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初春の長野の健やかさ! その2 信越トレイル

飯山の宿

長野での宿泊先は友人・T氏とRちゃんのやっている古民家宿。
窓からは懐かしさを感じる日本の農村の風景、食事は囲炉裏を囲んで里山の幸とお酒、と素敵すぎて、来るたびに古民家への憧れがつのる場所だ。まだ、知人しか泊めていないそうなので、詳細は割愛。友人である特権を享受する。
この冬は雪が多く、玄関がまるまる埋まるくらいの高さまで降ったとのこと。雪の他にも、人の事情を待ってはくれない農作業や近隣との関係など、田舎暮らしは単に憧れだけではやっていけない大変さも諸々あるだろうけれど、それらも含めて面白がっているふたりは本当に天晴。
畑のすみには雪が残っていたのだけれど、それでもカエルの鳴き声は時折聞こえてきて、季節の変わり目にいるんだなあと実感する。「ウフフフフ…」とかわいく鳴くカエルがいるの。本当だよ。

宿の窓からの風景。Theのどか。


信越トレイルへ

今回の旅の一番の目的は、信越トレイルのトレッキングだった。
信越トレイルとは、長野県と新潟県に連なる110㎞のロングトレイル。スタートは斑尾、終わりは苗場、ということで「わたしをスキーに連れてって」世代としてはその頃によく聞いた地名が懐かしく響く。スキーをしない人間にもスキー場の名前がインプットされてしまう、そういう猫も杓子もスキーの時代がかつて日本にあったのだ。

110㎞のトレイルは、10のセクションに分かれている。1日に1セクションを歩くのが目安とのこと。数日間で一気に踏破してしまう人もいれば、何回かで分けて歩く人もいる。
わたしたちは後者。昨年セクション1を歩いている。続きがあるものは、コンプリートしたいと思うのが人の常で、故にその続きを歩きにきたわけだけれど、山岳ガイドでもあるT氏「雪がどうかなあ」。
結局、一番歩きやすいと思われるセクション8に行くことになった。牧場や田園地帯が長く続くセクションだ。今回はセクション9側から、セクション7に向かって歩く。念のため、アイゼンもリュックに詰め、いざ出発!


信越トレイル セクション8

スタート地点には、かつての学校があった。まだ残っている桜の花と木造校舎は、その風景だけでセンチメンタルな気分とスピッツの歌を運んでくる。今は宿泊施設となっていて、ちゃんと活かされているのが嬉しい。

スピッツの♪夢じゃない~が合うと思う

真っ青な空、肌寒いくらいの気温。歩くにはちょうど良い天候だ。リュックにはRちゃんの作ってくれたお弁当も入っている。T氏の後に続いて元学校の裏の山に入る。
最初は体を慣らすために、ゆっくり歩くのがいいとのことで、かなりゆっくり目のスピード。それでもわたしは上りだとすぐにハァハァしてしまうんだけど。

この冬の積雪の多さは、山の木々にも少なからず影響を与えていたようで、割けた跡が生々しいかなり大きな枝もトレイル上に転がっていた。その枝をストックで払いながら、時にぶった切って崖に落としながら進んでいくT氏の後に続く。
「多分、今シーズンの一番乗り」とT氏。なんだか、すごい冒険家の仲間入りをした気分で、わたしもストックを振り回してトレイルの小枝を掃う。橅の新緑がとにかくさわやかで目に眩しい。心配していた雪はところどころトレイル上にも残っている。

新緑の美しいこと!

ここからがトレッキングの佳境に入るわけだけど、その模様はいつか完走した際に「信越トレイルしぶしぶトレッキング」として本にまとめたいと思っているので、今回は主要な出来事と写真のみご紹介。書くのが面倒になった、なんてわけでは断じてない。まあ、写真だけの方がウケがいいので問題なし。
ちなみに「しぶしぶトレッキング」は登録商標…ではなく、以前わたしが出した「アメリカ国立公園しぶしぶトレッキング旅」に由来している。続編が出したい、出したいんだよぉ。この本はとっても評判がよく、もう本屋さんでは売ってないけれど、Amazonでは高くなってるので、買わなくていいですよ。本当に。面白いけど。本当に。

さて、トレッキング中の主なできごと。

・わたし、アイゼンデビュー
・ちゃんゆみ(友人)の靴、涙を流す
・おにぎりのおいしいこと
・ニホンカモシカとだるまさんが転んだ
・途中から山菜採りに夢中
・雹で雨宿り

