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絶賛ロックダウン中 クリスマスはどうする?

わたしの職場は現在、一部屋だったのを、真ん中にパーティションというか壁を入れて2つに分けている。私と上司が一人ずつそこにいる。話し合いはテレビ電話システムを使い話合いなどをする。もしくはパーティション越しに話をする。下手をすると一日中一人の部屋で仕事をしていることになる。

隣の職場は産業廃棄物や建築現場などで出たごみを処理する会社である。いつもおじいさんのイギリス人が一人、そして、事務などをやるお姉さんが一人、そしてもう一人電話で現場と話し合いをするオペレーターのお姉さんがいる。このオペレーターがかなり太目の大きい黒人の女性だが、声までかなり大きい。そして信じられないくらい言葉遣いが悪い。現場とやりあう声がいつも聞こえてくるが、私が現場にいて、彼女に指示されたら、死にたくなる、というくらい本当に口が悪い。そして、いやなことや自分の都合の悪いことを相手が話し出すとすぐにFワードを連発しはじめ、相手に話をさせない。相手もかなり怒鳴ったりしてるのが聞こえてくる。

この彼女の場合は、かなりひどい電話対応がしばらく続くと、おじいさんのイギリス人に口頭注意をされるようで、そのあとはしばらくおとなしくしおらしく仕事をしている、が、だんだん助長してまた元に戻る。そういうサイクルを月に2-3回繰り返しているようだ。隣で聞いている限りだが。

(この女性、あまり好きな女性ではないが、昼休みになると、廊下に出てどこかに預けている子供とテレビ電話をしてるのをよく見かける。昼ご飯のあと、子供と一緒に歌を歌って、踊ったりして、仕事に戻っているようだが、仕事時のひどい対応と全然違うので、びっくりした。)

おじいさんはおじいさんで夕方になるとかなり大きなボリュームでテレビを見始める。だいたい、ITVというテレビ局で平日夕方やっているChaseというクイズ番組を4時くらいから見始める。(ITVは民放のテレビ局。匂いはなんとなく日本でいうとちょっと昔の日テレかな。かなり癖のあるテレビ局なのでいつかはこれだけで書いてみたい。)Chaseは応募者4人が一組になってクイズに参加するという形式。クイズはそこそこ難しめ。例)グレアムグリーンの4つの小説のうち、ベトナムが舞台のものはどれ。1.ブライトンロック、2.権力と栄光、3.おとなしいアメリカ人、4.ヒューマンファクター(正解は3)このレベル。自分が自信がないと番組が用意したクイズマスターに代わりに回答をお願いしたりできる。あと、クイズマスターが一応10問くらいはグループに参加して、答えるがだいたいマスターなので満点である。時々外しているのを見るが。

今週の月曜、いつもはチェイスなのに、3時半くらいからおじちゃんは大きな音でBBCのニュースを見始めた。マットハンコック(保険大臣)が会見をしているようである。もうお題はわかっていて、何が起こるかもだいたいわかってる。ロンドンを含むイングランド地域のロックダウンのレベルが上がり、更に規制が厳しくなるのである。パブ、レストランは水曜から閉店持ち帰りのみ、映画館ボーリングなどもほとんどだめ、美容院とショップはよくって、ジムにはかなり厳しい制限がつく。自宅勤務が奨励され、個別宅訪問は禁止。野外なら別世帯同士が集まってもいいが、5人まで(6人まで?忘れた)屋内で別世帯同士が集まるのはだめ。とかそんなルールである。友達の家には行けないし、人の家を訪れることは不可である。どこかで誰かと会って話するにも公園くらいで、このくそ寒いのにそういうのも面倒臭い。まあ、ほぼ家にいろという話である。一応クリスマス時の21日から28日までは規制を緩めるという話ではあるが、これもどこまでゆるめていいのか、まだわからない。ウィルスが突然変異してかなり強力なのが英国南部で発生しており、これもかなりの不安要素になっている。

先週からかなり状況が悪いと言われており、競馬パブのご主人バー二ーは「来週から一段階厳しくなるぞ」とはっきり私たちに言っていたし、そういう噂はあっちこっちで出ていたので、覚悟はしていたが。

おじさんがチェイスを見ていようがいまいが、黒人のおばさんと会計の女性はいつもぺちゃくちゃやっているのに、この日はおとなしくテレビの会見を聞いているようだった。

今年に入って何回か、こういう記者会見をまじまじと見ているもしくは聞いている。パブでみんなでおとなしくボリスがなんか言うのを見たし、前にいた用なしの家で日本人のシェアメイトと一緒にテレビを見た日もあった。

あらたまった感じで政治家が会見して、そしてそこから自分たちの生活が一気にがらっと変わってしまうのを今年一年間のあたりにして、政治家の記者会見はトラウマになりそうである。そりゃね、戦時中の大本営発表とかに比べたら、程度が違うのでしょうけどね、でもね。

パブの人達も一緒に見ていた人達も、何も言わないで淡々と聞いていることが多い。会見の間のシリアスな雰囲気、そのあとのなんというかやり場のない雰囲気、それを隠すようにみんな淡々と「しょうがないねえ」といってなんとなくたばこを吸いにいったり、酒を飲み始めたりするような雰囲気、もう本当になんとも言えないのだ。みんな心の中では「これからどうなるのだろう」とか「家族は大丈夫か」とかいろいろなことを考えている。頭の片方は高速回転していろいろ考えていて、半分は「どうにでもなりやがれ」とか「しょうがないね」とかそういうことを考えている。

