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J2第30節 大宮アルディージャ戦 レビュー

今節はホームに大宮を迎えての一戦。
2節での対戦時同様にアウェイサポーターの入場が叶わない中で行われる一戦となった。

1.スタメン

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甲府
前節とスタメン、ベンチ共に同じメンバーとなった。
連勝中の勢いを継続させたい。
新井、浦上、山田、長谷川は大宮のアカデミー出身の選手となる。

大宮
前節から2人の変更。
櫛引と奥抜に代えて河本と佐相をスタメンに起用した。
河本は3試合ぶり、佐相は13試合ぶりのスタメンとなった。

2.五分五分

雨の中での一戦は甲府がボールを握る立ち上がりとなる。

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甲府は新井が中盤に上がる形でビルドアップしていくが、大宮は菊地と河田が2トップ気味に構えて規制を掛けていく。
新井が2トップの間や背後に立つことで大宮は前からプレスを掛けにいけない状況を作る。
大宮は河田と菊地が背後を消しながら立ち位置を取るため、甲府としても自由に前進できるわけではない。
甲府はWBの2人のポジションがインサイドに入ったりと目先を変えてボールを動かしていく。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『アタックに関しては、意図しているボールの動かし方がある程度出来ていたかなと思います。サイドハーフの背中をしっかり使いながら、そこから仕掛けていくこと、前後半ともに(長谷川)元希と(宮崎)純真がすごく良いプレーをしてくれたと思います。そこでしっかり押し込めて、高い位置でゲームをコントロール出来たことが良かったと思います。』

伊藤監督のコメントを見るとサイドハーフの背中を狙っていたことがわかる。
シャドーの2人だけでなく、WBがインサイドに入ることでサイドハーフの背中を使い前進を試みていた。

敵陣に押し込んでいくとシャドーがインサイドにポジションを取り、WBと野津田がポジションを上げ、前線に厚みをもたらしていく。

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大宮の出方に合わせ、立ち位置を調整しながら攻め手を探っていく。
また、京都戦以降リラの近くで長谷川や宮崎、野津田がポジションを取ることが増え、中央での攻撃が厚みを増した。
これは守備面でもプラスに作用しており、前線でボールを失った直後に奪い返しにいく速さや強度が増した。

一方の大宮は荒木の裏のスペースに佐相を走らせることを立ち上がりは狙うが、ピッチコンディションも影響してパスが繋がらない。
立ち上がりは甲府ペースで進んだが、最初にチャンスを作ったのは大宮。

中盤でセカンドボールを拾った黒川がドリブルで仕掛け、決定的なチャンスを作る。

徐々に大宮もボールを持てる展開を作れていく。
ボール保持の際の大宮はCBとボランチの4人でビルドアップを行なっていく。

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三門が降りてビルドアップをする形もあるが、いずれも甲府は前線3人で規制を掛けていく。
だが、数的不利な状況でもあり小島とSBが空くこととなる。
小島に対してはボランチの選手が捕まえに出ていく。
SBの選手に対してはWBがスライドして出ていきたいところだが、黒川と佐相がタッチライン際に張ることでWBが前に出ていけない。

試合後の佐相壱明選手のコメントより。

『相手のウイングバックをピン留めするために僕がワイドに張って大弥を中でプレーさせる意図だったのですが、コミュニケーションは取れていましたし、そのタイミングで背後へのアクションも出せてはいました。』

SBに出たボールに対してはシャドーがスライドして対応していくが、DFラインから新井や浦上を中心に前線の選手へ絶えず指示が飛んでいた。
前線からのプレスを掛けていくことで大宮のミスを誘う場面も見られた。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『ボールを動かす上手いチームに対して、「しっかりプレッシャーをかけること」「プレッシャーを掛けながらも裏へのボールをしっかりケアする」ということを意識し、「ライン間にボールを入れていきたい」ということがあったので、そこのところをケアすることと、あとはワイドに立っている黒川選手や佐相選手にそこの幅を使われることでゴールを決められることに対して、我々はスライドすることでウイングバックが行けるようにしました。そういう対応がある程度出来ていたかなと思います。』

