元陸上自衛官インタビュー/太田佑について(no.1)
ご挨拶
初めまして、太田佑と申します。
私は大学卒業後、陸上自衛隊に2年間勤務していました。膝の怪我が原因で、再就職活動をして感じたのは、自衛隊から民間に再就職することの難しさです。自衛隊業務の実情が世間にあまり知られていないがゆえに能力をアピールし難いこと、自衛隊OBのロールモデルの情報が少ないことから進むべきキャリアに悩むことがありました。そうした不安の払拭や民間企業の再就職情報を退職予定自衛官や元自衛官の方々が情報収集しやすいようにオンラインコミュニティを立ち上げました。
現職中に災害派遣や有事対応に活躍し国に尽くした自衛官が、セカンドキャリアで充実したスタートを切ることができる、民間企業で既に働いている自衛官OBの更なるキャリア形成に関与できる、そんな場所として作り上げていきたいと考えています。
退職予定自衛官・元自衛官のキャリアサイトです。ご登録をお待ちしております。
さて、こうしたインタビュー記事を始めたきっかけは、自衛官OBに実施したアンケートで、「元自衛官で民間企業で既に勤務している方々の情報が欲しい」という要望が最も多かったからです。どのようなキャリアを歩んでいるOBがいるのか、出来るだけ取材をして情報共有できればと思っています。また、自衛官にはこうしたキャリアや能力があるのだと、企業人事の方はじめ一般の方に知っていただくことに繋がればとも思っています。
まず第一弾として、自分自身の記事です。
プロフィール
太田 佑
現職:株式会社Veterans 代表取締役
自衛隊在職時最終役職:陸上自衛隊3等陸尉
経歴
2006年に大学を卒業し、陸上自衛隊幹部候補生学校入校(06U)後、特科隊に所属していました。訓練中の膝の怪我が原因で自衛隊を退職。退職後は、広告会社、参天製薬、メドレー、シミックといったヘルスケア産業で勤務し、2020年4月に株式会社Veteransを創業しました。
Veteransは退職予定自衛官・元自衛官のキャリア支援と医療機関向けのコンサルティングという二つの事業を行っている会社です。
長らく仕事をしていたヘルスケア産業では、「患者が納得する医療」をテーマに所属企業の事業拡大の推進をしていました。参天製薬では医療機関に薬剤情報の提供や地域連携の橋渡しを、メドレーでは、新型コロナウイルスでも注目されたオンライン診療システムを医療機関に普及させる仕事をしていました。オンライン診療の認知拡大の為、全国各地で100回以上講演やセミナーを行い、300近くの医療機関へ導入のきっかけを作っていきました。このようなヘルスケア産業の知見から、現在は医療機関向けのマーティング支援、コンサルティング業務も行っています。
自衛隊入隊のきっかけ
シンプルに、自衛隊の気質的なものへの憧れが強くありました。戦車、戦闘機といった強いイメージのモノへの憧れも強かったですが、規律統率というビシッとした文化に憧れていました。人の役に立つ仕事がしたかったので、公務員試験を受けていたのですが、その際に自衛隊幹部候補生学校を知り、2006年4月に福岡県久留米市にある陸上自衛隊幹部候補生学校に入校しました。
入隊前には、地方協力本部の方に富士総合火力演習見学や福岡研修に連れてっていただきました。入隊の不安も払拭され、大変お世話になった思い出です。富士総合火力演習はあの迫力にハマり、その後も隊友会の企画含め数回参加させていただきました。毎回、統制が取れた挙動や車両の動きの美しさに感動しています。
入隊後
初めて親元を離れ、入校した幹部候補生学校は新しい経験だらけでした。体力、精神両面から鍛え上げられ、一般大学出身の自分には非常に厳しかったですが、質実剛健、清廉高潔な精神をはじめ教育手法や人をどう育てるかという視点は大変勉強になり、充実した日々を送りました。演習中の写真は自己紹介の時によく使っています。
半分できれば倍はできる?!
