までがすぐなので、あまり「小村還り」という語が印象に残らないですね。様々な村がつぎつぎと襲ってくるので「小村還り」というよりは「村還り」の印象がつよく、それだとこむらがえりの言葉遊びが成立しません。
 展開としては、まず小村の群れで小村を印象づけ、次に「2つ目の太陽が現れた日、小村還こむらがえりは起こったのだ」と説明パートを入れ、しかるべき後に中村や大村の出現という風にエスカレートさせていったほうがよかったと思います。
 最強クラスが概念系の志村というのはちょっと面白かったです。どうせなら音波攻撃の音村とか合体系の五十村とか、なんなら神村くらいまでインフレしてもいいかもしれませんね。
 元村や日村の姓はひとりやふたりではないでしょうから、オチはちょっと弱いです。無理に畳もうとせず、どんどんエスカレートしていく展開でもよかったかも。

謎の巡礼者:
 小村還りなる現象が起こっているポストアポカリプス小説。
 色々な〇村の名前で遊んでいる作品で、ひっきりなしに〇村の村シリーズがポンポン出てくるのが面白い。小村、中村、大村の進化は単純だけど印象に残って良い。そこから薪になる木村、とノンストップでしたね。概念系小村変異種ってなんだよ、好き。志村が最強種なのもなんか良いな、笑っちゃった……。
 村シリーズ、まだまだたくさんいると思うので名前だけでも紹介するシークエンスがあっても良かったかもしれませんね。
 どんどんと〇村を出していく構成自体は面白い発想だったので、最初の小村が暴れまわる様はもう少し尺をとっても良かったかもです。小村還りの詳細が何なのかわからないまま読み進めることになるので、ただやられるだけじゃなく、基本の小村がなんかすげえヤベえモンスターなんだな、という印象は漫画の大ゴマを演出するような気持ちで描写した方が親切です。
 主役の二人も〇村であり、傭兵のモトさんではなく「日村」こそ太陽を二つにした元凶だった、というオチも良かったのですが、二つの太陽と村シリーズゾンビパニックとの関係だとか、村シリーズがうまれた経緯だとかは特に語られることがなく物語が終わるので、〇村ゾンビパニックというワンアイディアだけで突っ走るのではなく、長くなり過ぎない程度にディテールを詰めてみても良かったでしょう。
 思いつきそうでギリ思いつかない奇抜なアイディアながら、人類は救われたエンドで物語をしっかり締めていたのもとても良かったです。
 ……パニック映画のエンドロール後よろしく続編を仄めかす村シリーズがいたりしても良かったかもですね。

134:超ヴァレンヌ逃亡事件/rei

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます
 全てを気合いでなんとかしていくかつてのフランス国王の話。
 めちゃくちゃによかったし、ふふっと笑えるところがたくさんでおもしろかったです。
 豪腕に次ぐ豪腕でどんどん加速していく物語、馬の蹄鉄にスパイクが生え、ムキムキになり蒸気期間ジェットで宇宙に旅立つ下りや、気合いで無酸素でもなんとかなる描写がすごく好きでした。
 せっかくめちゃくちゃに盛り上がっていたのに、最後のオチでいきなり「はい! メモでした!」と突き放さずに、そのまま突っ走っていって欲しかったです。
 なんだこれ? と言われるとこっちも「なんだこれ」になってしまうので……。
 なにはともあれ完結させるためにオチを付けようという気持ち自体は尊いものです。
 発想やお話の構成力などはとても高いと思いますし、ふふっと笑える力技を使う力は非常に高いと思うので、あとはめちゃくちゃな物語をめちゃくちゃなまま駆け抜けて着地すれば完璧!
 体力を付けて物語を最後まで駆け抜けましょう!

謎の概念:
 キャッチコピーで平然と嘘をつくんじゃない。
 偏差値が高いのか知能ゼロなのか超判断に迷う作風なのですが、気合いが入っているのは間違いないですね。ゲートが開いた瞬間からの文字通りのロケットスタートで冒頭の勢いは超すごいです。この勢いのまま最後まで超駆け抜けてほしかった。最後の最後で正気に戻られるとこっちも正気に戻ってしまうので、無理にチャンチャン♪ とオチをつけにいかなくてもよかったかも。大フランスオチでもよかったのでは。
 序盤の超重ねからショワズールが軽くアカシック=レコードに触れて一行がケプラー138eに降り立つところまではひたすら加速していて超いい感じなのですが、ここでいったん息継ぎをしてしまって勢いを殺してしまった印象を受けます。このへんからいろいろ考えちゃって、お話を畳みにいってる雰囲気なんですね。地の文もわりと正気度高くなってしまっている気がします。
 細かいことは勢いがどうにかしてくれますから、最初の勢いそのままに、息継ぎなしでいけるところまでいっちゃったほうが、たぶんよかったでしょう。

謎の巡礼者:
 ヴァレンヌ逃亡事件を題材としたトンチキ歴史小説かと思わせてからのトンチキスペースオペラになっていくお話。
 史実の中にトンチキが入り乱れ、だんだんとおかしくなっていく様が面白かったです。「超逃げた」「馬車馬の気合と技術が半端なかった」から始まり、文字通り超蒸気機関のアクセルを踏みに行ってスピードアップしていくのが本作の魅力ですし、史実にトンチキフィクションを一つまみしていたと思っていたらとんでもねえところまで行く、という構成を見せたかったその心意気や良し。
 ただ、これだけ最初からアクセルを踏む気があるのであれば、描写される内容だけではなく、文体でもKUSOのアクセルを踏んでしまって良かったように思います。簡単なところでは文章にも感嘆符をつけまくるとか。
 途中までジェットコースターのように駆け上がり、お話自体も超光速となっていく読み味はめちゃくちゃに笑えてわくわくできて本当に良かったです。けれど最後、だんだんとホラがデカくなり、ここに書かれていた話は中古の用語集の中にあった紙ペラにあったもの、というオチに向かっていくのも中途半端に正気にもどっていて勿体ない。折角の踏まれていたアクセルなのですから変に着地する必要なんて毛頭ないです。
 狂気を! 迸る狂気を見せてください!

135:CR FEVER生命/菊池ノボル

謎の有袋類:
 パチンコをやめろ!!!!!ついでに酒もやめろ!!!!
 前回は河馬雀を書いてくれたノボルです。
 パチンカスがパチンカス故の誘惑の弱さで世界から色々なものを消していく作品。
 パチンコをやめろ!!!!!!
 パチンコ、詳しく分からないのですが、とにかく主人公がカス野郎だということと、主人公の先輩はカスなのは伝わってきました。
 主人公の先輩の蒸発が主人公が持っていた謎の紙幣によるものだったらおもしろいなと思ったのですが、カスなので普通の蒸発した可能性もあるから怖い。
 生命を賭けたパチンコが今始まる! で終わってるんですが、どうなったのか気になりますね。
 いっそのこと使い切っちゃってそこでいきなり小説もバツンと終わっていてもよかったかもしれない。
 発想がめちゃくちゃに好きなので、やはりコンスタントに書いていきましょう! 小説。
 ノボルはこういうコミカルな作風でわははと読める作品がすごくうまいと思っているので、このまま持ち味を活かして欲しい気持ちもあるのですが、まだまだ色々な可能性があるので腰を据えて全裸になって好きなものを書いてみるのもいいのではないでしょうか。なろう。全裸。

謎の概念:
 風変りな設定は挟まってるんですけど、作中で実際に起こっている出来事はパチンカスが出ない台に万札を吸われてるだけなんで、いくらなんでも動きが少ないですね。これで応援してくれって言われても、いやでけへんよってなっちゃいます。まあでも、この主人公の応援できなさは意図的な設計かもしれないので、そうだとしたら設計通りに動作しています。
『でもさ、使っちゃいけない分を使い始めてからが”ギャンブル”だよな』というセリフが印象的にリフレインされているので、ここがたぶんこの作品のメインテーマなんでしょうけど、あまりにも主人公に葛藤がないので「使っちゃいけない分」っぽさがさほどないですね。これ使っちゃいけないんだよな~くらいの認識はあるようなのですが、わりと平気で突っ込んでる。でもこの平気っぽさこそが狂気なわけで、そこが描きたいポイントなのかもしれないので、ちょっと分かんないですね。
 パチンコ台とパチンコ台のあいだにあるお金を入れる機械はサンドっていう名前なんですね、というのが一番の気づきでした。あれって最初、右に入れるのか左に入れるのかで迷ったりしないんでしょうか?

謎の巡礼者:
 いいからパチンコをやめろ。
 負債が溜まっていくほどにそれを取り返さないといけなくなる、をもはや通りこして、パチンコのためにパチンコをやっているパチンコ依存の恐怖が存分に描かれていたと思います。いいからパチンコをやめろ。応援してくれ、じゃねえんだよ。心療内科にかかってくれ。でももう使っちゃったから勝ってもらうしかないんですよね…、勝ってくれ……。
 『使っちゃいけない分を使い始めてからがギャンブル』の言葉を何度もリフレインさせて、あるもんはあるんだから使っちゃう意思の弱さと、ここまで来たらもう戻れない静かな高揚感が確かな筆致で描かれていてほんと怖い。私もいうほど意思の強い人間じゃあないので、パチンコにはまっていて財布の中に「つくば市」が入っていたら……あー、絶対に使わない自信まではないなあ。だからパチンコをやめろ。
 久野市が本当にないのか調べちゃった。チェンソーマンでアーノロン症候群って単語見たときと同じ気分。その辺りも含めて、もしかしたらとなりで起こっているかもしれない話、としてのリアリティの演出にはなっていると思うのですが、お話としては結局じゃらじゃらパチンコやっているだけなので、オラに勇気をオチじゃなく最後は景気よく(?)負けて、プツンと画面が落ちるようなオチでも良かったかもしれません。
 ギャンブルで概念を賭けてそれがなくなる、というのは概念バトル系のラノベとか漫画なんかだと割かり見るタイプの話だとは思うのですが、それがパチンコのカスと結びつくだけでこれだけ面白くなるとは。
 「生命」のお札がサンドに吸い込まれ、心とは裏腹に腕が伸びて貸しボタンを押すくだり、思わず笑いました。パチンコをやめろ。

136:繰り返しの果ての死体/朧(oboro)

謎の有袋類:
 歯車と蝿の虚実を書いてくれた朧さんの二作目です。
 一人の男に二人がめちゃくちゃにされるお話でした。
 ひたすらイオくんが不安定なやべーーーーやつだった印象が強いです。
 イオくんをケイくんがなんでそこまで好きなのかを書いてくれると、多分作者さんが書いてくれた作品の意図や意味がもっと受け止められるのかなと思いました。
 イオくんの自己中心的な様子、不安定なメンヘラっぷり、理不尽な暴力を奮う瞬発力の高さがすごくて、同棲していたのも多分イオくんが悪いんだろうなくらいにまで思ったのですが、どうなのでしょう……。
 ケイくんはケイくんで自分の部屋で人を殺されて、挙げ句の果てによくわからない理由で刺し殺されてもイオのことを憎んではいないので、イオのことがとても好きだったことが伝わってきました。
 多分イオくんのヤバさを伝えたいという意図は朧さんの中には少なそうなのですが、どうでしょう……?
 文章も読みやすく、ケイくんの人の良さもばっちり伝わってくるのもありますし、一作目の歯車と蠅の虚実でもそうだったのですが文章を書く力は抜群に強いです。
 後味の悪い系の話はめちゃくちゃに競争率が高く、目立つのは難しいので一つがっつりと目立つような要素をブチ込んでレッドオーシャンのパイオニアを目指していきましょう!

謎の概念:
 そうなるんじゃないかなーと思っていたらそうなったので、展開的に驚きはなかったんですけど、どういう理屈でそうなるのかっていう動機のところはなかなか新奇で、予想の範囲外でした。清々しいほど身勝手でいいですね。
 ケイはダウナー系で叙述が落ち着いてるので一瞬、頼りになりそうな気もするんですが、具体的な行動は考えなしの行き当たりばったり感が半端ないので、これは破滅エンドも必然です。不穏なムードが高まって高まって、ちゃんと不穏なことになるので、安心感すらあります。
 一番描きたいのはケイの最後のモノローグの部分でしょうから、書きたかったところはしっかり書けていていると思うのですが、イオは動きや発言が少なくパーソナリティがあまり見えてこないので、そこはもうちょっと書き足してもいいかもしれません。
 イオのケイが「いつだって正しい」という部分に対する執着や、身勝手なイオに振り回されながらもイオのフォローをすることに自分の役割や価値を見出してしまっているケイの歪さ。ふたりの相互依存てきな関係性を事前に示しておけると、ラストの展開にもっと納得感が生まれたかも。

謎の巡礼者:
 男二人で死体を捨てに行く話。
 人を殺してしまったイオの為に、ケイがその遺体を二人で一緒に埋めに行ったら自分も刺されてしまった、というストーリーラインはバッチリとキマっていて良かったし、ケイが死体を埋める為に苦闘する様が心情描写を交えて丁寧に描かれて、シンプルなお話ながら読み応えがありました。
 イオがケイを殺す動機が結構ヤバくて面白かったのですが、それまでにイオのヤバさがあまり表に出ていなかったので、完全に出してしまわずとも、ケイとイオの共依存的関係を示すエピソードやイオがケイのことを「いつだって正しくてかっこういい」と感じていることを示すセリフややり取りなどがあると納得感が増したように思います。
 物語は登場人物を動かして動かしてナンボなわけですが、本作の場合実際の動きは死体を見つけ、処理し、埋め、そして殺される、とそう多くはないので、その分濃密な心理描写に気を配って物語の密度を高めたいところです。
 死体を捨てに行く始まりと終わりまでの物語の大筋はそのままに、死体を捨てに行くまでの間の回想という形で二人の過去のエピソードを入れるなどして、読者にも登場人物の解像度を高めてもらってから衝撃と神妙のラストを迎えてもらいましょう。
 ケイがイオを殺す身勝手な言い分も結構好きだったし、男二人のどっぷりとした依存関係が魅力のお話を、読みやすく二人のキャラクターも想像しやすい文体で描かれていて良い作品でした。

137:助けてくれ/武州人也

謎の有袋類:
 前回は食堂のおばちゃんと幽霊オークションで参加してくれた武州さんです。参加ありがとうございます。
 今回は霊が見えて向こうの記憶を受信できるけれど、特に祓う的なことは出来ない男性のお話でした。
 自分が悪い癖に逆恨みをしてくるやつ! めちゃくちゃに救いがないエンド。ホラーの短編で好きなパターンでした。
 女もついてきてるのがより最悪ですね。ヤンチャ仲間だったやつが女にもヤンチャをしているのはある意味想定内なのですが、誠嗣がいいやつだった頃の話や、誠嗣がどんなタイミングで頼ってきたのかを更にプラスするともっと後味の嫌さに深みが生まれたかもしれません。
 助けられなかった後悔をしているところに誠嗣らしき霊が来るのも最悪でめちゃくちゃによかったです。
 この後、三人組の幽霊になるのかな……。がんばれ主人公。
 おもしろい理不尽最悪ホラーでした。

謎の概念:
 自分にはなにもできることはないのに、誰かに助けを求められてしまったら? 実際にどうしようもなかったんだとしても、どうしても、なにかできることがあったんじゃないかと考えてしまう。サバイバーズ・ギルトに近い感覚かもしれません。
 ここはけっこう深みが出せそうなテーマだと思うのですが、しっかり掘り下げられているかというとそうでもなくて、普通に理不尽系の怖い話っぽい仕上がりになっていますね。
 そのときは自分にできることはなにもないと突き放したけれど、あとになってから、アレができたんじゃないか、こういう選択肢もあったんじゃないかと色々と思い浮かんでしまう。そういう、あとの祭りてきな主人公の葛藤をもっと描いてもよかったかもしれない。
 主人公はなにも行動してなくて、出来事はぜんぶ向こうから勝手に来てる感じなのも小説の主人公らしくないです。やはり主人公には主体的に行動してもらいたい。
 今の状態だと誠嗣のやらかしも幽霊さんの一方的な証言? だけで宙ぶらりんなので、誠嗣が死んで取り返しがつかなくなってから、主人公が事実を確かめるために調査をはじめるくらいの行動があってもいいですね。
 誠嗣のパーソナリティや主人公との関係性も説明がザッとしていて、実際にどれくらいの距離感なのか質感が曖昧です。けっこう仲は良かったんだけど、幽霊さんの事情も分かるので助ける気にならないのか、今は疎遠で、そもそも必死になって助けてやるほどの義理はない距離感なのか。このへんもディティールを詰めたほうが小説らしさが出ると思います。

謎の巡礼者:
 幽霊が見える主人公が、幽霊に取りつかれた友人を見捨てて後悔する話。
 お話としては主人公がひたすらに不憫なだけの理不尽ホラーなのでした。彼にはずっと霊を見る能力があったけれど誠嗣に「助けてくれ」と言われたことで初めて「自分にも何かできたんじゃないか」という後悔がうまれているのが小説内の展開を回しているのですが、その後悔をしているところに誠嗣と女の幽霊が両方ともきて「どうすりゃいいんだよ」の問題提起で終わっている感じなのがちょっとモヤっとしてしまいました。「助けてくれ」の言葉は誠嗣のものでも女のものでも主人公のものでもある、というテーマの重なりを感じられるところはよくできているので、その部分のディテールをもう詰めてみてもいいでしょう。
 後はやっぱりせっかくの物語ですから、問題提起だけでなくて主人公には一度何かしら行動をしてもらって、自分にも何かできないかを実際に模索してもらうのが良いと思います。その上で結局何もできなくて誠嗣と女に憑りつかれたままの結末でも全然良いので。誠嗣が女に取りつかれるようになった理由が最悪なのと、それに主人公がショックを受けているところが結構印象的だったので、そこを中心にして物語を膨らませてみるのも良さそう。
 ただ、こんな風に本作の色々な展開を想像させられるのは、主人公が最後に問いかけた「こういうときって、どうすりゃいいんだよ」を受けてのものとも言えるので、理不尽な出来事から読者に色々と考えさせるという意図があったのであれば、それは成功していますね。
 読んでいて居心地の悪さを感じられる、良いホラー小説でした。

138:向こうの記憶/不可逆性FIG

謎の有袋類:
 前回は先延ばしの理由で参加してくれたFIGさんです。参加ありがとうございます。
 今回はフルダイブVR的な技術のある世界のお話でした。データを取るために自分の過去をやり直すような体験をしてデータを提供してお金を得るという仕事をしていくうちにどんどん仮想世界とのギャップに苦しむ主人公がすごくよかったです。
 少しだけ自分に都合が良い世界、めちゃくちゃにいいですね。そしてそこで胡蝶の夢を出してくる広瀬さんのちょっとした知性が好き。粗野で乱暴そうなおじさんが少し知的なことをいうのはとても良いですね……。
 僕はとても察しが悪いのでちょっとだけ不安なのですが、最後のオチはWAKING UP AFTER 40 - 08/18 なのであと40分後に広瀬さんが起きますよということでいいのでしょうか?
 主人公が自分は広瀬さんの仮想現実の登場人物だと自覚して終わるラストでいいのかな?
 ここら辺は「広瀬さんにとってちょっと都合の良い現実」なので、それに気が付く布石があると更にすっきりするかもしれません。
 その前の主人公の仮想現実で「オレはお前の夢の登場人物なんかじゃない」って暴れる的なことで、暴れたやつをめちゃくちゃに見下すか憐れむと結末の味が更に深くなると思います。
 目新しいアイディア! ではないかもしれないのですが、しっかりとした設定と話運び、そして広瀬さんのキャラクターなどで面白い話に仕上がっていると思います。
 やはり続けていれば強くなる! これからもどんどん書いていきましょう!

