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2024JFL 第15節 ミネベアミツミFC戦マッチレポート

試合は終盤に差し掛かり85分を過ぎていた。今季初のナイトゲームはむせ返るような暑さとじっとりと身体にまとわりつく湿度で、プレーする選手もピッチサイドの我々もかなり体力を消耗していた。このままドローで終わるのか…今季7度目のドロー…、多くの人がそう思っていたに違いない。何度かあったピンチは身体を張った守備とGK松本の好セーブでなんとか跳ね返してきた。そして後半のシュートはわずかに1本、得点の匂いがするような場面を一度も作れないまま試合が終わろうとしていた。

しかし86分、加倉が決める。さらにその6分後、アディショナルタイムにまたも加倉が追加点を奪って試合を決めた。今日の試合の流れから、こんな劇的な結末が待っていようとは誰が予想していただろう。

俺達のヒーロー、加倉広海!

5シーズンぶりにヴィアティン三重に戻ってきた男、夏といえばこの男、汗かきナンバーワンと言えばこの男、泥臭いゴールといえばこの男、「俺達のヒーロー・加倉広海」。前半戦最後となる大事な一戦で、本当に苦しい展開だったこの大事な一戦で、値千金のゴールを2発も決めて勝点3を手繰り寄せた。

85分までの苦しい展開も、暑さも疲労もすべて消し飛ぶ劇的勝利でラピスタの暑い夏が始まった。


第15節 スターティングメンバー

GK:21 松本
DF:2 谷奥・4 饗庭・24 池田・30 篠原
MF:7 森主・19 児玉・20 金・40 鈴木
FW:5 菅野・10 田村
SUB:1 森・3 伊従・17 野垣内・13 安西・28 野口・35 寺尾・29 加倉

スコア

ヴィアティン三重 2-0 ミネベアミツミFC
(前半:0-0 / 後半:2-0)

・86分 加倉 広海(V三重)
・90+2分 加倉 広海(V三重)

ハイライト

枚方との上位対決を制してホームに戻る

前節は2位につけていたティアモ枚方とアウェイで対戦。開始早々にゴラッソを決められ相手の流れに飲まれるかと思った矢先、ゴール前で粘った梁がマイナスに折り返したところを児玉が強烈なミドルを突き刺して追いつく。2年前のシーズン途中にティアモ枚方から移籍してきた児玉慎太郎が古巣相手に目の覚めるような同点弾。さらには前線から強烈なプレッシャーを掛け続けていた田村が相手GKのパスをブロック、跳ね返りがそのままゴールに吸い込まれ逆転。前半のうちに試合をひっくり返した。後半は枚方の巧みなパスサッカーに対し防戦一方の展開になる。しかし全員が勝利への執念を燃やし続け追加点を許さず逃げ切った。まったくもって楽な展開ではなかったが、負けない粘り強さ、勝ち切る強さを発揮できた価値あるゲームとなった。試合後には枚方まで大挙して押し寄せたサポーターと笑顔の集合写真。

アウェイ恒例になりつつある勝利の集合写真

一巡目の締めくくり、絶対に勝ちたい一戦

ホーム・ラピスタで迎えた第15節は前半戦の締めくくり、ここまで14チームとの対戦を終え、一巡目最後の相手はミネベアミツミFC。最下位に沈んでいるものの前節は沖縄SVを相手に素晴らしい試合運びを見せて3-1で勝利している。それぞれのチームが試合を重ねるごとにチーム力を高めており、今季のJFLも順位に関わらずどこが勝ってもおかしくない状況にある。

迎えるヴィアティン三重は第7節以降スタメンを続けていた大橋が外れ、攻撃の中心を担っていた梁もメンバー外。代わって森主、菅野がスタメン入り。金と森主をダブルボランチに入れたあたりにこの試合がタフになる予感がする。そして池田はここまで唯一のスタメンフル出場。サブには怪我から復帰の寺尾が名を連ねる。GKは10節ソニー戦以降スタメンに定着している松本。