教育で興味深かったことは、一見実現困難なことも半分出来ればクリアできるという視点を得られたことです。4キロ遠泳訓練や80キロの二夜三日(訓練中は夜間活動する為、夜は過ぎるだけで泊では無い)の攻撃訓練、二夜三日の防御訓練。入校前はとても出来ないと思っていましたが、同期はほぼ達成できていました。
突然、4キロ遠泳や80キロを歩かせても脱落者が出ると思いますが、幹校の場合、まずその1週間前に半分の量を実施します。4キロ遠泳であれば、2キロ泳ぎ、80キロ行軍であれば、40キロ歩きます。そうすることによって、自信をつけさせて、これが出来れば倍はいけるという超体育会的な考えです。ただこれが意外に達成できるのです。こうした経験は、今の自分の考えにも活きており、仕事、趣味で限界と思っていることも、少なくとも倍は達成できるはずだとポジティブな思考に使っています。
服務の宣誓
服務の宣誓は、大変気が引き締まる体験でした。自衛官であれば宣誓されたと思いますが、「身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる」、要は有事の際は、死をもって任務遂行することを誓うことです。入校中にその言葉の重みや人のために自分を犠牲にするという価値観を考える機会がありました。陸軍特攻隊の方々の遺書が展示されている知覧研修です。
必ず死ぬことを託され任務遂行することは、現代では考えられない状況ですが、そうした理不尽に近いことが非常に冷静かつ客観的に表現されていました。遺書を読む限り、最終的に出されていた結論は、国ではなく、自分自身の身近な存在を守るために自分を犠牲にする、そうした判断だと感じました。国という大きなモノを守るには死ぬ理由としてはあまりにも曖昧で納得がいかなかったのかと思います。特攻隊は肯定されるものではありませんが、家族や近しい人たちを守るために自分を犠牲にするという死生観は自衛隊を経験することで実感しました。
私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。(服務の宣誓)
幹校卒業後は、特科隊という大砲部隊に配属され、初等幹部として中隊訓練立案、実行や班員指導等を行っていました。2007年に起きた新潟中越沖地震では、給水支援の幹部として新潟被災地にも派遣されました。
そうした中、もともと悪かった膝を戦闘訓練中に悪化させてしまい、手術をしました。毎日走るような環境を術後避けなければならなかったことがきっかけとなり、自衛隊を退職しました。
退職を決めてから
退職に関し、自衛隊幹部は、陸幕(陸上自衛隊の本部)まで上申をしなくてはならず、退職届出をしてから3か月ほど掛かります。在職中は、求職活動ができなかったため、課業後にインターネットで人材紹介(エージェント)の情報収集、求人広告閲覧や簿記2級を勉強し、どういった職種が自分に向いているのか自己分析や企業分析をしていました。企業分析をする中で、まずは経営的な数字は理解できなければと思い、簿記2級取得に向け勉強していました。
簿記の知識は、就職活動時にかなり活用できました。人と話すことが好きな性格だったため、仕事は営業職をしようと決めていました。ただ、何を売るにしても会社、競合、環境において何か秀でたモノや差別化を付ける必要があります。また、就職先の会社がどういった状況なのか、その会社が成長するのか等、人から聞くだけでなく自分でも理解、納得するために簿記の勉強が活きました。順調に利益を上げているか、採用の背景はなぜなのか等を推測できるので企業選びにも役立ちました。
また、企業の面接では、最後に質問がありますか?と振られるケースが多いですが、募集背景を確認することは重要です。その際に、事業ごとの売上構成比率と、その事業が年どれくらい伸びているのかを聞き、その理由を確認すると具体的な事業の手法を知ることができます。私の場合は営業でしたが自分としてやれる営業スタイルかを判断するきっかけにもなりました。ただ、あまりしつこく聞きすぎることは企業もノウハウを教えたくない等あるのでお勧めできません。状況把握することに数字を読む力を持つ事は事前準備として良かったと思います。
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