見出し画像

2024JFL 第11節 Honda FC戦マッチレポート

JFLには「門番」と呼ばれる強豪・古豪が存在する、そのひとつが昨年のチャンピオンチームであり今節の対戦相手Honda FCである。Honda FCが門番たる所以は、JFLからJリーグ昇格を目指すチームに対し「Jへ行くなら俺達を倒してから行け」と言わんばかりに(もちろん実際には言っていないが)昇格を目指すチームの前に常に立ちはだかってきた。今のJFLになってから25回のシーズンで実に10回の優勝(本田技研工業時代を含む)を果たし、天皇杯ではJFLで唯一、アマチュアシードを得て予選を免除されていることからも、その強さは疑う余地がない。

2017年からJFLを闘うヴィアティン三重は今季で8年目のシーズンを迎えるが、これまでの7シーズンでHonda FCとの通算成績は0勝4分9敗、13回闘って一度も勝ったことがない。そして迎えた14回目の対戦、ついにHonda FCに勝利した。8年かけてやっと掴んだ初勝利、初めての勝点3。14回目で勝利したというストーリーのためにこれまでの積み重ねがあった…はずはないが、今シーズンにかけるクラブの想い、そして選手・スタッフ・サポーター、さらには四日市に集まった多くのファンの勝利への想いが実った結果だ。あいにくの雨にも関わらず3,114人もの観客が詰めかけたスタジアムは過去最高とも言える勝利への一体感が溢れており、歴史的な勝利を飾るに相応しい一日になった。


第11節 スターティングメンバー

GK:21 松本
DF:2 谷奥・4 饗庭・19 児玉・30 篠原
MF:7 森主・18 大橋・24 池田・41 梁
FW:10 田村・29 加倉
SUB:1 森・17 野垣内・16 稲福・20 金・22 川中・8 瀬尾・9 大竹

スコア

ヴィアティン三重 2-0 Honda FC
(前半:2-0 / 後半:0-0)

・16分 梁 賢柱(V三重)
・27分 饗庭 瑞生(V三重)

ハイライト


ラスト1分で台無しにしたソニー仙台FC戦

今節の勝利を振り返る前に目を向けなければならない事実がある。一週間前にアウェイで行われた第10節・ソニー戦である。序盤から相手にチャンスは作らせないもののボールを保持される時間が長くヴィアティン三重もチャンスを作れずに苦しい展開が後半まで続いた。しかし後半に入って68分、途中交代で入った大竹がたった一度のチャンスを見事に決め待望の先制点を奪う。左サイドから児玉が入れた絶好のクロスに対し頭ふたつ高く跳んだ大竹がヘッドで叩き込んだ。

大竹の先制ゴール

その後もチャンスは作れず、相手に押し込まれる場面は多かったが全員が身体を張った守備でソニーの攻撃を跳ね返し続けていた。ひたすら跳ね返した。90分が過ぎ、後半のアディショナルタイムは3分と告げられ、最後は11人が自陣に戻って守備にあたる。しかし92分が過ぎた時、自陣で簡単にパスを繋がれて左サイドの深いところまでボールを運ばれる。その間、ボールホルダーにほどんどプレッシャーをかけられず簡単にポケット(ゴール前、ペナルティエリア内のサイド部分)を取られてしまう。そして気づいた時には失点。残りあと1分のところで勝ちゲームを取りこぼしてしまった。試合後の間瀬監督は「最後の1分で今日の試合を台無しにしてしまった」と険しい表情で短く振り返った。

負けにも等しいドローに険しい表情

試合終了の笛が鳴り、整列を終えてピッチをあとにする選手たち。彼らはそれぞれにやり場のない感情を露わにしていた。その中でもゲームキャプテンの篠原は悔しさを押さえきれず怒号にも似た声をあげていた。あれは最後に油断したチームに対してだったのか、自分自身に対してだったのか。いずれにしてもあの場にいた全員が最後の甘さを突きつけられたことを自覚していた。勝点1を手にしたものの、負けに等しい引き分けだった。

