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J2第37節 ファジアーノ岡山戦 レビュー

前節の引き分けで昇格圏との差が開いてしまった中での一戦。
得意のホームで欲しいの勝ち点3のみだ。

1.スタメン

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甲府
前節から3人を変更。
須貝が2試合ぶり、中村が3試合ぶり、野澤が12試合ぶりのスタメンとなった。
ベンチには9年ぶりの復帰となった高崎が加入後初めて入った。

岡山
前節から5人を変更。
濱田、下口、白井、関戸、ミッチェル デュークが起用された。
下口は今シーズン3試合目、関戸は2試合目と連戦ということもあり出場数が少ない選手がスタメン入りした。

2.悲劇

立ち上がりは甲府がボールを保持しながら試合のリズムを掴もうとする。
特に狙いとしたのは左SBの下口の背後。
対面の宮崎だけでなく、中村も流れる形を見せる。

一方の岡山はシンプルに2トップを活かしていく。
デュークはあえて浦上を狙う形で空中戦で優位に立つことを狙う。
その狙いがいきなり嵌ることとなる。
8分にゴールキックの競り合いで浦上がデュークへ与えたファールから試合が動く。

強烈なシュートを持つ上門と石毛がボールの前に立ったが直接狙うのではなく、横に動かす形を取る。
おそらくは用意してきた形通りでは無かったかと思うが、サイドに出た河野からのクロスにデュークが合わせ岡山が先制する。

試合後のミッチェル デューク選手のコメントより。

『(得点は)完璧なクロスが上がってきたので、良いタイミングでジャンプできて、GKがニアサイドにいることは分かっていたのでファーを狙ったシュートが思った通りに入り、早い段階で先制点を取れたので良かった。』

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『相手の素晴らしいゴールだと思いますし、クロスのところで個の力ではありますけど、警戒していたところで取られたことは仕方ないと思います。』

素晴らしいゴールではあった。
だが、隙はあったのではないか。
ゴール前に人を揃っているが、スペースは与えている。
ゾーンで構えているため、デュークを捕まえられず勢いを持って走り込まれることは致し方ない。
デュークのポジションを把握していた選手がどれだけいたのか。
ほとんどの選手がボールだけを見てしまっている。
スペースを埋めなくてはこのように走り込まれて決められてしまう。
良い入りを見せただけに痛い失点となった。

しかし、この直後に2点目も取られてしまう。

やってはいけないミスだが、こういうリスクも持つサッカーをしている。
良くも悪くも甲府は新井次第のチームである。
このミス一つで信頼を無くすようなことは無い。
新井の活躍が無ければ急激な追い上げはあり得なかった。
ただ今節に限れば時間帯含め、この失点が重くのしかかることとなる。

2点をリードした岡山は勢いが増す。
攻守共に切り替えが速く、甲府を押し込む流れとなる。
押し込んだ際に岡山はSBが高い位置まで上がり、ボランチとCBを残し前線に圧力を掛けていく。

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失点直後は岡山の前に出てくる圧に押し込まれ、失点の動揺も見せた甲府だが、落ち着きを取り戻すと甲府の一方的な流れとなる。
20分には甲府に最初のチャンス。

ロングスローのセカンドボールを拾った野澤から逆サイドへクロスを送ると浦上がヘディングで合わせる。
だが、梅田がパンチングで逃れる。

押し込む時間が増え始めた甲府に対し、岡山は自陣で構える戦い方に切り替えていく。

試合後の浦上仁騎選手のコメントより。

『失点したことでゲームを難しくした。岡山は失点が少ないチーム。先制点を許せばリトリートして固くなった。』

岡山は442でブロックをコンパクトに組み、全体が連動することでボールに圧力を掛けていく。
対して甲府は新井が中盤に上がる可変でボールを動かしながら攻め手を探る。

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中盤は新井がアンカーに入り、中村が中央に入る形でダイヤモンド型のような布陣でボールを保持する。
立ち上がりは幅を取っていたのは両WBであったが、右サイドでは宮崎と荒木が立ち位置を変えることで岡山の目先を変えることを狙う。
ブロックの外で回させられることが長くなるが、宮崎と入れ替わる形で中央に入ってきた荒木からチャンスを作る。

