見出し画像

#197 自作小説「王さまのたまご」

中学校3年生の国語の授業で、
物語の創作をしています。

条件は、以下の3つ。

①字数は2500~3500字程度で、
②物語のテーマを明確に設定し、
③テーマを何かしら工夫して表現する。
というもの。

物語のテーマと表現の工夫については、
「あとがき」として書き表すことにしました。

授業では様々な支援策を講じていますが、
一番良いのは、例示すること。

本日は趣向を変えて、
恥ずかしながら、自作を御紹介いたします。

楽しんで書いて欲しいなぁ♪

王さまのたまご

 むかしむかしのお話です。あるところに小さな国がありました。 あまり豊かな土地ではなかったため、人々の暮らしぶりは楽ではありませんでしたが、貧しいながらも幸せな生活を送っておりました。なぜかというと、この国をおさめる王さまが、みんなのために一生懸命仕事をしていたからです。いつも人々のためを考えている、やさしい王さまでした。みんなもそんな王さまが大好きでしたから、一生懸命に働き、幸せに生活しておりました。王さまのすてきな笑顔は、人々の心の支えでした。
 王さまには、一人娘がおりました。早くにお妃さまを亡くしてしまった王さまにとって、娘の存在はかけがえのないものでした。やさしい王さまの娘ですから、それはそれは、やさしくて笑顔のすてきな、うつくしいお姫さまになりました。忙しい仕事の合間に、愛するお姫さまの笑顔を見ることは、王さまにとって、なくてはならない時間だったのです。人々もそんなお姫さまが大好きでしたし、誇りに思っておりました。
 しかし、王さまの幸せは長くは続きませんでした。お姫さまが流行り病にかかってしまったのです。王さまは国中から腕のたつ医者を呼び、自分も寝る間を惜しんで看病を続けました。人々もお姫さまのために、毎日祈りを捧げました、しかし・・・王さまや人々の願いもむなしく、お姫さまは帰らぬ人となってしまったのです。
 お姫さまが亡くなったその日、小さな国は、大きな悲しみに包まれました。そして王さまは、その日からというもの、部屋にこもったまま、ずっと泣き続けるようになりました。心の支えをなくしてしまった王さまは、あれだけ一生懸命だった仕事にも、全く顔を出さなくなってしまったのです。笑顔をなくした王さまは、毎日泣き続けました。そして、同じく支えをなくしてしまった人々の生活も、苦しいものになってしまいました。人々はみんな、王さまが笑顔を取り戻すことを、心から望んでいました。

 そんなある日のこと。泣き疲れて眠ってしまった王さまは、不思議な夢を見ました。柔らかな緑色が続く、一面の草原。そこに、一匹の猫がぽつんと座っておりました。何か懐かしい感じのする、きれいな白猫でした。
 「こんにちは、王さま。」突然、猫は王さまに声をかけました。「こんにちは。」王さまは答えました。まさか猫が人間の言葉を話すとは思わなかったので、王さまはたいそう驚きましたが、その猫を見ていると、不思議とそのことが当然のことのようにも思えるのでした。
 「私は猫の姿をしておりますが、天国からの使いの者です。」猫は続けました。「あなたの娘さんは、天国で無事に生活しております。」それを聞いた王さまは、お姫さまのことを思い出し、また悲しい気持ちになりました。
 「あなたが天国の使いならば、私を娘に会わせてもらえないか?」王さまは、心からそう頼みました。
 「・・・申し訳ありませんが、それはできません。生きているものが死んでしまったものに会うことは、どんな理由があっても、絶対にあってはならないことなのです。」猫は続けました。「娘さんは、あなたが毎日泣いて暮らしていることを、自分の責任だと、気に病んでおられます。どうかまた、以前のように笑顔で暮らして欲しいと、私はそう伝えるように言われて、あなたの前にやってきたのです。」猫の言葉を聞いた王さまは、こう答えました。
 「娘がなくなってからというもの、私は笑い方を忘れてしまったのだ。娘との楽しかったはずの想い出も、いざ思い浮かべてみると、なぜか悲しい気持ちになってしまう。想い出の中の娘は、どうしても笑ってくれないのだよ。」そう言った王さまは、とても悲しそうな顔をしてうつむきました。
 「王さまのために、娘さんから、渡すように頼まれたものがあります。」猫はポケットに手を入れると、何か丸いものを取り出しました。それは、淡い水色に光る、たまご・・・のようにも見えました。
 「ありがとう。しかし・・・これは、いったいなんだね?」プレゼントを受け取った王さまは、猫に聞きました。
 「これは、幸せのたまごです。このたまごが割れたとき、王さまは幸せを取り戻せるはずです。娘さんは、今でも変わらずにあなたのことを想い続けています。あなたの笑顔が大好きだった娘さんの気持ちを、忘れないであげてください。」そう言い残すと、猫はくるりと背を向けて歩き出しました。
 「待ってくれ!まだ聞きたいことがあるんだ!」王さまは猫を呼び止めましたが、ふと一陣の風が草原を揺らしたかと思うと、そこにはもう、猫の姿はありませんでした。残ったのは一面の緑の草原。草たちは変わらず、柔らかに揺れています。王さまはその中に溶け込むように、ただ呆然と立ち尽くしているのでした。