試合後の山田陸選手のコメントより。

『前から連動してプレスを掛けて、そこから良い形の攻撃ができている。』
『ボールを取りにいくところがハッキリしているので取りやすい。』

DFラインの選手が前線の選手を動かすことで前から規制が掛かり、奪い所がハッキリした。

17分に左サイドを打開し、甲府がチャンスを作る。

左サイドでパスを繋ぎ、ゴール前に迫ると長谷川が中央の宮崎へクサビのパスをつける。
リターンを受けた長谷川がシュートを放つが南がキャッチして防ぐ。
先程も触れたが中央で厚みのある攻撃を見せた。

直後にまた甲府が決定的なシュートを放つ。

長谷川のシュートをキャッチした南だが、前線へのフィードがタッチラインを割り甲府ボールへと変わったところから始まった流れ。
スローインを受けたリラから宮崎、荒木、野津田を経由し荒木がカットイン。
パスを受けた長谷川がエリア内に仕掛けるが、大宮がクリア。
セカンドボールを拾った宮崎がシュートを放つが枠の外へ。

22分にも甲府にチャンス。

背後へ長谷川と宮崎が抜け出した形だが、この場面のように左SBの松本が相手に食いつきすぎて西村との距離感が悪かったり、背後を空けてしまうことが見られた。

直後に飲水タイムへと入るが、畳み掛けていただけに甲府としては決め切りたかったところ。
飲水タイムが明けて大宮がボールを保持する展開へと変わるが、甲府の前線からの規制がハマり前線にボールが入っていかない。
サイドを経由する形が多くなるが、サイドを蓋する甲府に対しては効果的なボール保持とならない。
一方で前線で菊地が浮く形も多く、ベンチからも菊地を見るように指示は飛んでいた。
その菊地にボールが入ると32分には決定機を作る。

ボールを持たれ、引いてブロックを敷く展開が多くなった甲府だが43分に宮崎がチャンスを作る。

西村がシュートブロックしたが、西村がいなかったら得点に繋がっていた場面は他にもあった。

前半は共に得点が取れずにハーフタイムへと入る。

試合後の小島幹敏選手のコメントより。

『前半はシュートまでいくシーンは少なかったですが、ボールは持てていましたし良い形も作れていました。』

甲府のペースで進んだ時間もあったが隙を一瞬でも見せるとチャンスを作るタレント力の高さは大宮も見せた。
五分五分の試合展開でどちらが勝ち点3を掴んでもおかしくはない前半であった。

3.エースの覚醒

共に選手交代なく後半に入る。

後半に入り、甲府は長谷川を起点とした攻撃でチャンスを作る。
一方の大宮は前半と比べてクサビのパスが増え出し、サイド経由の攻撃だけでなく攻撃の幅が広がっていく。

54分には甲府が厚みのある攻撃からシュートチャンスを作る。

すると直後の55分に甲府はPKを獲得する。

連勝中に得点を取れている要因はリラに絡んでいく選手の距離感と人数が増えたことが大きい。
このPK獲得は京都戦での1点目に近い形と言える。
山田のクサビを起点にワンタッチで前線の選手が絡み、相手守備を崩した。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『ボランチやウィングバックなど、後ろから差し込むボールが前節から多くなってきましたし、逆に中央のコンビネーションも試合を重ねるにつれて少しずつ良くなってきていると思います。それがあるからこそ、ワイドからの攻撃も出来てくると思います。中央の山田からのくさびのボール、リラもそれに反応し連動して(宮崎)純真が潜っていったというのは今までやってきた形でした。それでPKを奪えたこと、おそらく抜けていても(宮崎)純真のゴールになっていた感じはありましたが、そういう意味ではラインをブレイクしたことと、ライン間のプレーが良かったと思います。』

このPKをリラが落ち着いて決め、甲府が先制に成功する。

これでリラは3試合連続、6試合で5ゴールと量産体制に入っている。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『試合に出始めてすぐ得点を取って、その後に得点を取れなかったこともありましたけど、ずっとトレーニングから真摯にやってくれたからこそ、今の得点を取っていること、すごい選手だなと思っています。トレーニングから集中力を保って、得点が取れてなくて精神的にきつい場面もあったかと思いますけど、やはり集中力を保ちながらこの6試合で5得点に辿り着けたことはすごい良かったと思います。これからストライカーとしてゴールに絡むプレーをもっとやって欲しいと思います。』