左サイドでのパス交換から中央に入ってきた荒木が野津田へパスを送るもズレたことが幸いし、リラへのスルーパスのような格好に。
抜け出したリラがシュートを放つが、ここも梅田が反応し防ぐ。

飲水タイム明けから甲府は立ち上がり同様、下口の背後を狙っていく。
背後を意識させたことでブロックの中へ侵入できる形は出来てくるが、岡山のプレスバックも速くシュートまでの形が作れない。

試合後のミッチェル デューク選手のコメントより。

『先に2点取った後はディフェンスをすることが多かったが、勝つためなら自分が泥臭い仕事をすることは、全く苦にならない。』

デューク、上門共に守備意識が高く中盤の選手含め一体となり全力で守備を行う岡山。
失点数が少ないのも当然のハードワークを見せる。
前節ヴェルディの梶川が「これくらいやらないと失点ゼロで抑えるのは難しい」とコメントしていたがそれを毎試合継続できる岡山は見事である。
一方で、これだけ守備で走ればシーズン通して得点力不足に悩まされたことも不思議ではない。
同じく梶川のコメントだが「得点するためにはより強度を上げる必要がある。」と述べていた。
得点力のあるチームの選手がこのようにコメントしていたが、それだけ攻守一体でハードワークして勝ち点を積み重ねることは大変なことである。

33分の岡山のゴールキックから甲府は布陣を変更する。

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宮崎とリラの2トップになり、中盤を3人の形へと変える。
これによりボール保持時の可変にも変化が起きる。

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新井が中盤に上がることは変わらないが、中盤の底を一人で担うのではなく野澤と並ぶ形となる。
また、中村や野津田がサイドに出て起点となることも増える。
特に中村は背後へのランニングから起点を作ろうとする。
あらゆる手を駆使しながら岡山のブロックを崩そうとした甲府だが、立ち上がりに失った2点を取り戻すことはできなかった。

3.可能性を信じ

後半の開始から甲府は野津田に代え、長谷川を投入する。
また、荒木と須貝のサイドを入れ替える。
この長谷川の投入により、甲府の攻撃はスピードアップし攻勢を強めていく。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『(長谷川)元希に関しては、ホールを受けながらコンビネーションというところを狙いで入れました。(野津田)岳人も悪くなかったのですがプレースピードが少し遅れていたことと、(長谷川)元希がボールを運べる選手であること。』

後半最初のチャンスは長谷川のCKから。

ニアサイドで新井が逸らすと中央に飛び込んできたリラの前にこぼれるが、シュートは当たらず枠を外れてしまう。

54分には入れ替えたWBでシュートチャンスを作る。

荒木とリラで左サイドを崩すとクロスを中村が収め、走り込んだ須貝がシュートを放つがここも上手く当たらず。

すると55分に長谷川を投入した効果が出る。

岡山のクロスを跳ね返すとセカンドボールを宮崎がダイレクトで中村に落とし、中村が中央の長谷川を使う。
戻り切れない岡山の守備陣に対し、長谷川が中央を駆け上がり宮崎へラストパス。
背後へ抜け出た宮崎が冷静にゴールへ流し込み甲府が1点を返す。
宮崎の落としと長谷川がドリブルで運んだことで岡山が強固なブロックを形成する前にフィニッシュまで行くことができた。

試合後の宮崎純真選手のコメントより。

『(長谷川)元希くんが前向きで運んでいて、走ればパスが出てくると思った。DFの前に入ってうまく抜け出せました。あの状況で冷静になってGKを見て浮かす判断ができて良かったです。』

攻勢を強め、1点を返し畳み掛けていこうとする甲府に対し、58分に岡山は3人の交代を行う。
石毛、白井、河野に代えて木村、パウリーニョ、廣木を投入する。
この交代で岡山は5バックにして守りを固めることとなる。