謎の概念:
 うーんと、これはダブル胡蝶の夢てきなエンドなんですかね? 主人公が現実だと思っていた世界は広瀬が見ている仮想現実で、その仮想現実内で主人公がさらに仮想現実に潜っているというオチでしょうか?
 仮にそうだとすると、その証拠である刺青が広瀬の胸だけにあるのはちょっと不親切なので、仮想現実にダイブした主人公の胸にも同様のものがある、みたいな伏線は置いておいたほうがいいでしょう。
 どんでん返しの理想は「たった一文でこれまでのすべての認識がひっくり返る!」ではあるんですけど、これは実際にやろうとすると結構むずかしいです。現状はすこしオチがそっけなくて説明不足な印象を受けるので、くどくなりすぎない程度にもうちょっと情報を開示したほうがいいと思います。
 設定てきには今となってはそこまで新奇なものではないのですが、既存のアイデアを二重に重ねるとか、数を増やすっていうのはアプローチとしては間違ってないです。
 キャラクターてきには広瀬さんが一番魅力的なので、もっと出番があってもいいですね。

謎の巡礼者:
 現実よりもちょっとだけ自分にとって都合の良い世界を過ごすことができる仮想現実を体験するバイトを紹介され、現実ではうだつの上がらない生活を過ごしていた主人公がその仮想現実にハマってしまう話。
 とても良かったです。読者が感じる疑問とガジェットの使い方がすごく巧みだったなあ、という印象。仮想現実で5年とは言うけど現実ではどれくらい経ってるんだ? みたいなことを思うくらいのタイミングで、実際には1時間弱しか経ってないことが説明されるなど、最初からすべてを説明してしまうのではなく、読者がお話を楽しんで疑問を抱くような部分にフォローを入れる構成は一番読みやすいSFの書き方だと思うので、それができていた本作の構成には唸りましたし、しっかり楽しませてもらいました。
 ただ、道中がしっかりしていた分、ラストの説明が足りていなかったように思いました。最短五年から六十年までのコースがありますと言われてから、これ何かの伏線になりそうだなと思っていましたけれど、その回収がもしされているのだとしても少しわかりにくい。胡蝶の夢というのは「蝶になる夢を見たのか、夢で見た蝶の意識の方が現実なのか」という話で、この世界はアザトースの夢みたいな話ではないので、主人公がいるところは実は広瀬の夢がもし真相だったのだとしてもあまり良いたとえではないのでは? という気がする。でもそれを言っているのが仮想現実真っ只中の広瀬だとすると間違ってはいないのか、みたいにちょっと混乱しました。個人的には広瀬の入れ墨を見てしまうシーンでゾワッと背筋に悪寒が走ったので、演出も悪くないと思います。
 物語の真相を握っているかもしれない広瀬さんがとても魅力的なキャラだったのは本作の強みのひとつだったと思います。始まりと終わりだけに出てきてなんか物語全体を支配しているんですけれど、主人公との会話シーンや広瀬のグレーなところがもっと垣間見えるシーンなども見たかったです。

139:ペンギンじいちゃん/藍﨑藍

謎の有袋類:
 Goodbye, This Worldを書いてくれた作者さんの二作目です。
 お盆の時期に何故かペンギンの人形におじいちゃんが憑依したお話。
 ペンギンの豆知識やコウテイペンギンの生態になぞらえておじいちゃんとおばあちゃんの関係性を描くのがめちゃくちゃに好きでした。
 ほのぼのしていて良いお話。
 木村さんの再登場もとてもうれしいのですが、字数に余裕があるのでもう少し木村さんとの会話や関係性もあると更にエモかったかもしれません。
 おじいちゃんが話していた南極の光景が最後にもう一度登場するのもすごくよかったです。
 こういう同じ文面なんだけど受ける印象がちがうというのは短編だとめちゃくちゃに破壊力がある良さがありますよね。好き。
 一度は嫌いになったり避けていた南極という存在から、おじいちゃんの話を通して再び向き合い、夢を叶えることになった主人公のとても良い成長譚でした。

謎の概念:
 全体にほんわかとした読み味で、あまり逆境てきな雰囲気はなかったですね。そりゃ進路選択、職業選択は人生の一大事ではあるんですが、主人公の心理描写がわりと淡白なので、もっとキリキリとした内面をしっかり書きこんだほうが逆境っぽさは出たかもしれません。
 ラストは映像的にもきれいですし、爽やかな印象で良いのですが、このラストに持っていくまでの条件をしっかりと整えられていない気もします。
 このラストに納得感を与えるには「主人公は南極観測隊に憧れを抱いているが、祖父には反感を抱いていて、自分は家族をないがしろにする人間にはなりたくないと考えていた。しかし祖父とのわだかまりが消えたので、迷いなく南極を目指す」といった状況を整える必要があると思います。
 現状だと主人公が南極観測隊に憧れているエピソードは1話の写真入りの鳥の本(おそらくペンギンを調べていた)くらいしかないので、もっと補助線が必要です。
 ラストシーンに木村さんがいるのも「あ、そこまでの関係性だったんだ」と、ちょっとびっくりするので、「南くんのおじいちゃんって、南極に行ってたんだっけ」あたりのところで早口オタクにして、木村さんの南極への情熱を書いておいたほうがよかったでしょう。
 ラストシーンから逆算して必要な要素を埋め込んでいくと、完成度があがると思います。

謎の巡礼者:
 お盆にじいちゃんがペンギンになって返ってくる話。
 夏のファミリー映画みたいな雰囲気で良いですね。全体的にほんわかと優しい雰囲気が広がっている作品で、安心して読める文章でした。
 祖母が死んだ時に南極へ行ってしまった祖父のことを、家族はよく思っていなくて、主人公の南くんもその家族の気持ちにつられているというお話なのですが、その家族間のすれ違いに対する答えを、南くんがお祖父ちゃんの好きだったペンギンを交えて一つの結論を得るまでの流れもしっかりできていて綺麗。
 ラストシーン、祖父と同じように南極観測隊となり、子どもの頃にひどい言葉を投げかけたと思っていた木村さんとも再開して、その様子を家で待つじいちゃん(ペンギンのぬいぐるみ)にも無事に帰ってきたらたくさん話してやろう、と思う最後も素敵でした。
 夏映画みたいな優しい雰囲気のお話でしたが、いっそのこと本当にエンタメらしく何か大きい事件を起こして、それをじいちゃんと主人公で乗り越えるようなお話であっても良かったように思います。ラストシーンで木村さんを再登場させるだけじゃなくて、彼女との絡みをもっと増やして作中で彼女に謝罪するシーンなども自然に盛り込めると、エンタメ度が上がって、よりワクワクする物語になりそうです。もちろん「子どもの頃にちょっとだけあった不思議な体験」をもとに大人になる、という素朴さを描きたいという面もあるのかもしれませんが、ちょっとやそっとの事件でその雰囲気が薄れるようなことはないと思います。
 何か悪いプロデューサーみたいなことを言っているなあ。確かなのは、そんなことを考えさせられるくらいポテンシャルを秘めた作品であるということです。
 ひと夏の少年と祖父の素敵なお話をありがとうございました。

140:前略、匣の中から/神崎あきら

謎の有袋類:
 はじめましての方です。さんありがとうございます!
 大きい方ではなくて小さい方が出た小説です。
 エレベーターに閉じ込められた二人に奇妙な有情が芽生え、二通りの意味ですっきりとしたお話でした。
 嫌みなパワハラ上司兼取引相手に復讐をしたけれど、今度は屋上に閉じ込められて次の試練が始まる! というラストがなんとなく世にも奇妙な物語みたいな感じで好きです。
 放尿のシーンは多分はちゃめちゃすっきりポイントなので思いっきり書いちゃっても良いかもしれません。
 ある種のざまあものであり、ざまあシーンは多分見せ場なので「ここが見せ場じゃーーーー!」と気合いを入れると作品のメリハリがついたかなと思います。
 このままでもささやかな反抗と、さらなる受難の奇妙な友情がストーリーとして面白いので、好みの問題も大きいと思いますが。
 全てを諦めた青年と、頼もしい年上の男の奇妙な絆がすごくよかったです。

謎の概念:
 うんちじゃなくておしっこでしたね。まあでも漏らしたわけじゃなくて確固たる自分の意志で出してるわけで、いいんじゃないでしょうか。
 パワハラ上司に悩む青年に道を示す役割の藤岡も、わりとパワハラおじさんタイプっぽく見えてしまうのはパワハラおじさん無間地獄を表現しているのかナチュラルなのか、ちょっと判断に迷います。
 嫌ですよね、止まったエレベーターに怒鳴り散らすおじさん。青年に対する態度も最初からタメ口というか、むしろちょっと高圧的な印象です。見た目から明らかに年齢的に自分が上だったとしても、初対面では相手の社会的な立場とかは不明なわけですから、基本は敬語で接するのが社会人ってものじゃないでしょうか。
 藤岡の役どころてきには、オラオラ苛々タイプおじさんよりは不憫気弱損な役回りおじさんくらいにしておいたほうが収まりがよかったかもしれません。
 ラストは変則的な俺たちの戦いはこれからだ! エンドなんですが、ちょっと薄味で印象が薄いので、ここは田島がフェードアウトではなく、オイリー・バーコード・パワハラおじさんらしく、パワハラおじさん節をねっちょりと喋らせてしまっても良かったかもしれません。

謎の巡礼者:
 エレベーターの中に閉じ込められた男二人に奇妙な友情が芽生える話。
 ひょんなことから出会った二人がお互いに影響させられて、日常に戻って前を向いていくお話は大好物です。とても良い。
 横柄な顧客相手の田島におしっこをぶっかけるシーンは、大爆笑かつスッキリとするシーンなので、もっとド派手に演出してみても良かったと思います。濡れる田島のズボン、光るバーコードハゲ、飛び散る黄金のおしっこ、みたいにこうコミカルにここが見どころですよと言わんばかりの情景描写をしてくれたら嬉しかったですね。そういえば青年的には二重の意味でスッキリするシーンなんですね、ここ。愉快です。
 後はこれ細かいことなんですが、三人称視点で進んでいく作品の中で急にその場にいない人物のイメージを語られて少しだけ読む手が止まったので、田島専務の外見を描写する文章の前に「藤岡は五階で待っている顧客の嫌な顔を思い出す」みたいな一文があったりするともう少し読みやすかったな、と思いました。またはいっそのこと最初から一人称視点にしてしまうか。本当に細かいことでしたね。何はさておき、作品の文体にあった文章校正を考えると作品の魅力が更に増すと思います。
 エレベーターから脱出できたものの今度は屋上に締め出されるエンドですが、この二人ならなんとかなるでしょう。

141:芥の王/草森ゆき

謎の有袋類:
 ガーベイジ、好き。
 夏が来る夏に終わるを書いてくれた草森ゆきさんの二作目です。
 うわーーーー! 草さんの書くサイコ野郎が好きすぎておかしくなってしまった。
 赤髪のサイコ野郎、とても良いですね。体格は良いけど顔も良くてツーブロ長髪で髪の毛を括っていて欲しい。
 なんとなく二周目に行かせるのはわざとだったんだろうなーと思っていたんですが、シリンダーを回すためにかっこいいことをしてたのがよかった。
 十円硬貨の下りもめちゃくちゃに好き。
 自称無神論者のガーベイジが天国についてや極楽浄土について話すのもサイコ野郎っぽくて好きです。
 極楽浄土の部分だけ楽園あたりに言い換えたら更にアメリカンっぽいかも? と思いましたが、細かい揚げ足取りみたいな感じなので気にしなくて良いです。無節操なのもガーベイジくんっぽくていいよね。
 めちゃくちゃによかったーーーー! 赤髪の男はとても良い。
 銃に詳しくないという伏線回収も気持ちよくキマったのがよかったです。
 よかった。読み終わってから「芥」ってそういうことね! となるのも好きでした。かっこいいね芥の王ガーベイジ。平伏したい。

謎の概念:
 本当に最初から最後までロシアンルーレットをしているだけだったので、画てきな動きが少なくて地味ではありますね。冒頭で示されたゲームを完遂して終わりなので、お話てきな展開も地味です。途中でミッションがアップデートされる展開があってもよかったかも。
 地味なお話でも読まされてしまうのはもう完全に文体のちからで、文体はめちゃつよなんですけど、なまじ文体がめちゃつよなせいで文体に頼り切った腕力勝負になっているきらいはあるので、もっと物語をでっかく展開してもらいたい感じはします。
 ガーベイジは能力だけあって目的のない、めちゃくちゃやりたいだけの虚無野郎ってことなんだと思うのですが、そのキャラクター性だと種も仕掛けもなしに正々堂々と運任せのロシアンルーレット勝負をしそうな気もするし、ぶん殴って拉致して既に圧倒的に有利な状況にいるのに、さらにわざわざ勝ち確定のイカサマ勝負を仕掛けるのは辻褄が合ってない気もします。
 彼はたぶん、この勝負を通じてスティーブのなにかを試したいんですよね? 彼なりにスティーブを評価していて、執着している。そこをしっかり描いたほうがいいかも。
 10円玉の裏表でしれっと嘘をつく感じとかはしっくりくるので、アレコレ仕込みはしてるんだけど、最後の最後の部分では運任せの勝負をしているギャンブル狂い、賭ケグルイの夢子みたいなキャラクター性がたぶんいいですね。
 ガーベイジがgarbage由来なのは(たぶんスティーブは英語話者でしょうし)モロバレなので、そこを大オチに持ってくるのは腑に落ちない印象になってしまうんじゃないかと思います。中盤くらいで明かされる小ネタの枠でよさそう。

謎の巡礼者:
 マフィアのボスである主人公と、組織を裏切ってイカれた雰囲気を漂わせる男ガーベイジがロシアンルーレットをする話。
 マジでロシアンルーレットをするだけの話なのですが、ノワールな雰囲気が二人ともキマッており格好いいし、草森さんの読みやすい文体で描かれているから最後まで読めてしまう。相変わらずクソ強文体ですごい。映画で覚えたという格好いいシリンダー回しをするガーベイジや四発目が順が自分に来てガーベイジに銃口を向けるボスなど、いちいち描写されるシーンが格好良くて楽しい。流石サカモトデイズ愛読者。
 主人公は自身が狂人と呼んだガーベイジに負けてしまうわけですが、私から言わせてみると確率を考えながらも「運」に自分の運命を任せた主人公と、一つ一つの動作が自分が勝利するための予備動作であったガーベイジだと、ガーベイジが勝って然るべきだと思った為、してやられた感は薄いです。この辺り、狙ってやったというよりもたまたま出来た二人のキャラクター性が生み出した読み味だと思うので、自分の生死という命運を運に任せてしまったこと、自分の直感に任せてガーベイジを信用してしまったことなど、そうした部分を主人公が悔いるような結末であったりすると、リーダビリティの暴力で読ませてくる本作の物語に一本筋が追加されて更に魅力が出てくるように思います。「俺が偽名だってことを疑わない時点で全てが終わっていたのかもしれない」のセリフがそれっぽいっちゃそうなのですが、言うて偽名であることは見え見えの名前なのであんまりスマートではないな、と。
 とは言え裏社会のクールな男共の最高のギャンブルを読めてニッコリです。面白かったー!

142:天使墜落(私)刑/志村麦

謎の有袋類:
 ある被験者の記憶を書いてくれた志村麦さんが参加してくれました。ありがとうございます。
 アジア旅行をしていた主人公が怪しい企業に連れて行かれて天使と出会うお話でした。
 貧民街で繁殖している天使の設定が好きです。
 主人公である韮を直接拉致せずに、警察などを経由したのは計画的な犯行ではなく、掴まっている日本人から韮を見繕い、パスポートなどを取り戻したということでしょうか?
 書きたい部分が天使たちのことの場合、天使と出会うところからスタートするとテンポアップが出来て、天使たちの描写や最後の燃えさかる工場というクライマックスに字数を割ける気がします。
 自称慈善家のためにあえて小汚いままにされているっぽい天使たち、10ドルを渡されると条件反射で幸福を感じてしまう性質、加害の幸福を覚えた天使たちはこれからどうなるかなどおもしろく読むことが出来ました。
 最後のセリフはふっきれた韮のものなのか、田中のものなのかどちらにもとれるように描かれているのかもしれないのですが、反抗までも商品にされる天使たちの切ない生き物っぷりがよかったです。

謎の概念:
 設定が説明され、物語の舞台がセットアップされたと思ったら、もうエンディングでした。あるべき中盤をずばーんっ! と書き飛ばしちゃった感じですね。
 田中はいいキャラをしていると思うのですが、本文の大半を田中のセリフによる設定の説明が占めているので、田中ばっかりが目立って主人公の影が薄いし、彼のキャラがブレてる印象もあります。
 冒頭の描写だと、どこにでもいそうなちょっと頭ゆるめの大学生っぽい雰囲気なんですけど、中盤ではノーリアクションで淡々と工場を見学するただのカメラマンみたいになっていて、なんか肝が据わっています。得体の知れない田中とも堂々と対等に会話を交わしていて、いつの間にか気合いの入ったハードボイルド主人公に入れ替わっちゃってるっぽい。雑音にならない範囲内で、もっとヒーヒー悲鳴をあげさせたりゲロ吐かせたり、情けないリアクションをとらせちゃってもいいかもしれません。
 最終的には工場を燃やさないといけないのでハードボイルド主人公になってないといけないのですが、そこの変化こそがドラマなので、ゆるふわ大学生→ハードボイルド主人公への変化の過程を解像度高く描いていけるといいと思います。
 基本的な文章力や描写力、新奇な設定を出せる発想力などは十分なので、たくさん書いて足腰を鍛えましょう。

謎の巡礼者:
 カンボジア旅行で身ぐるみ剥がされ逮捕され、連れて行かれた先は天使の養殖工場だった、という話。
 カンボジアで殖える天使たち、天使たちの輪を商品としたハッピィ・ドーナツ、ハッピィ・ドーナツを生み出す為に行われる“慈善事業”。一つ一つの要素が抜群に好きです。世界観の説明をするカンボジア・ドーナツ工場日本支部営業部門コーディネーターの田中も良いキャラしていて素晴らしい。とても楽しそうに商品説明をする様子に魅力を感じる見事なヒールっぷりです。
 作品全体を見た時、与えられた舞台、奇抜で独特でグロテスクな設定、ドーナツ工場の不気味さなど、よく練られた設定を一万字以内で処理しきれず、尻切れトンボで終わってしまった印象があり、勿体ない。海外旅行で身ぐるみ剥がされて良い勉強になる冒頭は丸ごとカットして、ハッピィ・ドーナツを巡るドラマにフォーカスを絞った方がより煮詰まった物語になったのではないでしょうか。その部分がつまらなかったわけではなく、寧ろあのシークエンスもめちゃくちゃ面白く、長編だったらもっと長く書いても良い部分。ただ、短編の場合はフォーカスのあたる部分以外は思い切って削りまくった方が良い。後は主人公は普通の大学生の筈ですが、なんぼなんでも肝が据わりすぎでは? 最後の工場炎上シーンに繋げるにしても、ここは意識して序盤から中盤にかけては平凡に見えるようにして、天使たちの様子を見て奮起し成長する、といったストーリーラインを作った方が読み味が安定したように思います。
 講評とか抜きにするとホント、めちゃくちゃ好きな世界観だったので、長編化とかも願いたいところでした。志村麦さんの描く世界観、どうやら私にはドンピシャに刺さるみたいなのでこれからもドンドン作品を作っていってほしい、というのが一読者の願いです。

143:日本張型道 vs アメリカンディル道/@ dekai3

謎の有袋類:
 前回はでかい山は山ヤマと甘えたがりの『人工改造半吸血鬼』《ハイブリッド・ダンピール》で参加してくれたでかいさんです!参加ありがとうございます。
 今回は架空の競技もの。下ネタだ! ゲーミングちんぽ華道部から着想を得た作品だと思うのですが、アメリカは派手にたくさんのものを使ってパフォーマンスをして、日本人はわびさびで勝負をするという対比構造がよかったです。
 野菜で勃起をする主人公と、おちんぽ華道の勝敗と話がごちゃついてしまった印象があるのですが、おちんぽ華道はルールが複雑だからというのもありそう。
 KUSO小説なのですが、ルール理解に知性が必要そうなのがKUSOと相性がよくなかったように思います。勝利条件、多分芸術点的なものなんだろけど、そこがちょっと文章だと現わしにくいのかもしれない。
 野菜に対する性的な目線や、女装男子達など濃いメンツが大暴れなところはとてもよかったです。
 女装男子がディルドで達する競技がある世界、野菜でシコっていてもあまり迫害の対象にはならなそうですが、そこは思春期だからおかずは隠したいよね! 的なノリかもしれない。
 かわいい女装男子が大暴れする良い小説でした。荒田くんを奪い合うティバルさんと田縣くんのラブコメが続編にあることでしょう!
 僕は田縣くん派です!