鉄人池田は今日もスタメン

前半、チャンスは少なく試合は動かず

西陽が差す中、ミネベアミツミFCボールでキックオフ。ヴィアティン三重のシステムはいつもと変わらないが、普段トップに入っている田村が2シャドーの右に入り、菅野を最前線に置く布陣で臨む。序盤からお互いにロングボールを蹴り合いどちらも決定機を作れないまま試合が進む。23分、右サイドから蹴られたロングボールが裏に抜け最初のピンチを迎える。完全にフリーでゴールに向かうミネベアミツミの木橋、追う篠原がスライディングで脚を伸ばすが届かずシュートを打たれる。しかしGK松本が抜群の反応を見せて見事セーブ、決定的なピンチを凌ぎチームを救う。

6試合連続スタメンの松本が好セーブ

その後も互いに決定的な場面は作れなかったがミネベアミツミの方がややボールを保持する時間が長く、アグレッシブに狙ったシュートが何本かあった。一方ヴィアティン三重はゴールを脅かすほどの場面は作れないまま後半へ。

苦しんだ後半、最後に待っていたのは加倉劇場

0-0で後半開始、どちらも先制点が欲しい。51分、自陣から篠原が左サイドを上がる児玉に正確なロングボール。前にいた鈴木に頭で落とし再び児玉に戻す。鈴木が相手2人を引き付けて作ったスペースに入った金がパスを受ける。ゴール前を見た金、低く浮かせたクロスをゴール前に入れる。相手DFの背中から斜めに走り込む田村、頭で合わせたが強く叩くことはできない。良い形でゴールに迫った。ここから長い我慢の時間が続く。

枠を捉えられず悔しい田村

60分、鈴木が負傷したタイミングで二枚替え、鈴木に代わって安西、菅野に代わって加倉が入る。

激しく体力を奪われる消耗戦、互いにチャンスらしいチャンスは作ることができないまま時間が経過するが、集中を切らさず勝利に向かって意地を見せる。71分には児玉に代えて野口が入り、83分には森主に代えて寺尾が入る。

交代で入る安西と加倉

決定的なピンチを迎えることはないものの後半の中盤からヴィアティン三重陣内でプレーする時間が多くなる。サイドから何本もクロスを入れられるがゲームキャプテンの篠原、GK松本を中心に集中した守備を見せピンチの手前で跳ね返す。残り時間は10分を切りロングボールを蹴り合うオープンな展開に。84分、左サイドからヴィアティン三重のゴール前に鋭いグラウンダーのクロスを入れられる。相手選手二人が合わせに行ったが谷奥が身体を投げ出してスライディング、間一髪のところでコースを消しシュートは枠を逸れた。闘う男、谷奥健四郎がチームを救う。

集中を切らさない守備陣

85分、GK松本が渾身の力を込めてゴールキックを蹴る。ターゲットは怪我から復帰して交代で入った寺尾憲祐。身長は167cmと小柄だが抜群の跳躍力を誇る。ボールの落下点に走り込む寺尾、競り合うミネベアミツミFC・大川は身長184cm。思い切り跳んで身体を当てる寺尾、体勢を崩した大川は前にボールを飛ばすことができず後方にすらしてしまう。そのボールは野口の足もとに収まる。顔を上げて前を見た野口、左を走る田村はオフサイドポジション、右を走る加倉とアイコンタクトし相手DFの背後のスペースを狙った絶妙な浮き球のパスを入れる。

脚を伸ばして先に触った加倉

加倉の加は加速の加、猛烈なスプリントを見せた加倉は一瞬で相手DF2人を置き去りにしてスペースへ走る。前に出られない相手GKを見て更にスピードを上げる。ボールの落下点に先に到達した加倉、右脚を伸ばしてコントロール、そしてGKをかわして倒れ込みながらつま先で押し込んだ。86分、待望の先制点、大歓声に包まれる観客席。ゴール裏サポーター席に両手を広げて駆け寄る加倉、それを迎えるサポーター、そこには驚くほど集まった子どもたち。

加倉味(み)満点のゴールシーン!

