見出し画像

映画に出てくるワインを考察します。⑦「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」

ワインが好き過ぎて、味覚に限らず視覚でも楽しめる体質になってしまいました。鉄ヲタが「乗り鉄」「撮り鉄」というならこっちは「酒飲み」「酒撮り」ってところでしょうか。「酒撮り」なんて日本語聞いたことないけど、飲まずに楽しめるのはたいへん安上がりなので、これから「酒撮り」ブームがくるかもしれません。こないか。さて今回もスクリーンの中で見つけたワインをゆるく考察してみます。2016年の「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」です。

サブタイトルにあるように、ジョン・F・ケネディ大統領(以下JFKと略)の暗殺直前から葬儀までの4日間を妻のジャッキー(ジャクリーン・ケネディ)の視点で描いています。ざっくり言うと「一国の長である夫が殺された!心はズタズタよ!でも政府関係者は国の面目しか考えてない。そもそも誰が敵か味方かわかったもんじゃない。でも私は負けない。夫が人の記憶に残るように立派な葬儀を出すわ!」というお話です。もちろん作品内ではこんなド根性っぽい調子でなく、繊細にジャッキーの不安や惑いが表現されてます。


事件後、混乱と悲しみの最中、「次の大統領が使うからホワイトハウスをはやく空けてくれないかな?」と言われます。ひどい。泣いてる暇もないわ。ホワイトハウスはジャッキー自身が調達した資金で美しく改装され、夫との思い出が満ちた住まいでした。でも公邸だからしょうがない。引越しをする前にジャッキーが一人で宴をするシーンがあります。

JFKが好んだというアーサー王のミュージカル曲「キャメロット」をレコードで聴きながら、思い出のドレスを着たり、ワインを飲んだり。

画像の右のワイン、もしかしてボルドーの頂点、5大シャトーの一つであるシャトー・ムートン・ロスシルドではないですか。ぼやけているけど花か葉のようなものがラベルの横のほうに5つ並んでる。下記のラベルと合致します。

シャトー・ムートン・ロスシルド 1945

ヴィンテージは1945年。でもなんでこのワインなんだろう。大統領という身分なら高級ワインはいくらでもストックされているはず。1945年産のセレブなワインはムートン以外にもあるのに。疑問に思い、ムートンの公式ホームページを見たらラベルの解説がありました。ちなみに1945年は連合軍がナチスドイツに勝って第二次世界大戦が終わった年です。

(中心に描かれたVは)Victory(勝利)を意味する「V」。
その5年前から、チャーチルが自由世界に対して結束のサインとして
高く掲げてきた「V」である。

https ://www.chateau-mouton-rothschild.com


なるほど。JFKは演説でもチャーチルの言葉を多く引用しているように、チャーチルから影響をうけ、敬愛していたと知られています。その思想をここではムートンの1945年に託したというわけか。それなら、いくら名酒でも他の5大シャトーじゃだめだし、ロマネコンティでもない。ジャッキーはホワイトハウス最後の夜をJFKの愛したものに浸って彼を偲んだのでした。

ジャッキーを演じるナタリー・ポートマンの顔芸、いや顔の演技が凄いです。セリフは決して多くなく、表情だけで微妙なニュアンスを出してる。聡明でファッションセンスが抜群で、今でも米国民に人気があるというジャッキー。日本のインターネットでも褒める記事しか見つかりません。でも、この映画の中では、「ファーストレディ」という自分にかけられた魔法が解けるのを恐れるかのようでもあり、狂気や虚栄心が垣間見えました。


さて、ワインの話に戻ります。シャトー・ムートン・ロスシルドといえば、毎年異なるアーティストがラベルを描くことで有名ですが、1945年はそのアートラベルの第1号。フィリップ・ジュリアンという新人画家が手がけています。第1号といったらめでたいのに、なんでピカソとかマチスとか有名どころに頼まなかったのか?聞けば当時、商業デザインは格下が作るもので、大物画家からは拒まれたそうです。そんな記念すべき1945年のムートン、今も買えます。楽天市場で扱っていました。

※シャトー・ムートン・ロスシルドはロスチャイルド、ロートシルトなど色々な日本語表記がありますが、今回は公式ホームページで使われている「ロスシルド」に倣いました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?