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夫が脳梗塞になったときの話

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4年前、夫が脳梗塞になったときの闘病とか家族のいろいろとかをつづります。 今は元気にしてて、普通にお酒飲んでますよ。まったく。
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夫が脳梗塞になったときの話 その11(最終話)

家に夫が帰ってきた! 退院祝いの乾杯は、夫の好きなトマトジュースだ。 奮発して、セレブ・デ・トマトで買って用意しておいた最高級トマトジュースを、グラスに注いだ。トロトロ加減がいかにもお高い感じ。 「おめでとうー」のあとにすかさず「美味しいでしょ」と美味しいを強要。 「なんか、どろどろしててスープみたい。これはジュースじゃないな」 とかわいげの無い返事がまた夫らしくて、夫が帰ってきた実感がわいた。 ビールが飲みたい、としつこいので恐る恐るビールをグラスに注いだ。 そのときのビ

夫が脳梗塞になったときの話 その10

退院への道 切り刻んだ食事ではあるが、固形食が食べられるようになってから数日後、ようやく夫の鼻のチューブが抜かれた。 透明だったチューブだが、体内に入っていた部分は茶色く色が変わっていた。これが夫の命をつないでいたんだと思うと感慨深く、同時に恐ろしくもあった。 病院には患者さんの食道を兼ねた談話室があったけれど、夫は決してそこにはいかず、食事は自分の病室のベッドの上で取っていた。 あるとき、向かいのベッドのおじいさんが、食事を喉に詰まらせて、看護師さんやお医者さんが集まる

夫が脳梗塞になったときの話 その9

明るい兆し 水を飲む。 そんな、普段は意識しなくてもできることができない、というもどかしい日々に終わりがきた。 水が飲めたんだよ。 そう言うと、思いっきりのどを動かして、夫が水を飲み込んだ。 Water! わたしはさながら、ヘレンケラーの手のひらに井戸の水をかけるサリバン先生の気分だ。 立った、立った、クララが立った! のハイジの気分でもある。 とにかく良かった。普通の生活への第一が踏み出せるという実感があった。 できなかったことが一度できるようになると、どうしてでき

夫が脳梗塞になったときの話 その8

ストレスがたまってきたリハビリ病院に転院して1週間。 相変わらず、夫は飲み込みの練習が続く。 嚥下リードというゼリーを口に含んでごっくん。だけど、ごっくんまではできても喉から下にはいかないので、口から出す。それの繰り返し。 部屋の人ともまったく仲良くなる様子もない。 ただ、常に大声で誰かの名前を叫んでいるおじいさんが叫んでいる名前が、奥さんでも家族でも看護師さんでもない、誰だかわからないという情報だけは得たようだった。 ストレスが溜まってきているのは、よくわかった。 わた

夫が脳梗塞になったときの話 その7

お正月を病院で過ごす哀しさ リハビリ病院で夫の本格的なリハビリ生活が始まった。 夫の症状は右半身の温度や痛みの感覚の麻痺やしびれと嚥下障害。 入院直後は物が二重に見えていたというが、それは治ったようで、リハビリの中心はものを飲み込む練習と、主に体幹を鍛える運動。 わたしが病院に行ったときに、ちょうどリハビリが始まるときだったことがある。 理学療法士さんと夫が外に出ようとしていたとことろに遭遇、「よければ奥さんもご一緒にどうぞ!」という明るいお誘いに、つい「はい」と答えた。

夫が脳梗塞になったときの話 その6

リハビリ病院に転院救急で運ばれた大学病院から、リハビリ設備の充実した病院へ移れと言われてしまったので、義父と転院の手続きに行った。 行く前は、専門的なところでリハビリに専念すれば、きっと未来は明るい!という気分だったのだけど、実際の病院を見た帰り道は二人とも無言だった。 リハビリの病院を見たのは初めてだった。 患者さんはみんな同じ水色の病院着。ほとんどがかなりの老人。 病院内を案内してもらったときに見えた洗面所の台には、大きく名前の書いてある歯磨き用のカップがずらりと並んで

夫が脳梗塞になったときの話 その5

先の見えない日々朝、病院に行くと、ちょうど夫のいる病室から先生たちが出てくるところだった。 嚥下障害、嚥下障害という言葉が聞こえてきたので、夫のことだとわかる。つまりは状況は変わってないのだな。ふう。 病室では夫が、食事代わりに鼻からの栄養をとっているところだった。 昼間は地下のリハビリ室で運動中心のリハビリもしているとのこと。 相変わらず飲み込みはできない。 ごっくん、まではできるのに、ごっくんしたものが喉から下に落ちていかないという症状。 水を口に含んで、ごくんと飲み

夫が脳梗塞になったときの話 その4

入院生活の始まり夫の検査は続く。カテーテル検査。 夫の嫌がることといったら。なにせ、注射は痛いからイヤといって、会社のインフルエンザの予防接種も受けなければ、健康診断の血液検査まで拒否していた人だ。 ともあれ、嫌だからといって断れるはずもなく、夫はストレッチャーで運ばれていった。 無事に検査を終えて戻ってきた夫はしばらくぼんやりしていた。入院以来、口にものを含んだまましゃべっているような感じのしゃべり方だったのだけど、ますますぼんやり。このまま戻らなければどうしようと不安に

夫が脳梗塞になったときの話 その3

救急病院にて 先生の診察が始まった。いすに座って前へならえは、4回目。 そして夫はMRIをとる部屋に運ばれていった。 わたしは廊下で待つ。人気のない深夜の大学病院の廊下。たまに人が通るとドキドキする。 さすがに、ケータイを触るのは気が引ける。 しかし、手持ち無沙汰なので、頭に浮かんでくるのは最悪の事態のことばかり。払拭してもしても、イヤな場面が浮かんでくる。はあ。 夫の実家に連絡を入れなくちゃ。 70代の義父母、特に義母は最近血圧が高くてどうの・・・っていつも言うようにな

夫が脳梗塞になったときの話 その2

救急車を呼ぶべきか シャワーを浴びた夫が、右側だけ温度を感じないと言いだしたので、ついにこれは病院に行ったほうがいいんだなと思った。 ただ、もう次の日には病院の予約を入れている。それでも今行った方がいいのか、それとも明日まで待っていいのか。 本人は立ってしゃべっている状態なので、緊急性がよくわからない。 わたしは #7119に電話をした。 救急車を呼ぶべきかわからない場合に相談する番号だ。 夫の年齢と症状を伝えた。 いすに腰掛けた状態で、前へならえができるか、とかいくつ

夫が脳梗塞になったときの話 その1

今は普通に生活している(ように見える)夫が、4年前に脳梗塞になったときのことを綴ります。 始まりは頭痛 4年前の12月。忘年会が続いている時期のことだった。 夫が頭が痛いから寝てるね、と言った。会社から帰ってからのことだ。翌日も会社には行ったものの、帰るとすぐに横になった。週末もベッドで過ごしていた。ときどき目の疲れからの偏頭痛は起こす人なので、わたしはそれほど気にしていなかった。 むしろ、飲み過ぎじゃないの。こんな時期に風邪とかひかないでよね。大掃除したいのに、と心