試合後のウィリアン リラ選手のコメントより。

『よくトレーニングしていたパターン。だいたいイメージがあった。宮崎(純真)選手は良い動きをしてくれた。イメージは共通しているのでそこから今日のゴールが生まれた。』

トレーニングで日頃からやっている形のようであるが、先程も触れたが京都戦の1点目や前半にも似たような形から長谷川がシュートを放ったように再現性ある攻撃を見せられるようになってきた。

60分に大宮は佐相に代えて柴山を投入する。

試合後の佐相壱明選手のコメントより。

『目に見える結果が欲しかったなかで、ゴールやアシストを残せなかったことが悔しいです。チーム全体では最後のゴール前でクオリティの部分、個人では背後を取ってからのアタックなど、もっとできたと思います。』

得点が入ったこともあり、共に攻守の切り替えが速くなり試合のテンポが上がっていく。

飲水タイム明けの71分には大宮が2人の交代を行う。
菊地と馬渡に代えてイバと山田を投入する。

リードしていることもあり、甲府はビルドアップ時の可変をやめ陣形を崩さずボールを回していく。
試合前には霜田監督は殴り勝つことを目指すと語っていたが、甲府が後半になってもオープンな状況を作ってくれないこともあり大宮が殴れる状況になっていかない。

74分には甲府が2人を交代する。
長谷川とリラに代えて三平と中村を投入。

共にシュートチャンスは作るが、決定機は作れなかった中で79分に大宮が決定機を作る。

柴山のパスに背後へ抜け出したイバが河田を交わし、シュートを放つがポストに当ててしまい得点とはならない。
今節最大のチャンスを逃すこととなる。

直後に甲府は野津田に代えて山本を投入し、守備固めに入る。

83分に大宮は黒川と三門に代えて中野と大山を投入する。
直後に甲府は宮崎に代えて野澤を投入し、交代枠を使い切る。

ボールを動かしながら時間を進めていく甲府に対し、大宮はボールを奪いに出ていきたいが、菊地に代えてイバを投入したことで前線の強度が落ちたこともあり連動してボールを奪いに行けない。

アディショナルタイムには大宮がCKを獲得する。
GKの南もゴール前に上げ、得点を取りにいく。
甲府としては千葉戦の嫌な記憶が蘇るが、守りきり甲府が勝ち点3を獲得した。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『指導では育成年代から携わりクラブに育てていただきました。良いクラブだと思いますし、戦う中で負けたくないという気持ちもあります。甲府に在籍してからの大宮戦は、甲府にいる元大宮の選手たちも含めて絶対負けられないという気持ちが出ていたと思います。思い入れがあるチームなので、良いゲームにしたい気持ちもあり、今日は集中した良いゲームが出来て良かったと思います。』
『特にアカデミーで育った選手は13歳から18歳まで6年間見てきましたし、彼らが成長する段階でどういうプレーをしてきたかとか気持ちの部分などを、私が携わってきたので、考えやプレーの質や顔色などから、調子の良さややりたいことなどを分かっているつもりです。なので相手チームになったときの分析はこまめに甲府の選手たちに伝えています。逆に大宮のアカデミー出身の選手たちは我々が相手だとやりづらかったかなと思います。私自身も彼らとのゲームの中で、成長を見て楽しんで喜んでいることもあります。』

試合後の山田陸選手のコメントより。

『大宮には小学生の頃からお世話になっていて、いろいろな思い出がありますがいまは甲府の選手なので、「勝ってやろう」と思っていたので勝てて良かった。』

伊藤監督にしても山田にしても大宮への思いが強いことが伺える。
共に育ててもらった恩を成長した姿で見せられたのではないか。

試合後のウィリアン リラ選手のコメントより。

『けっこう難しい試合だった。大宮は順位が良くないが、質の高い選手がそろっているチーム。1点決めてゼロで抑えたことは大きい。』
『チームワーク、みんな走ることをやって最後で体を張った。相手はパスがうまくて、余計に走らないといけなかったが最後まであきらめずに走ったから勝てた。』