一週間を経て迎えたHonda FC戦

ソニー戦を終えて最初のチームミーティング、饗庭瑞生いわくさすがに重苦しい雰囲気で始まったという。しかし過ぎた試合は戻ってこない、チームは次に向かって何が必要なのかを全員で解決するために何度も何度も映像を見返し、あの時どうすべきだったのか?どこを修正する必要があるのか?そこに徹底的に向き合いトレーニングを重ねた。

そして迎えた四日市でのホームゲーム。「四日市市サンクスマッチ」と銘打ち、いつものホームゲーム以上に多くのイベントが企画され、クラブがなんとしても平均観客数2,000人を達成するんだという意気込みを込めた第11節。サポーターもいつも以上に気合いが入っていた。それはいくつものイベントが企画されていたこともあったが、前節で起こったアディショナルタイムの失点に落胆し、そこから立ち直って迎える相手は絶対王者Honda FC。チームが自信を取り戻して勢いを再び掴むには最高の舞台が整っていたからだ。

試合開始前からボルテージは最高潮に

しかし相手は絶対王者、門番、ディフェンディングチャンピオンのHonda FCである。立ちはだかる壁は高く分厚い。

梁のFK、饗庭のヘッドで2点先取

13時、小雨が降るなかHonda FCボールでキックオフ。

試合開始から前から田村・加倉・梁が積極的にプレッシャーをかけ相手の守備陣を下げさせる。雨で荒れたピッチを考慮して互いにロングボールが多くなる展開。序盤から明らかに球際の強さを意識したプレーを見せるヴィアティン三重の選手たち。前線からのプレス、セカンドボールの奪い合いでの寄せ、ロングボールに対する空中戦、どの場面でもただならぬ気迫を感じされるプレーが続く。

ボールを奪うと前線にロングボールを入れて裏を狙い、前にスペースがあればドリブルで運び、シンプルに前への意識をむき出しにするヴィアティン三重の攻撃にHonda FCが翻弄され始める。

しつこくプレッシャーをかける池田直樹

13分、Honda FCがヴィアティン三重陣内でボールを保持。パスで繋ごうとするところに大橋がプレッシャーをかけてパスカット、再び奪われるがそこへ池田が執拗にプレッシャーをかけパスコースをブロック、こぼれ球を相手が拾ったところで再び池田が最前線まで追いかけてブロック、そのセカンドボールにいち早く反応した田村がスペースに蹴り出し自らトップスピードで駆け出す。慌てたHondaディフェンス陣はたまらずファールで止めフリーキック獲得。

キッカーは梁賢柱。この試合ではここまで1本のフリーキックと1本のコーナーキックを蹴りいずれもゴール前に質の高いボールを入れていた。ゴールまでの距離はおよそ35m、直接狙うにはやや遠く感じる。ゴール前の高さがある選手に入れて折り返そうかと考えた梁はチームメイトと言葉を交わす。しかし早い時間帯ということもあり積極的に狙っていけと後押しされた梁は直接狙うことを選択し思い切り右脚を振る。


正面に立った二人の壁のすぐ脇に低い弾道のボールは二列目に並んだ相手選手たちの間を抜けてゴール左に飛ぶ。ブラインドになっていたのか一瞬判断が遅れた相手GKが左に跳んだがゴールポストギリギリに跳んだボールには届かず、左のゴールポストに跳ね返ったボールがゴールネットに突き刺さった。16分、見事な先制弾。

35m超のFKを決めた梁賢柱

27分には左サイド深いところまで梁が入り込みコーナーキックを獲得、キッカーは再び梁。インスイングで高いところから落ちるボールを蹴り込む。ニアサイドに谷奥が相手選手二人を引き連れて走り込み、大きく弧を描いたボールはその後ろでフリーになっていた饗庭にドンピシャ。お手本通りのヘディングで合わせ追加点を奪う。前半の早い時間帯にHondaらしさを一切出させることなく2点のリードを奪い試合を優位に進める。