気をつければ必要なさそうだけど、せっかく用意したのでアイゼンを装着して歩いてみた。わたしはトレッキング用品を充実させたくない派で、そのせいでいつも装備が甘いと笑われるんだけど、今回は命にかかわるかもしれないと思って主義に反して購入したのだ。しかもブランド名入りの高いやつだ。出番が来ないのは悲しい。
アイゼンの重さは安心の重さ。ザクッと雪に刺さると、歩きやすくなる間違いなかった。

GWというのにこんなに雪がある場所も。

靴のトラブルはつきものだけど、靴の側面から白い液体が出る、というのは初めて見た。ちゃんゆみの靴だ。靴とかかとの間から白い液が流れ出る。拭いても拭いても歩いているうちに流れてくる。聖なる泉?ルルド?
ミステリアスな現象は、年季の入った靴が限界を迎えたタイミングだったということのようだけど、靴の中に液体が含まれているなんて知らなかった。ちゃんゆみは、なだめながら歩き通した。

わたしの夫は昔歩いているときに靴底がペロッとはがれて、ワニの口のようにパカパカさせながら歩いたことがあって、これまた非常に歩きにくそうだったので、歩く前に靴のコンディションはちゃんとチェックしておいた方がいいよ。と、ワークマンで直前に買った長靴でここに来ようとして諫められたわたしが、まるっと自分のことを棚に上げてアドバイス。

ハイカットの靴推奨だって

山を抜けたところでお昼。おにぎりっておいしいね。歩いた後のおにぎりはただでさえおいしいのに、Rちゃんの作ってくれたおにぎりは竹皮に包まれていて、ありがたさ倍増。開けるとともにむしゃむしゃ食べてしまったので、写真はない。思い出は胃袋の中に。


トレイル上の何か所かで、動物のフンを見た。30センチ四方くらいの広さに、まん丸のコロコロした黒いフンが大量に落ちていた。山を抜けて牧場地帯に入った時に出遭った落とし主は…ニホンカモシカ。ずっと自分達以外に動くものを見てなかったので、はるか前方の道路脇に動く影が目に入った時は、クマだったらどうしようかと身構えたけど、動く影の方も身構えたようで、動きが止まった。じっと固まってこちらを見ている。少し距離をつめる。固まったまま動かない。少し距離をつめる。そして、ようやく写真が撮りやすいくらいの距離になった時、逃げていった。

フンがきれいなのだ、タピオカみたいで

このトレイルは最初と最後の山を抜けると、歩くのはほぼ平らなところ。ただ歩く距離は長い。
冬季閉鎖中の牧場脇で変わらない景色にたいくつし始めたときに、思わぬ救世主が現れた。山菜だ。

フキノトウの花、可憐だが探しているのはもっと若い子

最初は、フキノトウ。それからコゴミ、タラノメ、コシアブラ、ゼンマイ。見つけ方がわかってくると、次々と目に入ってくるようになるし、採り方がわかってくると、より食べごろのものを探して奥へ奥へと行きたくなってしまう。山菜採りで遭難する人がいるのがわかるなあ。コシアブラなんて崖すれすれに生えているんだもん。タラノメの人気がすごいというのもわかった。

次のが生えてくるように根こそぎ持っていかない、自分が食べられる量だけ採る、というのがマナーだとT氏。了解です。
すごいたくさん採った気がして満足したんだけど、帰ってから気づいた。もっと食べれた。

持って帰って本人が美味しくいただきました

雨が降り出したかと思うと急に雹に変わった。山での天気予報があてにならないのは知ってるけど、晴れ予報だったのに。人の家の軒先でしばし雹やどり。人里までたどり着いていたのは幸い。パチパチとアスファルトではじける音は迫力がある。

オレゴン州といっても誰も疑わないような風景


小雨に変わったところで再度歩き始める。ちなみに、ゴール地点手前にトイレを発見したときのわたしの嬉しさ、喜び、安堵を10字以内で表すと、「ゴールした時以上」。

ともあれ、無事ゴール。ゴール地点は、飯山線の森宮野原駅で、日本最高積雪地点、という標柱がたっている。駅においての最高積雪は7m85㎝だそう。想像がつかない。

ゴール地点の駅。誰もいない。

今までトレッキングというと、山歩き(辛い)という思い出しかなかったので、山里を歩くというのは初めての経験だった。気持ちに余裕ができて周りを見ながら歩けるので、たまにはいいかも。ただアスファルトもあるので、真夏は避けたい。

のんびりエリアのらくらくトレッキング


この日、わたしが歩いた距離は、21.8㎞!
この後に入った温泉は本当に極楽だった。

続く。

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