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試合後の有馬賢二監督のコメントより。

『DFを5枚にして少しずれる部分はあったが、選手を変えるのではなく、立ち位置を変えて危険なところを消しながらやってくれたことが良かった。』

結果的にこの選択が功を奏すこととなる。
5バックにしたことでより重心を下げ、自陣に構える形でスペースを消すことを狙う。
これにより、起点となっていた長谷川が岡山の守備ブロックの中でボールを引き出せなくなる。

得点が欲しい甲府は63分に野澤と須貝に代え、山田と関口を投入する。

中央をこじ開けようとする甲府だが、シュートチャンスは作れず時間だけが進んでいく。
縦パスを中央に通すことはできるが、甲府の選手がサポートするよりも速く岡山がプレスバックをするため効果的な攻めができない。
結果的に岡山の守備ブロックの外でパスを回すことが多くなってしまう。

飲水タイム明けの73分に両チーム交代を行う。
甲府は中村に代えて鳥海、岡山は関戸に代えて阿部を投入し甲府は得点を取りに岡山は1点を守りきることを狙う。

80分に久しぶりに甲府がシュートを放つ。

荒木のクロスを梅田がパンチングで防ぐが長谷川の前にこぼれる。
冷静に胸でトラップしてから右足のアウトサイドでシュートを放つが、枠には飛ばず。
アウトサイドキックを多用する長谷川だが、左足も使えるようになるとプレーの幅が広がるだけに今後の課題か。

83分に甲府は宮崎に代えて高崎を投入する。
小瀬でのプレーは3年ぶり、甲府の選手としては9年ぶりの出場となる。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『クロスから得点を取りたいというところ。あとは負けていたので相手にロングボールを入れられるだろうと考えました。そこでダイレクトプレーで体を張れる選手ということ、一振りがあるということ、そしてクロスからヘディングというところのチャンスを掴みたかったということが意図です。』

高崎とリラを前線に並べた甲府だがすぐにはパワープレーには出ない。
一方で鳥海がライン間でパスを引き出したり、ブロックの中に縦パスを差し込んだりしながら岡山のブロックを崩すことを狙う。

88分に岡山は上門に代えて山本を投入し交代枠を使い切る。

徐々に高崎をターゲットに後方からロングボールを入れていく甲府だが、エリア内での攻防は少なく岡山に驚異を与えるまでには至らず。
結果的にスコアは動かせず、ホームでは町田戦以来2度目の敗戦となった。

伊藤監督の積み上げてきた物は発揮できた試合ではあったが、岡山の積み上げてきたものに及ばなかった。
逆転を信じ、昇格を信じ戦ったが試合の入りの失点を取り戻すことができなかった。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『我々はまず1戦1戦をしっかり戦っていかなくてはいけないということ。プレッシャーもありますし、若い選手も多いですし、昇格という重圧も強い中で、まだまだ経験不足もあります。ただ目の前にある試合にアグレッシブに戦うということで、ゲームの入りは良かったと思います。しかしクロスから1本やられたことで、少し重心が下がってしまったということと、ミスが出来ないという雰囲気になってしまったということ。これが2失点目に影響したと思います。試合の入りで2失点を取られましたが試合の入りは良かったし、彼らが力を抜いてやっている訳では無いです。』
『ゲーム内容は抜きにして、勝ち点3を積み上げていかないと昇格に近づけない今日のホームゲームで勝ち点3を失ったことは本当に痛かったと思います。残り5試合勝ち点15を積み上げて、もう一度選手たちと前を向いて、勝ち点3を積み上げられるようにやっていきたいと思います。』

経験不足。
これに尽きるのかもしれない。
前節同様、気持ちが空回りしてしまっているように感じられた。
若い選手を多く起用し、昇格を目指すには序盤から勢い良く勝ち点を稼いでいかなくてはいけなかったのかもしれない。
また、前節に磐田、今節に京都がアディショナルタイムに得点を決め勝ちきっているように勝負強さも足りなかった。
次節にも昇格の可能性が絶たれる崖っぷちにまで追い込まれたが、できることは目の前の試合に勝つことだけである。
北九州に勝ち、可能性を繋げたい。

試合後の浦上仁騎選手のコメントより。

『僕たちは勝点3を取ることだけを考えてゲームに臨んだし、前節で勝点3を取れずに悔しい思いをしている。勝点3を取って昇格圏のチームにプレッシャーを掛けたかったが、そうできずに悔しい気持ちでいっぱい。』

