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2020年僕の持っているサービス技術、全部話します。新年の抱負に代えて

新年あけましておめでとうございます。
いきなりなのですが早速皆さんに考えていただきたいことがあります。

即答できればそれはそれでかまいませんし、もしかしたらこのnoteは読まなくてもいいかもしれません。
しかし、うーんとちょっと悩んでしまったり色々と答えが出てきて定まらないのであればきっとこのnoteにはあなたにお伝えできるものがあると思います。

では質問です。

「これからのサービスマンに必要なものは何ですか?」

ぜひ、手を止めて考えてみてください。

どうでしょうか。
ではもう一度改めて。

「これからのサービスマンに必要なものは何ですか?」

どんなものが思い浮かびましたかね。素直な気持ちで想像してみてください。一言でかまいませんし、もちろん文章でも。それは資格かもしれませんし、性格かもしれません。たくさんワインを売ったという経験やお客様を笑顔にさせたエピソードかもしれないですね。

もし思い浮かびづらければ、あなたの憧れているサービスマンの強みは何かって考えてみてもいいかもしれません。いつも落ち着いていて、ダンディーな振る舞いをしながら、それでもあれこれと常に気を遣うことを忘れないでいる方、みたいなイメージが湧いたりするかもしれません。

できれば、ちゃんと言葉にしてほしいです。万人に伝わることばでなくてもかまいません。雑に言えば「パネぇオーラ」くらいの言葉でもいいと思います。

さて、もう一度。

「これからのサービスマンに必要なものは何ですか?」

これからのサービスマンに必要なのは教養である

僕はそう聞かれたらたぶん「それは教養だよ」と答えるでしょう。

でも「教養」って何だよって思いますよね。確かに便利な言葉ですよね、「教養」って。定義がすごく曖昧で。
実際、このnote一つでその「教養」について説明しようものなら10万字を超える超大作になるでしょう。

では、「教養」とは何なのでしょう?
僕はサービスマンは歴史を勉強するべきだと常日頃言っているのでもしかしたらそれを思い浮かべたかもしれません。机に向かってカリカリ勉強するイメージですね。

そういうのも含まれるとは思いますが、ここで扱う「教養」の大枠をお伝えすると、サービスマンにとっての教養とは「レストラン内以外の事象全て」です。

カトラリーのメーカーを覚えたり料理の由来を学んだりとかそういうのももちろん大切であるし広義では教養ではあります。
あ、皆さんはどうですか。そういうのって日々勉強されていますか?何となくテーブルに運んで終わり、みたいな毎日を過ごしたりしていませんか。パティシエが新作デザートにクレームダンジュを作ったとして、酸味の爽やかな美味しいスイーツ!くらいの自身が食べた感想か何かの受け売りをお客様に伝えるだけになっていませんか?

これは別にサービスマンに限らずもう少し大きい主語にして、ビジネスマン全体に話を向けても成立するかもしれません。
自社の製品についてどれだけ説明できますか?作った職人の想いをどれだけ理解していますか?誰かが用意したテクニカルシートの比較だけで仕事をしていないでしょうか。

さて、ここまで書いたのを読んで、

「なんでそんなこと知らなきゃいけないの?知らなくても仕事できるじゃん」

みたいに思ったりしますかね。実はそう思った方にこそ読んでいただきたい内容です。
これ、ある意味はその通りなんですよね、これから書くことを知らなくても仕事はできます。サービスマンにはなれます。


でも知ったことによって確実に世界は広がりますし、あなたは売れるサービスマンになります。僕ができたように、あなたも今までの5割り増しでワインを売れるようになるし、常連のお客様がつくようにもなります。もっと言えばプライベートもすごく充実します。

もし自店のメニューについて、使われている食材、調理法、どんなインスピレーションから生まれたのか、シェフのどんな想いがつまっているか、どんなふうに食べてほしいかがわかりそれらを嫌みなく的確に伝えられるか。アラカルトだとしたらそれぞれの料理の魅力や推奨オーダーを初めてレストランに来た方にもフーディーにも説明できるか。そんなことが「どんな方にも」完璧にできる方ならこのnoteは多分読まなくても良いかと思います。

でもそうではないなら、また、自分のサービスマンとして仕事ぶりに「このままで大丈夫だろうか」と不安を抱えていたり、「もっとリピーターを掴めるサービスマンになりたい!」という方なら、ぜひ最後まで読んで日々に生かしてもらえたら嬉しいです。


「お客様と仲良くなれ」と言われたら

個人的な話で恐縮なのですが、僕は元々かなり人間嫌いなんですよね。高校生の時なんか校舎の4階から窓の外を眺めながら「全員窓から飛び降りていなくなってしまえばいいのに」とか妄想しているくらいのやつでした。

