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(大人の)熱海の暮らし方 ~観光にお勧めの熱海の建物3選


そろそろ、熱海に遊びに行きたい、と言ってくる友人たちを、どこに案内するか考えなければいけなくなってきた。


と書きたかったのだけど、残念ながら、それほど友人がいないようでいっこうにそういう申し出はこない。どうしたことだ。

せっかく、熱海のいいところを教えてあげようと思ってたのにさ。ぷんぷんぷんすかぷん。

しょうがないから、そんな日のために温めていたプランはここで披露していくことにしよう。

今回は、熱海の歴史と文化と建物に少しは興味のある人に薦めたい建築物だ。

入るのにかかる費用と、建物の素晴らしさが比例するわけではないけど、行きやすさにはかかわってくると思うので、入場料の安い順にご紹介。


双柿舎


カワセミが見守ってるよ


2本の柿の木が庭にあったことから「双柿舎」と名前の付けられた、坪内逍遥の住まい。

こういう名前のついた邸宅って憧れませんか。わたしはよだれが出る程憧れる。

例えば、東京都文京区にあった、森鴎外の家は「観潮楼」。高台にあってかつてはそこから海が見えたから。
引っ越しを繰り返した幸田露伴の家は「蝸牛庵」。カタツムリのように家を変えるから。
いい、そういうのいい。わたしもせっかくなので自宅に名前をつけたいくらいだ。


高台の細い道沿いに続く生垣の、それほど大きくないけれど立派な入り口は週末だけ開けられる。

重々しく双柿舎と書いてある額の下をくぐり敷地に入ると、日本家屋まで続く石畳。
建物まで近づくとその開け放たれた玄関から奥に広がる庭園が見える。
思っていたよりも庭園の奥行があってびっくり。

窓の向こうの景色もおもてなしのひとつ


見学者のように見えたガイドさんが軽く建物の説明をしてくれた。

坪内逍遥自身が設計し、大正9年から亡くなるまで15年間を過ごした家だということだ。

こういう、昔のインテリってなんでもできちゃうのが、すごい。作家でありながら設計もしたなんて。窓枠とか、外壁の素材から、窓から見える風景まで、細かいこだわりがある素敵な家だ。


戸袋も凝っているので、修繕が大変に違いない


敷地内に2棟ある日本家屋のうちの1棟は奥様の隠居処だそうで、これがまたいい感じのこじんまりさ。こういうところで日がな一日読書をして過ごしたいぞ。羨ましさに鼻血が出そう。


奥様用の建物


特にこだわりの書屋は、和洋中折衷のコンクリート造り。宗教施設の塔のような外観だが、屋根の上には風見鶏ならぬカワセミが鎮座していてかわいらしい。

中の見学も可能


庭園は、木々や草花も手入れが行き届いていて、高低差のある地形を生かした造り。
わたしが行ったときは、雨上がりで、苔むした石の上や濡れた泥の上は滑りやすかったのだけど、逍遥は、ここを着物姿で、ということは足元は下駄か草履で歩いたのに違いない。すごいな昔の人。スニーカーでもそうとう滑ったわ。

和服に帽子。カッコいい


ところで肝心の坪内逍遥っていうのは何者かというと、明治生まれの作家、翻訳家。シェークスピアの翻訳などでも知られる人だ。

坪内というと、わたしは、NHKの連想ゲームの坪内ミキ子が最初に浮かんだんだけど。そのミキ子さんの祖父にあたる。ちなみに連想ゲームはいつやってたんだっけと調べたら1991年までだった。古いな。壇ふみとかが出てたんじゃなかったっけ。

現在この建物は逍遥が教鞭をとった早稲田大学の持ち物で、基本的に土日のみ見学が可能、太っ腹なことに入場料はかからない。ありがたい。

ちなみに名前の由来の柿はもう枯れていて、今は新しく植えられた柿の木がある。


起雲閣


堂々たる建物


「起雲閣前」というバス停があるので観光客でも迷わずに行ける、熱海を代表する観光スポット起雲閣。

熱海には、三大別荘と呼ばれる建物があって、岩崎別荘(非公開)、今はなき住友別荘と並んでその一つに入っているのが、この起雲閣。

三菱、住友ときたら、もう一つは三井かと思いきや、違った。

建てたのは実業家で後の大臣・内田信也(この人のWikiを見たところ、「三大船成金」の一人と書いてあったので、調べると面白い人かも。)。
母親の静養のために建てたもので、和館の完成は1919年(大正8年。)

その後、「日本の鉄道王」とも称される実業家で後の議員・根津嘉一郎(この人のWikiを見たところ、「ボロ買い一郎」と揶揄されることもあった、と書いてあったので、調べると面白い人かも。)が所有、昭和初期に洋館が建てられた。

さらにその後は1947年(昭和22年)に実業家で後の議員・桜井兵五郎(この人のWikiまで調べる余裕はなかった。しかし成功した実業家は熱海に豪邸を持ち、その後政界に進出しがちなことはわかった。)が取得。旅館として2000年まで営業していた。

現在は熱海市が所有している。


この建物の何が素晴らしいって、何もかも。和風の建物、隣の洋館、緑の芝、その周りの日本庭園。もちろん立地もいい。

近代建築好き、日本庭園好き、大正ロマン好き、タイル好き、ステンドグラス好き、文豪のエピソード好き、それぞれの心をわしづかみにする。


庭園から見た和館。泊まってみたかった


文豪は押しなべて温泉に逗留しがちだが、この建物が旅館だったときにももちろん、あまたの文豪が訪れている。太宰とか三島とか志賀とか谷崎とか。パネル展示がされているので、ちょっとだけお勉強もできる。

