【読書note_015】シン・二ホン 安宅和人

著者が重要視する「問いを立てる力」と「妄想力」
本書は、ヤフーのCSOでありながら慶應義塾大学SFCで教鞭をとり、政府会議の委員も務める著者が、様々なファクトから日本の現状を分析したうえで、未来への希望について記した本です。

正直に言って、中盤から後半にかけて記されていた日本の厳しい状況に、切ない気持ちになりました。
特に、第5章で説明されている科学技術予算や大学への投資金額の少なさについては、意思決定者である政府が覚悟を決めて決断さえすれば、すぐにでも変えられるものではないかと歯痒い気持ちになりました。

本書の中で印象的だったのは、日本が新しい未来を切り開いてくために、著者がその重要性を指摘している「問いを立てる力」と「妄想力」です。

第1章のP58では、企業価値の源泉が、ハード軸を中心とした世界から情報・新技術をベースにした虚数軸をかけ合わせた世界に移行しているとしたうえで、その新しい世界で必要なものについて、著者はこう述べています

「こんな課題を解きたい、こんな世界を生み出したい、そういう気持ちなしで、手なり以外の未来など生まれる理由がない。」(P59)

ちなみに、P112では、「手なりでこれからもある程度以上に豊かな国でいられ続けるのか」という問いに対して明確に「No」と答えており、ただ漫然と今のままの国家運営を続けていけば、明るい未来はないと断言しています。

また、第2章では、日本の勝ち筋として、デジタル革新を起こすための「AI-ready化」が前提条件として必要だとしたうえで、そこに多様な人々の想像力と創造力が先進的なSociety5.0を作り出すと語っています。
加えて、日本は幼少期から妄想力を英才教育している国だと指摘し、他国に比べて優位性があるとも強調しています。

これから求められるビジョン設定型の課題解決
それでは、なぜ新しい日本の未来を作るために、「問いを立てる力」と「妄想力」が重要になるのでしょうか。
私が注目したのは、P391で語られている課題解決の2つの型です。

1つは、あるべき姿が明確なタイプの課題解決。
もう1つが、あるべき姿から定めるタイプの課題解決。

前者の「ギャップフィル型の課題解決」は、原因が特定できれば体系的な知識と論理的な整理で答えを導き出すことができます。

後者の「ビジョン設定型の課題解決」は、ゴールの見極めからスタートしなければならず、かつどうなるべきか見えたとしても、どのようにしたらそこにたどり着けるか、明確な答えも簡単には見つからない種類のものです。
著者は、この「ビジョン設定型の課題解決」こそ、データ×AI時代において人間に求められる真の課題解決だと言います。
なぜでしょうか。
AI時代には、前者のような知識と論理で解決できる課題は、人間の解くべき課題ではなくなるからです。

どのような領域で問題解決すべきか考え(=問いを立てて)、魅力的なビジョンを設定(=妄想)する。
そして、そんな魅力的なビジョンに向けて、知識や論理を超えてたどり着こうと試行錯誤する。
これからの時代に求められる人間の役割はここにあるのだと感じ、こうした役割を担えない人材は、下流以下に落ちてしまうと危機感を持ちました。

答えのない課題に挑み続けることが道を開く
著者自身は、未来に向けて生み出したい世界のために、「都市集中型の未来に対するオルタナティブ」という問いと、「風の谷」というビジョン・妄想を設定しています。
このビジョンは、私自身が日頃感じている漠然とした不安感に対する、魅力的な答えの1つであるように感じました。
著者の周りでも、多くの人がこの妄想に共感し、1つのムーブメントが起きつつあるようです。

このような魅力的な問いやビジョンを設定するために、私たちは何をすればよいのでしょうか。

著者は、自分が何をやりたいのか深く考える時間の中で、雷に打たれたように「風の谷」構想を思い付いています。
また、前著『イシューからはじめよ』の中で、著者はこんなことを述べています。

「『何らかの問題を本当に解決しなければならない』という局面で、論理だけでなく、それまでの背景や状況も踏まえ、『見極めるべきは何か』『ケリをつけるべきは何か』を自分の目と耳と頭を頼りにして、自力で、あるいはチームで見つけていく。この経験を一つひとつ繰り返し、身に着けていく以外の方法はないのだ。」安宅和人著『イシューからはじめよ』より

自分自身の目と耳と頭、全ての感覚を総動員して、答えのない課題に立ち向かうこと。
そして、そうした経験を積み重ね続けること。
こうした姿勢が、論理や知識を超えた能力を研ぎ澄ますことになるのかもしれません。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。Happy Reading!

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