悔しい敗戦。
試合後の選手の姿からもヒシヒシと伝わってきた。
だが、まだ試合は残っている。
最後まで戦い抜きたい。

試合後の有馬賢二監督のコメントより。

『自分たちの持っている力をしっかり示し、上位にいる甲府に全力で向かっていこう、チャレンジャーとしてやっていこう、そして全員の思いを持ってピッチに立とうと言って出た中で、選手たちはそれをしっかり胸に持ってゴールに向かっていってくれた。』

試合後の濱田水輝のコメントより。

『メンバーが大きく変わった中でやりたいゲームができたわけではないが、全員が勝ちたいという気持ちを持ち、普段出られていないメンバーも多かったので悔しさなどを背負い、チーム一丸となって戦った結果だと思う。
個人的にはもう少しやらないといけなかった。普段は右のCBで練習していることが多いが、今日は左だったので体の向きやボールの処理で少しうまくいかないシーンもあったが、それでも全体をコントロールするところ、ゲームマネージメントはしっかりできたので、チームを勝利に導くことができて良かった。』

長崎戦後に長崎の松田監督は甲府の方が勝ちたい気持ちで上回っていたとコメントしていた。
一方でこの2試合は甲府よりも相手の方が上回っていたのではないだろうか。
ヴェルディは前節からのリバウンドメンタリティーが求められ、岡山はシンプルに甲府をリスペクトし立ち向かってきた。
甲府は目先の勝利を目指しながらも連戦3試合をマネージメントしながら戦った結果、目の前の試合に全てを掛けられなかった。
ヴェルディ戦ではシュートが枠に飛ばず、今節は先に2点リードを許したことで焦りも生んでしまった。
岡山は非常に強いチームではあったが、甲府の方が弱いから負けた。
そんな単純なものではなく、昇格という目標のために全試合勝つためのマネージメントが結果として嵌らなかった。
この2試合は逆に自分たちが積み上げてきたものを発揮できなかった方が、シュートは決まっていたのではないか。
結局行き着くのは経験不足ということになってしまうのかもしれない。

試合後のミッチェル デューク選手のコメントより。

『連戦だが、自分はフレッシュに出れたので、よりチームを助けるためにプレーができて良かった。
短い期間に連戦があるのもサッカーなので、しっかり準備をして良いコンディションにもっていけるようにやっていきたいし、今はベストコンディションなので、次も出場できたら、期待されている仕事をできると思っている。』

オーストラリア代表選手でありながらチームプレーを第一に考え、チームのために走り続ける姿勢は素晴らしかった。
また、甲府の選手にも言えることだがまだ試合は続く。
良い準備をして次に向かって欲しい。
下を向いている時間はない。
次こそ勝ち、一試合でも長く可能性を繋げて欲しい。

4.MOM

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ミッチェル デューク
先制点を挙げる活躍を見せたが、デュークの価値はゴールだけではない。
前線から献身的にプレスを掛け続け、空いたスペースを埋める働きを90分続けた。
攻撃でも空中戦で勝ち続け、起点となった。
最前線からチームを牽引し続けたデュークの存在が岡山に勝ち点3をもたらした。

5.あとがき

悔しすぎる敗戦。
これで磐田と京都の昇格がほぼ決まったかと思う。
それでも可能性はゼロではない。
残り5試合全て勝って可能性を信じたい。

岡山は中位にいるチームではない。
守備の堅さはJ2トップレベルであり、前線には強力な選手も擁していた。
来シーズン戦力を維持できれば昇格争いに加わってくるだろう。
好チームであることは何試合か見てわかっていたが、手強い相手であった。
中2日と厳しい日程ながら最後まで走りきった姿は見事であった。

昇格は現実的ではなくなってしまった。
それでもまだ試合は残っている。
前節含め、プレッシャーに勝てなかったように見えた。
前回も書いたが、楽しんで欲しい。
好きなサッカーを仕事にして大勢の前でプレーできることは幸せなことである。
残り5試合悔いなく戦い抜いて欲しい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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