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カレイドスコープ ───5/5
残されたカレイドスコープを、がらんとした子供部屋の窓から望遠鏡のように差し出し、雪(ゆき)は小さな穴を覗いてみた。
粗製の玩具が作り出す、簡素な偶然。
美しく、圧倒的で、神秘的だったカレイドスコープの魔法は、手の中でひどくちっぽけに見えた。
カレイドスコープが変わったのではない。変わっていくのは、子供たちのほうだ。
「雪が持ってて、」
光(ひかる)はそう言っていたのだと、父はあとになって雪に伝えた。
兄は、自分の病のことをどのくらい知っていたのだろう。そして、ゆっくりと閉じていく瞼の裏側に、世界は、雪は、どう見えていたのだろう。
わからない。
あの頃の風景を心の中に映し出してみても、それはやはり雪の見たものでしかない。虚しい再生を繰り返せば、今の雪のさまざまな感情が、そこに勝手な色をつけ始めてしまう。
もう、何も遠ざからないでほしかった。
カレイドスコープを回す度、この孤独な記憶まで形を変えて流れて行ってしまうような気がして、雪はその小さな金属の筒を、再び布張りの箱の中へおさめた。
初稿 2013年6月17日
改訂 2020年3月23日
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