そんな僕がサービスマンをすることになったとき、そりゃ最初はお客様に対しても距離を置いてたんですよね。そう、人間嫌いのサービスマン。
でも初めの店のオーナーがそれを許してくれなくて「黒ワインくんさ、お客様にプライベートで誘われるくらい仲良くならなきゃだめだよ」って執拗に言うんですよ。僕にある常連さんについての情報を色々と教えて、「◯◯さんさ、車にこだわりがあってずっとマスタングばかり乗ってるんだよ。ちょっとそれで話しかけてみなよ」とか言ってくるんです。

んで仕方なく僕は家のパソコンで「マスタング」を検索して「なんかごっつい車だなぁ…」とか思いながら「あぁ、フォードが作ってるのか。フォードは大学の経済学の授業で習ったことあるな。大量生産を実現した会社だよな」みたいなふうにページをスクロールさせていました。

それで、次にその常連さんがいらしたときに、マスタングに乗ってらっしゃるんですね、なかなか最近だと珍しいですよね、みたいなことを話しかけてみたんですよ。
そしたらその方、すごく嬉しそうに「いやー、ほんと好きでね。もう乗って◯◯年になるし、故障とかしたら大変だったりもするんだけど他の車にはできないんだよねー」みたいに話始めるわけですよ。

それからか、なんとなくかもしれませんけど、いつもは先輩に頼んでいたオーダーやお願い事も僕に言うようになったりして、あぁこうやって仲良くなるんだな、って思いました。

それからだいぶ時間が経ち、僕が横浜の店で働いていた時にしていたことの一つとして、マスターズの時期には優勝者や主要選手について軽く調べるというのがありました。マスターズ、ゴルフですね。

ちなみに親戚にはゴルフ好きはいますけど、僕は全くゴルフしません。そもそも運動苦手ですし。
でも、高級店に来る方とゴルフをする層って重なることが多いんですよ。お金も時間もかかる趣味ですし、経営者の方の交流に使われるようなものでもあります。営業マンなんかも上司や取引先と交流するためにゴルフ覚えたりしますもんね。

ゴルフの話題で盛り上がっているテーブルのところに水を注ぎに行きながら話が一段落したタイミングを見て「最終ホールのアダム・スコットのパターには目を見張るものがありましたよね」って一言言うだけでいいんです。

「いやー!あれはドキドキしたよね、アンヘル・カブレラはプレッシャーに負けたんだろうね!」みたいなことを言わせればもう勝ちですよ。あとは詳しく知らなくてもいいんです。

「マスターズ、やっぱり最初から見てましたか?」とか「このあたりだとどこかよく回りに行かれますか?」とか聞きながらその方のことを知ることに心がけます。自分が質問しながら話を盛り上げていけばお客様と仲良くなれちゃいます。そしてその話した内容を休み時間に顧客データのところに打ち込んで忘れないようにしておきました。実際のところはパソコンに入れなくてもなんとなくは覚えていたものですけど、間違いがあったら失礼ですから備忘録として残していました。
その方からは「休みが合えば一緒に回ろうよ。ゴルフやったことないなら練習してみなよ」とお誘い下さいましたが、どうしてもお休みが合わず行くことにはなりませんでした。それでも何度もお店を利用してくださる方の一人になってくださいました。
どのお客様も楽しみにお迎えしていましたが、どうしてもご予約が入ると嬉しくなってしまう方のお一人でした。

黒ワイン流 ワインの魅力を伝える方法

ある大先輩に食事に誘われて行った時の話です。

都内のある一軒家ビストロでした。見た目には普通の家なので知らないとそもそも店とは思えません。店主が一人で料理を出す、完全予約制の店です。

誘ってくださった先輩は飲食業の方ではなく、また僕がソムリエであることを知っていたので、「ワインを選んでくれ、この店なら価格は気にしなくていいから」と僕に頼みました。

僕がイタリアワインの方が知ってて選びやすいと店主に伝えるとイタリアのものを3本持ってきてくださいました。たしか葡萄品種がコロリーノ100%、トスカーナのサンジョベーゼ100%ともう一本だったと思います。
その日の料理を考えてもう一本のものを外して、その先輩に「この2本から選びたいんですけど…」とまで話したときになんて説明しようかなとふと考えたんですよ。

コロリーノ100%ってすごい珍しいんですよ。普通は補助品種ですからね。ワインに数%だけ入ってる葡萄です。味はサンジョベーゼに比べれば結構甘味がしっかりしてコシのあるマットな感じになりやすい。対してそのサンジョベーゼはわりと酸が利いてフレッシュめになる感じのものでした。
でもそれを話したところでその価値というか面白さみたいなものは多分伝わらないんですよね。その先輩はワインに詳しいわけでもないし、ましてやイタリアワインのマイナーなものを知ってたりなんかするわけもないですからねぇ。