これからクリスマスだというのに、レストランやパブは閉店を余儀なくされ、クリスマスショッピングも盛り上がらない。私は、一応プレゼントは買ったし、ラッピングも済ませたが、毎年、クリスマスパーティ用に化粧品を新調したり、どの服を着ようなどと悩んだりしたが今年はとてもでないがそんな気にならない。

私は毎年、いつも面倒を見てもらっているばばあのおうちに行ってクリスマスランチを食べ、その家の夜の宴会に参加するのが流れだった。クリスマスランチには毎年92歳のおじいさまと94歳のおばあ様が参加していた。二人とも身寄りがなくて、家で一人でクリスマスを過ごすというので、彼らの自宅訪問介護を担当しているばばあが、車にこの年寄りを乗せて、コース料理を食べさせる。お酒で、おじい様とおばあ様がすっかり眠くなったころにばばあが車に乗せて家に連れて帰る。そしてばばあの友達連中及びパブのご主人のパットがやってきて、アイルランドの曲をかけながら歌って踊って過ごすのが毎年だった。

おばあ様は、今年の夏に家の中で転んで背骨を傷め、そこから寝たきりになったので今年のパーティーは来ないという。生涯独身の方で身寄りが本当になかった。ばばあの家は、You tubeやアマゾンプライムミュージックをスピーカーにつないで曲をプレイするようにセットされているので、私が「好きな音楽をかけますよ」といったら「日本の音楽をリクエストするわ。静かめなのがいいわ」というので八代亜紀の舟歌をかけたらえらく気に入ってくれて、それから八代亜紀の舟歌を毎年彼女のためにかけてあげている。他リクエストされたのが、曲名や歌手は忘れてしまったが、初老の男と若い女の恋愛の歌だった。初老の男は若い女から去る、嫌いになったわけじゃないけど、別れないといけないんだ、みたいな歌で、取りようによっては不倫の歌だった。おばあ様は目に涙をためてその曲を聴いていた。みんなも一緒に聞き入っていたが、何も聞かないし、言わない。思い出の曲だそうだ。あまりに思い出なのでレコードはもっていたが、捨てたと言っていた。こんな形で聞けるなんてね、と感慨深そうに言っていた。

おじい様の方は、子供が4人いて、上の男二人は中東に移住(ドバイだかオマーンだか。)3人目はフランス人と結婚してフランス移住(ただし、離婚していまはフランスで一人暮らしらしい。)、4人目はタイへ移住(ばばあの話だとゲイらしい。親にはカミングアウトしてないが、タイへ移住していったきり連絡はほとんどないという。)。イギリス人にありがちパターンな家族である。子供はみんな自分のそばからいなくなって、かみさんがいなくなったら一人。上の男どもの家族とはほとんど交流がなく(現地の人と結婚をして宗教なども変わってしまったそうだ。)、フランスにいる娘が何かあると出てきて手続きなどをするそうだ。かろうじてばばあはこの娘とは何回かあったことがあるようだった。毎年、ばばあがクリスマスパーティーをやってくれるのを泣いて感謝してくれると言っていた。

おじいさんは頭はかなりクリアでインテリ、音楽が大好きで、エルトンジョンが好きだった。「鍵盤楽器で楽曲を作る人が好き」なんだそうで、私からすれば、何の楽器で曲作ってるかわからないことが多いから、この方の音楽のセレクトはあんまりよくわからなかった。エルトンの次に好きなのがフレディ、クィーンなので、彼もピアノ弾いて歌っていたので、そういうのが好きらしい。あと好きなのがアンドリューロイドウェーバー。このおじいさんは八代亜紀を聞いたとき、「まことに結構。なんの違和感もなく聴けました。この歌手はとてもオープンマインド(いろいろなものを受け入れる度量があるという意味でしょうか。)ですね。でも、日本的な歌い手ではなくブルースを勉強した人でしょうな。」とはっきり言われ、あまりに的確な指摘でびっくりした。まあ、賢くてインテリなところがあだになって上の二人とは全くうまくいかなくなったという話だけど。

今年は、ここの娘さんが、在宅勤務になったということで、会社に許可を取ってしばらくイギリスに滞在して、そこから勤務することにして、親と一緒に生活をすることになったという。クリスマスも一緒に過ごすという。子供と一緒にクリスマスを過ごすのはウン十年ぶりらしい。

ばばあと、こんな珍しいこともあるんだね、という話になった。その娘さんも60代半ばで、初めての90代のおじいさんと二人暮らしだから、結構いろいろしんどいそうだ。困ったことがあれば、ばばあに相談をしているらしい。娘さんはしっかりはしているが、弱音を吐くことも結構あるらしく「来ないとか言ってるけど、最後までわからないわよ。やっぱり迎えに来てほしいとか言い出す可能性もあるわよ」と言っていた。

クリスマスが終わったらすぐBrexit、EU離脱になるということで、仕事は正直目白押しなので、クリスマス気分は今年は半減といったところ。おまけに正月からまた厳しいロックダウンが始まるだろうという話。ばばあは「いつどうなるかわからないから、ヘアカットの予約は入れておいたほうがいいわよ。ある程度その辺計算して動きなさいよ」と忠告してくれた。そうだね、そういうことになりそうだね。



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