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オレンジワインという哲学

Vol.037
こんなタイトルだと、多くの方が「なんだか、むずかしそう」と、引いてしまいそうですが、今回は、白ワインとオレンジワインとの境界線について。境界線はふたつの目安があると、主は考えています。
 
いま、東京のワインバーをにぎわせているのは、疑いなくナチュール系のワインです。狭義にとらえるなら、オレンジワインですね。ワインが入ったグラスを灯りにかざすと、結構、濁った液体にみえます。
 
その「濁り」の正体はなにか? 発酵時のブドウから排出された成分の「オリ」。それが「濁り」の要因です。さらに「オリ」には、ワインに馥郁たる味わいを生み出す、うまみ成分があります。
大胆にいいましょう。白ワインとオレンジワインとの第1の境界線は、この「濁り」です。
 
「濁り」の先にあるものを考えてみます。オレンジワインは、ブドウの果皮も種も漬け込んで発酵させるため、ワインに「濁り」が帯びています。この発酵方法を「マセラシオン」あるいは「マセレーション」、日本語だと「かもし」といいます。
一方で、「濁り」のないオレンジワインもあります。ひとつは、ワインを濾過してびん詰めしたタイプ。もうひとつは、濾過していなくても、単純にびん底に「オリ」が溜まり、澄んでみえる状態のワインです。
通常、白ワインは「マセラシオン」をせず、なおかつ濾過してびん詰めするため、ワインが透きとおっています。
 
このようにみると、白ワインとオレンジワインは、ひと続きに繋がっています。どこまでが白ワインで、どこからがオレンジワインなのか、はっきりと線引きすることはむずかしい。けれど、白ワインとオレンジワインとの決定的な違いは、「マセラシオン」の有無といっていいでしょう。「マセラシオン」を経たワインは、オレンジ色に近づきます。その「色の濃さ」が、第2の境界線です。
 
おもしろいことに、北イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州で、オレンジワインの元祖といわれる生産者たちは、オレンジワインを造ることを意識しているのではありません。そもそも、オレンジワインという呼称は、ワインを取り扱うイギリス人のインポーターが名づけた、といわれています。白、赤、ロゼのほかに、オレンジを4番目のワインとして新しい世界をつくり出せる、と表現したに過ぎません。
 
ワイン専門誌の『ワイナート』(No.88)によれば、同州ワイナリーの代表的な造り手たちは、つまり、名匠のヨスコ・グラヴネルスタニスラオ・ラディコンらは、こんなことを考えていたようです。文章は、主の要約です。
 
<オレンジ色のワインを造ろうと思って、造っているのではない。「いかにブドウになにも加えずに、ワインを造る」という探求心の結果、色の濃いワインになった。狙いは、あくまでも「なにも加えないワイン」。いっさい亜硫酸や培養酵母などを使わずにワインを造るには、タンニンを含んだブドウの果皮なども一緒に発酵させる、という姿勢です>
 
いい換えれば、オレンジワインは、「濁り」や「色の濃さ」といった見た目の特徴があっても、フリウリのワイン生産者たちの意識は、もっと深淵なもののようです。自然なままにブドウをワインにする。造り手たちの哲学は、潜在的なブドウの力を信じ、ブドウのすべてを表現する。それが、いわゆるオレンジワインなのです。
 
最後に、色に関してつけ加えれば、オレンジワインは、「アンバーワイン」という別の呼び方もあります。
 
次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。

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