 翌朝。目を覚ました王さまの手には、夢で見た水色のたまごが握られていました。見れば見るほど、神秘的な雰囲気のたまごです。うつくしく淡い水色は、春のあたたかな青空を連想させました。また、さわっているとかすかなぬくもりも感じます。割ってしまうのはもったいない気がしましたが、王さまは思い切って、テーブルに打ちつけてみました。しかし、たまごは全く割れません。何度か試してみましたが、たまごはびくともしないのです。 壁に向かって力一杯投げてもダメ。とんかちで叩いてみてもダメ。お城の屋上から落としてみてもダメ。思いつく限りの方法を試してみましたが、たまごは割れません。王さまは頭を抱えてしまいました。一体どうすれば割れるのでしょうか。王さまはじっくりと考えた末に、一つの案を思いつきました。

 『王さまのたまごを割ることができたものには、望みのままの褒美を与える』

 翌朝、お城の掲示板にはこんな張り紙が出されました。効果はてきめん。各地の力自慢や知恵自慢が、続々とお城の大広間に集まります。力自慢のものたちは、叩いてみたり、投げてみたり、落としてみたり。知恵自慢の者たちは、茹でてみたり、焼いてみたり、不思議な薬品をかけてみたり。・・・しかし、たまごを割ることのできるものは一人もおりませんでした。

 ・・・さて、どのくらいの時間が経ったことでしょう。誰もいなくなった深夜の大広間で、王さまはたまごを静かに見つめておりました。その澄んだ水色を見つめていると、不思議と心が安まります。そして改めて、お姫さまが亡くなってからの日々を思い返してみました。思えば悲しみに沈み、もう長い間、王さまとしての仕事をしていません。人々のためにしなければならない仕事を、王さまは無責任に、放棄してしまっていました。お姫さまが生きていたとしたら、一体何と言うでしょう。周りを考えず、自分勝手な行動をしてしまった自身を振り返り、王さまは情けなさでいっぱいになりました。しかし・・・お姫さまが亡くなった 今、何を支えにして生きていけばよいのでしょうか。先の見えない不安に、大きなため息をつくのでした。
 「王さま、失礼致します。」礼儀正しい声にふと目を上げると、穏やかな顔をした品の良い老人が、広間の入口に立っていました。「私は、各地を旅している音楽家でございます。たまごを割るような力はございませんが、もしも宜しければ、王さまとお姫さまのために、一曲演奏させて頂けませんでしょうか。」普段の王さまであれば、断っていたかもしれません。しかし、疲れていた王さまは、演奏をお願いすることにしました。
 老人は、ポケットから銀色に輝くハーモニカを取り出すと、静かに吹き始めました。深夜の大広間に、やさしい音色が響き渡ります。それは、どこか懐かしさのあるメロディーでした。それもそのはず、その曲はお姫さまがまだ小さい頃、お妃さまが子守歌として、毎晩歌ってあげていた曲だったのです。そっとまぶたを閉じれば、あのときの二人の、幸せそうな笑顔が目に浮かびます。心地よい音楽に心をゆだねるうちに、王さまは知らずに眠りに落ちていました。それは、お姫さまが亡くなってからというもの、ずっと忘れていた、とても満ち足りた気持ちでした。笑顔で眠る王さまは、どんな夢を見ていたのでしょう。

 ・・・演奏が終わり、静けさを取り戻した大広間に、何かが割れる小さな音が、静かに響きました。

 翌朝。大広間には、かつてのように、一生懸命働く王さまの姿がありました。時折みせる笑顔には、もう迷いは感じられません。きっとこの先、人々が幸せな生活を取り戻すためには、それほど長い時間は必要ないでしょう。
 さて、果たしてあの晩に割れたものは、いったい何だったのでしょうか。それは王さま以外にはわかりません。ただ、私たちが思っている以上に、幸せというものは、身近に存在しているもの・・・なのかもしれません。

あとがき

 人間の持つありとあらゆる感情の中で、僕が一番好きな感情は、「喜」の感情です。だからこそ、それが体現された満面の笑みは、人を虜にします。邪気のない、赤ん坊の笑顔に癒されない人はいないでしょう。
 しかし、現代人は、本当の笑顔を忘れがちです。「楽」の感情から生まれる、外部から与えられた笑いを、心の底から生まれる笑顔と勘違いしがちです。でも、与えられた笑顔は、長続きしませんし、与えられたときと同じように、外部からの刺激によって、簡単に失われるのです。
 心を癒し、笑顔を取り戻し、前に進むために必要なものは、時間と、ちょっとしたきっかけと、そして何よりも、内部から湧き出す、自分自身の力です。その力の大きさを、忘れないで欲しい。
 物語の最終盤、割れた「もの」はなんだったのでしょうか?そして、割れて見えた中身はなんだったのでしょうか?その辺りは読者の皆さまの読みかたにお任せするとして、それは、王さまにしか割れない「もの」、王さまにしか見えない「もの」であったのは、間違いなく、確かなことなのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?