謎の概念:
 雑に道とつけとけばなんでも部活になるガルパンが切り開いたホニャホニャ道のメソッドですが、なんぼなんでも絵面が絶望的に汚い。
 野菜に性的に興奮する主人公がいて、イケる花がない状況で、主人公が選んだ今日一番の野菜をイケる! という主な筋書きは、伏線もあり、試合を観戦するだけになってしまいそうな主人公にも役割を与えるもので、わりと考えられていると思うのですが、なにしろ絵面が絶望的に汚いし、色んな要素が雑然と盛られていてノイズが多いので、なんか勢いで乗り切った感じになってしまっています。あれもこれもで円が広がりすぎて、描くべき中心がブレちゃったっぽい。
 ポジションてきには主人公は荒田くんと田縣くんのコンビのはずで、荒田くんは野菜に性的に興奮する旨をねっちょりと語ってくれているのでキャラ立っているのですが、田縣くんは可憐な女装男子であると描写されている程度であんまり出番ないんですよね。ティバルさんのほうが掘り下げられているまである。荒田くんと田縣くんはお互いにもっと喋ったほうがいいでしょう。
 荒田くんが田縣くんに野菜のえっちさを早口で力説して、田縣くんも「たしかに野菜はえっちだ」となるシーンなどがあると、花のかわりに野菜をイケる! というオチの説得力が増すかもしれません。
 田縣くんのキャラがはっきりしないので、彼の張型道への想いやモチベーションなどもちゃんと描き、荒田くんとの関係性に焦点を合わせていったほうがまとまり感が出たんじゃないでしょうか。

謎の巡礼者:
 ちんちん! 絵面がずっとすごいことになっているのですが、これまでうんこもおしっこもあったのにちんちんだけ差別するわけにはいかないので(?)その辺はスルーすることとします。
 男性器の型を“イケ”る日本張型道なる競技が開催されているトンチキな世界観で、その世界観ですらなお変態らしい、野菜に興奮する主人公を軸に物語を展開していくの、いくらKUSOは勢いが大事で突き抜ければ突き抜けるだけダメージが入って良いんだといっても、アホもここまで突っ切るとどう批評して良いか判断に困るんだな、と唖然としました。めちゃくちゃな世界観を端正に描いて面白くしてやる、という気概自体は本当に大したものなので、次はちょっと出力を緩めてくれるとうれしいかな?
 上述の通り、突き抜けるだけ突き抜けつつも「狂気こそ正気」とでも言いたげな、割としっかりしたドラマが繰り広げられているすごい作品でした。
 ──大賞には推せないです!

144:空中浮遊都市埼玉~逆境編~/海月 信天翁

謎の有袋類:
 逆境探偵 逆瀬川京介~最後の逆境~を書いてくれた作者さんの二作目です。
 飛んで埼玉でした。翔んで埼玉の方ではなく。
 自分の意思で飛んだ埼玉の行動が下がって逆さまになり、再び元に戻るまでのどたばたを描いた作品です。
 コミカルで楽しくサクッと笑えるとても良いお話でした。埼玉が落ちるかも! で慌てるのが埼玉に住んでいる人なのか下の人なのかわかるまで結構時間が掛かるので最初の方にそれを書いてあげるとお話が今よりもすんなり楽しめると思います。
 自由に泳ぐ四国、過去に雨の重さで沈みそうになったりした埼玉と自由な世界で、土地に振り回される人間達が愛おしいですね。
 謎の万能制御装置も好きです。おもしろかったです。

謎の概念:
 翔んで埼玉からの連想でしょうか? 空中浮遊都市になった埼玉の元県庁の建物に、職員でもないんだけど勝手に住んでいる住民がいて、なんか問題があったら解決を担当する、という風に最初に説明があるんですけれど、彼ら別になにも解決してないですね。ただ実況してるだけです。
 元県庁の住民3人が埼玉のトラブルを解決する、という風に物語の舞台をセットアップしたわけですから、もっと解決に向けて積極的に動いてもらったほうが主人公らしいでしょう。ゆるーいノリでいくにしても、スケットダンスくらいには動いたほうがいいんじゃないでしょうか。彼らも基本は部室でダベってるだけなんですけど、それも、たまにボッスンの見せ場があるから成立しているものではあるので。
 なにかトラブルがあって、それを解決するというふれこみですから、完全なナンセンス世界は相性が悪いでしょう。埼玉が空を飛び四国が海を泳ぐナンセンス世界であっても、どこかでリアリティラインというのを引かないと、なにが問題でなにをすべきで、どんな困難があるのか、どういう方法で解決するのか、といった部分にドラマを生み出すことができません。
 なんか実況してたら埼玉が勝手にやってくれました、ではなく、なにかしらの主人公の機転でどうにかなった! のほうが、物語としてまとまりがあるでしょう。

謎の巡礼者:
 何故だか空中に浮かんだ埼玉に振り回される住民たちがわちゃわちゃとその様子を実況する話。
 トンチキ小説ですね。飛んで埼玉だ。
 巨大な超常的存在に人間たちが振り回されるお話が大好物なのですが、本作もその類型ですね。元県庁の奴ら、何かしてる風に見せてるけどよく見なくてもなんもしてないじゃん、おもしろ。埼玉以外にも四国が泳いでいたりするのがさらっと挟み込まれるの良いですね。自由で愉快な世界観だ。
 せっかくだから辺りを凍結させる北海道とか埼玉と大激突しようとする千葉とかも見たかった気がしますね。埼玉が浮遊して右往左往する元県庁の人々の様子で本作は展開していくわけですが、埼玉だけが自由意志を持っているわけじゃないのなら他の元県や地方との絡みでもっとぐちゃぐちゃにしてしまっても良かったと思います。ただ、今のままのライトにゆるーく笑えるバランスも得難い読み味なのでこの辺りは好き好きですかね。楽しいお話でした。

145:「言葉足らず」のヒエラルキー/一田和樹

謎の有袋類:
 一田和樹先生です!こむら川でははじめまして!参加ありがとうございます。
 人それぞれに与えられた言葉の差がある世界です。
 最大20種類の言葉を与えられ、言葉が0になると認識されなくなってしまう世界で5つの言葉しか持たない主人公と8つの言葉があったけれど1の言葉まで減らされた「あ」を中心としたお話。
 言葉というものがなんなのか具体的にはわからないのですが、本来の意味する言葉よりも概念的なものなのだろうなと思いました。
 根幹の設定はふわっとしてるので、もう少し言葉についての何かがあるとうれしいのですが、それでも語り部の言おうとしてることや鬱屈的なものはビシビシ伝わってくるのがすごい。
 減らされることはあっても、増えることの無い世界で言葉が15種類以下の人たちは年齢に関係なく学校に通うシステムが残酷でよかったです。社会に出なくても繁殖はして、言葉の数が少ない子達が増えていきそう……。
 ついに言葉を全て失った「あ」と自分の生まれ、社会のシステムに怒った主人公が少ない言葉を使って反逆の狼煙をあげるというラストでした。
 逆転不能な格差はよくないですね!!!更地にしましょう!!!
 多分、一人の犯行では社会は変わらなそうなことも含めてどうしようもなくやるせないお話でした。

謎の概念:
 キャプションを信じるなら、さっき思いついて今書いたということなので、作者てきには思いついた設定のおかしみにまかせて勢いで書いたのかもしれないんですけど、批評性がありますね。
 言葉が言葉であり、移譲や没収もできる資産であり、世界を構成する元素でもある、みたいな感じの妙な設定なのですが、語り部の主観で進むので読者にはきっちりした説明はされず余白があって、それが多様な読みを許容する大きめの器として機能しています。
 貧富の差と、それに伴う文化的資本の差の固定化、みたいな現実の地獄を極端にカリカチャライズしたみたいな感じに、わたしは読みました。
 言葉が全部でも20種類というのがいいですね。20種類をラインスタンプみたいに駆使してやりとりするんでしょうか。あるいは、語り部が5種類の言葉しか持たないから20種類までしか認識できていない、とかもあるんでしょうか。
 こういうのを無手の状態からよいしょっ! と出してこれるのは、普段から社会問題であるとか、世界のままならなさについて、他の人よりも一段深いところまで考える習慣があってこそだと思います。
 フラッとやってきてホイッと掌編を出していく、みたいなところまで含めて、このスタイルを真似したいアマチュアは多いでしょう。
 明確なエンタメではない含みや余白を持たせたリリカルな文芸をやるなら、これくらいはやれないといけないんだよと、バキバキに仕上がった上腕二頭筋をボディービルダーのごとく見せつける、一種のマイルストーンです。

謎の巡礼者:
 世界を構成する20種類の言葉のうち、5種類しか持たない形でうまれた主人公の話。
 持っている言葉が1種類もなくなれば消滅するし、どうにも言葉が減ることはあっても増えることはない、というのがめちゃくちゃに不条理な世界だな、と思いました。
 言葉というのがこの世界において何を指しているのかの具体的なところがわからないままだったのですが、それは5種類の言葉だけ持つ主人公だからこそ、見えている世界が狭くうまくは説明できないということなのかもしれません。
 私たちもこの世界では持てる視点の違いで世界の解像度が変わってくるし、持てる視点が少ないものを底辺と呼んでいる節があるので、自分たちの持てる視点=言葉がいくつなのか具体的にわかっている本作の世界の方がいくらかマシなところだってありそうな話です。
 これは贅沢を言っているのですが、作品がきれいに完結しているので、少し小綺麗に終わった印象があり、何かしらのインパクトを残すエピソードがあっても良かったかな、などと思いました。
 1種類しか言葉をもたなかった友人の「あ」が遂に消え、それをきっかけとして革命の火を灯す、というエンディングも好きでした。言葉足らずであっても、行動したそのことが咎められて消えてしまうのであっても、奮い立つことそのものが無意味ではない筈だということを祈ります。

146:泥中の蓮/深山瀬怜

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 男性アイドルがモデルに選ばれて無理難題を乗り越えるというお話でした。
 難しい注文をするというデザイナーの要求に応えるためにアイドルの主人公がメイクの方と一緒に協力して成功を収める王道のストーリー!
 絵があったら多分更に映える物語のように思います。
 小説だと、語り部の外見もわからなく、そしてどんな服なのか、他のモデルの人たちはどんな服を着ているのかなども伝わってこないので、字数に余裕もあることですし、そういった周囲のことや、主人公の背丈や普段の活動などを陰口に混ぜるとイメージが更に浮かびやすいなと思いました。
 お話の構成はわかりやすく、骨子はしっかりとしていて読みやすいので、深山さんのイメージをさらに伝えてくれるとうれしいです。
 オッドアイを持ちなんとなくつかみ所のないエムや、優しそうだけど仕事意識は高いメイクのMinatoさんも魅力があって気になる人物達でした。
 たくさんかけばどんどん書きたいことや、伝えたいことが増えると思います。これからも創作を続けて行ってくれるとうれしいです。

謎の概念:
 エムはあんまり嫌なやつじゃないので敵キャラって雰囲気でもないし、イクトの「やってやるぞ!」っていう感情の矛先というか、憎しみをぶつける具体的な相手がいないので、他のモデルの中にひとりくらいモブじゃなくて、今回の敵役を担当する名前つきの嫌なやつがいてもよかったかもしれません。
「泥中の蓮」とは。とキャプションで期待を煽っているのに、そのタネが「きれいな泥じゃなくてそのへんの本物の泥を持ってきました」と、言ってみれば本番前のちょっとした小細工じみていて、肝心の出番が「いつもどおりの完璧なダンス!」みたいな感じで書き飛ばされちゃってるのはちょっと拍子抜けポイントです。
 文章で音楽やダンスを表現するのはなかなか難しいんですけど、先例はいっぱいあるので、そこのところもがんばってほしかった感じはあります。
 動きそのものの表現力では文章は実写やアニメーションには絶対に勝てないので、演者の内面、エモのほうにフォーカスを合わせるのはメソッドとして合ってるんですけれど、エモオンリーじゃなくて、演者の動きや意識するポイント、流れている音楽や、演者から見えている景色なども解像度あげて書き込んで、二分間のショーを華々しく描いてほしいですね。

謎の巡礼者:
 今をときめくアイドルがモデルに選ばれるという逆境の中、無理難題を吹っ掛けるデザイナーやライバルたちともぶつかりながら舞台を成功に導く王道のストーリーでした。物語としての構成がわかりやすく、スタートとゴールもしっかりしているので読み終わった後に確かな満足感があります。書くべきことをしっかり書き切った感じ。
 アイドルとモデルを題材にした作品ですが、文章が淡々としており地味な印象があったので、主人公以外なモデルの華やかさや泥中の蓮の表す美しさを、もっと仔細に想像しやすいように描くことはできたように思います。ビジュアルが映える物語を文章で表現する際のアドバンテージとは、実際には見る人によって評価が変わる美しさの表現を、作者が思うことをそのまま伝えることができる部分にあると思います。深山さんがこの作品を書くにあたって刺激を受けたモデルやアイドルを見た時に感じる美を、ありとあらゆる修辞表現を駆使して表現したものを読んでみたかったです。
 自分の思うことを十全に文字にするのは大変なことですが、たくさん書いて書いて力をつけていきましょう!

147:ほのかにうち光て行くもをかし/太田谷ナツオ

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 枕草子のうつくしきものを暗唱しないと部活にいけなくなるという逆境を描いたお話でした。
 ほのぼのとした学校のワンシーンで微笑ましく読むことが出来ました。
 二人がなんの部活をしているのかや、練習試合にいけなくなるのはなんでかなどを説明してくれるとさらにわかりやすくなって、二人の合否の行く末を見守れるのかなと思いました。
 書きたいことや書けることをとにかく書いたあとは、なにを一番見せたいのかを意識すると作品の雰囲気がグッとまとまってくると思います。
 これからもどんどん作品を書いていってみましょう!

謎の概念:
 たぶんふたりは弓道部で放課後に練習試合に行くんだけど、6限の古典の小テストで不合格になると補講を受けないといけないから練習試合に行けなくなる、みたいなシチェーションなんだと思うんですけど、そこのところのちゃんとした説明ってたぶんなかったですよね? 意図的なものなのか分からないんですけど、いろいろと物語の舞台のセットアップに必要なけっこう大きめの情報が抜け落ちていて、一本の短編小説というよりは、なんらかの長編小説の一部を抜粋したものみたいな印象でした。
 雁伝説のくだりとか、なんでもない日常のワンシーンを解像度高く描くのは上手なんですけど、短編小説としてのメリハリの利いた起承転結には乏しいですね。ふたりが弓道部なのも、今回のお話においては別に必要な要素ではないし、どこに着目して読めばいいのか分かりませんでした。
「明らかに春の配分短すぎる」は、なにかの伏線かと思ったんですけど、別にそういうわけでもなくて、普通に菊池が頑張ったから小テストに合格したっていうことなんでしょうか。

謎の巡礼者:
 男子学生のとある日の日常を描いた作品でした。本当にどこにでもありそうな二人の男子の関係性のエモさを存分に表現したいんだという書き手の意思が伝わってきて良かったです。
 日常的なことを物語のフックなしに一定以上の長さ読ませるというのは一つの強さなので、その強さを今後も大事にしてほしいですね。
 物語としては特に大きな動きはなく、本当に男子中学生の日常を切り取っただけのお話だったのですが、主人公の男の子がもう一人のお調子ものの男の子に、友人関係と言い切れるわけでもないような情を抱いているような様子はかろうじて読み取れたので、その部分を膨らませてキャラクターの心情を掻き乱して読者の興味をひく物語を展開してみるといいでしょう。主人公の情もそうなのですが、二人のパーソナリティを読み取れる部分が少ないです。作者のもつ情報と読者の読み取れる情報には差があるので、一度通しで読んだ時に書き漏らしている設定がないかどうか推敲してみると、二人により共感できる、面白い作品になっていくと思います。
 日常を切り取ったお話をリアルに描いているところは本当に良かったです。古文の暗誦やったなあ。自分の強みを誇りつつ、今後更に面白い作品をうみだしてくれるようになると嬉しいです!

148:Not a HELL/蒼天 隼輝

謎の有袋類:
 弩・フュメを書いてくれた蒼天さんの二作目です。
 なんらかのウイルスで変形してしまったケリーとそれを助けたカサハラのお話。
 ポストアポカリプスっぽい世界で襲撃に遭い、助けて貰うことからはじまる二人の出会いがよかったです。
 全体的にふわっとしていたり、情報が曖昧な部分が多いように思うので「これは語りすぎかな?」くらいに書いてしまった方がわかりやすいかもしれません。
 作者が隠していることは思っているよりも読んでいる側に伝わりにくいので……。
 昆虫的なものにケリーが変化していく様子や、異形同士の戦いはめちゃくちゃにかっこよかったです。
 変形や無機質なものがとても魅力的に描かれているので、長所を伸ばしつつ、登場人物の考えていることや、見ている景色をたくさん伝えてくれるとうれしいです。
 片目を撃ち抜かれた異形をカウンターだけで追い払い、カサハラのそばにいるケリーが人の心を失わずにいるのがとてもよかったです。 

謎の概念:
 バトルシーンの描写に緊迫感と迫力があっていいです。
 バイオハザードテンプレなのでだいたい想定はできるのですが、危険緊急閉鎖区域が設定された経緯ですとか、外部での扱い、対策班の位置付けなど、基本設定に関する情報がちょいちょい欠落している感じです。
 イメージが像を結ばないまま物語を読み進めるのは読者にとってはけっこうストレスなので、ベースとなる舞台のセットアップは序盤のうちに、お話を展開させながら自然に済ませられるとアドです。
 いきなり逆境から始まったほうがインパクトはあるのでスタート位置はいいんですけど、そこから回想で突入前のブリーフィングのシーンなどを挟むと、無理なく情報を出しやすいかもしれません。
 ウイルスそのものでは狂うことはなく、見た目は化け物に変容しても意識はそのままというのはかなり重要な設定だと思うのですが、片目野郎は完全にクリーチャーのポジションで意志疎通はなかったですね。今回の大ボス枠なので、なんらかの会話の応酬があったほうがアツくなったかもしれません。
 物語てきには主要キャラの出会いのエピソードが終わったところで序盤ですし、まだ回収してない伏線っぽいのもありますから、このまま長編に再編してしまってもいいでしょう。

謎の巡礼者:
 感染すると異形になるウイルスに感染したケリーと、それを助けた元研究者であるカサハラのお話。二人の視点で物語が語られていく構成なので物語の始まりはケリーの視点だけれど、完全に異形の怪物の姿になってしまったケリーがカサハラを助けにくるシーンはカサハラ視点と、魅せたい構図をうまくコントロールしていていました。好きですね。
 異形になってしまっても自我がなくなるわけではないというのは面白かったので、ケリーの視点で人間らしい行動をする怪物たちをもっと描くなどして、その辺をもう少し突き詰めて描写しても面白かったのではないかと。後半になるとケリーと片目野郎とのバトルなど、緊張感のある戦闘シーンが巧みに描かれている反面、序盤の情景描写には少し足りない部分があるように思いました。カサハラが作中で起こっているのは複数生物のゲノムを含んだレトロウィルスによるバイオハザードであることを明かすところくらいでようやく異形のビジュアルなどが想像しやすくなってくるのですが、実際にはケリーの部隊も怪物に襲われているし、カサハラの義手も怪物のものを利用しているといった描写が出てくるので、もっとじっくりと怪物の外見や隔離地がどういう状態になっているかなどの視覚情報を書き込んでおくと今よりなお読みやすくなるように思います。
 ケリーとカサハラの似たもの同士が邂逅し、お互いを助ける物語構成はすごく好きで、細かいところを抜きにしたら、個人的にはバトルシーンやラストなど、かなりグッと来る場面が多く、今回の参加作品の中でも指折りの、とても好きな作品でした。

149:武者喰らいの孤十郎/不死身バンシィ

謎の有袋類:
 前回は巨獣体内探検家リグ・マイヨールで参加してくれたバンシィさんです。
 落武者狩りの美少年が、武者狩りの大将になり帰ってくるお話。
 力のない美少年が生き汚く逃げるのですが、大も小もさらりと漏らしていました。
 やはり、逆境と言えば大便も小便も漏れるもの。
 掘られ慣れている美少年、めちゃくちゃによかったです。すごく硬派でかっこいいはずなのにどことなく下ネタが挟まる独特な味付けの作品でした。
 高重はめちゃくちゃなやつなのですが、せっかくの悪役ですしもっとヤバいやつでもよかったかもしれません。個人的には狐十郎のケツを掘っていたやつのほうが印象的なので、一番目立つくらいがちょうど良いのかもしれないなと思います。
 最後に戻ってきた黒髪長髪妖艶美青年、色々な部下を引き連れていてめちゃくちゃにかっこよくてよかったです!
 長編の前日譚のような雰囲気がある終わりなのですが、このままの勢いで武者喰らいの孤十郎のお話も書いてみていいんじゃないでしょうか!!!!!

