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中毒1 猫でもある!エチレングリコール 中毒!トイレの芳香剤に含まれることも【中毒】


猫と腎臓が困っているイラスト

エチレングリコール は不凍液などの成分であり、甘味がするので犬が好んで舐めてしまうと我々世代は大学で習いました。

車を持たない方も増えている中で不凍液が今時室内にある家庭は少ないと考えていました。

が、臨床現場にでるとエチレングリコール 中毒を思わせるような急性腎不全の犬や猫に遭遇する機会が意外にあります。動物は話さないので飲み込んだ瞬間を見れないことも多いのに、なぜエチレングリコール中毒を強く疑うのか?と思われるかもしれません。実は残念ながら救命できなかった際に、原因追及のためにご遺体を病理解剖させていただく場合がありそこで判明することがあるのです。

エチレングリコール は体内で肝臓に代謝されシュウ酸カルシウムという物質ができます。尿石症でもありますが、中毒を疑う症例では大量に腎臓の尿細管という部分に付着します。大量にシュウ酸カルシウムが腎臓の細胞に沈着することで腎臓の機能が損なわれ、腎不全の症状を出すのです。


ただ生前に腎臓の細胞をとってくるわけにはいかないので中毒を起こした物質を特定できないことも多々あります。摂取してすぐであれば吐かせる処置をしたり胃洗浄して救命できることもありますが、時間が経ちシュウ酸カルシウムができてしまうと予後は厳しいものになります。私自身は使ったことはないのですが、エタノール を投与してシュウ酸カルシウムの生成を阻害することもあります。


室内飼いの猫でなぜエチレングリコール中毒を疑わせる所見があったのかと色々調べたところ、一部の保冷剤やトイレの芳香剤に使われていることがわかりました。個人的に(データはありません)トイレの芳香剤は注意すべきと感じています。猫ちゃんを飼育するときは飲水量を増やすため水飲み場をいくつか設けることが多いです。我が家の猫も台所のボールやお風呂場の洗面器に水をはって飲めるようにしています。

■症状

摂取したあと時間と共に症状が移り変わっていきます。飲み込んで30分〜12時間頃は嘔吐や元気消失,多飲多尿などがみられ,おしっこが出なくなる欠尿や高窒素血症など重篤な腎障害を起こします。

■原因物質

エチレングリコール
■中毒量

犬は1kgあたり6.6mlが致死量。猫はもっと鋭敏で1kgあたり1.4mlが致死量。

■なりやすい犬種
全ての年齢で誤飲は発生します。海外の成書では平均3歳と記載されています。

■催吐
エチレングリコールは吸収が早いため,摂取後30分〜1時間以内であれは嘔吐の誘発(催吐)や胃洗浄,チャコールの投与も有効ですが,時間が経ってからでは推奨されません。

■治療
エタノール や解毒剤fomepizoleも有効ですが,体内で代謝されて腎臓に障害を与えるシュウ酸カルシウムができる前に投与しなければなりません。点滴など補助療法を行います。

■注意すべきこと
猫ちゃんの中には流れる水を好む子がいます。水洗トイレでは流したときにタンクの上の水がでるのですが、それを舐める猫ちゃんもいます。そこに設置するトイレの芳香剤に安定剤としてエチレングリコールが使われることがあります。手洗い管自体は水道から水を引いているのでそこから出る水を飲む分には芳香剤の成分が溶け出した液体は含まれていませんが、芳香剤を通過してエチレングリコール を含んだ水が跳ねたり、たまった水を飲んだりする可能性も否定はできません。エチレングリコール が含まれない芳香剤を取り入れるか、あるいは芳香剤の使用は避けるのもよいかもしれません。


因果関係が証明されず確定はできませんが、シュウ酸カルシウムが代謝物となる物質を摂取して急性腎不全を起こす完全室内飼いの猫ちゃんは存在しており、トイレの芳香剤や保冷剤の成分など猫ちゃんの周りに存在するものはできるだけ成分を確認してからおいたり、いちいち調べるのが難しい時は一括して扉付きの棚に入れるなど猫ちゃんの口が届かない場所に設置・保管するのが良いと思われます。



※名前が似ていますがポリエチレングリコールは犬の椎間板ヘルニアなどの脊髄損傷や猫の便秘の治療にも使われます。isfmからも安全性についての文献が出ています

https://journals.sagepub.com/doi/10.1016/j.jfms.2011.05.017  

■参考 

・SCHWEIGHAUSER, Ariane, et al. Ethylene glycol poisoning in three dogs: Importance of early diagnosis and role of hemodialysis as a treatment option. Schweiz Arch Tierheilkd, 2016, 158.2: 109-114.

・TILLEY, Larry P.; SMITH JR, Francis WK (ed.). Blackwell's five-minute Veterinary consult: canine and feline. John Wiley & Sons, 2015.

犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。