今年最初の別離など

 先週職場の先輩が旅立った。2月に病巣が見つかり3ヶ月の闘病生活だった。56歳なんて若すぎるよ。聖子ちゃんより若いんだよ。たまらないよ。通夜会場の駐車場の車の中で私は中々ドアを開けられずにいた。

 かれこれ20年以上前。大学生だった私は実習先の病院でその人と出会った。口は悪いけど気のいいあんちゃんだなというのが第一印象。大体第一印象はあてにならないとか言うけれど、その第一印象はずっと続くことになる。つまらない実習中、その口の悪い気のいいあんちゃんは学生の私に対しても割と大人扱いして色々と気を使って話しかけてくれた。口の悪さは照れ隠しなんだとすぐに気付いて、同じ職場に勤めるようになってからはそれが確信になった。

 去年娘夫婦に招待されてハワイでの挙式に行ったことや初孫のことを話すときだってそうだった。素直にありがとうとか、孫が可愛いとか決して言わない。勿論照れ隠しだってバレている。あの人が憎まれ口混じりに話すとき、それは実は大きな愛を持っているのだなと分かる。だから人によっては勘違いされがちだけど、本当は良い人だって皆思っていた。と思う。

 意を決して車のドアを開け、会館の4階へエレベーターで向かう。降りてすぐ左の親族控え室に入った。「初めまして」あの人の家族と会うのは初めてである。闘病中にある程度覚悟をしていたのだろうか。棺桶の中で呑気に寝ているあの人の前で、娘さん夫婦と思い出話に花が咲く。

 「うちの父、職場で口は悪くなかったですか?(笑)」娘さんが聞く。「はい。口は悪かったですが、職場の皆がキャラクターを把握していたので問題なしです。今では皆寂しがっています(笑)」そんな会話をしていた。さっきまで車の中で一人重苦しい気持ちになってしまい、顔見るの辛いなと思っていたのが杞憂になった。ありがとう。誰にだ?娘さんに?それもそうだけど、そうか。あの人にありがとうだ。いや、目の前にいるわ(笑)。ありがとうございます。

 もしも。あなたがあまりにも真面目で、いつもいつもまともなことしか言わないような人だったら。こんなふうにニコニコしながらお別れすることは出来なかったかもしれない。別離のときに湿っぽくなるなよ。もしもそれが20年以上も前から計算していたのなら凄いことだ。そんな2020年最初の別離。Nさん、本当にお疲れ様でした。

 

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