【読書note_002】売上を減らそう。 中村朱美

非常識な飲食店経営
本書は、1日100食限定という異色のステーキ丼専門店「佰食屋」を創業した著者が、その驚くべきコンセプトのお店がどのようにして生まれたのか、記した本です。
特筆すべきは、数々の非常識を断行することよって実現した効率経営です。
佰食屋が行っている非常識はいくつかありますが、その代表的なものをいくつか挙げてみたいと思います。

まず一つ目は、売上に上限を設定している点です。
佰食屋では、1日に100食しか売りません。
週末でも観光シーズンでも、100食しか売らないのです。
これにより、従業員の働き方など様々な派生効果が生まれていますが、フードロスが発生しないことで費用の削減にも貢献しています。

次に、 営業時間を11時から15時のランチ限定にしている点。
開業当初は夜の営業も行っていましたが、 開業から3年が経ち、 社長である著者の第二子妊娠を機に夜の営業をやめる決断をします。
営業時間が短くなったことで、1日100食の目標を達成することができない日が増えるかと思いきや、反対にランチをめがけてくる客が増え、平日も土日も毎日ランチタイムだけでほぼ100食を売り切ることとなりました。

FL コスト比率が約80%という点も、通常の飲食店とは一線を画しています。
FL コストというのは原価と人件費を足したコストのことです。
この FL コストを売上で割った FL 比率を、50~55%程度に抑えるのが飲食店経営の鉄則と言われています。
佰食屋では食材の原価率は約50%、人件費は約30%に上るため、 FL 比率はなんと約80%。
経営コンサルタントがこの数値だけ見れば、絶対に潰れてしまうと断言するような水準です。
佰食屋は1日限定100食という制約を設けることで、この FL 比率でも十分に経営できているのです。

やる気にあふれている人材はいらない!?
このように、様々な非常識を実践している佰食屋ですが、私が最も驚いた非常識は、
「やる気にあふれている人材はいらない」
と公言していることです。

飲食店にかかわらず、売上や利益を上げることが唯一最大のミッションである企業にとって、熱意を持って業務を遂行してくれる社員は必要不可欠のはずです。
私自身は、その点に疑いを持つことさえありませんでした。

佰食屋では、なぜやる気にあふれている人材は必要ないのでしょうか。

佰食屋では、商品数が少なく、売上目標を1日100食という大変シンプルなものであるため、基本的に「誰にでもできる仕事」がベースになっています。そんな佰食屋の採用基準は、「今いる従業員たちと合う人」。
「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」 と考えている人には、
「きっとうちの会社では物足りないと思う」
と率直に話すといいます。

そんな採用活動を続けていた結果、採用するのは人前で話したり面接で自己 PR したりするのが苦手で、他の企業では採用されにくいような人達になっていった、というのです。

つまり、売上の上限設定をしたことで、そこまでしゃかりきになって働く人が必要ではない状況であったため、あえてそんな人達を採用しない方針を取ってきたということです。

 世の中がイメージする「仕事ができる人」は、手際が良い反面、ちょっとした軋轢を生む危険もはらんでいます。
テキパキ仕事ができるからこそ、少しでも自分のペースを乱されると、「ちょっと待って!」と口調が乱暴になる。
思うように仕事の進まない同僚がいると、「しっかりしてよ!」とイライラする。
イライラは周りにも伝播します。
それがお店の雰囲気を損ねてしまう。
真面目にコツコツと仕事ができる人。
大人しくて消極的だけど、人に優しく接することができる人。
いわゆる「就活弱者」と呼ばれる人の中には、そういった人たちがたくさんいます。
多くの会社は、そんな人たちの素晴らしさを見落としてしまっているのではないでしょうか。(P185)

佰食屋では、結果として、やる気に満ち溢れた「仕事ができる」人がいないことで、誰でも余計なプレッシャーを感じることなく、仕事にあたることができているのです。

つまり、やる気がある人がいないことは、佰食屋を運営していく上での大きな強みにさえなっていると私は感じました。
本書のこの部分を読んで、「仕事ができる人」は組織には不要なのではないか、とさえ思えました。

誰でも仕事ができる仕組みをつくること
佰食屋は、シンプルな目標とシンプルなメニュー、シンプルなオペレーションにより効率的な店舗運営を可能にしています。

その根底にあるのは、
・誰でも「良い」仕事ができる仕組み
・全ての従業員が伸び伸び自分の能力を100%発揮できる雰囲気を経営者が作っていること
の2点です。

1日100食という売上の制約をベースに、この二つの両輪が回ることで、佰食屋は持続的な経営を実現しているのです。

佰食屋では、従業員が「お客さんが来ない。どうしよう」と不安になることはありませんし、「メルマガで何かお得なお知らせを書かなきゃ」「映える写真をアップしなきゃ」と悩むこともありません。
「どうしたら、もっといいお店になるだろう?」「どうしたら、 お客様に喜んでもらえるだろう?」と考えるところからスタートできるのです。(P125)

結果として、従業員が成長し、そのポテンシャルが一つの店舗に収まりきれなくなることで、佰食屋はひとつまたひとつと店舗を増やし、その職責に見合うだけの給与を支払われるようにもなっています。

心理的安全性が担保されたことで、従業員の成長が促され、結果的に会社の成長にもつながっています。

頑張らなくていい経営は、持続可能で自然体な働き方を生み出し、結果的に組織を成長させることになりました。

人口減少・高齢化社会に突入した日本。
これからの私たちが目指すべき組織や働き方の形は、この佰食屋にあるのかもしれません。

最後までお読みくださりありがとうございました!
Happy reading!


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