じゃあどう説明しようかなと考えを巡らせてたとき、その方ってけっこうアウトローな仕事遍歴を持ってるらしいことはちょいちょい聞いてたんですよ。夜の仕事とかもいくらかやってたような。だったらその感覚で攻めようかなと思って、
「こっち(コロリーノ)は六本木のおねーちゃんで、こっち(サンジョベーゼ)は新宿のおねーちゃんですね。どっちがいいですか?」
って説明したんですよ。

そしたら笑いながら「え!?そんな説明あんの!?…なら六本木にしよう!」って開けたその六本木を飲んで一言。

「うわぁ…これ六本木だわ!」

その先輩はニコニコしてグラスを傾けていきました。ワインはすぐ空になり、ご機嫌になってもらえたのか、そこからお高いバローロを一本開けた後に食後にはシガーまで一緒に吸ってくださり、とても楽しい夜になったのを覚えています。

教養とは他人と価値観を合わせる材料

上に挙げた2つのエピソードでは、レストランやワインに関する用語抜きで人と仲良くなった過程を書きました。
もちろん、料理や食材、ワインのテクニカルについて知っておくことは大切です。レストランがお客様にお伝えするべきものは何よりも美味しい食事ですから。

でもその知識を相手に伝えるには、専門的な言葉だけでは不十分なんですよ。お客様が皆、専門的な会話ができればそれでいいんです。でも現実はそうではないわけですよ。昔の僕みたいにコース料理の仕組みも理解しないで来店される方もいるかもしれない。

専門的なことがわからないお客様にも楽しんでもらい、また店を訪れてもらうには、その方に伝わる言葉が使えないといけない。そうでないと自店の魅力は伝わらないかもしれない。そういった時に伝えられる言葉の幅こそが、教養だと僕は考えています。

ワインでもいちいち葡萄品種や味覚の説明はいらない、かもしれないわけです。
絵画が好きな方ならそれを例に挙げたらわかってもらえるかもしれない。もしかしたら音楽で説明できるかもしれない。「この自然派、味が今までにない方向に言ってて、酸っぱ甘いんですよ。すごいパンクな感じなんで好み分かれますね」で伝わる場合もあるんですよね。

奇をてらった説明をしろ、というのではありません。今目の前にいる相手は何に興味があって普段どんな言葉を使ってて、だからこうやって説明した方が伝わりやすいはずだ、と意識してしゃべるのとそうでないのとには提案力に雲泥の差が出ます。そのために店のなかだけでは知ることのできないいろんなことを知りましょう、と伝えたいのです。

当たり前の話ではあるのですが、

ワインや料理を売る相手は、例外なく「人」です。

だからこそいろんな売り方があります。いろんな楽しませ方があります。さまざまなそこには価値観があります。だから今年は店の外にも出て、いろんなことを経験してください。いろんなものに触れてください。美術館に足を運んだり、聴いたことのない音楽に触れてみたり、赤ちょうちんに行く日もあればホテルのラウンジにも行ってみてください。好奇心のあるサービスマンが一番強いです。そうやって経験していった一つ一つがお客様に寄り添えるきっかけになっていきます。

あと最後に一つだけ、普段からできるサービス力の鍛え方をお伝えします。

僕はバーとか行って周りの方と仲良くなったときに、飲むものを場に合わせるようにしてるんですよ。何を飲むと場の一体感みたいなものが出るか。単純にやるのなら、隣の方がワインを飲んでいるならワインを頼めばいいです。ハイボールなら銘柄違ってもハイボール頼むとかでも。相手が興味を持ちそうなリキュールとかを頼むのもありですよね。

そういう試みって意外と自分の知らないお酒を飲むきっかけにもなって価値観を広げられたりしますし、そうやって頼むお酒の一つが会話のきっかけになれるようになればレストランでサービスをしている中でお客様と仲良くなるのは簡単になると思います。人間嫌いだった僕が言うのもなんですけど、人と仲良くなるって、楽しいですよ。

サービス力とはそんな感じで周りの人を楽しませる技術でもあります。
今年はプロ向けとしても、プライベート向けとしても使えるサービス技術について発信したいと考えています。プライベート方面だとたとえば「『好き』を120%で伝えるための技術」とかですね。告白って上手にやれば全然伝わり方が違ってきますもんね。今回のnoteの内容からも応用できるのでこれから告白される方は、読んだものから何が使えるのかぜひ想像してみてください。サービス技術ってほんと色々な応用ができます。

2020年、おそらくnoteではプロ向けの話が多くなるかなと思っています。時々は「レストランはこんなふうに楽しんでほしい」みたいな話も書きたいと思っています。レストランってやっぱり楽しいところですし、それが伝われば僕も嬉しいですからね。

ぜひ皆さんの周りも幸せな人で満ちますように。ではまた。

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