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『ハイ・フォン ママは元ギャング』 映画レビュー(ネタバレ、感想)

原題:Hai Phuong

制作年:2019年

監督:レ・ヴァン・キエット

レビュアー:藤田いろは(現代社会学部)


ベトナムでは2019年2月に公開されたアクション映画で、その後アメリカ、カナダでも公開されました。日本では2019年に開催された、第14回大阪アジアン映画祭で初めて公開されました。
ベトナムで公開されて約1ヶ月で2000億ドン(約9億6200万円)を突破し、アカデミー賞「国際長編映画賞」ノミネート候補作品のベトナム代表にも選ばれた作品です。
現在はNetflixで配信されているので、登録すれば誰でも視聴することができます。


*あらすじ
主人公ハイ・フォンは元ギャングで、借金の取り立て屋として働きながら一人で娘のマイを育てていた。
マイは取り立てをしている母のことを友達に「悪党だ」などと言われ、いじめられていた。そんな娘の姿を目にしたフォンは、自分のせいで辛い思いをするマイに少し申し訳なさを感じていた。
ある日、市場で目を離した隙にマイが男に誘拐されてしまう。フォンは必死に追いかけるが、見失ってしまう。
誘拐犯を探して都心部のサイゴンにやってきたフォンは警察に駆け込み、相談をする。刑事から教えてもらったのは誘拐したのは凶悪犯罪組織で、他にも誘拐された子どもが多くいるということだった。その組織は子どもを臓器売買のために誘拐している規模の大きなもので、警察はなかなか手掛かりが掴めず、捕まえることができずにいた。
フォンは愛する娘を奪った悪の組織を必ず自分の手で倒すと誓い、何度も倒されるが立ち上がり、諦めずに組織の女ボスにたどり着くことができた。
そして、マイのいる、誘拐した子どもたちを運ぶ列車の上で女ボスと最終対決をする。


*感想
アクション映画特有のヒヤヒヤ、ハラハラするアクションシーンが多く、常に臨場感を感じられる作品だった。C18(18歳未満の鑑賞禁止、日本のR18)ということもあり、暴力シーンがほとんどなので血や怪我などの描写が苦手な人には少し観づらい映画だと思う。しかし、迫力満載のアクションシーンはスッキリするので、スカッとしたい人にはストレス解消になるおすすめの作品だ。
この作品はアクションだけでなく、母と娘の絆が強く描かれており、注目すべきポイントだと思う。最終対決の結果、フォンは無事マイを救出することができた。これが娘の心の中の、母に対する気持ちを変化させた。その変化がストーリー全体を通して描かれていて、フォンが母親として尊敬される結末に感動させられた。親の子どもを想う気持ちの強さが感じられる、ただのアクションシーンではないところが面白いと思う。
また、この作品ではフォンがベトナムの街を転々としていく様子も描かれており、街の様子からベトナムを感じながら鑑賞することができる。フォンとマイが住んでいた近くの市場では、のどかな田んぼや畑など田舎の風景がとてもリアルで、綺麗に映されていた。その後フォンが犯人を捜して訪れたサイゴンは、先程とは違い、何本もの電線が張り巡らされて混雑していて、夜のじめじめした感じが描かれていた。二つの街が対照的に描かれていてベトナムの様子を楽しむことができるのも面白いポイントだと思う。
ストーリーはどんでん返しがあるというわけでもなく、淡々と進んでいき、予想しやすいハッピーエンドで終わる。途中、フォンが母になる前の過去が組み込まれていた。その過去というのは題名にもある通りギャングのことだ。これは、フォンがギャングだった頃の敵が仕返しをしてくるという展開につながるように思えた。しかし、この展開は娘が狙われた理由と関係があるのかよくわからず、確証が得られなかった。そのため、話の展開にはあまり必要ではないと感じられた。
作中で、フォンがマイに言った、「痛みを受け入れること。決して諦めないこと。」という言葉が胸に刺さった。アクションシーンが多く、その迫力に気をとられがちだが、フォンのマイに対する気持ちが愛に満ち溢れていて、その愛にも注目していただきたい。
冒頭でも述べたように、Netflixで誰でも視聴可能なので、アクション映画が好きな人はもちろん、ベトナムに興味がある人など、ぜひ観てみてほしい。

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