アディショナルタイムは5分、前掛かりになって攻めるミネベアミツミFC、なんとしても勝ちきりたいヴィアティン三重はボールを奪うと相手陣地のコーナーポストに運んでキープ、時間を使う。コーナーフラッグのもとで激しい肉弾戦、飛び散る汗。

身体を張ってボールを隠す

90+2分、コーナーポストの攻防から相手ボールのスローイン。そこへ寺尾が厳しくプレッシャーをかける。相手DFが前へ大きく蹴り出そうとしたボールはミスキックになりGKの方向に回転しながら飛んでいく。バックパスで手を使えない相手GK、その処理に戸惑う隙を見た加倉がGKの目の前に走り込んで頭で押し込む。先制点から6分後、加倉のお祭りゴールが決まった。

この夏最初のナイトゲーム、夏のラピスタ、ヴィアティン夏祭り、帰ってきた夏男・加倉が主役になった。

同期なふたりのカウント10はまだ鳴らない

2015年入団、東海2部時代を知る男

この日のホームゲームは「ヴィアティン夏祭り」と銘打たれ、今季最初のナイトゲームで盛り上がろうとみんなが楽しみにしていた。梅雨時期とあって当初は雨予報だったが一転して晴れ。時折雲が現れ小雨がパラつくことはあったが試合前、試合中を通してほとんど降られることはなかった。華やかな浴衣を着たヴィアティンチアのメンバーたち、サポーターの中にも浴衣や甚平を着た人もちらほら。楽しそうに走り回る子どもたちもたくさん。盆踊りさながらのやぐらも組まれて試合前から盛り上がっていてヴィアティン夏祭りの舞台は整っていた。

夏と言えば浴衣、浴衣といえばチア♪

そして最後は帰ってきた夏男が大きな花火を2発もぶち上げ、夏祭りのフィナーレを最高の形で仕上げてくれた。加倉はそういう男だ。

2015年に九州産業大学からヴィアティン三重に新加入。当時のヴィアティン三重は東海リーグ2部に所属していた。翌年には東海リーグ1部、2017年にはJFLに昇格、2019年12月に退団するまでがむしゃらなプレースタイルでファン・サポーターを魅了してきた。2018年の春から怪我に悩まされ最後の2年間は苦しい時期を過ごした。

あれから5年の月日が過ぎ、ヴィアティン三重に戻ってきた加倉は今年32歳。こんな形で再びスタジアムを熱狂させる日がまたやってくることを誰が想像しただろうか。

同期なふたり、勝利の汗だくハグ

以前在籍していた時も子どもたちにとても人気があった加倉、その当時の小学生はもう中学生〜高校生ぐらいだろうか。その彼がまたゴール裏にたくさん集まってくれた子どもたちを熱狂させた。あのゴールを目の前で見た子どもたちは加倉が誰かわからなくても、サッカーのルールがわからなくても、JFLとJリーグの違いがわからないとしても、間違いなく興奮したに違いない。そして彼のことを僕らのヒーローだと思ったことだろう。

2024シーズンのJFLは15試合を終えた。ヴィアティン三重は3位で折り返し。ここまでの試合を振り返れば悔しいことの方が多かった気がするが、それで3位につけているのは悪くない状況だと言える。欲を言えば、課題を上げればきりがないが、闘いはまだまだここからだ。

試合後のお見送りを終えたあと、ピッチに座ってクールダウンをしていた加倉、谷奥、児玉のところで少し雑談に混ざった。加倉の劇的ゴールを称えつつ、勝ち切れたこと、負けなかったことをヨシとした上で、試合内容を冷静に振り返っていた。「課題と反省点は山ほどある、勝って反省ができるなんて本当にありがたいこと、加倉に感謝だよ。」と谷奥は言った。

劇的勝利に湧いてお祭り気分で帰ろうとしていたところだったが、試合を冷静に振り返る選手たちの会話を聞いて、まだ何も手にしていないことを思い出した。次は首位を独走する高知ユナイテッドSCを迎えてのホームゲーム。前回対戦のリベンジ、首位との闘い、ホームゲーム…、いろんな想いが交錯するが、地に足をつけて目の前の闘いに臨もう。

でもこれだけは言っておきたい…
ホームゲームで勝つって最高だ!!!!!!!

森主麗司選手・JFL通算100試合出場

公式記録

試合後コメント・フォトギャラリー


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