謎の概念:
 強くはないが見切りは早く、生き汚くて絶対に諦めないので、逆境に陥ってもどうにか生き残る。そういう描きたい主人公像というか、自分の性癖は固まっているようなので、そこに全力でピントを合わせたほうがいいでしょう。
 髑髏もまた替えねばならない、は傍点まで振ってあるのでなにかの伏線かと思ったのですが、どうやらたんに狐十郎の意外とドライな性格を描写しているだけのようです。両親に執着してはいるが、祀る髑髏は本物でなくてもよい、みたいな狐十郎のアンビバレントな性質を表現したいのかと思うのですが、もうすこし親切に補助線を引いてほしい。
 1万字未満の短編小説ですので、基本的にはカメラはひとりの人物に固定したほうが楽なのですが、ところどころで狐十郎から高重にカメラが移っています。狐十郎の父が高重の父の敵、というのが今回のお話の主な筋で高重が大ボスではあるのですが、最終的には「ダブル主人公を張れる対等なアツいライバル関係」という感じではなく、怒りで目が真っ赤になってて自滅したザコみたいな扱いなので、紙幅を割いてまで高重の内面を描く必要はなかったと思います。
 書きたいのは狐十郎だと思うので、あちこちにカメラがぶれると余分な雑音になってしまいかねません。思いついたことをあれもこれもと盛り込むばかりでなく、一番見せたい部分をよく見せるために削ぎ落とすのも大事です。カメラは狐十郎に固定でよかったかも。
 印象として、自分で作り上げた箱庭を上から俯瞰で見下ろしちゃっている雰囲気です。箱庭を作り上げるまではその視点でいいのですが、実際に本文を書いていくときにはカメラをグッと寄せて、箱庭の中に入れて動かさないといけません。
 イメージとしては、プロットを組むときはゲームデザイナーなんだけど、本文を書くときは自分がプレイヤーになって探索する、みたいな感じです。まずは自分が、自分の作った世界に没入しましょう。

謎の巡礼者:
 落武者狩りの美少年の主人公が生き延びるお話。すっごい好き。読んでいてめちゃくちゃに楽しかったです。
 山田風太郎めいた耽美な時代小説として、こういうシーンを書きたいんだ、という書き手の意思がバンバン伝わってくる作品で、それが物語にバッチバチにキマッていましたね。素晴らしい。そもそもまず美少年の落武者狩りというシンプルかつ色々な方面に物語を牽引することができる孤十郎という魅力溢れる登場人物を主役に据えた時点で勝ちですね。こいつ主役にしたらもうホント、何でもできる。
 ところどころ孤十郎に狩られる落武者とか、孤十郎の父に復讐を誓う高重の視点に場面転換していたのですが、孤十郎がせっかく魅力的な主役なので、場面描写は孤十郎の視点で固定した方が読みやすく、テンポを削ぐこともなかったように思います。確かにこれが長編時代小説であれば、色々な身分/立場の視点から物語を多重的に描くことで深みが出ます。しかし、今回は後に武者喰らいと呼ばれることになる孤十郎のオリジンストーリーのような短編小説なので、同じく魅力的な高重も同じくらい格好良く描きたいという意図もわかるのですが、ここはフォーカスをギュッと絞った方がいいかもしれません。有能な統治をするのも全ては復讐の為という高重も本当に魅力的な人物なので、こちらはこちらでスピンオフなどを読みたいなと思いました。

150:太陽と血の朝/立談百景

謎の有袋類:
 こむら川でははじめましての立談さんです!参加ありがとうございます。
 吸血鬼もの! 吸血鬼ものはとてもいいですね!
 めちゃくちゃに良いのですが、語り手がすごい速度で淡々と勢い良く話していて結構な残虐なシーンも勢い良く流れていったような気がします。
 過去を思い返しているのか、今のことを語っているのかがわかりにくいのが勢いの元だと思うので、今語り部はお話のどの時点にいて、どう話しているのかを意識すると緩急がつきやすいのかもしれません。
 このお話を骨子にして、中長編にしてみるのもいいと思います。
 吸血鬼を殺せるのは吸血鬼の血を継ぐ者だけという点や、ノスフェラトゥというルビの当て方や、主人公が本格的に吸血鬼のような能力を身に付けるまでの描写がめちゃくちゃに好きでした。
 不死の再生能力持ちはとてもいいですね!良い人外ものでした!

謎の概念:
 ヴァムビーラの誕生シーンはめちゃくちゃ筆が滾っていていいです。迸ってますね。ここは描きたいイメージがしっかりと固まっていたんだと思います。吸血鬼ものと言えば吸血鬼ものなんですが完全なテンプレ設定ではなく、不完全な吸血鬼のアイデアに独自性があるのも良いです。
 一方で、描きたいシーンに至るまでのところは明らかに駆け足になってしまっていて、もうはやく描きたいシーンに辿り着きたくてしかたないみたいになっちゃっています。
 まあでも、だいたいそういうものなので、一周目はそれで大丈夫です。いったん書いてしまえば感情は落ち着いたでしょうから、細部は二周目で書き込んでいけばいいと思います。二周目に行きましょう。このスタイルで書いていくなら、小説を公開するまでに二周するのは、もう前提です。 
 ここからはじまる大長編の序章って感じの締めですが、長編に組み直す場合はシラギが大ボスを張るには序盤の振る舞いがちょっと小悪党じみていますので、もうひとりザコを用意しておいて、その後ろにさらに大ボスがいる感じにしてもいいかもしれません。

謎の巡礼者:
 母をゴミのように捨てた不法就労ブローカーの男を殺す為に全てを賭ける健気な少女のお話。景気の良い暴力に次ぐ暴力で脳をガツンと殴ってくるタイプの作品です。主人公とシラギという吸血鬼との長きにわたるであろう因縁がうまれるまでのお話を丹念に描いていて、ここから始まる吸血鬼物語のエピソード0といった趣きの小説でした。好き。
 シラギが吸血鬼であり、主人公がその血を継いでいることがわかるのは物語終盤ですが冒頭から主人公は生まれてからの記憶を持っていたり、死んで我が子に魂を移したりと超常的なことが起こるので唐突には感じない、良い塩梅だったと思います。
 景気の良いバイオレンス小説ではありましたが、主人公の語り口が淡々としているせいでところどころ、描写したいシーンに比べて全体的にカラッとしている印象があったので、ここ一番に見せる主人公の増し増しの殺意を、もっと効果的に演出するような性格にチューニングしてみると読む側も彼女の思考にシンクロして整った読み味になりそうです。作者は物語の全体像をよくわかっているので、主人公の描写は意識しても淡々としたものになりがちです。故に、やり過ぎかもしれないと思うくらいにはテンションをブチ上げにしまくって丁度いいのだと思います。
 総合的にはバチバチにキマッた殺意と暴力を描きたい意思がハッキリしていて豪勢な作品でした。

151:海のない生活/クニシマ

謎の有袋類:
 待つ痛みを書いてくれたクニシマさんの二作目です。
 いざというときについつい黙ってしまいがちな主人公が、職場の常連さんと少しだけ仲良くなり離れる話でした。
 逆境要素はかなり薄目で、昔のちょっと変わった知り合いのことを思い出す的なお話的な側面が強かったです。
 僕は純文学的な素養がないので、この作品で何を伝えたいのかは受け取れなかったのですが、作品の間口を広げたい場合はこういうことですよ! とはっきりすぎるくらい書いてしまってもいいかもしれません。
 海、実は結構不便なこと多いですよね。自転車とかもすぐ錆びるし。
 語り部も、小長井さんも実際に身近にいるかもなという感じで親しみやすく、誰かの思い出をのぞき見ているような感じのする温かな作品でした。

謎の概念:
 ほのかに生活臭のあるぼんわりとした叙述で、筆致に質感があっていいです。
 これといって特別ではない生活臭のする他人の人生を覗き見たいという欲求はけっこう普遍的に誰でも持っているものなので、この筆致は確実に武器のひとつにはなるんですけれど、これ一本で勝負できるものではないですね。
 明確な筋のないぼんわりとしたお話で、いくつかのテーマが混在しています。それぞれはフォーカスすれば短編の屋台骨を支えられる強度まで持っていけそうなんですが、いずれも提示されて通り過ぎていくだけという感じで、キャプションにあるとおり、散漫な印象です。
 作品がまとっている空気感みたいなのは変えたくないでしょうから、ややぼんわりしているのは別に構わないのですが、作者がぼんわりしたまま書いていると、それはよくないです。
 アウトプットはぼんわりした空気感に仕上げるにしても、自分のなかでは確固としたテーマや結論を持っていたほうが、作品に軸が通ります。

謎の巡礼者:
 町の貸しホール職員として働く語り部の、その客の中でも特に印象に残っているという小長井さんを中心に語られるお話。
 浄水器販売をしている小長井さんのことを、語り部の視点で描くのですが、これが語り部の性格が薄ぼんやりとしているので、小長井さんのことも薄ぼんやりとしか見えないように思いました。語り部の視点から一歩ひいてみれば、まあ間違いなくマルチ商法でしょう、という読めますが、作品世界を見ている間はそのことをあまり感じさせない作りであったのがとても良かったと思います。私は、特徴的というわけではないけれど独特の視点を持つ他者の目線で世界を見つめ直すことができるのも小説という作品媒体の良さだと思っていますが、本作はそれを意識的に考えて編まれた作品だと思いました。
 ただ、やはり薄ぼんやりの散漫な語り部の視点であるというのは作品のわかりやすさの面ではかなりのディスアドバンテージになっているのは確かなので、これはもう書きまくって読者に届ける際の描写チューニングのバランスを作者が掴んでいくしかない部分なのでしょう。
 語り部も小長井さんもそこにいるかのような手触りで描かれる文体は心地よく、これはこれで一つの作品のあり方だと思うので、是非この路線の作品をこれからも模索していってほしいです。

152:砂上に紅き陽は昇る/灰崎千尋

謎の有袋類:
 やどかりの夢を書いてくれた灰崎さんの二作目です。
 めちゃくちゃによかったーーーーーー!
 ヌイとメメのコンビ、ノアンとの出会い、ナルアの優しさとめちゃくちゃによかったです。
 作中に出てくる食べ物も美味しそう。砂漠を旅するのですが、途中でトラブルがあってメメが倒れるところも好きでした。
 ノアンや駆竜などなど魅力的な見た目の描写もあるのですが、メメだけ髪色の描写や肌の色の描写がないので序盤にあるとファンアートなどが描きやすいかもしれないなと思いました。
 多分砂人とメメの見た目の相違は物語の上でも対比をしたら美しいというか「醜い子」と言われる場面もあるほど違うので、メメの見た目はファンアートの件を置いておいても明確にしておいた方が色々映えるだろうなと思います。
 一万字の中に込められた異世界の文化や生き物の描写もすごくよかったです。
 おもしろかったー!ノアンを看取ったメメのこの先長いであろう人生にも良い出会いがあるといいなと思います。

謎の概念:
 ちゃんとファンタジー小説ができていますね。文章から想起されるイメージがきれいで良いです。ただ、馬鹿正直に手前から丁寧にファンタジー小説をやっていたら紙幅が足りなくなった、みたいな印象は受けました。
 第7話の部分がスリルとサスペンスと冒険の中心なので、ここが作中の5割を占めるくらいにしたほうが全体てきなバランスが良くなると思います。砂人と邂逅したノアンが勇気を出すところがジュブナイルのメインテーマである少年の成長を示すシーンですから、ここをもっと書き込んだほうがいいし、もうすこしノアンが自力で乗り越えなければならない困難を用意したほうがいいでしょう。
 メメとノアンの、助ける、助けられるの関係性を転倒させて互恵的な関係にしないといけないので、ノアンにはもっと必死になってがんばってもらいたいですね。
 ノアンの成長や活躍をちゃんと描きつつ一万字に収めるには、舞台設定をえいやっ! で終わらせられる、なんらかの工夫が必要になると思います。でも、それよりは、たぶんわりとファンタジー世界のディティールを書き込んでいくのが楽しいタイプの人だと思うので、単純に文字数上限を気にせずに書けるだけ書いちゃったほうがいいでしょう。
 ちゃんとファンタジーできてますので、大長編いってみましょう。

謎の巡礼者:
 砂漠を舞台にしたファンタジー作品。砂漠を旅する冒険物語でもあり、少年少女が出会い成長するジュブナイルでもある。それを確かな筆致で描いているので面白くないわけがありません。額に宝石の埋まる砂人の子であるメメや、砂漠を渡る為の乗り物である駆竜など、世界観を示す独特な絵が用意されているのも最高でした。
 美麗な世界観と上記のようなしっかりとしたストーリーはしかし、一万字以内の中では窮屈なようにも見え、この物語は基本的に長編向けのプロットだな、という風にも感じます。物語を進めることを優先したが為にメメや駆竜のビジュアルが書かれている文章もさらっとしているので、そこにもちょっと勿体なさを覚えました。せっかくだから旅をする砂漠やノアンの故郷など、じっくりと描写してほしったところが多い。しかしそこをじっくり描写していてはとてもじゃないが一万字じゃ収まらないので、やはり短編として描くには窮屈な世界観だったと言えるでしょう。
 こういうのは作品を整える為に要素を削るよりもいっそのこと長編用にプロットを練り直した方が有意義そう。
 ただちゃんと作品としてしっかりまとまっていて、メメのこれからにも想いを馳せることはできて、とても良いものを読ませてもらいました。素敵な砂漠のお話をありがとうございます。

153:晩夏に棄てる/十余一

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 多分、それなりに昔の汽車が現役だった時代に夫を殺して自分も死ぬお話でした。
 一話目に事件を目撃したのは実在人物ではなく、語り部の生み出した理想の自分ということなのだと思います。
 こういった鬱エンド系のお話は、Web小説やアマチュアの中ですごく数が多く、ちょっとやそっとのことでは印象に残りにくいです。
 読んだ人を嫌な気持ちにさせたいのか、切ない気持ちにさせたいのかを見定めて、加減をしないで思いっきり尖らせた作品にしても良いと思います。
 どんなに惨めで辛かったのかや、他の人へのうらやみなどなど主人公の怨念をフルスロットルで書いてもよかったかもしれません。
 少し硬いけれど豪華な文体と、どこか艶めかしさを感じる表現と、作中の死体を描写する表現などすごく好きです。
 鬱屈とした人生で、最後に自由になりに行く爽やかさも少しある自死のお話おもしろかったです。

謎の概念:
 文章はめちゃくちゃうまいです。読みづらくなり過ぎない程度に幻想てきなムードを纏えていて、肩肘張った雰囲気もなくナチュラルに繰り出せていますから、この文体でかなり書き慣れている印象です。
 一方で、物語のとりまわしかたには不親切なところもあって、時代などの物語の舞台の概観を掴むのに中盤まで待たないといけません。文章が読者の頭の中で像を結ぶには足場が必要ですから、こういう世界観で、こういう時代設定で、こういうキャラクターが今からこれをしますよという舞台のセットアップは、なるべく冒頭から序盤までで済ませてしまったほうがいいです。
 私を導く私は、実は自分自身で作り出した理想のイマジナリー私だったのだ、みたいなのがいちおうのどんでん返しになるわけですが、彼女は登場してからほとんどセリフも行動もなく存在感が薄くて、物語は最初から最後まで私ひとりの印象ですから、最後に「最初から最後まで私ひとりだった」と明かされても、だよねってなっちゃいがちです。
 彼女にもうちょっと喋らせて、私と会話をさせておいて「己が進む道を定め一人で何処へだって行ける理想の私」感を出しておいたほうがよかったかもしれません。

謎の巡礼者:
人を殺し、その捨て場所を探す話。文章がめちゃくちゃに上手いです。丁寧に、秀逸な修辞表現によって、単語の一つ一つ、言葉の一つ一つを吟味しながら編まれたのであろう本作の文章は、大仰な文体にも関わらず読みやすく、手を止めることなく読むことができます。
 ただその反面、正直なところその文章が意味するところがわかりづらい部分があるように思います。美しい文章ではあるのだけれど、一つ一つの文章を美しく飾ることに気が向き過ぎて、その文章のつながりにまではまだ手が届いていない、そういう印象を持ちました。
 この物語で伝えたいことはなんだったのか、それをはっきりさせた上で、この端正な筆力を道具に読者にぶつけた方が伝わりやすいかもしれません。文章を美しく飾ることができるのは文学の目指すところであり、小説作品の多くが目指すところだと思います。それがしっかりとできる十余一さんの、伝えたいことがはっきりと示されている物語が読んでみたい。そう思える綺麗な一編でした。

154:短編幻想SF『アボガド』/ボンゴレ☆ビガンゴ

謎の有袋類:
 ビガンゴ先生だーーー!参加ありがとうございます!
 前回は短編【マサキ先輩の話】で参加してくれましたが、今回はSF幻想小説!
 めちゃくちゃによかったーーー!
 怠惰だけど地道に暮らしている語り部が事故に巻き込まれて、イルカに触って別世界へ行くお話。
 砂漠を泳ぐ金色のイルカのシーンがめちゃくちゃに好きです。そこから現代日本っぽい世界へ来て、アボガドで終わるお話。アボカドだよなと思っていた疑問も最後ですっきりしてよかった。
 めちゃくちゃに些細なことなのですが、個人的には元いた世界ではアボガドが正しくてアボカドが言い間違いだよみたいな最後のどんでん返しの前の仕込みがあると更に「うおーーーーー」となったかもしれない。
 でも講評だからなにかいわなきゃ!と思って無理矢理捻り出したことなので、特に気にしないでも大丈夫です。
 めちゃくちゃにおもしろかった! 「私」まさか別世界の自分がうだつの上がらない配達員だったとは思ってもいないことでしょう。
 ビガンゴ先生は本当に短編で最後にぐるんをするのがめちゃくちゃに上手なのですが、今回もぐるんがすごくよかったです。
 自分らしく選んだ世界、このまま「私」には幸せになって欲しいなと思います。
 あと、マリちゃんかわいい

謎の概念:
 意外性のあるめちゃくちゃな物語を繰り出してやろう! という前のめり意気込みはすごく伝わってきて、泥くさく頑張ってる雰囲気に好感が持てます。
 情報を盛って盛って盛りまくる! っていう方針が泥くささに繋がっていて、わたしは泥くさいのはぜんぜん嫌いじゃないんですけれど、オーソドックスな短編小説てきメソッドで言えば、もうちょっと削ぎ落としたほうがスタイリッシュではあります。
 まあでも小手先のテクニックでスタイリッシュを目指すとスベりそうな気もするので、数をこなして自然にスタイリッシュさが出てくるまで熟成したほうがいいかもしれませんね。イケてるおじさんを目指してもなかなかイケてるおじさんにはなれず、とにかく前のめりにもがき続けているとなんかイケてるおじさんが完成するのに似ています。
 いくつものテーマが混在していて、超巨大な資本主義的うねりに翻弄される底辺労働者の悲哀だとか、追えば逃げ諦めれば向こうからやってくるチャンスの女神の習性とか、目を血走らせてがむしゃらにがんばったほうがいいのか全てを受け入れて手の届く幸せで満足したほうがいいのかとか、作者の葛藤や迷いそのものが結論を持たないまま混然一体のカオスとして、そのまま反映されちゃっている印象を受けます。
 人生に葛藤はつきものですから作者が迷いもがき続けるのは、もう死ぬまで迷いもがき続けるしかないんですが、短編小説としての切れ味を目指すのであれば、ひとまずはなにかひとつのテーゼを立て、それに明確な結論を持って書き始めたほうがいいです。べつに絶対的な人生の真理じゃなくていいので、仮の結論は持っておきましょう。
 最終的には「いいや、そんな血眼になって理想の人生なんか模索しなくても」って、やや投げやりな態度になったところで現代JKほんわか日常系の世界に飛んでしまっているのが、また作者の欲望丸出しみたいな感じでウケますね。
 こんだけめちゃくちゃな物語の締めが「濁らない!」なのはとても好き。

