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【嗚呼、人生 vol.05】〜電車に乗りながら⑤〜

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乗車した電車の中で私は人身事故に遭った人のことを想った。
彼あるいは彼女は都心の電車のホームという忙しなく車両の行き来する中へ飛び込むことを決断した。2,3分に1本来る電車の中に身を放ることで、その一瞬の中に自分という存在をも掻き消してしまおうとした。
一瞬だったかもしれないし、痛みを覚えたかもしれない。最後に頭に思い浮かべた人は誰だったんだろう。最後に抱えた感情はどういう種類のものだったのかな。
せめて今、安らかであったらいい。
私は電車に運ばれながら、そんなことを想った。そして、やはり人身事故を見越してまで家を早く出る必要性など、どこにも見当たらないと強く思った。
自然と、人の力によって作り上げられてる社会。せめて、関わる人を大事にしたいし、温かい世界で、気持ちよく過ごしたい。
人生って、そういうことでしょう。
しばらく物思いに耽っていたら、乗り換えの駅に着いた。私はすっくと立ち上がって、電車が停止すると同時にドアの前へと歩みを進め、目に冷徹さを宿した。

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