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X Talk 2.4-人生は研究だ!

ボストン大学(Boston University School of Medicine)の茂木朋貴先生をお迎えした獣医学研究者による対談シリーズ、“VET X Talks” (ベット・クロストークス)の2nd シーズン。キャリア構築においては "回り道" にも意味があることをうかがいました。「砂漠でオアシスを探す」長い道のりの旅に例えた獣医学研究では、「自分が死んでも "僕の勝ち”」という世代を超えたスパンで取り組んでおられることも分かりました。

最終回では、ボストン渡航への決意について聞きました。前田先生とは、「人生も研究も同じ」という人生観が一致したのは印象的です。

研究者は退屈が苦手

--:常に何かを追求するというのが、おふたりにとってのエネルギー源なんですね。
 
前田:とにかく、自分が「おもしろい!」って思えることをやりたいですね。
 
茂木:僕もそうですね。退屈がダメなんです。僕にとって辛いのは、同じ作業を繰り返すことです。人生で一番辛かったのは、クリスマスケーキにトリュフ(チョコレート)を3個ずつ乗せる仕事。

「もう5時間は経っただろう」と思って時計を見ると、まだ1時間…。その後は、”うつろ” になりながらやってました。「2時間くらいは過ぎたかな?」と思ったら、今度は8時間経っていたとか…。人生で一番つらい仕事でした。
 
前田:似たような経験があるな~。卵焼きを焼くバイト。正月用のだし巻き卵をひたすら焼くんだよ。上手な人が卵焼きを作って、下っ端はずっと卵を割る作業…。僕も単純作業はしんどい。
 
--:実験にもルーティーン作業はありませんか?
 
前田:研究も基本的には同じ実験を繰り返しますが、結果が毎回違うので退屈しません。「ここ」を見たいために、ルーティーン(の作業)に耐えるので、完全な単純作業とは違いますね。「ここ」の違いを楽しむ…マニアックかな…。やっぱり僕たちって変な人なのかも(笑)
 
茂木:わかります。結果を見るための単純作業には耐えられるんですよね。

人生の様々な局面で役立つ研究の経験

--:そんな辛い(笑)学生時代も過ごされたお二人から、学生や若手の研究者のみなさまになにかアドバイスをいただけますか?
 
茂木:「とりあえず研究してみない?」ってことですね。お金がなければ、パソコンさえあれば低予算でできる「ドライ」をやってみるのも良いと思います。誰でもアクセスできるオープンデータは山ほどあるので、家でも解析はできます。病気をこの世からなくしたいと思っている人がいたら、一緒にやりましょう!
 
--:研究よりも臨床の方に興味がある学生さんも多いのではないですか?
 
茂木:問題を見つけて、それを整理して、解決方法を考えて、実際にやってみるというのが研究です。臨床もまったく一緒で、病気の問題点を洗い出し、検査プランを決めて、結果がどうだったかを検証するという流れです。

だから臨床現場でも研究の経験は役立ちます。僕はフルタイムの臨床医として勤務したのは東大が初めてです。当初は少し不安でしたが、臨床も研究と同じようにやれば大丈夫だとある時気づきました。リサーチ(研究)の経験は、すごく生きています。
 
前田:研究も臨床も、本質はまったく一緒だよね。
 
茂木:だから、「研究か臨床のどちらか」っていう分け方じゃなくて、臨床の手法を学ぶために研究を経験するのもアリです。問題点を見つけてそれを解決するっていう場面は日常生活でも山ほどありますし、ほかの仕事でも同じです。それを身に着けられるのが大学院です。「研究をやっておくと、すごく得だよ!」
 
--:前田先生も同じお考えですね。先日開催された獣医学生さん向けのセミナー(VET Talks JAPAN)の動画、拝見しました。気になった異性と仲良くなることにも応用できるという(笑)
https://vimeo.com/manage/videos/749511548/a05ec85dfe/privacy
 
前田:観ましたか(笑)

獣医学生さん向けに「人生は研究だ!」っていうタイトルで話したやつですね。アーカイブを公開しているので、もし興味がある方はチラッとのぞいてもらえたら嬉しいです。問題点を洗い出して対策を考えるっていうプロセスは、獣医臨床だけじゃなく、どんな仕事でも共通だと思っていて。研究で培った経験は、人生の色んな面で役に立つはずです。
 
茂木:さっきの卵焼きもそうですよね。「どうやって美味しい卵焼きを作るか?」というのは、食べてみて、焼きが足りなかったら焼きを足すとか。混ぜるのが足りなかったら、よく混ぜるとか。
 
前田:料理と実験は似てるよね。混ぜて、結果を見て。失敗して、やり直して。まさに試行錯誤のサイクル。

変化に富んだ経験が実を結ぶ

--:役に立つだけでなく、楽しさもある。研究はお勧めってことですね。
 
茂木:若い人には、一回飛び込んでみて欲しいな。卒業後3年ぐらいまでは、何をやっても取り返しがつきます。僕は31歳で大学院を出たので、好き勝手に生きてきました(笑) 新卒の時に道をガチガチに決めると、うまくいかないことが多いかもしれません。色んなことをやって、最後に自分のやりたいことに進めばいいんじゃないかと思います。
 
--:前田先生も同じご意見ですよね?
 