謎の巡礼者:
 文句のつけどころがありません。魅力的な世界観、アボカドを題材にしたりアマゾンをパロディするトンチキさ、作中で示される様々な理論やガジェット、短編としてのスケールのちょうど良さ。その全てがパズルのようにピタリとハマっていました。講評でここまで褒めるのどうかと思う自分もいますが、傑作だと思います。本作の物語としての結末も下手すれば安易な夢オチに見えるところを、銀河で不遇であった主人公が確かに幸せを掴めたのだな、としみじみできる終わり方で大変に好きです。
 一応気になったところを挙げてみるのであれば、この壮大なお話のオチが「濁らない!」であるのは逆に素朴で魅力的ではあるのですが、なんぼなんでも素朴すぎるな、という質感がないではないので、作中カオスに進む中でむしろ元の世界では主人公は子供の頃間違えてアボガドを濁らないで呼んでいたとか、そういうオチに繋がるエピソードとかがあっても良かったのかもしれません。でもやっぱりこれもちょっと野暮だな。
 砂の中から現れるシロイルカとか、ビジュアルのキマッているシーンがしっかり挟み込まれるのも素晴らしかったです。
 最高に面白い幻想SF短編小説をありがとうございました。

155:いつだってピンチ/ヤナセ

謎の有袋類:
 前回はぜんぶおれのせい。を書いてくれたヤナセさんです。参加ありがとうございます。
 アイスを落とすところから始まるお話なのですが、異世界的な場所で魔法使いもする人の話でした。
 二股野郎か! と思ったら、朱里あかりは娘でした! というお話なのですが、では妻はトモカなのでしょうか?
 めちゃくちゃに気になります。不倫? と物語に関係ないことを考えてしまうので、ギミックだけではなく、周りの設定もしっかりと決めておくと、すんなり入って来やすいお話になるように思います。
 作者と読者には情報量の差も大きいので、娘ってバレちゃうかなー? くらいヒントを出すのがちょうどよかったりするので、意外性のあるラスト! を書きたいときは本当に急にネタばらしをするよりは「あの描写はそうだったんだ」となる方が印象にも残りやすいと思います。
 ぼーっとしているように見えて実は、その子が知らない場所で世界を救っていたという発想はとてもおもしろいなと思いました。
 書きたいことの概要はばっちり書けているので、今できていることに更に肉付けをたくさんできるようになるとさらに表現の幅が広がるように思います。
 どんどん書いてどんどん好きなことを盛れるような体力をつけていきましょう!

謎の概念:
 お話の骨子はちゃんとしていて、読み味もよかったんですけど、短いですね。骨子に肉付けをして、物語そのもののおかしみも足せると良いと思います。
 朱里が恋人じゃなくて娘だった、というのがどんでん返しで「ロリコン! はんざいしゃ!」とか、トモカと朱里の性格がそっくりなところなんかが伏線にはなっているのですが、本文が短いので煙幕が薄く、わりと「ここ伏線ですよ~」ってモロバレになってしまっています。どんでん返しを効果的に機能させるには、情報を十分に埋め込みつつ他の情報も撒いてミスリードしていったほうがいいですね。
 現実から不意に異世界に召喚されて、また現実にポイッと戻されるという設定なのですが、その基本設定を紹介したところでお話が終わってしまってもいるのももったいないので、もっと話を広げちゃってもよかったでしょう。
 現状だと、どんでん返しを成立させるための必要最低限の情報だけを置いて最短距離で走っている感じになっちゃっているので、最後にそこに持っていくにしても、中盤でもう一回、二回くらい物語に展開があってもよかったと思います。主人公と朱里とトモカの主要キャラ三人のパーソナリティも、もうちょっと掘り下げたほうが楽しかったでしょう。
 お話を展開しながら伏線を撒いて読者に違和感を抱かせつつ、異世界での戦闘シーンなんかを煙幕にして読者の気を別のところにそらせておいて、最後にドンとどんでん返し、という風にできると、さらに効果的でしょう。

謎の巡礼者:
 ピンチの時だけ異世界に呼ばれるらしい主人公の、こっちとあっちでの色々を描いていたお話。一緒にいる朱里に、朱里と一緒にいることを主人公は朱里自身にロリコンと呼ばれているけれど、実のところ朱里は主人公の娘だったよ、というオチ。普通に初見時には気づかなかったので、なるほどねーと膝を打ちました。これは面白いオチだった。
 最初に異世界に呼ばれるシーンが唐突で困惑するのですが、主人公のユキ的にはいつものことなので困惑感は薄いはずなので、異世界に呼ばれた後に少しでも、状況説明を記す文章があった方が読みやすかったと思います。朱里が実は娘だった、を大オチにする為に異世界のことも朱里との会話も伏線的に仕込まれているのだと思うのですが、異世界に呼ばれたところだけでなく全体的に状況説明が足りずに読む側としては描かれているキャラクターのやり取りに頭がついていかない部分があったので、あまり長くならない程度に読者にユキのおかれている状況が想像しやすいようにしてみましょう。くれぐれもあまり長くなりすぎない方がいいと思います。今回のオチ的にはあまり長くなり過ぎると「なんじゃそりゃ」とだけなってしまう可能性の方が高そうだと思ったので。
 やりたいこと自体は面白かったので、思いついた面白いネタを読者にもしっかり面白いと笑って感心してもらえるように工夫を凝らしていきましょう!

156:雪山にて/ボラギノール上人

謎の有袋類:
 ボラニキが滑り込み! おめでとうございます。
 第四回振りですね。進捗はとてもいいこと。
 雪山で遭難して絶体絶命になるのですが、死んでいる仲間が荷物にローションを持っていることがわかってからの加速がすごい。
 このままコントに使えそうなお話でした。生きている方の仲間がめちゃくちゃに説明口調なことの理由付けも好きです。
 脳が疲れているのですが、めちゃくちゃに笑ってしまったのでめちゃくちゃにおもしろかったです。
 これはこれでいいのですが、お笑いだけしか書けないと決めずに色々チャレンジをしてみてくれるとうれしいです!自信を持てーーーー!
 書けば面白いものを書けると思うので、また気が向いたら書いてください! 全裸になってSFとかを書いてもいいんだよ!!

謎の概念:
 ふむふむ、エベレストという固有名詞があるからわれわれの世界の話ではあるようなんだけど、それで10000mのさらなる最高峰が未発見だったとは? どういう時代でどういう世界観の物語なんだろう? などと考えながら読んでいたら、まったく無関係の方向に話が飛んでいったので、予想外ではあったんですけど、あの設定はなんやってん? となりました。
 物語の骨子は「命懸けの世界最高峰登山に亀甲縛り貞操帯装備できてるドM」だけなので、未発見の10000mの最高峰などの妙な設定は雑音にしかなってない気もします。普通に雪山登山の話でもよかったでしょう。
 ワンシチェーションコメディに近く、シチェーションも特殊であったり複雑であったりはしはないので、たんに「雪山で遭難した」だけ伝われば大丈夫です。前置きは短めにして、さっさとギャグパートに入ってしまったほうがテンポがいいと思います。
 ギャグパートに入ってからの妙に詳しいさまはおもしろいので、もっと盛ってもいいですね。1話と3話を各数行くらいまで圧縮して、2話を目一杯太らせるとバランスが良くなる気がします。

謎の巡礼者:
 雪山で遭難し、仲間が死んでしまう中でも生き延びようと仲間の荷物を漁るけれど、その仲間がだいぶ変態だったというお話。これ自体はコントじみた最高に笑えるネタで良いです。
 ギャグは面白かったし、終わり方もしんみりするような、やっぱり笑えるようなバランスがとても良かったのですが、最初の方で出てくる「ここは標高10000m、最近になって見つかった新しい山」の意味がわけわからなくてずっとノイズでした。ギャグパートに入ってもこのノイズ部分が頭の中で邪魔をして、笑うモードに切り替わらなかったんですよね。なんなん、どういうことなん。ダンジョン的なものが見つかっている世界で、その世界に空島高度の山が新たなダンジョンとして見つかったってこと? みたいな疑問符がずーっと頭の中を占拠するんですよ。これは勿体なさ過ぎるし、結局のところギャグ部分ではあんまり意味をなさない設定だったので、最初からエベレスト登頂で良かったんじゃないかと思うんですよね。
 ギャグパートはひとつのシチュエーションコメディとして良かったので、読者に届けたいのは笑いなのか奇抜な設定なのか、その辺をもう一度チューニングして構成を考え直してほしいな、と思います。
 再三ながら、ギャグは面白かったです。本当に何しに山に来てんだよこいつ笑

157:ネクロファジーの唯一/2121

謎の有袋類:
 離れの君と青の側では朱を帯びるで参加してくれた2121さんです。参加ありがとうございます。
 今回は人殺しと死体を食べる少女のWinWinな組み合わせ。
 死体の解体をテキパキする少女良いですね。そしてどことなく似たもの同士の二人の交流がよかったです。
 みんなと一緒のハッピーエンドでめちゃくちゃによかったのですが、個人的には主人公の妹が誰の子供を孕んでいたのかが明らかにされるとさらにすっきりしたなーと思いました。
 鬱エンド作品的なものはめちゃくちゃに人気ジャンルなのですが、ここまで開き直ってみんなで一緒のハッピーエンドはすごくよかったです。
 一人じゃ寂しいもんな……。みんなと一つになったことで前向きになった主人公、もう何も怖く無さそうですね。今後の主人公が気になる作品でした。

謎の概念:
 この設定で破滅エンドにならずに、典型的な喪失からの再生の物語をやられるのは目新しいですね。読後感が謎に爽やかです。わたしは死が好き系とか呼んでるんですけど、こっち系の作品のなかで差別化が図れているでしょう。物語をたたむためのどんでん返しもちゃんと意外性があるので、基本設計は良いと思います。
 わりにポコポコ人が死ぬしインモラルな行動も目白押しなのですが、描写がサラッとしていて執拗ではないので、耐性の低い人でも読みやすくはありますが、リアリティレベルは低いので、そっちを求めている人には物足りないかもしれません。
 死が好き系は絶対数が多くて供給過多なのですが、だいたいにおいて作者は同時に物語の消費者でもありわけで、それだけ供給がある以上は需要もあるってことなんだと思います。読めば目新しく面白いので、読んでもらうための工夫が重要になってくるかと思います。
 キャプションがそっけないので、ターゲット層にアピールできるように整えたほうがいいでしょう。

謎の巡礼者:
 人を複数人殺して山に捨てに来たら、人の死体を食べる女子高生と出会う話。
 良かったです。すごい面白かったし、これだけ倫理観を遥か彼方に投げ捨てたようなお話なのに読みやすくて素晴らしい。最後、主人公的にはハッピーエンドなのも良いですね。人殺しを通じて成長するお話は色々なことを考えさせられて結構好きなんですよね。一定の需要があるタイプの物語だと思いますし、そういう系の映画とか、もう人生に残るレベルで好きになっちゃったりするのでこの作品でやりたかったこともそれなんだろうな、と思えてそこも好感を持てたところ。
 初めて女子高生と出会った時に、自分も一緒になって食べた人肉を妹のものなと思っていたら実は赤の他人の子供で、自分は妹の肉を食ってなんかいない、だから妹を食った目の前の少女を殺そうのところ、今私が要素をまとめようとしてもだいぶ複雑なのに「よし殺そう」「食おう」と勢いよく物語が展開するのはもはや職人技の粋。
 途中までは、女子高生が何者であるのかはわからないまま終わるのかな、それでもいいななどと思っていたのですが、その辺も疎かにはしてなかったのも良かったです。結局妹の子が誰なのかわからないんですけど、そう考えたらまあ瑣末な問題だし、一つくらいわからんことがあってもいいですね。
 自殺した人間の肉を食う少女の時点でフィクショナルなので難しいところではありますが、リアリティラインがどの辺りにあるのかがちょっと定まり切っていない感じはあったので、これは非現実的だから一応の説明はつけよう、みたいなラインを作者なりでいいのでどこか分かりやすく示してもらえたなら尚良かったな、と思います。

158:徴税人、ヴァレーの悲劇/綿貫むじな

謎の有袋類:
 前回は親父の背中で参加してくれたむじなさんです。参加ありがとうございます。 
 ヴァレーが出世をするも度々裏切られて非業の死を遂げるお話でした。
 重々しい雰囲気と硬い文体があっていてよかったです。ヴァレーの驕っている感じも小物という感じで好きでした。
 時系列が3話のあとに1話という形なのですが、エピローグ以外はヴァレーの一人称視点の方が動きもあり、ヴァレーの内面をねちっこく書いて最後の死ぬ場面でのスカッと感を出せそうだなと思いました。
 書きたいことを書けていると思いますし、文章を書く力も抜群だと思います。見せたい場面をより映えさせるような表現をじっくりと練ってぶちかましましょう!
 出世はしたけれど、政治には疎くうまく利用されたヴァレーと、結局滅んだ二つの国が憐れだけれどどこかざまあと思えるおもしろい作品でした。

謎の概念:
 架空の歴史的事変のアウトラインをザッと素描したという印象で、カメラが遠いですね。自分で作ったファンタジー世界の箱庭を俯瞰した視点で見てしまうと臨場感がなくなるので、自分も世界の中に飛び込んでください。タイトルに主人公の名前をつけているくらいですから、もっとヴァレーにカメラを寄せて、焦点を合わせたほうがよかったでしょう。
 とはいえ、ヴァレーは小太りで成金趣味の、成り上がりの小悪党という感じですから、そもそもあまり読者が応援したくなるタイプの主人公像ではないです。根が善人でないにしても、もうちょっと愛嬌のある性格に設定したほうがいいような気がします。
 ヴァレーはヴァレーなりに一生懸命にがんばってはいるんだけど、能力不足でいまいちうまくいかない。ヴァレーがんばれ! くらいのバランスにしておかないと、ヴァレーがどんな状況に陥っても読者はフーンってなってしまいます。
 逆に読者にストレスを溜めさせておいて、最後に悪人のヴァレーが退治されてスカッとジャパン! の筋もあり得ますが、そっちでいくならヴァレーはもっと悪いやつに設定したほうがいいし、最後にヴァレーを倒す役は黒ずくめの男ではなく、ちゃんと序盤から登場している名前つきキャラであったほうがいいでしょう。
 読者にどういう読書体験を提供するのか、軸足が定まらないまま書いてしまったような印象です。

謎の巡礼者:
 徴税人から領主となったヴァレーという男の人生を描く歴史ファンタジー。本当の歴史物を読んでいると錯覚させられるほどに丁寧に描かなれたヴァレーの統治の様子や、王国と共和国の戦争などがつらつらと語られていく様がとても面白かったです。他の分野で有能だったものを国の要職につけるが経験不足により上手くいかない、というのは良くあることなのでそうした歴史の妙をうまく描いているなあ、と思ったら王は一歩上手でした。ヴァレーが悪政を働くことになるであろうことは分かった上で彼を領主にし、共和国への戦争のきっかけを作る、というのは成る程、この王も一筋縄ではいかない傑物のよう。ヴァレーの言う通り、領主を任された時点で己の結末を予想するのは難しく、まさしく悲劇でありました。
 架空戦記物としての設定の面白さは確かだったと思うのですが、ヴァレーや上記で垣間見えた王などのキャラクター性は本作からは見えづらく、世界観もプロットも良いけれどその面白さを牽引してくれるキャラ作りにはまだ熟考の余地あるように思います。本作には歴史解説としての面白さはあれど、やはりフィクションである以上、本物の歴史を語る歴史解説とは一線を画す必要があると自分は思うので、その部分の推敲にはまだまだ改善するべき点がたくさんあるように思いました。
 世界観を作り出す能力はかなり高いレベルにあると思いますので、それを彩るキャラクターの動きや心情にもフォーカスを当てて、より魅力的な物語を構築していって欲しいです!

159:奈落を刻む/折り鶴

謎の有袋類:
 (ピンポン)ダッシュ千本ノックを書いてくれた折り鶴さんの二作目です。
 子供の頃不思議な男に会ったお話と、おそらく保護をされてからおばさんの家で温かく育てられた後半のお話。
 心に奈落を持っていることに自覚的であるけれど、それでも幸せに暮らしている浅葱と、男の子とは覚えていないけれど影響を確かに残している萌黄の二人がとてもよかったです。
 前半、幼い子供で、さらに言葉の言語化が苦手で暴れてしまうような気質の子が話すには語彙が豊かすぎて浮いている部分もあるので話を分けて文体を使い分けられるとさらに雰囲気が出るかもしれないなと思いました。
 後半の主人公と地の文はばっちり合っている素敵な文章だと思います。
 絵を描いてくれるおじさんの子供だからと露骨に憐れまないところ、対等に話そうとしてくれるところ、奈落といわれて馬鹿にしないところなどすごく好きでした。
 たった一度の出会いでも変わるものはあるというお話が好きなのでめちゃくちゃによかったです。
 これからの浅葱くんと萌黄さんが幸せでいられるといいなと思える素敵な作品でした。

謎の概念:
 絵描きの男がめちゃくちゃ不穏な雰囲気だったのですが、ひどいことにならなくてよかったです。作中ではいい人っぽい描写のまま終わっているのですが、浅葱が走り出すタイミングを間違っていたら、なにかひどいことになっていたのでは? みたいな疑念も残ります。
 奈落はたぶん、漠然とした暗い感情に名前をつけ、輪郭を与えたことで「扱えるようになった」みたいなことなんだとろうと解釈しました。なんかありますね、そういうの。もやもやしたままの状態だと自分でコントロールできないので、いっそ直視したほうが共存できるみたいなやつ。
 明確に語り過ぎずに解釈の余地を残すのは良い塩梅でできていると思います。奈落を描くっていうのも、具体的にどういうことなのかよく分かんなくて像を結ばないのがいいですね。
 ラストでいきなり恋人が出てくるのはちょっと唐突感もあるし、セリフも少なくそれほど存在感がないので、ふつうに成長した妹と一緒に歩いているのでもよかったかなって気はしました。あるいは、冒頭を恋人と一緒に祭りを歩いているシーンからはじめ、そこから回想に入るという構成でもよかったかもしれません。

謎の巡礼者:
 良かったです。読みやすい上に、情景描写も上手い。文章として完成していて、特に引っかかるところもなく読むことのできる、かなり書き慣れた手付きを感じる言葉選びをしている作品でした。一作目の『(ピンポン)ダッシュ千本ノック』もそうでしたが、書きたい題材を軸にお話を広げていき、小説の形にするのが高いレベルで上手い作者さんだと尊敬の念を抱きます。
 絵師のお兄さんに要望通り奈落を描いてもらった時、「そこに描かれたものを正しく表現する言葉を僕は持っていなかった」とありますが、その文章の意義は理解しつつも少なくともその時の浅葱から見た絵の説明、印象は書かれていても良かったかもしれません。
 お話としては、子供の頃の本当に微かな出会いが、成長して大人になるにあたっての楔となってくれたという物語で、素朴であるはずのものを大事なものとして、けれどやはり素朴なものとして描くことができていると思いました。こういうお話、本当大好きです。似たようなことを題材としていた作品も今回の参加作品の中ではいくつかありましたが、その中でも抜群に上手い作品だったと思います。
 浅葱と萌葱、二人のこれからの道程と未来に幸あらんことを祈ります。

160:ヴァツダの誇り/安藤もゆり

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 病気と差別のお話でした。
 基本的には語り部が過去のことを回想したり、自分の血筋についての話をするのが中心でした。
 偏見による誤解や迫害、それによって失われた両親の命、迫害にも負けずに治療器具を作ることをがんばった父など重いテーマと思い出来事を取り扱ったお話でした。
 せっかくの良いテーマなので、モノローグにするのではなく、主人公を動かしてダイアログ形式で作品を作ると、伝えたいテーマが伝わってくるように思います。
 知識がないので、このお話の一族や出来事が実際のものなのかはわからないのですが、設定はとても良いので字数制限を気にしないで主人公を動かしながらリライトするのも良いと思います。
 どんどん書いて書きたいものを書く体力をつけていきましょう!

