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元自衛隊統合幕僚会議議長(自衛隊組織のトップ)/夏川和也さんインタビュー(no.2)

プロフィール
夏川 和也さん
現職:Defense Force Support Club 代表理事 http://www.dsc.or.jp/syui.html
自衛隊在職時最終役職:第22代 統合幕僚会議議長

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、夏川さんの経歴を教えていただけますか。
夏川さん:私は、防衛大学校第6期卒で、その後、海上自衛隊に入隊、海上幕僚監部人事教育部長、教育航空集団司令官、佐世保地方総監等で勤務した後に、第22代海上幕僚長を経て第22代統合幕僚会議議長に就任し、1999年まで自衛官として勤務していました。退官してからは、株式会社日立製作所の顧問として勤務し、現在は、Defense Force Support Clubの代表理事として、自衛隊の仕事を世間に認知してもらう活動をしています。

在職時の職務内容と思い出深かったこと

約25万人いる自衛隊のトップから今も自衛隊の活動認知に精力的にご活躍されておられます。ここからキャリアについて色々お伺いしていきたいと思います。まず、統合幕僚会議議長という役職はいわゆる自衛隊制服組でトップですが、どのようなお仕事なのでしょうか。
夏川さん:自衛隊組織は、陸上、海上、航空自衛隊を幕僚長というそれぞれトップが各組織を統括して、防衛大臣が指揮をする構図になっています。ただ、陸海空はそれぞれ別の組織体でもあるので、大臣が指揮しやすいように、それぞれを統括するまとめ役が必要です。

統合幕僚会議議長は、陸海空自衛隊を統合的見地からのまとめ役として、指揮官である防衛大臣の補佐をするということが仕事になります。平時の時から、そうした体制で稼働することが有事の際にも迅速に組織が動けるような体制作りになっています。

指揮官である防衛大臣の補佐役ということですね。大変貴重な任務を自衛隊でされてきていますが、自衛隊在職時で思い出深かった事は何でしょうか。
夏川さん:日米海軍の共同訓練が非常に思い出深かったです。何度か訓練に参加をして、運用課長や自衛艦隊司令部の幕僚を行いました。実際に運用をする現場の責任者から、作戦立案をする担当者としても参加をしました。共同訓練とは、実際に艦隊を動かして、米軍とともに仮想の作戦に当たる訳ですが、米軍とのやりとりの中で、彼らの考え方、やり方から非常に多くのことを学べました。

作戦立案から通信のやり方といった細部のところまで一緒にやるため、新たな視点を学ぶ大変良い機会でしたし、彼らは全てを体系的にシステム化している為、全員が共通の認識を持ちやすいことや属人性(その人で無いと出来ない仕事)を極力排除するという仕組みを作っていたことが大変勉強になった覚えがあります。

良い意味だと、指揮官が目指す目標に対し、全員が一丸となれる状況を作れて、欠員が出たとしても、すぐ代わりの人員が入れるという仕組みになっています。ただ、悪い点だと、型にはまっている、融通がきかないということはあるかもしれないですが、当時はその欠点は感じさせなかったです。

自衛官が民間企業で活用できる素質・能力

ーー米軍の体系的で属人性を排除する組織作りは外資系企業でも活用されているという事も聞きます。夏川さんが考える自衛隊で培った経験が、民間企業でも活用できる能力、素質・素養は何でしょうか。
夏川さん:目的を完遂する意欲、チームワークとその調整力、組織のマネジメント能力だと考えます。

まず、目的を完遂する意欲ですが、平時の訓練もしっかり行いますが、特に有事の任務や災害派遣の実務稼働になった際は非常に強い志と信念でやりきるという意欲があります。いわゆる達成意欲や実行力と置き換えられるかもしれません。どんなに辛い状況でも一切妥協を許さずに与えられた任務をこなすということは、平時の訓練や活動から体力面、精神面を鍛えて取り組んでいる事でなし得ることです。

また、自衛隊は、職責が上がると同時に教育を受けていきます。例えば、防衛大学や一般大学を卒業した後に入る課程で、幹部候補生学校があります。ここでは、自衛隊という組織を動かすための基本的な知識を教育されますが、自衛隊内の共通言語や組織、特に30人規模の人間を動かす為のリーダーシップ性、作戦立案の基礎を学びます。

その後、現場に出て一尉クラス(民間企業で課長クラス)になると、組織の作戦立案の為に必要な知識をインプットする教育課程に進みます。指揮幕僚課程と言いますが、指揮や作戦、いわゆる組織マネジメントに関することを学びつつ、部隊がどのように戦争に勝つのかを論理的に学んでいきます。いわゆる、作戦命令を書くのですが、書き方も精緻に決まっており、目的は何か、兵力をどのように配分するのか、術科、法律、マネジメントあらゆる検討すべきことを教え込まれます。また、指揮官は部下を育てるためにも「人」としての心を大切にと教わりますので、部下を使うではなく、部下と共に仕事をするというマネジメント力が備わります。

このように教育と実践を兼ね備えてキャリアを重ねますので、自然とまとめる能力やチームワーク、部下を使うことが備わっていきます。マネジメントは、組織の適切な統率という側面から、自衛隊が非常に重視しており、チームワークやまとめる能力は民間企業でも十分活用できるのではないかと思います。

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ーーリーダーシップや実行力は民間企業でも必要とされる資質です。論理的思考が求められる作戦立案についてもう少し教えていただけますでしょうか。具体的にどのように組み立てていくのでしょうか。
夏川さん:ざっくりですが、情勢、使命、目的、資源、評価という順で組み立てていきます。

まず活動するにあたり情勢を把握する為に情報収集をします。我々を取り巻く環境がどうなのかを確認します。例えば、自国経済、政治、行政の状態、同盟国はいるのかといったことを含めて情報収集と分析をおこないます。

次いで、使命、目的を設定します。自衛隊では、戦う相手がいますから、彼らに対し、優位に立つために資源を確保する、その為にどこかの陣地を占領するとか相手に勝つということですね。

そして、その使命、目的を達成する為には、自分たちがどれくらい使える資源があるのかを確認しなくてはいけません、これは、海上自衛隊だと、艦艇・航空機がどれくらいある、人がどれくらいいるという考えの他、隊員の練度、例えば射撃精度がどうか、スコアはどうか、艦船の運動能力、レーダー精度、攻撃能力等をできるだけ精緻に把握します。その上で、自分たちの資源に対して、相手の戦力も同じように分析をします。

それらの情報を踏まえて、評価を数字化し、相手との比較分析を行います。こうした分析を上記の前線以外にロジスティクス、通信、情報といった後方も考えて作戦をデザインしていき、都度評価しながら、目的の達成に近づけていきます。

ーー非常に論理的で細かい分析を行いますね、民間企業への活用にも通じる部分があるように感じます。
夏川さん:そう思います。例えば、目的は、民間企業で言えば、事業を成長させる為に、売上利益を伸ばす必要がある、その為に特定の製品をこれくらい売ろうということですし、資源、資金や会社の規模を自社と競合他社とを比較して、弱みを補完するのか強みを伸ばすのかという判断をしていると思います。

また、情勢でいえば、自社の状態は常に経営分析という形で経営者はチェックしていますし、業務提携やアライアンスという事で代理店を使った仕事ということを考えつつ、最適な方法で売上利益を伸ばしていく選択と判断をしていると思いますね。

ーー自衛隊も民間企業もご経験されていますが、改めて自衛隊と民間企業で働く違いは何でしょうか。

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