「この現場で、自分にしか伝えられないことがある」社会人フェローシップで見えた今まで積み上げてきた経験-vol.2
Ryoh Sugitani
将来的に国際協力の仕事に携わりたいと思いながら、高校生、大学生時代に募金活動、インターンシップなどを経験。東京大学2年生時にさらなる経験を探していたところ出会ったvery50のMoGでタイの企業を訪問。そこからソーシャルビジネスへの興味を深め、大学院卒業後は新卒でマザーハウスに就職。店舗運営、現地生産管理、商品開発を経験した。
※本記事はvol.1の続きの記事になります。vol.1はこちらからご覧ください。
■現地に行ってから
・生徒の心の炎を大切にする
プロジェクト中盤になってくると、生徒たちのプロジェクトにかける熱量も高くなり、序盤のようにモチベートしていく役割から、見守る役割が大きくなってきます。生徒たちが考えたアイディアの壁打ち相手になったり、起業家とのコミュニケーションのサポートをしたりと、どちらかというと生徒たちに使われるイメージですね。笑
ただ、生徒たちの自主性に任せると、それはそれで大変なことも起きてきます。今回のプロジェクトでは1人の生徒が絶対にやりたいという思いを持っていた方向性があったのですが、チーム全体のミーティングでその方向性はクローズするということになってしまいました。その場では全員が納得をしていたのですが、明らかにその生徒の顔が輝いていない様子だったので、思い切って1on1という形で2人で話すことにしました。
チーム全体のミーティングでは納得していると言っていたものの、2人きりの場では、どうしてもやりたかったという思いを語ってくれました。その強い思いを活かして欲しいという思いもあり、2人でどうやってチーム全体の流れに沿う形でやりたかった方向性が出来るかという作戦会議をしました。チームの方向性と真逆になる方向性の施策という印象があり、チーム全体から受け入れられなかったという現状の整理をした上で、チームの方向性にどうプラスになるのかを推していこうということでアイディアを話してもらいました。自分の方からいくつかアイディアを出そうかとも思っていたのですが、視点が変わったことで活路が開けたのか、その生徒から溢れるほどアイディアが出てきたのが印象的でした。ほとんど話を聞きながら、ちょこっと整理をしてあげるだけという感じになっていました。笑
結果、チームのみんなにも受け入れてもらえ、その生徒はその後バリバリと施策を進めてくれました。この体験を通して、中盤以後は見守る形になることが多いからこそ、生徒の様子をよく観察し、迷いや悩みをを察知して個人ベースで介入していくことが大事だなと気付くことが出来ました。そこからは生徒たちが心の炎を燃やせるように、迷いが生じている部分を見定めて1on1やグループでのディスカッションに入って整理をしてあげるということを意識的にしていきました。
生徒たちの希望で再度スラム地域を訪問
・最終プレゼンテーション
プロジェクト終盤の最終プレゼンテーション作りは今回のチームが苦戦したことの1つでした。パワポなどをあまり利用したことがないことや、英語が苦手ということで、発表そのものに自信が持てないというのが一番大きい課題でした。
そこまでの施策のアイディアや実行からわかった発見などはとても素晴らしいものだったのですが、プレゼンテーションで起業家に伝えられなければ意味がありません。プレゼンテーションの大事さを伝えたものの、生徒たちの苦手意識は払拭できず、正直発表は本当にひどいレベルのものになってしまいました。
このとき自分はどちらかというと見守るスタンスを貫いてしまったのですが、他のチームのフェローの方の中には、大学生のアシスタントと一緒に生徒の発表資料をハンズオンで手伝っている方もおり、そういうやり方もあるのかと勉強になりました。発表という1つの生徒たちの成果の集大成の場で失敗することで学びにつなげてもらうことも重要ですが、今回のチームの場合は最終プレゼンでの失敗を通して、プレゼンに対する生徒たちの苦手意識を強めてしまったなと反省しています。ここでハンズオンと言えども、小さな成功体験を積ませてあげることが、今後の生徒たちのためにもなったなと思っています。
生徒たちのプレゼンテーションの様子
・最後に伝えたメッセージ
発表自体が失敗だったという悔しさもあったと思いますが、プロジェクトの重圧から解放された生徒たちは全員が泣いていました。特に現地での10日間は張り詰めた空気感の中で、「起業家のため」「スラムの人たちのため」という思いの強さで何とか走ってこれていた状況だと思うので、その達成感は今まで経験したことがないものだったのではと感じました。
自分自身も自分が参加したMoGの時以上に、達成感と解放感を感じていました。どっと疲れが来るとはこのことかと思うほど、身体的にも脳みそ的にも疲労感が押し寄せてきましたが、最終日に生徒たちに渡すメッセージカードには不思議なほどやる気が湧いてきて、気付けば深夜3時ほどまで書いていました。1人1人の成長した部分、そして伸びしろだと感じている部分、他にもオリジナリティだと感じた部分など、みんなと出会って10日間しか経っていないということを忘れてしまうほど、本当に伝えたいメッセージが溢れてきました。