謎の概念:
 物語の大半が設定の説明に終始していて、現在の時制で起こっている出来事は「鉄の肺を修理した」だけなので、ちょっと場面に動きが少ないですね。
 叙述がすべて、終わった出来事を過去形で語っているだけなので、カメラの位置が遠くどんな出来事が起こっても臨場感がありません。語り部の口調もわりにこってりとしているので目が滑りがちです。
 読者が読みたいのは物語であって設定の説明ではないので、臨場感のある物語を展開して読者の興味を牽引しながら、自然に必要な設定を呑み込ませる必要があるでしょう。
 自分の母親を殺したやつらを助けるために鉄の肺を修理する、というのが、この物語の中で主人公が主体的にとっている唯一の行動なのですが、ここの心情は「様々な感情が綯い交ぜになって」の一文で流されてしまっています。その「様々な感情が綯い交ぜ」を描くことこそ物語りの本質ですから、もっとふくらませてもいいんじゃないでしょうか。
「同じ、なんてくくったらまた同じじゃないように見えるものをいじめたりするんですよ」の部分はこの作品のメインテーマだと思いますし、なかなか切れ味があって良いので、ここを目掛けて色んなエピソードを収束させていくイメージでいくと、まとまり感が出ると思います。

謎の巡礼者:
 ヴァツダという被差別民にうまれた主人公の語りで描かれる、差別のお話。架空の被差別民の話で現実を悩ます差別問題に切り込んでいく、と試みにはやはりしっかりとした面白みがあって、本作もそういったモノを書きたいという作者の意思が見えました。「同じ、なんてくくったらまた同じじゃないように見えるものをいじめたりする」とか、割とキマッている台詞などもあるのも良かった。
 ヴァツダやその環境を取り巻く物事が、それをある種冷淡な目で見つめる主人公の目線で語られますが、それ故に世界観が掴みにくいところがありました。主人公や描きたいキャラクターの内面に目を向けて描写していくのは作品作りにおいて大切なことですが、ではそれらの心の動きや独白を受けて何を描きたいのか、という作品を覆う大まかな構成の方はあまりうまくできていなかったように思います。一度捉えるべき物語にフォーカスをしっかり合わせてみましょう。
 台詞回しや一つ一つの文章表現には光るものがあると思いますので、それを武器にどんどん作品を書いていってほしいです!

161:飯が食えない/神澤直子

謎の有袋類:
 小さな逆境のお話でした。困るよね、パスタにスプーンが二つ。
 ストローやスプーンの後ろ側で食べようとする主人公の努力も虚しく、無情にも過ぎていく休憩時間……。最後にチョコレートがもらえたという小さな救いがよかったです。
 主人公がそういうキャラではないのですが、もう少し大袈裟に突っ込んだりするとテンポがあがるのかもしれないと思いました。
 でも、実際に少し遠いコンビニでパスタを買ってスプーンが二つ入れられてたらこんなテンションなので、下手に盛らずにこのままでも、僕は結構好きです。
 リアリティとお話の加減って難しいですよね。
 ほんのりビターだけど実際にあったら地味にダメージが大きい逆境のお話でした。

謎の概念:
 めちゃくちゃ小さい逆境なんですが、わりとあるあるなシチェーションでおもしろかったです。たまにありますよね、こういうの。分類としてはコメディになるとは思うんですけど、コメディしすぎてないダウナーななんとも言えない空気感も良いです。
 小品ではあるんですけど、たぶん自分で「こういうのを書きたい」「読者にこういう風に楽しんでもらいたい」と思っていたとおりのものが書けていると思うので、とくに言うことはないです。世の中にはエンタメ超大作だけじゃなくて、こういうちょっとした笑い話も必要だし、要は自分が思ったとおりのものを、ちゃんと思ったとおりに書けるというのが小説がうまくなるということなので。
 ただまあ、せっかく想定したとおりのものを精度たかく出力するちからがあるわけですから、どうせならもうちょっと規模の大きな物語にもチャレンジしてみていいと思います。
 映画だと「亀は意外と速く泳ぐ」とか「インスタント沼」みたいなダウナー系の空気感で二時間完走しちゃうコメディもあるし、このままのノリでどんどん書いていっちゃってもいい気がします。

謎の巡礼者:
 割とあるあるな話で笑いました。日常にある困ったことを膨らませて一つの作品として昇華し、笑い話としても完成させる、その手腕がなかなかに見事です。
 でも「コンビニで買ったパスタにフォークついてなかった」は、ホントに小さいことなのであまり長く書き過ぎるとくどい面も出てきます。私なんかは「使い物にならなくても色々探すよりスプーンと手で何とかすれば良いのに」と思ってしまうし、実際に職場で同じ事態にあったらそういうことをやる人間なので、本作の主人公は絶対にちゃんと使える食器でパスタを食べたいんだ、ということがしつこいくらいに伝わるようにした方が、読んでいていらん引っかかりをうまずに済むように思いました。
 最後、チョコレートもらえてホント良かったね……。パスタはお家に帰って急がずゆっくり食べてほしいです。

162:賢者の声を聞け/292ki

謎の有袋類:
 前回はアイツは推しカプの部屋の壁になりたいで参加してくれた292kiさんです。 
 ドラゴンカーセックスの夫とネトラレ趣味の妻の繁殖をスライムが手伝うお話でした。
 レベルカンストスライムがすごく強くて、優しいけれど孤独だったという始まりから、寿命を迎えて色々な人に大切にされている最後がよかったです。
 特殊性癖ドラゴンが無事に交尾をする部分なのですが、少しどういうことなのかわかりにくかった部分があるので推敲をするといい感じになるかもしれません。
 トンチキ小説なのですが、孤独なスライムが他者のために奮闘して、それが報われる良いお話でした。

謎の概念:
 ドラゴンカーセックスNTR小説でこの読後感は予想していませんでした。寂寥感エンドですね。寂寥感エンド大好きです。
 レベルカンストスライムの連射でレベルカンストスライムがゲシュタルト崩壊を起こしたあたりでレベルカンストスライムに名前がつく親切設計たすかる。
 レベルカンストスライムが変身して竜の子供ができるよ! は、配置されたパーツがきちっとはまる感じで分かりやすかったんですけど、よりよい方法として提案されているっぽいレベルカンストスライムによる代理懐胎というのが、最初に想定していた方法とどう違っていて、どういうメリットがあるのか、という部分はあんまりよく分かりませんでした。たんにレベルカンストスライムと交配してできるのはただのクローンになっちゃうってことでしょうか?
 竜の種は絶滅の危機をまぬがれたのでよかったのですが、スライムという種はあいかわらず儚いままっぽいので、竜のはからいでスライム種の地位じたいが向上してスライムも安心して増えれるようになってたりするといいなと思いました。
 竜の子供たちものきなみ性癖が尖っているっぽいので、レベルカンストスライムが死んだあとはまた困ってしまうんじゃないかなと、ちょっと心配です。

謎の巡礼者:
 レベルカンストスライムって言葉の響き自体がなんか面白くて思わず口に出して何度か読んでいました。レベルカンストスライム。確かに目は滑るかもなんですけど……レベルカンストスライム。うん、やっぱりなんか言ってて小気味良いですね。
 ドラゴンカーセックスを題材に物語作ってこんなにしんみりして何なら感動する終わり方することあるんだ……と、びっくりです。すごいですね。
 初めに亜龍達が想定していたのと別の方法、それも想定以上に竜達のことを考えたレベルカンストスライムが用意した代理懐胎で問題を乗り切るのも、なるほどとめちゃくちゃスッキリできて良かったです。ただ、戦車やトラックが存在するファンタジー世界で、クローンなんて言葉も飛び出す世界でリアリティラインがいまいちわからないので、精子を採取しての人工授精は試したけどできなかったとか、後どうでもいいっちゃいいんですけどニイハから精子採取するにしても精子って普通空気に触れたら死んじゃうから……とか、細部で気になっちゃったところはあったのでその辺りのフォローはあっても良かったかな、と。いや、こんなトンチキ世界観でリアリティラインもクソもないって言われたらその通りなんですけども。
 面白かったです。下品で笑えて泣けるトンチキ感動作、なかなかないですよこんなん。クレヨンしんちゃんくらいか? いやはや、とても楽しませてもらいました。

163:駒と鯉/高村 芳

謎の有袋類:
 前回は御上の花嫁をかいてくれた高村 芳さんです。参加ありがとうございます。
 将棋の対局中にホテルの中庭を歩いていると、池に引き込まれて鯉の頭をした謎の存在と将棋をすることになったお話でした。
 潜る、息継ぎをする比喩で将棋がわからなくてもなんとなく何が起きているのかふわっとわかるところが親切だなと思いました。
 弱気な手を加齢のせいにしていたのを鯉頭との対戦で向き合い、克服していく様子がとてもよかったです。
 これから対局へ向かうぞ! というラストでもいいとは思うのですが、個人的な好みとしてはここから戦って勝利したよというところまで書いてもいいのかなと思いました。
 夏のデパートの屋上という不思議な空間の暑さの描写や、鯉男のひょうきんな感じが好きです。
 元の世界に戻るときのどんどん水位が上がって溺れる描写も好きでした。なんとなくジブリっぽい絵が浮かぶ素敵な描写だと思います。
 どこか前向きになれるような気持ちになる素敵な作品でした。

謎の概念:
 現実にメルヘンをひとさじくらいの塩梅がちょうど良くて、作品の空気感はとても良いですね。やさしくやわらかな雰囲気。
 ガチガチに将棋の勝負を描かれても難しいので、逃げの一手を打たずに攻め続ける、くらいまで抽象化、単純化されているのは良いと思うのですが、なにしろ物語の大半が鯉との対局ですから、対局じたいにもうちょっと一進一退の攻防てきなドラマがあってもよかったかも。
 鯉との対局を通じて、意識が防衛から攻めの一手に変わったのは良いことなんですが、それで実際に遅咲きのタイトルホルダーが新進気鋭の若手棋士とどれくらい渡り合えるのかというと、けっこう厳しいんじゃないかと思います。
 わたしの感覚てきには「これで勝つる!」じゃなくて「勝てはしないかもしれないけど、とにかく攻め続ければ勝負のあとに後悔は残るまい」くらいのアレじゃないかなぁという感触。
 ここから主人公は死地に向かう覚悟なのか、ガチで勝ちにいける感触を掴んでいるのか、それとも、純粋に対局そのものを楽しもうとしているのか。このへんの感情にももうすこし補助線があってもよかったかもしれませんね。

謎の巡礼者:
 逃げの手が癖になっていた棋士が、タイトル防衛戦の真っ只中に鯉との不思議な対局を経て、かつてがむしゃらだった頃の自分を思い出して、元の対局の続きに挑む話。
 童話のような雰囲気の作風が素敵です。
 かつての将棋に向けた気持ちを取り戻した今、勝ちに行ってその結果負けても勝っても悔いはない、と思えるところまでメンタルを持ち直したということだとは思うのですが、これはあくまで私の解釈なので、その辺り特に解釈を一つに狭めたくないなどの拘りがないのであれば、読んだ人のある程度が同じような解釈を抱けるようになるくらいには、主人公の心理描写を微細に描いていても良かったかな、と思いました。文字数にはまだまだ余裕があるので、棋士の内面にももっと深く潜ってもいいかもしれません。
 将棋を題材にしていますが、盤面の様子などはあまり書かないようにして、将棋を知らずとも誰でも共感できるような形で作品を楽しみ、前向きになれるようにバランスを保っている、とても素晴らしい作品でした。

164:地に堕ちろ/田辺すみ

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 うんこの小説ですね。やはり逆境と言えばうんこ。
 これは漏らす方のうんこではなく、ぶっかけた方のうんこ。花の都パリでうんこを使った反乱のお話でした。
 取り調べを受けている語り部が硝石取りの男について語っているお話なのですが、うんこ武勇伝を語って終わってしまったので、実際に動いたのであろうレアンに焦点を当てて物語を書くと作品に動きが生まれると思います。
 自由の国に憧れ、うんこまみれのパリに悪態を吐く反骨精神溢れる語り部なのですが、政治犯としてレアンと共に死にたかったのでしょうか。
 うんこを使えば労働者階級でも貴族に一泡吹かせられるぞ! という気概に満ちた作品でした。

謎の概念:
 なにか史実とか、モチーフになった事件や人物なんかがあるんでしょうか?
 1715年生まれの文学青年崩れが供述しているので、ルイ15世の治世でしょうね。フランス革命まではまだけっこう時間がありますが、民衆の間にその火種が徐々に拡がりはじめているくらいの時期ということかと思います。パリが非常に不衛生でうんこくさい街であったらしいのは有名な話ですね。
 伝染病の原因が不衛生に求められるようになるには、パストゥールやコッホの登場を待たねばなりませんから19世紀後半のことになります。ただこれも、確立した学説になった時期のことですから、新奇な仮説として微生物や細菌が原因だという話は出てきてもおかしくありません。この主人公やレアンはこの時代において非常に先進的な視点を持っていたことになりますね。
 尋問を受けて証言しているという設定なので、主人公はレアンについて正直に話しておらずすっとぼけている印象で、ふたりの関係性がどのていどのものだったのかが読者にあまり伝わらないかもしれません。ラストでレアンの死を嘆いているので、ただの知人ではなくもっと深い関係だったのだと思うのですが、それが分かるのが最後の最後になってしまいます。
 最後の「地に堕ちろ」に読者を感情移入させるためには、主人公とレアンの関係性に焦点を当てる必要がありますから、設定と物語がちょっと食い合わせ悪かった印象も受けます。

謎の巡礼者:
 ヴェルサイユ宮全ての噴水・水路から汚物を噴出させるという事件の供述調の短編。架空の歴史+供述系のお話は一定の需要があって、これもその類型だな、と思いました。そしてうんこですね。反乱の為にうんこを撒き散らすお話で良いですね。ただ、確かに語り部が尋問受けているこの事態は逆境なんだけれど、どこか飄々としているのであまり逆境ぽさは感じなかったかも。
 硝石取りをしていてレーウェンフックの微生物の話を聞いており、悪い微生物が見えると妄想に取り憑かれているように見えるレアンという男の話が面白かったのですが、時代設定的にはフランス革命前夜といったところですが、うんこによく触れる男が最新鋭の学説に触れてありもしないものを恐れる、というのは現代の陰謀論的仮説にもつながる感覚。ただ、微生物が病気の原因となるというのは純然たる事実であるので、彼がはたして妄想に取り憑かれた男なのか先鋭的な男だったのかは、語り部の視点だとわかりませんね。どちらにせよそういう紙一重のキャラクターは歴史モノにおいておいしい設定なので、作品の中核を担っているわけではないのは勿体なさを感じました。
 一風変わったKUSO小説を出すぞ! という気概にあふれた、中々にユニークな短編で面白かったです。

165:不自由を泳ぐ/のいん

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 一人の画家の挫折と再生のお話でした。
 油絵を描き順調だった主人公が、恐らく脳の病気で倒れ、色覚に異常を覚えて一度は筆を折り、水墨画と出会ってもう一度筆を取るまでのお話。
 絵画を描く主人公らしく、色彩や日々の情景の描写が細やかなのがよかったです。
 カメラの主観になっている人物の感情がかなり乗っている部分などを描いているので、この作品では無理に三人称視点にするよりは画家の一人称視点で書いた方がこのしっくりくるように思いました。
 序盤の夫婦のやりとりがすごく好きです。不摂生が危ういなと思っていたら、フラグを回収した部分もよかったです。
 書きたいことを書く力は十分だと思うので、これからもたくさん作品を書いてどんどん色々な作品を書いていって欲しいと思います!

謎の概念:
 飽くまで一般的にはという話なのですが、まず主人公に幸福な時期があり、それを奪われ、失意から立ち直っていくというストーリーラインの場合、一番ドラマチックなのはやはり失意から立ち直っていくところだと思うので、ここを重点的に書いたほうがいいと思います。
 現状は、倒れて色覚を失うまでの幸せで充実した時期の描写のほうが長くディティールも書き込まれていて、そこから水墨画に出会いもう一度チャレンジするところは描写がザッとしていて駆け足な印象です。バランスてきに頭がすごく重くて、おしりが軽くなっちゃってる感じ。
 同じ一万字以内で収めるのであれば、倒れるところまでをもっと圧縮して、そこから水墨画に出会い実際にやりはじめるまでのところになにか障害を設定してドラマを生み出すのがいいかも。
 色覚がなくても水墨画があるじゃない! というところは、ずっと油彩をやってきた主人公にとっては盲点だった重大な気づきのはずで、ここはヘレンケラーの「ウォーター!」くらいのインパクトがあるはずなんですけど、すごくさらっと流されちゃってますね。ここに、もっと印象的なエピソードがあってもよかったかなと思います。

謎の巡礼者:
 色覚異常で色を他の人と同じように感じ取れなくなってしまった一人の画家がその病ゆえに挫折し第二の人生を歩みながらも、最後にはもう一度画家として奮起するお話。
 上記のプロットがしっかりと作動しているのと、つらつらと読みやすい淡い文体で描かれる主人公の物語が本作の魅力です。主人公の画家が挫折するまでに物語の文字数半分を使っているので、全体的に本題に入るまでのスタートが遅くて尻窄みになっている印象が残念だったので、いっそのこと前半はバッサリカットして、色覚異常を患ったところから物語を始めても良かったように思います。
 画家をやめて子どもを育てている時に「かつてはランドセルは赤と黒で分かれていたもの」という話が出てきて、色覚異常で他の人と同じ色を表現できなくてもそれ自体が武器になりうる、みたいな伏線かとも思ったのですがそんなことはありませんでしたね。もちろん、子どもの学校の資料集で改めて雪舟と出会い、絵を描くことを諦めきれず水墨画に挑戦することになったという流れも綺麗ではあるので、それはそれで良いです。
 物語を構築し、書きたいものを描きたいように表現するパワーのある作品でしたので、そこを更に磨いていってほしいと思います!