前田:ホントに!僕も学部から大学院を経てポスドク、それから今と、まったく違うテーマで研究しています。変える、変化するってすごく大事だと思います。僕の場合、自分が望んだわけじゃなかったんですけど…。振り返ってみると、そのおかげで飛躍や成長ができています。環境や研究テーマを変えるのって、本当に大切だと思います。
 
でも一方で、ずっと同じことに取り組み続けるのも素晴らしいと思います。前回ゲストに来て頂いた水野先生(山口大学・水野拓也教授)ともお話しましたが、一途なすごさもありますよね。
 
茂木:それはもう、多大な苦労があるでしょうね。一つのことを極めるというのは。
 
前田:もちろん同じテーマの中でも、進め方とかアプローチの仕方は常に変化していると思います。一つのことを極める、ということにおいても、変化って重要なんだと思います。

求められる環境づくり

--:一途に行くか、変化を求めるか、それぞれ魅力や苦労があるわけで…。変化の方は、これまでやって来たことを一旦リセットするわけです。新しいことを始めるのには勇気が必要です。現実的には、職とか生活費とか…。
 
茂木:なので、研究の世界に飛び込んできた若者の支援をしてくださいって、力のある方々にお願いしたいです。30歳くらいまでは自由に生きて(よければ研究に携わって)、その過程でも普通に生活できるようになって欲しいです。
 
前田:どの業界も、そんな環境が整うと良いよね。日本も少しずつだけど変わってきているよね。例えば、転職は昔に比べて一般的になってきたし。
 
茂木:あと、獣医学は少し有利かもしれないですね。獣医師免許があれば仕事は見つかります。自分一人だけなら食いっぱぐれはしないでしょう(笑)
 
前田:ほかの分野の研究者に比べると、獣医はリスクを取れるよね。やっぱり手に職があるっていうのは大きい。
 
--:獣医学研究は、そういう面では自由度が比較的高いのですね。
 
前田:ただ、短期的には厳しいです。大学院生には収入がありません。僕も大学院時代は「同級生はみんな仕事をして稼いでいるのに、オレは無給で何やってるんだ…」という気持ちになることが時々ありました。大学院生を経済的にサポートするようなシステムがあると、研究に進む若い人が増えると思います。北海道大学には獣医師の大学院生に給料を払う制度があります。ほかの大学でも、そういう仕組みができると良いですね。
 
茂木:それはすごくいいシステムだな~。
 
前田:どこの大学にもあると良いのにね。ほかの制度もないわけではありませんが、申請して採用された一部の人しか対象にならないことが多いです。

日本では学べないこと

--:そうした研究に関わる環境についても、今後、お話を聞かせてください。さてそろそろこの対談も終盤です。茂木先生のアメリカでのご予定を聞かせてください。向こうではやはり遺伝子情報解析をされるのですね?
 
茂木:はい。ありとあらゆる遺伝子情報の解析をやります(笑)
 
--:世界的なプロ集団から色んなモノを盗んで来ようというわけですね。何を持って来たいですか?
 
茂木:持って来たいものは決まってます。見つけたデータから何かを導き出す、解析に関する考え方です。アメリカ人って、得られたデータからセオリーを組み立てる(= 根本的な事象を探し出す)のが特技なんです。「どうしたら、こんなに “汚い(= 整っていない)” データから、そこまで語れるんだろう」って思うほど、発想が柔軟で豊かなんです。それは、我々が(日本では)学んでいないものです。で、その「セオリーを作る」という思考をしっかり学ぶのが、一番の目的です。
 
前田:抽象化とか一般化みたいなこと?
 
茂木:モノ(= 情報)を見つけて、それを概念に落とし込んでいく作業です。
 
前田:確かにアメリカ人はうまいよね。日本人は、細かい(ことをみつける)のは得意だけど、大局を見ることができない…。研究もそうだけど、臨床でもガイドラインとかスタンダードを作るのが欧米の人たちはうまいよね。知識を体系化して、それを教えたり学んだりする文化があるんだろうね。
 
茂木:それがアメリカを選んだ理由です。
 
前田:でも「言ったもん勝ち」みたいなところもあるよね(笑)
 
茂木:その主張に説得力があるんです。論理の組み立て方が分かっているというか、慣れているんです。
 
--:セオリーを組み立てるノウハウを習得して、新しいチャレンジから帰国される日を楽しみにしています。何よりも、楽しんできてくださいね!
 
茂木:もちろんです!

茂木先生にとって、獣医学研究とは?

--:では対談の最後に「あなたにとって、獣医学研究とは?」という問いに対する茂木先生のお考えをお聞かせいただけますか?

茂木:「獣医学研究とは?」ですか…。

「病気撲滅のための壮大な趣味」かな (笑)

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前田真吾先生による対談シリーズ “VET X Talks” (ベット・クロストークス)の2nd シーズンは、茂木朋貴先生をお迎えしました。東京大学附属動物医療センターの同僚でもあったおふたりに、新しいことにチャレンジする意義と、楽しみながら諦めない大切さについて4回にわたって語っていただきました。
 
膨大なデータを分析することに喜びと専門性を発揮する茂木先生と、それを臨床に応用して犬や猫と飼い主さんを救う前田先生。研究に打ち込む姿勢は共通していますが、得意分野はそれぞれです。話が弾むにつれ、おふたりにはジグソーパズルの隣り合ったピースのようなコンビネーションを感じました。
 
そんなおふたりが力を合わせたら、1+1が5にも10にもなるような、すごい相乗成果が生み出されるような気がする対談でした。「おふたりで二次診療の動物病院をつくってください」とお願いしたら、「それぞれがやりたいようにやって “大赤字” になりそうです」とのことでした。でも、日本中の犬や猫、そして飼い主さんたちは、そんな、技術とハートのある病院を求めているのではないかなと思いました。 病気のないオアシスに期待しましょう!

ベット・クロストークスでは、これからも様々な角度から「獣医学研究はおもしろい」を分かりやすくお伝えしていきます。3rd Seasonのゲストも、最先端の研究に携わる専門家を予定しています。ご期待ください。

 


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