本を1冊だけ売る、「森岡書店」に学ぶ
Vol.011
はじめて訪ねたのは、5年ほど前でした。シップスの展示会の帰り、木挽町界隈を歩いているとき、偶然「森岡書店」を見つけたのです。
発見したときは、そこが「森岡書店」とは知りませんでした。東京都選定歴史的建造物の鈴木ビル(かつて、写真家・名取洋之助さんが率いた編集プロダクション「日本工房」が入居)の1階、間口2メートル程度の小さな店。ショーウィンドウに本が1冊だけ置いてありました。
その後、何度も「森岡書店」に立ち寄ったため、はじめて訪ねたそのときの書籍が何であったか、正確ではないのですが、食べ物(食材)がテーマの、写真をふんだんに載せたエッセイだったと思います。ショーウィンドウで、その本を見ると吸い込まれるように店内へ。
書店のスタッフいわく、「森岡書店」は、1冊の本を選び、1週間その本のみを販売する、という方針。へ~、1冊だけ。それで商いが成り立つのだろうか……。当時の率直な感想です。
いま、書店経営が厳しいことは、なんとなく多くの人が感じているのではないだろうか。大手の書店は、生き残りをかけて、合併吸収も展開しています。都内の大手書店は、そんな戦略もあって生き延びていますが、地方の小さな書店は、苦境に立たされています。
その一方で、個人経営の書店でも、個性的なジャンルに特化したり、独自に選んだ少ない部数の本を販売する書店は、実は、地方でも都内でもお客さんの定着がいいようです。つまり、ベストセラーの小説や売れ筋の本ばかりを並べている書店は、大手書店にかなわない。“目利き感”を漂わせ、店の存在感を際立たせるのです。
「森岡書店」は、その究極のような書店です。なにせ、1週間に1冊。ほかの本はありません。書店というよりも、まるでギャラリーのようなストイックな空間です。
ただ、やり方としてうまいと思いったのは、1冊の内容にちなんだ関連商品も一緒に販売すること。前述した食べ物の本の場合、その食品を購入するためのガイドマップを売ったり、本に載った色鮮やかな写真をプリントしたTシャツも壁に飾り、展示即売していました。
まさにこれは、ヨーロッパのギャラリー感覚。本の内容から派生するアイテムも、同時に販売することで、本に内包された世界観を各種アイテムでイメージの幅を広げる。関連したジャンルは、本来、本屋さんではなかなか見ないので、また面白いのです。
「森岡書店」とのであいは、少なからず、ヴィーノサローネの構想を練るヒントになりました。
※今回からヴィーノサローネの丸いアイコンを追加しました。
次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。