166:悪霊令嬢暗躍す/いぬきつねこ

謎の有袋類:
 人魚は歩けないを書いてくれたいぬきつねこさんの二作目です!
 悪霊令嬢、悪霊が一時的に乗り移った令嬢でした!
 あの世にいる邪悪な男に見初められて復讐をする和風ファンタジー!
 連載の一話としてこのまま連載も出来そうな感じのお話でした。
 氷雨が無邪気に悪くてすごいよかったです。虐殺を楽しむ黒幕系ヒーローすごく良いですね。
 一万字に納めるためにめちゃくちゃに駆け足な展開な部分と、多分字数の問題で一部のセリフを削ったとかがあるのかな? と思う部分がありました。
 キャプションにある「17になる日に贄として仇の一族の屍人形になること」も本編を読むだけだとわかりにくいので、書いてあげるとわかりやすい導入になるのかなと思います。
 登場人物も魅力的ですし、ラストもふろしきを広げていることですし、講評が出たらリライトしてこのまま「嫁入りからのセカンドライフ」中編コンテストなどに応募するのも良いのではないでしょうか!
 体を乗っ取ったかつてのめちゃくちゃにヤバい悪霊と、気の強い由緒ある家系の呪術師令嬢、是非この先の物語が読みたいと思います。

謎の概念:
 ナチュラルに悪役令嬢と読んでしまっていたので最初うん? となっていたのですが、悪霊令嬢でしたね。しっかり和風ダークファンタジーでラブコメなの、女性向けで売れる要素しかないし、完成度が高いです。
 ダークな設定かつ、わりにがっちりとした文体で進行するので「月子の好みど真ん中」の唐突なざっくばらんさに笑いました。
 氷雨の登場以降はちょいちょいコメディっぽい要素も入ってくるし、ラストの「今日からオメーが当主です」もガチガチのダークファンタジーだとご都合主義すぎるけど、ギャグ風味なら許されるギャフンって感じなので、しっかりダークファンタジーな部分は重厚な文体でもいいんですが、場面によってはもうすこしライトに寄せられると良いかもしれません。
 月子が見た氷雨の過去のヴィジョンとか、先を見越した伏線っぽいものも置かれてますし、ちゃんと先を続けられる終わり方をしているので、このまま続きを書いていっちゃってもいいでしょう。

謎の巡礼者:
 好みの見た目な男の悪霊に取り憑かれた悪霊令嬢! タイトルにもある掴みと発想が完璧ですね。これからいくらでも続けていけそうなキャラ文芸の物語のうちの一部を、しっかり短編用にチューニングして持ってきていました。一つの作品としても完成しているし、このまま続きを書いて長編にすることもできるしで、ポテンシャルの高い、強い作品だと思いました。
 氷雨、良いですね。顔の良い、性格の悪い悪霊、絶対に人気が出る。キャラクターとしての強さが底知れないので、彼の色々な顔をもっと見たいです。
 一万字の短編作品として収める為に、多少語りたい設定を抑えてできるだけ綺麗に物語を締めようとした様子がうかがえて良いのですが、それが逆にお話としてこじんまりとした印象があったのは少し勿体なかったかな、と思います。
 キャラクターも魅力的であり、和風ファンタジーとしての世界観背景にもワクワクするものがあり、このまま続きを読みたいと思わせてくれる作品でした。

167:燃えなよ世界、と僕は謳う新作/くろかわ

謎の有袋類:
 ムカデワサワサ儀軌の業を書いてくれたくろかわさんの二作目です。
 巨乳の魔女はいいぞ。
 魔法使いが人間とは理が違う生物として存在している世界のお話でした。
 人間に溶け込もうとする主人公と、人間を殺そうとする魔女のボーイミーツガール!
 人を直接的には殺さないという主人公の今の決断なのですが、おじいちゃんの言いつけが何度か使われる中だと急なように思えるので、魔女さんと出会うまでにもう少し疑問を持つとか悩んでいる描写があると受け入れやすいのかなと思いました。
 おじいちゃんの言いつけがあるからこその間接的な手の下し方かもしれないのですが……!
 一万字以下の読みやすくて軽快なファンタジーでよかったです。巨乳の魔女さんのことを最終的に「デカチチ」呼ばわりする主人公がすごく好きでした。巨乳の少し粗野で脳筋だけど使う技術は繊細な魔女、属性が特盛り過ぎる。タイトルとサブタイトルの対比というか、最後に繋がってる感じで読み終わってから見てテンションがあがりました。
 めちゃくちゃによかったです。

謎の概念:
 主人公の行動原理が一貫してないような印象を受けました。なんかちょっと頭良さそうな一人称叙述のわりに、行動は結果的には行き当たりばったりでしかない、みたいな印象です。
 祖父の言いつけに従って、人間の社会にまぎれて人間として生きるのか、それとも魔法使いとして自由に生きるために人間の社会を破壊するのか、みたいな葛藤が主題なのだと思うのですが、そこがあまり描き切れてないっぽい。
 最終的に主人公の考えを変えさせたのは「首を絞める」という語から想起されたトラウマなのですが、それは原初の光景なわけで急に現れたわけではなく、それならそれで、なぜ今までは恨みをおさえて人間の社会にまぎれようとしてたのか? という部分が疑問になります。
 ぜんぶぶっこわすのに協力者を探すため一時的に人間社会に身を潜めていただけで、やれる目測が立てばいつでもやる気でいた、くらいの覚悟が決まってたほうが筋が通ったかもしれません。それならそれで「火と風が手を組めば威力は千倍だ! 人間にも勝てる!」みたいな説明があったほうがいいかも。
 レスバのシーンがけっこう長いんですけど、レスバで提示される情報が「ああでもないこうでもない」と行ったり来たりしているだけで、あまり物語を前に進めてない感じです。レスバしつつ、読者に情報を提示していって、条件が整ったから主人公は方針を変えた、となると納得感が生まれるように思います。
 あとせっかくお肉をじっくり焼いているので、食べるシーンもあったほうがよかったでしょう。

謎の巡礼者:
 巨乳の風の魔女がめちゃくちゃに良いキャラで好き。
 人間世界に潜んでいる魔法使いの主人公と人間への配慮など全くない魔女との出会いが描かれるファンタジー作品。前述の通り、魔女がすげぇ魅力的なキャラなので、そのキャラのパワーで無理矢理物語を回しているかの如きバランスが寧ろ面白さになっているように思いました。
 母の死のトラウマや、祖父からの言葉を思い出す主人公のパーソナリティがもう少し見えていると、物語に没入しやすくなるように思います。魅力的なヒロイン(?)も大事ですが、やはり主人公が一体何を考えて、どういう思想で生きているのかはハッキリさせましょう。本作のようにいささか複雑な境遇の主人公であれば尚更です。
 キャラの魅力で物語を牽引するパワーはもの凄く感じられたので、世界観とか心情描写とかのディテールを詰めて「このキャラ良いだろ!」の作者の叫びで読者をぶん殴っていきましょう!

168:9月1日、保健室の姫と/熊野トウゴ

謎の有袋類:
 はじめましての方です。参加ありがとうございます。
 保健室登校の陰口をめちゃくちゃに言う女の子との青春っぽいお話でした。
 エモくて甘酸っぱくていいですね。
 メンヘラ女へのご機嫌取りに見えなくもないのですが、語り部に下心がないという部分や、なんとか彼女を自立させたい的な思いが見えるのがよかったです。
 姫はそりゃ孤立するでしょ! みたいなパーソナリティで絶妙に嫌なやつなのがすごく良い解像度でした。
 主人公は姫を甘やかすことをやめるために一歩踏み出したと思うのですが、今後どうなるのか気になるなと思います。
 多分、あまりまだ文章を書き慣れてないのかぎこちない部分は多いのですが、キャラクターの魅力や解像度や、「遊歩道は飛び降り防止の金網に仕切られて、上をゆりかもめが通るから薄暗く、鳥かごのように四方からの圧迫感がある」という情景の描写はめちゃくちゃにいいので、今後も小説を書いていって欲しいなと思います。

謎の概念:
 なんかこう、青春の一場面てきな感じなんだと思うのですが、最後の主人公の言動や行動が普通によく分かんなくて、よく分かんないね? てなっちゃいました。まあよく分かんないですよね、十代の少年の衝動的な行動。
 たぶん姫の自立を促すために行動を背中で示すてきなことじゃないかなーとは思うんですが、普通に奇行ではあるので、どういう意図の言動で行動なのか、もうちょっと補助線があったほうがいいかなって感じです。
「鹿児島ではクレープが自販機で売ってる」というのが繰り返しモチーフで登場して、なにかのメタファーなのかな? とも思うのですが、ここの意味するところもあんまり拾えなかったです。解釈は読者に委ねます! にしても、ちょっと不親切かも。彼は本当に学校をサボってクレープを買いに鹿児島まで行くんでしょうか。
 意味も価値もないダベりの中のワンフレーズだと強調されているので、ひょっとすると「意味とか価値とかいいから行動しようぜ! 無価値最高!」みたいなことがテーマかもしれないんですけど、やっぱり唐突すぎるとびっくりするので、だんだんそこに落とし込んでいけるといいと思います。

謎の巡礼者:
 保健室登校の女子の世話係になっている男の子のお話。思春期男子らしく、はじめは下心で保健室の姫に関わり始めたけれど、その内実を知ると自分とは全く相容れないタイプで好きになれない、というお話。相手がどんなであっても、自分とは合わない人間と一定の距離を置くというのは現実においてとて重要な処世術であり、本作の主人公もそれを学びつつ、姫に少しでも前を向いてもらう物語と受け取りました。
 悪くない。発想も思想も結構好きな奴ですね。ただ、書きたいことが先行し過ぎてキャラクターが振り回されている印象もあります。姫は確かに嫌な奴ではあるのですが、主人公もそれで下心を失い、姫のインモラルでメンヘラな物言いにイラついてしまうというのは、言ってしまえば「まとも過ぎる」反応です。思春期にこういうまとも過ぎる感覚を持ってしまう環境や背景が主人公にはあるはず。当然、現実では必ずしもそうとは言い切れませんがこれは小説として描かれる物語であり、特に「こういうのがリアルなんだ」みたいなのを書きたい拘りがないのであれば、主人公の考え方の背景は用意して、読者に提示した方が深みのある読み味になっていくでしょう。物語の結末はだいぶ好きなので変える必要はないと思います。この先の二人がどうなっていくのかも純粋に気になるくらいには二人を好きになりました。
 キャラの解像度をもっともっと上げて、特大のエモを演出してしまいましょう!

169:ゴブリンズパーティ 〜俺以外全員ゴブリン〜/梅緒連寸

謎の有袋類:
 ファミレスで忍者殺すを書いてくれた梅緒さんの二作目です。
 カシゴブ、メスだったのか……。しあわせになれよふとし……。
 異世界転生してゴブリンと出会い、女神様の元へ行ってシステムのデバッグをする話でした。
 そして淫乱な女神様が本当に良い味をしていて好きでした。絶頂をするんじゃないw
 カシゴブ、マジで全然予想外で意外性のあるラストすぎたのですが、確かに良く思い返すとそういう感じの描写もあるような気がしてきました。
 ゴブリンズパーティーとあるのですが、基本的にはカシゴブとふとしの交流がメインでパーティー要素は少ないため、ゴブリンラブコメ!の方がタイトル回収的にはおいしいのかなとも思いました。
 信仰を集めると気持ちよくなる淫乱の女神、賢いゴブリンのメス、そして他の気の良いゴブリンたちのものがたりとても楽しかったです。

謎の概念:
 異世界転生というか汚いオズの魔法使いって感じでした。カシゴブちゃんツンデレですね。
 物語に額縁をつける序のところは、それを記している私が何者なのかとか最後までとくに回収されなかったので、別になくてもよかったんじゃないかって気はします。
 逆に、ミミゴブとイシゴブが登場したところから女神の住まう場所までの数週間の旅が本来はメインコンテンツになるべきなんですけど、大部分が地の文で済まされてしまっているのが残念ですね。ここはもっと書き込んだほうがいいです。
 現状だとミミゴブとイシゴブがまじで数合わせで出てきたみたいな感じでキャラも薄いし活躍もないしなので、ここでもっと喋らせたり活躍させておきましょう。
 彼らの会話でふとしはゴブリンてきな価値観だとかなりイケメンと語らせておくとか、カシゴブを冷やかすみたいなシーンがあると、ラストの伏線になってよかったかもしれません。カシゴブちゃんとのラッキースケベ展開もいいですね。
 いきなり翼を生やされたカシゴブはそれでよかったんでしょうか。ゴブリンはわりと素直に女神を崇拝してるっぽいし、彼女に与えられた「私の起こした奇跡をしかと各地に届けるように」が、いちおう今後も彼らが冒険を続けることになる動機づけだと思うのですが、どれくらいの温度感で考えているのか結構わかりづらいですね。
 せっかくの四人パーティーですから、全員をもっと喋らせて賑やかな雰囲気にできると、ふとし転生してよかったじゃんみたいな爽やかな読後感になる気がします。

謎の巡礼者:
 システム担当の契約社員がゴブリンだらけの異世界に転生した話。女神のダメさと、主人公のSEスキルの有能さが面白かったです。様々な見た目のゴブリンが出てくる作品で、ゴブリンだらけとは言っても彼らの見た目を想像するだけでも結構楽しく、魅力的な世界観を打ち出していたと思います。
 システム担当の主人公が、女神の作ったシステム不備を見つけて直す、というのは異世界転生の活躍として王道的な範囲を刺して応援できる、良いシナリオでした。
 旅の仲間のゴブリンと一緒に女神のところへ行き、転生システムを弄るというのが本作の肝だと思いますので、その展開に入るのはもう少し早くても良かったのかも。転生時にエラーを見つけているわけだから、転生して落ち着いたらすぐに女神を探し始めて良い気がします。後は序文があまり効果を発揮していないので、ここも全カットで良いかもしれません。
 ゴブリン達が愉快で楽しい物語でした。ふとしとカシゴブはお幸せに!

170:死にぞこないのスヴェン/myz

謎の有袋類:
 前回は母との(緩慢な)さよならと、殺し屋の手は冷たいで参加してくれたmyzさんです。参加ありがとうございます。
 砦を全滅させた凄腕の男を追うザインを中心としたお話でした。
 かっこいい硬めの文体とハードボイルトな感じが合っていてすごくよかったです。
 タイトルにいるスヴェンは強力な技芸アルス持ちで女神に会ったとのことなのですが、ザインたちも技芸アルスを持っているのに守護者にあったことがないような反応だけが気になりました。お話のメインになる能力なのでスヴェンが例外なのか、それともザインが知らない振りをしたのかを書くとわかりやすいように思います。
 スヴェンのめちゃくちゃに強くなるけれどHPが1%以下というのはゲームなどではよく見るのですが実際に与えられると本当にしんどいスキルなのだろうなと思いました。 ポーションがある世界でよかった……。
 一番最後に歴史には記されていないとあるということは、使い勝手が悪すぎてスヴェンは死んでしまったと言うことなのかなと思います。
 火事場的な能力は使うのが大変なのがわかる良いお話でした。

謎の概念:
 敵のほうが主人公というのは物語のスタンダードからは外れていますね。設定的には定型から外れているのに、お話のほうは定型てきにザインたちを主役っぽく据えて進むので、主役だと思ってたキャラがただのやられ役になってしまって、読後の爽快感などは薄いです。定型から外れた設定ですから、お話の持っていきかたも定型から外したやり方が必要かもしれません。
 どうやらスヴェンは自分に技芸を与えた守護者をぶん殴るために『“守護者”にもう一度逢わせてくれる“技芸”』を持った人間を探そうと、技芸持ちを片っ端から襲っている、みたいな設定っぽいのですが、ここのところはあまりちゃんと説明がされていないので分かりづらいです。
『“守護者”にもう一度逢わせてくれる“技芸”』は実在するのか、スヴェンはなんらかの手掛かりをもっていてそれを探しているのか、実在するのかも分からないものを藁にもすがる感じで探しているのか。スヴェンが敵役なうえにザインたちは基本的に最初から殺る気モードであんまり会話をしないので、どうしても情報不足になってしまいますね。
 途中からスヴェンのほうに視点を移して必要な説明をしてしまうのが一番簡単でしょう。

謎の巡礼者:
 能力を与えられても言葉の意味がわからないから能力を正しく把握できないのは神々の信託っぽさあるんですが、読んでる方は意味わかるからなお面白いの好きです。この世界に生きる者は全て守護者に見守られ、死の淵に立った時だけ技芸という異能力を与えられる設定そのものが素敵。読者は意味がわかるけど作中キャラには守護者の言っている意味がわからないこともあるの、色々と応用が効きそうですね。
 お話が結構淡々サクサクと進んでいくので読みやすいのは本作の強みですが、同時に盛り上がりに欠ける点は否めないと思いますので、意識して作品としてのクライマックスをわかり易く、盛り過ぎるくらいに盛っちゃってほしかったです。タイトルにもなっているスヴェンの話になるまでが少し長く冗長であるように感じるので、そこも構成の余地がありそう。
 面白そうで先の広がりそうな世界観を描けていて素晴らしいので、その良さと面白さをこれでもかと示せるように文章を盛っていきましょう!

171:ナメクジと結婚しろ!!/米占ゆう

謎の有袋類:
 前回は【衝撃】ヴァレッジ・ヴィンガードの闇を暴く!!!!を書いてくれた米占ゆうさんです。
 序盤の石版芸が故意なのか時間がなくてこうなったのかはわからないのですが圧倒的な圧を誇っています。
 圧倒的な圧で捲し立てられて、どうやら超知能が高い蛞蝓と人間が戦争になるらしい的な研究結果が出て会議になった結果、主人公が蛞蝓と結婚することになったけど塩をぶっかけてなんとかなりました! というお話でした。
 主人公がとにかくまくしたてるのですが、この世界の蛞蝓はどんな感じなのかとか、近い将来といいつつ割と数ヶ月以内にジェットパックをナメクジが装備してるの? ともの凄い勢いで色々展開していきます。
 KUSO小説は確かに勢いが大事なのですが、最後の方で若干失速をしたような印象でした。ここまでアクセルを踏んだのならいっそのこと走りきりましょう!
 そして、宇宙に脱出しても復讐しに戻ってきそうじゃない? という正気に戻るポイントがあるので書き終わったあとに正気に戻るポイントを潰せると更に勢いの良い作品が作れるのではないかなと思いました。
 書こうと思って書けちゃうエンジン力や文章力は優れている人だと思うので、腰を据えて相手にどう読まれるかを意識した作品を練ってみて欲しいなと思います。
 最後の四本の角を左右に振っているナメクジはかわいいなと思いました。

謎の概念:
 はい第六回こむら川小説大賞エントリー作品、大トリの作品になります。これは期待できますね! 「ちゃんと余裕をもって締め切り前に仕上げとかないからこういうことになるんですよ、先生」という山鹿賀師君の声が聴こえてきそうです。山鹿賀師君はふりがながないので珍名苗字さんなのか米津玄師てきなフルネームなのか分かりませんでした。貴重な適齢期男子で、お、これはラブコメ要員か? とちょっと期待したのですが残念、既婚者でしたね。無情! 彼がいないとマジで先生がひとりでめちゃくちゃ喋っているだけになってしまうので、もうちょっと早い段階で登場しててくれたほうが盤面に緩急をつけやすく可読性はあがったのではないかと思います。構造改革と選択と集中にさらされ雑事ばかりが増え研究どころではないアカデミアの悲哀をユーモラスに描いた社会風刺SF超スペクタクルでした。嘘です。ナメクジが主なモチーフになっているのですが天文学に関するうんちくはあるのにナメクジに関するうんちくがなかったのでナメクジについて超早口で喋るキャラなんかもいてよかったかもしれませんね。アクセル全開で喋り続ける肺活量はなかなかのものですが、しっかりと可読性が犠牲になっているので圧と可読性の両立が今後の課題でしょうか?

謎の巡礼者:
 このままでは地球は人間に代わってナメクジが支配するかもしれない計算結果を弾き出してしまった天才科学者が、それじゃあナメクジの結婚相手を見つけてもろて、とナメクジと結婚することを迫られそうになる不憫なお話。ナメクジの霊長化、火の鳥ですね。これは比較的どうでもいいツッコミですが、山鹿賀師君は「やまかがし」君の読みで良いと思うのですが、ふりがながあった方が親切だったでしょう。
 どう考えてもおかしな状況なんだけど、トホホと従う他ない主人公が面白かったし、単純に結構好きですねこの博士。
 アクセル全開でトンチキ展開を進めていくし、主人公と山鹿賀師君とのやり取りも面白いのでドンドコ読めちゃうんですが、おそらくは〆切ギリギリの投稿なのもあって、さっきのふりがなだったりだとか、進化するナメクジの証拠は一応最初の方で提示した方がよくないです? ナメクジがジェットパックで宇宙に行く前にナメクジの進化観測しとけよ人類、みたいな細部が後から気になってきちゃったので、やはりディテールを詰める為の推敲は大事ですね。
 トリに相応しいKUSOなSF小説で楽しみました。〆切ギリギリの投稿、お疲れ様でした!