リラは足を攣っての交代となった。
メンデスも試合終盤そのような素振りを見せていた。
これまでの甲府の外国人選手はハードワークという点では気分屋な側面を持つ選手が多かったが、リラもメンデスも自分のできる最大値を見せてはいるのではないだろうか。
外国人選手含めてハードワークできていることが3試合連続無失点に繋がっている。

試合後の霜田正浩監督のコメントより。

『悔しい敗戦です。戦い方、プレスの掛け方などトレーニングしてきたことを選手はピッチで体現してくれたが点を取れなかった。PKは誰も責めることはない。何で2点を取れなかったのかを突き詰めたい。』

自分たちがやるべきことはやれていたのではないだろうか。
だが、相手に合わせた戦い方は不十分だったように思う。
ハーフタイムでのコメントでクロス対応に難があると霜田監督はコメントしていたが、外をケアしている甲府に対し外からだけで攻めていた前半の戦い方は正しかったのか。
小島が後半からクサビのパスを入れていく回数を増やしたことで攻撃の幅は広がったが、前半から続けていれば結果は違ったかもしれない。
残留争いをする上では相手の良さを消すことも求められる。

試合後の山田将之選手のコメントより。

『前半は相手のレベルが高いなかでボールを奪い切れなかったり、サイドで押し込まれる時間もありましたが、GK中心に守れていたのはポジティブだったと思います。後半にPK一本でやられてしまったのはもったいないですし、勝点1は取らないといけない試合でした。僕自身はサイドの高い位置でロングボールで競り勝つことも含めて起点を作ること、イバもいたのでどんどん良いボールを共有することを意識してプレーしましたが、回数は少なかったと思います。僕らのような交代で入った選手が結果を残さないとチームにも勢いが出ないと思いますし、反省しています』

点を取りに行く上で交代選手の出来は山田のコメントにあるように不十分だった。
イバがワンチャンスを仕留めていれば違ったかもしれないが、交代選手を活かす策も不足していたように感じた。

リラのゴールで3連勝。
得点を取るだけでなく、チームに勝ち点3をもたらすゴールを決めている。
エースの覚醒がチームの連勝を支えている。
残り試合でどこまで得点を積み上げられるかも注目となる。

4.MOM

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山田陸
古巣大宮相手に成長した姿を見せた。
攻守においてチームの中心となっている。
攻撃では安定したパスワークでチームにリズムを与え、守備では中盤の門番として守備を引き締めた。

5.あとがき

暫定ながら3位に浮上した。
昇格圏との差も9と少しだけ縮まった。
まだまだ背中は遠いが、できることは一戦一戦勝ち続けていくことしかない。
3連勝で3試合連続無失点と結果は文句の無いものであるが、内容面では改善すべき点はまだ残っている。
次節からは順位が近いチームとの対戦が続くため、修正を期待したい。

大宮にとっては勝ち点を持ち帰りたかった一戦であっただろう。
だが、甲府が勝ち点3を掴み大宮は0であったことが今の順位の差となっている。
いいサッカーはしているのは間違いなく、監督や選手が手応えを掴んでいることも窺えるが残留争いはそれだけでは足りない。
内容が悪くとも勝ち点を積まなければ残留争いからは抜け出すことはできない。
気になった点はピッチ内での声の少なさ。
観戦していた場所の問題もあるかもしれないが南や途中出場の柴山からは声が聞こえてきたが、他の選手からはあまり聞こえてこなかった。
アップ中も淡々と行っている印象もあり、元気が無く見えてしまった。
試合前に全体で円陣を組んでいるように霜田監督は一体感をチームに求めているように思う。
ベンチからは笠原が常に声をかけ続け、セットプレー時にはベンチメンバーがアップをやめ声を掛ける場面もあったがピッチ内は静かであった。
声を出せば勝てるものではないが、個人的には気になる点であった。

次に対戦する際には両チームのサポーターで埋まったスタジアムで見られることを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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