最終日は生徒たちはアンコールワットの観光に行くので、自分はメッセージカードの続きと、最後に全員の前で話すことを考えていました。伝えたいことは1時間話しても足りないくらい溢れてきて、結局まとまらないまま生徒たちが帰ってきて、最後のクロージングミーティングの時間になってしまいました。
メッセージカードを1人1人に渡し終えて、最後の挨拶になったのですが正直まだ全然話がまとまっておらず、焦りまくっていました。笑 ただ、話し始めるとびっくりするほど1つのことを伝えたいという思いが強くなりました。それは「自分も悩んでいて、苦しんでいる人」だということでした。フェローとして生徒たちの前にいると、プロジェクトのことや生徒の成長のことを考えて大人として接することが多くなっていましたが、今回このフェローに参加するきっかけになった自分の休職や精神疾患のことを思い返すと、自分自身もみんなと同じように将来が不安で今まさに悩んでいて、人間関係で苦しくなったりしているということを知ってほしいなと思ったのです。
プロジェクトの中で自分の思い通りにいかないことに不満を感じたり、人間関係で苦しくなったりという経験をしている生徒たちに自分は大人としてアドバイスをしてきたけど、自分も同じように悩んでいる仲間であり、いくつになってもそういう悩みで苦しんだりするんだよというメッセージが気付いたら口から出ていました。そして最後に、そうやって少しずつ強くなっていくから、悩むことにはちゃんと意味があるんだよと半ば自分に言い聞かせるような形で伝えました。チーム全員、自分も含めて最後は涙が止まらない異様な状況でしたが、「この現場で、自分にしか伝えられないこと」はこれだったなと納得感も強かったです。
発表後に全チームでの写真
■帰国後、MoGを振り返って思うこと
生徒たちを様々な面でのサポートをしてきましたが、何よりも自分の今の状態に対する納得感が強まった経験だったなと感じました。高校生を前にして大人としての自分と、1人の人間としての自分、どちらの自分とも本気で向き合った10日間でした。
大人として社会人としての自分としては、以前参加したMoGの経験も踏まえて、プロジェクトの成果と生徒の成長という2つをどうやって達成していくかという挑戦の中で、大学時代のマネジメント経験や社会人になってからの小売りの経験、人と向き合ってきた経験など積み上げてきたものを実感できました。
1人の人間としての自分としては、やはり最後に高校生に何を伝えるべきかと考える中で、参加のきっかけになった精神疾患の経験や今まで様々な物事を自分で決めてきたからこそ、知らぬ間にたくさん悩んできた経験が今の自分を作っているなと再認識することが出来ました。
フェローシップは確かにマネジメントスキルを中心に自己成長の機会になったと思いますが、何よりも高校生や起業家と本気で向き合う中で、実は自分自身とも本気で向き合わされていて、多くのことを自分の中で再発見できた経験だったと振り返って感じています。
■フェローを考えている人へ一言
期間の制約や、不安要素も多いプログラムですが、ぜひ参加してみてほしいと思っています。自分は今回のプロジェクトで今までの経験の積み上げを再認識することが出来ましたが、きっと違う立場や状況の人が参加したら他のことを学べるんじゃないかなと思っています。
MoGというもの自体が、本当に様々な要素が交わりあっていて、何が起こるかわからない真の「なまもの」なので、これに参加したら必ずこういうものが得られるということが示しにくいものだと感じています。ただ、何が学べるか明確になっているセミナーや人材育成プログラムよりも、圧倒的にリアルな現場で、本気でぶつかってくる高校生を目の前に起業家のために貢献するという本物の経験から学べることは絶対に大きいと思います。
これは個人的な意見ですが、社会はどんどん不安定になっていくと思います。企業や組織といった今まで守ってくれていたものが、守り切れなくなる時代の足音がもう既に聞こえているように感じます。そんな時代の中では、形の決まりきった「スキル」よりも、不安定の中に飛び込んで自分で「学びを見つけて成長する」ことが大事になるんじゃないかと思っています。
そんな不安定の中に飛び込める機会というのは、今の日本の社会の中では起業やベンチャーへの転職くらいだと思います。だからこそ、今の仕事を継続した状態で不安定に飛び込めるフェローシップ制度は、本当に貴重な機会だと思います。途上国での活動や教育にチャレンジしたい、自己成長したいという思いをきっかけに、多くの人にこの不安定に飛び込んで欲しいです。
この体験がきっかけに帰国後very50への転職を決意
大学生向けのプログラム開発を中心に人材育成に関わることに
フェローシップ制度に興味のある方は、以下より詳細をご覧ください。
社会人フェローシッププログラムHP:https://www.very50-fellowship.com/
very50 HP:https://very50.com/