強く、しつこく、逆算の始まりは「対人」にあり

2点のアドバンテージはあるものの後半は受けに回る時間が長くなる。しかし決定機はほとんど作らせない。試合後の篠原が言っていたように、細かくディフェンスラインをコントロールしつつ、前線も中盤も相手が後ろ向きになっていると見たらしつこくプレッシャーをかけ、剥がされそうな場面では人数をかけて簡単に前を向かせない、そして顔を上げる余裕さえも与えない。ゴール前でクロスが入ってきても谷奥・饗庭が何度も何度も弾き返す。

空中戦では最後まで圧倒した

また、ソニー戦の最後の1分のような緩みは全くなく、常に誰かがボールホルダーにプレッシャーを掛け続け、ギリギリまで脚を出さずにパスが出たところでブロックする。そんな場面が何度も見られた

怪我からの復帰を果たした瀬尾も奮闘


前節での教訓を胸に、文字通り最後の1分1秒まで集中を切らさず全員で闘ったヴィアティン三重の選手たち。勝利への欲求と執念を全員が持ち続けた。そして試合終了のホイッスル。闘い抜いた男たちには笑顔がこぼれた。大仕事をやってのけた選手たちの頑張りに指揮官は過去最高のガッツポーズで喜びを表現した。

闘う男たちが笑顔に変わった瞬間

間瀬監督は「優勝・昇格に向けた逆算」と繰り返す。30節を終えた時に、優勝・昇格を果たしている姿から逆算していくと、それはさまざまな局面での選手対選手の場面であり一対一の闘いに勝つこと「対人」で勝利することにたどり着く。それは相手が王者Honda FCであっても変わらない事実だろう。

「Honda FCに対してと言うより…」と試合後に間瀬監督は語ったが、見ている方からすると徹底的にHonda FCのストロングポイントを出させないプレーを徹底したように感じた。パスを繋がれる前に潰す、セカンドボールを予測して身体を入れて強く回収する、ボールを持たれた時は人数をかけて徹底的に奪い切る。

相手を自由にさせなかった守備

結果を取れたらこれが正解

また、試合後に篠原はこう言った「やっぱり今週の練習っていうのは、1人1人思うところがあったと思いますし、僕も思うところもたくさんありました。それをみんな見てもらって分かると思うんですけど、気持ち込めてね、いろんなサッカー・いろんな種類のサッカーありますけど、これもサッカーのひとつだし、これで結果を取れたらこれが正解だし、よくみんな気持ち込めて闘ったと思います。

そして篠原はこう続けた「もっとボール動かしたい、もっとコンビネーション使いたいっていう選手もたくさんいると思うし、けどそれは勝つためにみんな我慢して、泥臭いプレー、闘うプレー、そういうことをやって、チームでバックアップメンバーも含めてやれたことが今日の1勝につながったと思います。」

怪我もいとわずチームを鼓舞した篠原と森主

Honda FCとの14回目にしてやっと手にした勝利。過去13回の対戦を振り返ると、今回が一番泥臭く闘ったように感じる。ある意味これまではHonda FCに対してサッカーの内容で上回ることに拘りすぎていたのかもしれない。どの試合もその時の全力を尽くして闘ったことは間違いないが、今シーズンに関してはHonda FCに勝つことを最優先した結果、勝利を手にすることができた。

ゴール裏も過去最高の盛り上がりを見せた

間瀬監督のコメントに戻るが「Honda FCに対してと言うより…」の真意は、相手がどこであれ、サッカーの内容よりも結果に拘り、勝利を追求するという意思の現れなんだとあらためて気付かされた。

今回の勝利は勝点3以上に「勝利のために必要な大切な何か」を手にしたように感じる。30節を終えた時に、ソニー戦のあの1分が無駄ではなかったと言えるように、ここからのタフな闘いに向かっていこう。

公式記録

試合後コメント・フォトギャラリー



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?