◆大賞選考

謎の有袋類(以下有袋類):大賞選考は評議員三名がそれぞれ大賞に推す作品を三つ選び、意見が割れた場合は合議で各賞を決めていきたいと思います。
謎の概念(以下概念):オッケーです。
謎の巡礼者(以下巡礼者):よろしくお願いします。
巡礼者:わかりました。ドキドキ。コールお願いします。
有袋類:せーの
 短編幻想SF『アボガド』・私と友人で、なんか非日常で戦ってる少女の話をする・ネクロファジーの唯一
概念:『白夜に一番近い夜』『煙に巻かれて』『【猫耳爆乳美少女全裸待機中】』
巡礼者:58:(ピンポン)ダッシュ千本ノック/折り鶴 154:短編幻想SF『アボガド』/ボンゴレ☆ビガンゴ 107:人魚は歩けない/いぬきつねこ
概念:アボガドが二票?
有袋類:アボガドが二票で大賞です!おめでとうございます!
巡礼者:おめでとうございます!
概念:わーすごい! ビガンゴくんついにやったね! おめでとうございます!!
有袋類:他は綺麗に割れましたね……。いぬきつねこさんは第三回の覇者なので逆贔屓発動で敗退です!次回ぶっちぎりで勝利を目指してください!
巡礼者:ネクロファジーの唯一は迷ったんですよね。
概念:わたしもアボガドおもしろかったんですけど、一般受けはしないかなと思って外したので、わたし以外が全員いれてきたのは意外でした!
巡礼者:アボガド、ずっと面白かったのと、講評にも書いたんですが特に文句つけるべきところがなくて。大賞に推す作品三作の中で迷わず候補に入れました。
概念:実は『白夜に一番近い夜』はあんまり推しに入れたくなかったんですよね……なんというか、めちゃくちゃしっかりと文芸作品していて、かなり「こむら川小説大賞」という砂場とは毛色が違うので。「これがこむら川小説大賞です!」というメッセージになっちゃうと、ちょっとこの小説賞を創設した意義とか意味と乖離しちゃうかなという意識はあって。でも単純に評点シートで得点トップだったので、これは推さないわけにもいかないだろうと。
有袋類:金銀決めるにも割れてますね……。一人二作を今出てる作品たちから出して決選投票しましょうか
概念:なので、あと二枠ですか? 金賞がふたつ?
有袋類:金1に銀1の二枠です!
巡礼者:金銀一作ずつですね。因みにアボガド抜いてもう一作なんか候補に入れろって言われたら私、ネクロファジーを推します。
有袋類:僕はこの中だとネクロファジーと猫耳推していきたいです
概念:わたしはこの中だと『なんか非日常で戦ってる少女の話をする』ですかね……決まらない
有袋類:猫耳、ネクロファジー、非日常で投票して、最多を金、銀賞を二本にしちゃいましょう(主催者権限)
概念:オッケーです
巡礼者:いいですね! 異論なしです
概念:オッケーです
有袋類:じゃあせーのでどれかを言っていきましょう
有袋類:せーの
概念:【猫耳爆乳美少女全裸待機中】
巡礼者:ネクロファジーの唯一に一票!
有袋類:猫耳
巡礼者:猫耳だ!
概念:やったぜ! KUSO小説の勝利だ!
有袋類:金賞は【猫耳爆乳美少女全裸待機中】に決定です!銀賞がネクロファジーの唯一と私と友人で、なんか非日常で戦ってる少女の話をするの二本となりました!おめでとうございます
巡礼者:確かに大賞と金賞で両方なんか尖った感じなのもアレですね。
有袋類:KUSOは捻じ込みたかった……!wやったぜ!
巡礼者:おめでとうございますー! KUSOやったぜ。
有袋類:それでは五億点賞も決めていきましょう!
巡礼者:了解です。いきましょう。
有袋類:僕は『屑石は金剛石を抱く』!!!!!
概念:5億点賞は『大谷翔平にポケモンカードで負けたら自殺するしかない』です。大谷翔平が出てくるので。
巡礼者:そしたら私はおなかヒヱルさんの『非美少女戦士』です。
有袋類:大谷翔平、☆が200まで伸びていてよかったですね、もっと大きくなって欲しい
巡礼者:概念さんは大谷翔平を5億点に推すんだろうな、と思ってました笑
概念:いいですね、『屑石は金剛石を抱く』。わたしの評点シートでいくと『屑石は金剛石を抱く』は『白夜に一番近い夜』に次いで二位なんですよ。単純な総合得点だと二位なんだけど、手持ちの3枠ぜんぶを「単純に上手い」「点数が高い」で埋めちゃうと、川系大賞の雰囲気から外れちゃうので泣く泣く外しました。
有袋類:めちゃくちゃにツボだったので勝てませんでした。続編も構想中とTwitterで見たので楽しみですね
概念:すでに小説がめちゃくちゃ上手いので、川系小説賞とかやってないで、長編に再構成して名のある賞に挑んでもらうのがいいと思います。
有袋類:というわけで五億点賞はそれぞれ屑石は金剛石を抱く・大谷翔平にポケモンカードで負けたら自殺するしかない・非美少女戦士に決定です!おめでとうございます!
概念:大谷翔平は講評でも触れたんですけど、出来事としては「イオンで大谷翔平を目撃して→椅子に座る」しか起こってないんですよね。ドラマはすべて主人公の中だけで起こってる。他にもそういう作品はけっこうあって、講評で「画てきに動きが少ないですね」とか言ってるんですよ。
 わたしのなかで「画が地味」はかなりマイナスポイントなんですけど、そこを覆してきたので、ひょっとしてこれはすごいんじゃないかと思って。たんに大谷翔平のイメージの迫力だけで画てきな地味さを補えている可能性はありますが。
有袋類:ライオンマスクさん、感情の揺れとか葛藤を描くシーンの熱や圧がすごくてうまかったんですよね。飛び道具に負けない筋力がある……
概念:かといって表現が大げさかというとそうでもなくて、すごい等身大の言葉で語られてるんですよね。特別な言葉じゃないからこそ響いてくる覚悟、エモ……
巡礼者:大谷翔平、絵的なパンチ力では随一でしたよね。話題力もあったし、これからまた幾らでも読まれてほしい。
有袋類:大賞のアボガド、一般受けしないだろうなって外したって概念さんが言ってたのと逆で一般受けしなそうだけど好きだからいれよ!って入れましたw
概念:今回ひさしぶりにビガンゴくんの作品を読んだんですけど、ようやく仕上がってきた感じはありました。やりたかったことに基礎体力や体幹の筋力が追いついてきた感じ。これわたしも評価高かったんですけど、わたしから高評価を受けるってことは一般ウケしないってことだろうな~ワハハ! って思ってたんですよね。
有袋類:めちゃくちゃにうまいんですけど、ラストの「濁らない!」なのがめちゃくちゃに好きで、その力の抜き方みたいなのが好きだなって
巡礼者:大賞、講評で全部言っちゃった感があるんですが、SFガジェットの使い方もめちゃんの好きだったのに加えて、シロイルカの絵的な強さとか、アボカドは濁らない!やAmazon配達員のパロとかトンチキ要素も良かったので、候補に入れないわけにはいかなった。文章力でも高評価入れてたので。
概念:けっこう初期メンだから、苦節n年って感じかな……。ここを足掛かりにデビューまでいってもらいたいですね! 目指せメイクマネー!!
巡礼者:おー! メイクマネー!
有袋類:金銀にも触れていきましょう!猫耳、古き良きインターネットって感じで好きでした
概念:わたしはもう、イラストがついて完成するっていうメタギミックへの評価ですね。みんなわりとKUSOなアイデアひねりだすぞ~! てがんばってるので、なかなか新奇なギミックって難しいんですけど、これは成立してる。
有袋類:せめて一太刀の精神、大切
巡礼者:猫耳爆乳美少女、ビジュアルのインパクトがあるけど、ずっと「でもこれ小説だしなー」と思って読んでたらそれをオチに使われていたの、ズル。流石にめちゃくちゃ笑ってしまった。
概念:イラストついてほしかった。野生のファンアートに期待です。
有袋類:野生のファンアートでおっさんの方が描かれて欲しい
巡礼者:確かにこれはぜひファンアートが欲しい作品。
有袋類:銀賞のネクロファジーの唯一なんですけど、死が好き系の中でも爽やかな読み口なのが印象に残っていたので推していきました。死が好き系、やっぱり何作も読んでると胃が重くなるのですがこういう人を殺しまくって爽やかなラストはとてもよかった……
 非日常は、場面が映えるのと友人のぬるっと相容れない存在になったのがわかる描写が好きで……。
概念:鬱々とした話を読ませようっていうだけじゃなくて、ちゃんと読者を驚かせよう、楽しませようっていう意識がキープできているのは大事ですね。死が好き系、俺が俺がになりがちなので
巡礼者:ネクロファジー、この題材で爽やかな読後感なのがやっぱりとっても好きなんですが、一般ウケの視点で大賞候補から外してましたね。5億点賞に挙げるかどうかにも迷った……ッ!
概念:リアルでも友達だと思ってたやつの背中がバリバリと割れて中から化け物が出てくるみたいなの、ありますね。アレで何気にリアリティある描写でした。
巡礼者:非日常、ラスボス張る友達のキャラクターがすごい良い。
有袋類:根っからの悪いやつではなくて、話しているうちにどんどん語り部にとって無理な存在になっていくのうまかったですね
 総評の方に移っていくのですが、今回は本当に全体的にレベルが高かったですね
概念:平均してレベルが高いからこそ票が割れるわけですからね
有袋類:あと、ギャルがなんか多かった気がする。オタクに優しいギャルとかオタクくんと話してくれるギャル
巡礼者:これだけ参加作が多いのに、これ全然読めないし目が滑るなあ、みたいなのは意外と少なかったですね。最初からトリまで結構コンスタントに面白い作品ばかりだった。
概念:賞レースには絡んでこなかったんですけど一般文芸、純文学っぽい路線もけっこうレベル高くて
 単純に強さで言うと一田先生の『「言葉足らず」のヒエラルキー』
有袋類:ふらっと来てあの威力のものを落としていくのはテロですよ
概念:まあでもこれはつよいのは当たり前で、筋肉ムキムキのボディビルダーが公園の砂場に乱入してきたみたいなもんなので、別枠すぎます。純文学系、リリカル文芸系を目指す人にとってはひとつのマイルストーンなので、ぜひ参考にしてもらいたいですね。
 ほかに一般文芸っぽいものだと『金星で硫酸が降る夜』『ベビードール』と『晩夏に棄てる』、それからファンタジーっぽいので『契約』『小夜啼の塔』は、かなりつよい文体を持っていて今後の期待値が高いです。
巡礼者:5億点賞に推した非美少女戦士、オチが微妙ではあったんですけど、中盤までの引退し損ねた三十路美少女戦士の悲哀がありあり想像できて、勝手に脳内で映像化されてるくらいの印象になってます。間の感じがすごい好き。
概念:最後のところだけこらえきれなかった感はありましたね。なんか焦るんですよ、オチつけなきゃッ! って
 土俵際で踏ん張ると土壇場でなんかでてきたりするので、いいやこれで! じゃなくて、一回こらえるといいかも
巡礼者:他に5億点賞候補として迷った作品は、手元のメモだと眠れる山の戦神、天使墜落(私)刑、ユーフォリア・ドリーム・シンドローム
などですね。好きな作品が多くてホントに迷った!
 非美少女戦士、オチが投げやりなのは擁護できないので、一度じっくり腰を据えてどうオチたら良かったか考えてみてほしい。または長編化。
概念:天使墜落(私)刑は映像的なイメージが先行してるっぽいんですよね。光景にブレはないんだけど、主人公のほうがブレちゃった感があるので、キャラクターが強くなるとまた何段か完成度が高まりそうです
有袋類:そういえば講評で三人とも突っ込んでて笑ったのが超ヴァレンヌ逃亡事件です。オチで畳まずに更に加速してたら大賞に推してました
概念:冒頭のロケットスタートは完璧でした。息継ぎするとよくない。駆け抜けろ!
有袋類:あとはめちゃくちゃな物語をめちゃくちゃなまま駆け抜けて着地すれば完璧!
巡礼者:超ヴァレンヌ逃亡事件、講評見てきました。把握。KUSOは正気になってはいけない!!
概念:ほかにKUSO小説枠では『トラックに轢かれて転生した俺の第2の人生はトロッコ問題で轢かれる役でした』もおもしろかったです。序盤のちょっとしたエピソードで、なんてことのない等身大の主人公を一気に応援できるヒーローにしているのが上手いです。
巡礼者:トロッコ問題転生。誰か読み切り漫画にしたらなんかの拍子でバズってもおかしくなさそう。
有袋類:KUSO枠、トロッコも好きなんですけど飛雄馬君はロボじゃない!もめちゃくちゃに好きでした。ツッコミのテンポがめちゃくちゃに良い。競馬のシーンいいなって思いました
概念:煩悩賞は自分の小説に流用したいですね。自分で思いつきたかった。
巡礼者:大賞候補に推させてもらった『(ピンポン)ダッシュ千本ノック』、ワンアイディアで突っ走ったのがすごい好きだったんで、全作講評終わってからもずっと頭の中に残っていた作品でした。これだけ参加作あるとどれだけ印象的な作品でも「あの作品なんの話だったっけ?」みたいなのも出てくるんで、ずっと印象に残っているのはそれだけで大幅加点でした。後は主人公のヤバさとか、日比谷サイドをちゃんと描くとかディテールを詰めて欲しい。
概念:『煙に巻かれて』『やどかりの夢』『歯車と蠅の虚実』の3作でどれを推すか悩みました。単純な評点でいくと『歯車と蠅の虚実』が高く、次いで『やどかりの夢』。この2作品は小説的な体幹がしっかりしていて、すでに「できる人」のオーラが文章からただよっていますね。
有袋類:やどかりの夢と歯車の蠅の虚実、僕もギリギリまで悩んでました
概念:『煙に巻かれて』は、ほかの二作品に比べると文体が弱いところもあるんですけど……でも小説てきな基礎力、総合力、腕力で勝負が決まってしまうのもつまらない。純粋に自分の好みを優先して『煙に巻かれて』を推しました。ホラーというか、怖い話なんだけど、ミステリーてきな読みもできるのでお話じたいの完成度が高かったです。
概念:ほかに構成が秀逸! ってなったのは『ブレイヴ・ハート・ブレイカー』
 一種の破滅エンドなんですけど、収まるべきところにきっちりと収まるという感じで、結末に納得感がありました。
有袋類:やどかりの夢の作者さんは砂上に紅き陽は昇るも書いているんですけど、長編を書いていい感じの賞を取って欲しいです
巡礼者:やどかりの夢良かったなあ……。自分は灰崎さんの作品が好きで川系に来たので逆贔屓していた部分はあります。
有袋類:灰崎さんはモノホン大賞で眼鏡賞を取ってるので僕も逆贔屓枠にしました(無慈悲)
巡礼者:上手いみんな! 長編を書いてくれ!
有袋類:めちゃくちゃにみなさんレベルが高かったのですが、察しが悪い代表の僕は仄めかしエンドで全然わからなくて「どういうことだ」となるのが結構あった気がします。オチは気持ちよくなりたいので、書く側が思ってるよりもはっきり結末を言ってくれた方がいいときが多いっぽい
概念:わたしはなにしろ講評を書かないといけないので、わりとちゃんと精読してると思うんですけど、それでも「うん?」ってなる水準だと、たぶんふつうに読みにきた読者はますます「うん?」ってなってると思います。
巡礼者:せっかく読んでも「どういうこと?」になっちゃうとストレス掛かりますからね。
有袋類:講評、本当にそれぞれ別々のことを言っているので、自分に合うものとかそうだなと思ったものを取り入れるといいんですけど、三人から同じ指摘をされている場合は結構取り入れる重要度を上げるといいことが多いと思います
概念:絶対的に、客観視は必要です。講評員が三人いるのは客観視のための補助線でしかないので、自分の都合のいいようにうまく使ってほしいですね。
有袋類:こうしたら絶対に成功する! という方向の企画ではないですし、賞を取ったらおしまいとかでもなく、楽しい趣味でより楽しく遊んだり、メイクマネーしたい人はメイクマネーに繋げる踏み台の一つとしてうまく利用して欲しいですね
概念:あと今回は「カメラが遠い」ってコメントしたものがけっこう多かったですね。自分が作った世界や設定を俯瞰して見ちゃってる感じのやつ。世界を作り上げるときは箱庭づくりなので上から見下ろしてる、いわゆる神の視点なわけですが、実際に本文を書いていくときには、その自分が作った世界に自分も降りてほしい。プレイヤーの視点で描いていってほしいです。
巡礼者:私もお二人にガッツリ講評書かれて、人のこと言えないんですが、すごい魅力的なプロットを作っていけるぞ! って書いたんだろうけど、書きたいところが前のめりになって短編として削るべきところを削りきれていなかったり、最後の方が駆け足になってしまっているのが残念な作品が目立った気がします。やっぱり構成として綺麗に丸まっていると好印象なので、削るべきところは削りたい! またはKUSOとしてロケットスタートしたなら最後まで息切れしないこと!!
概念:削るの、もったいない気がしちゃうんですけど、削りだすと削るのが気持ちよくなってくるので、めちゃくちゃ削るといいですよ。
巡礼者:一度バーって書いて半分以上削ってしまうくらいでちょうどいい。
有袋類:僕は盛り不足だったのと、二作目のアリバイ工作がバレたのでうまくやっていきたいと思いました
 決勝レースや総評に名前が出ていなくても僕たちは講評を書くためにガッツリ読んだので、賞レースに入ってないやじゃなくて、講評を利用して次の作品や何かのコンテストに出すときなどに活かして欲しいなと思います!
概念:ほかにも触れたい作品いっぱいあったんだけど、え~と『ハル20歳、初めての上京物語。』『飯が食えない』『GO!GO!じゃんけんNIGHTフィーバー!』『絶対にシリアスになる世界』と、大トリの『ナメクジと結婚しろ!!』おもしろいのいっぱいありました!
巡礼者:じゃあ私もこれ良いな〜ってメモったの一気に! 『だから僕は先輩と、この喫茶店を繰り返す』『ブレイヴ・ハート・ブレイカー』『屑石は金剛石を抱く』『黄昏の子ら』いっぱい面白い作品読んでいっぱい好きな作品と作者が増えて楽しかったです!
有袋類:僕は気になったやつは後日最終週ピックアップで色々書くのでそっちも読んでくれるとうれしいです。
 今回はピンチヒッターで本家の王が凱旋してくれて、実質本物川小説大賞とのコラボだったのですが常連の人も今回初めて小説を書いた人もこれからも色々物語を書いて遊びましょう!
概念:わたしも、久しぶりの開幕ドンッ! なRTA創作楽しかったです。ちょっと最近は体力不足で自分で主催できてないのですが、こういう場がもっとたくさん増えるといいな
有袋類:いい感じにしまったので、あとは何か告知などあればどうぞ!
巡礼者:先日、私主催の自主企画『第二回怪獣小説大賞』の結果&講評発表をしたばかりなのでそれを。大賞発表をこむら川開催期間に被せてしまったのですが、こちらもオモシロ作品たくさんあります!
概念:胎列霊算庫15兆年譚 -Blood-Wheel ENGINE- 』という幻想短編集をkindleで出しました! わたしが自分でちまちま校正したインディーズ出版です。kindle unlimitedでも読めますので、読んでね!
巡礼者:楽しかったー。お二人ともお疲れ様でした!
概念:おつかれさまでしたー!
有袋類:わーい!本当にありがとうございました!一か月に170作100万字ちかくよんで講評も書くブラック評議員をしてくれているので、ぜひ作品や記事を読んでくれたらなと思います!おつかれさまでした!


◆お願い

 闇の評議員は全員無償ボランティアで講評をしています!
 よければ作品を購入などしていただければ幸いです
胎列霊算庫15兆年譚 -Blood-Wheel ENGINE- 本物川雑技団
第二回怪獣小説大賞講評&総評

◆ご案内

 宗教上の理由で投げ銭解放してません。
 それでも闇の評議員を労いたい!という奇特な方は下記のリンクからギフトコードを取得して頂き、僕にDMなどでリンクを送ってくださると嬉しいです。
 闇の評議員たちで山分けさせていただきます。
お疲れさまの投げアイス

◆参考サイト

第十一回本物川小説大賞 大賞は ナツメ さんの『これはフィクションです』に決定! - 大澤めぐみの落花流水 https://kinky12x08.hatenablog.com/entry/2020/12/21/004802
本物川小説大賞歴代講評
http://kinky12x08.hatenablog.com/archive/category/%E6%9C%AC%E7%89%A9%E5%B7%9D%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E5%A4%A7%E8%B3%9E

前回までのこむら川小説大賞の様子はこちら

◆過去のこむら川小説大賞
https://www.comrasaki.com/?page_id=29