太宰は、かの山崎富栄と泊まったそうで、その時代に思いを馳せようとしたものの、広く明るく美しい部屋を見ても、愛人との逃避行的な淫靡さはみじんも感じられないのだった。要するに後ろめたくなかったんだろうな・・・。

太宰が泊まった部屋は「大鳳」という座敷


2代目の持ち主の根津嘉一郎が造った洋館がまた美しい。重厚さの中にチラリとかわいらしさがある。


建てられた当時は相当モダンだったことでしょう


ガラス張りのサンルームからの柔らかい光が曇り空を忘れる。


アールデコのデザインが基調だそう


「お姉さま、今年も桜がきれいね」
レースのカーテンをちらりと持ち上げながらの、深窓の令嬢ごっこがしたくなるような、絵にかいたような洋館だ。


桜の周りの散策も素敵よ


お金持ちの応接室にかかせないもの、それは暖炉。もちろん、ありますとも。重そうな大きな照明、厚い絨毯ももちろん。

暖炉の上のレリーフの重厚感たるや


昔のガラスのゆがみがたまらない。

ステッカーじゃない本物のステンドグラス


冬はおそらくものすごく冷たかったろうけど、そんなことどうでもよくなってしまうほどかわいい床のタイルのデザイン。

タイルもかわいい


しかし、お嬢様ごっこではここまでだった。
ローマ風浴室を見た途端、わたしの想像が追い付かなくなった。
広くて明るいお風呂場だ。ステンドグラスと湯出口は建設当時のものだとか。旅館時代には、ここでテルマエロマエだったんだろうか。

半身浴もできたのかな。


何を隠そう、ここに来たのは、自分たちが熱海で物件を探しているとき。しかも、内見の直前だった。そりゃもう、大失敗。
あまりにこの建物が細部までこだわりぬかれた美しさに満ちているせいで、見に行った物件がくすんで見えてつまらなくてしかたなかったのだ。
もちろん、直後に見に行ったその物件は決定に至らず。比較対象を間違えるとダメですよ、と物件探しのご参考まで。

休館日:毎週水曜日、年末年始
入館料:大人610円、高・中学生360円、小学生以下無料


旧日向家熱海別邸


日向邸の入り口


見学は完全予約制。当日の予約不可。1回の人数は10人まで。ガイド付き。所要時間約90分。靴下必須。

見学に行くのにちょっと気合の必要なこの建物。それもそのはず、地下室は重要文化財になっている。
もともと個人宅なのにどうしてそんなにすごいのかというと、世界的建築家であるドイツ出身のブルーノ・タウトが唯一日本に残した建物ということで評価されているのだ。1936年に竣工された。

熱海駅から、上り坂をキュキュッと上がり、10分程度のところにその家はあった。敷地への入り口も、最初に見える建物も、これといってすごさを感じるものではない。品のいい普通の2階建ての1軒家に見える。

予約の時間になり、中に入る。
部屋からは手入れされた芝生の庭、そしてその先に海が見える。坂を上ったご褒美はやっぱり海だ。

ガイドさんの解説があった。
どうしてこの建物がタウトによって設計されたのか。そもそも日向氏とは何者か。見学が再開されるまでの保存工事について。等々。

まずは、ブルーノ・タウトが造った地下ではく、2階建ての和風の建物から見学する。こちらも、銀座の和光の設計などで知られる渡辺仁の設計によるそうで、やはり日向氏ただものではない。ちなみに実業家というっことだ。

大きな窓から見える海の風景、温水を巡回させて暖を取る仕組み、石造りの浴槽など、見所はたくさんあった。

日向氏が亡くなった後は、民間企業の持ち物となって、保養所として使われていたそうだが、一緒の見学ツアーだった人のお兄さんが昔ここに泊まったことがあるそうで、かなり得意げだった。正直、羨ましい。

さて、いよいよ地下室へ向かう。

ちなみに、写真撮影はOKだが、SNSに載せるのはダメ。ということで、写真はありません。悪しからず。

中に興味がある人は、わたしのキーワードでイメージを膨らませてから、公式サイトなどで写真を見て答え合わせをすると、楽しめるのではないかと思う。

***

斜面を活かした造りで、地下といいつつ明るい。
階段を下りて、目の前に広がる大広間は、色彩を無くしたベルサイユ宮殿の鏡の間のよう。(=長細い)
全体は木を多く利用していて落ち着いたイメージ。
天井からは2本の曲線を描きつつ、イカ釣り漁船のようにいくつもの電球が下がり、部屋を明るく照らしている。
圧巻。
広い窓からはどこからも海が見えるようになっている。
窓の反対側は斜面を活かした階段があり、その上に部屋が作られている。
どこに座っても窓が額縁のような役割を果たし、海の景色が絵のように楽しめる。インフィニティ。
手すりに竹を利用するなど、和を強く感じる部分も多い。さらには、和室までしつらえてある。
ブルーノ・タウトは桂離宮は絶賛、日光東照宮は罵倒。


さて、どんな建物が想像できたでしょう。
ブルーノ・タウトのこだわりを是非直接見てみてほしい。

開館 : 水曜日、土曜日、日曜日、祝日(完全予約・シフト制)
入館料 : 大人 1,000円、中高生 700円、小学生以下無料

以上が、(今のところ)おすすめの建物ベスト3だ。


さて、素敵な建物を思い出してるうちに、やっぱり自分の家にも名前をつけたくなってきた。
これといって建物が立派なわけでも、特徴があるわけでもない。強いていえば、近所の猫たちが自由に通り道にしていることか。

猫道亭。どう?


そろそろ友人が遊びに来ないかな。猫しか来ないのだ、本当に。


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