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再び、かっちゃんの話で申し訳ないが、小五の時の遠足だったと思う。
バスの中でしりとりをやろうということになって、子供らしくはじまったわけ。
「イルカ」
「カツオ」
するとかっちゃんが
「おまんこ」
と、やっちゃいました。
すると、学級委員長の角田(すみだ)君が、丁寧の「お」がついたらあかんと、ダメ出しをする。
あたしは心の中で「そういう問題かい?」とつっこんだ。
かっちゃんが、
「ほなら、おめこ」
「ぶー!『お』はあかんて言うてるやろ。『おりんご』とかもあかんで」と委員長。

「おまんこて何?」
と、女子の一部から質問が飛んだ。
「おめこのこと」
かっちゃんが、したり顔で説明する。
「あかんのとちゃう?エッチな言葉は違反やんなぁ。中村センセ」
担任の中村操先生は、
「あかんな。かっちゃんアウト」
「ほらみてみぃ」
委員長も、怖い顔でかっちゃんを睨む。
運転手のおっちゃんが大笑いしてはる。
バスガイドさんも、困った顔。

あたしは、今年から近所の学習塾の手伝いをやってる。
ここの生徒も、「どんならん」くらいアホぞろいや。
進学塾ではない。
落ちこぼれさんの掃き溜め塾や。
「こらぁ、そこ、座って勉強せぇ!」
あたしが、どなる。
「なおぼんせんせ、筆箱忘れた」
「おまえは、何しにここへ来てんね。ほんまに。はい、こっちのせんせのひきだしに鉛筆とか入ってるから使いなさい」
佐藤翔太という、茶色に頭を染めてるガキが、もううんざりや。

みんな、めいめい、学校から出された宿題を持ってきてここでやるのや。

しかし、格差の固定というのはほんとにあるんやなぁと思う。
この子らに罪はないけれど、学校はほったらかしやし、親も子供の勉強なんか見てやれへん。
彼らの親に訊いたら、
「今の子の勉強はむつかして、あたしら、よう教えられん」
そう言って、ここに子供を預けるんや。

最近の小学生は英語もさせられる。
「ワンスモアプリーズ」
「ジョイナス、ミスターサトウ」
「カモン!タツオ」
あたしは噴いた。
「お前な、お笑いに行くか?ええスジしてるわ」
「ほんま?せんせ」
「ああ、お前やったらいけるかもしれん。ちょっと男前やしな」
「おかんに言うてみる」
アホはおだてるに限る。

「通分や、そこは。そのまま足してどうすんね。めちゃくちゃやがな」
あたしは、いっぺんに五、六人の宿題を見なければならない。
「割り切れた?おかしなぁ、それは余りがでるはずやけどな。見せてみ」
「ここは出たらあかんねん。書き順が違う!はねたらあかん、止めるの」
「なんて書いてあるんや、この字ぃは。汚いなぁ、ちゃんと消しゴムで消して書く!」
「はい、ようできました」

思えば、かっちゃんもこんな感じやった。
ただ、かっちゃんは昆虫博士の異名を持ち、その道ではなかなかの物知りだった。
勉強はでけんでも、なんか一つ「とりえ」があったもんや。
今は、親父さんの後を継いで、運送会社を切り盛りしてる。
親父さんは糖尿で、目が見えへんようになったんやと聞いた。
「おれは社長には向いてへんねん」
ぽつりと言った彼の顔が、寂しそうだった。

みんな、いろいろあって大人になるんやな。

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