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MOOCsからSPOCsへ。広がりを見せるCohort-Based Learning

こんにちは。D4VというベンチャーキャピタルでアソシエイトVCとして働いている、飯田(まいーだ)です。

先日、こんなニュースが目に留まりました。ユニコーンEdTech企業 Udemyの共同創業者が、altMBAという新しいMBAを提示するスタートアップの共同創業者とともに、新たなEdTech事業の起業を発表したのです。

EdTechブームはまだ熱を帯びており、このような動きはすぐ注目を浴びますが、今回気になったのはそれより、TechCrunch記事内のこの言葉でした。

The company will focus on cohort-based learning, mixing live and asynchronous components.

"Cohort-Based Learning" とは、なんでしょう?

Cohort-Based Learningとはなにか

Cohort-Based Learning ー 言葉通りに定義すると、コホートごとで学習すること。具体的には、ある決まった期間、少人数のグループで、同じプログラムをともに学ぶ制度のことを指します。教育現場、特にアメリカでは高等教育や社会人向けの授業(MBAのコンテキストで言及されることが多い)で活用されることが増えています。

※アクティブラーニングとの違いは?
「アクティブラーニング」は学び方に着眼しており、必ずしも少人数である必要はありません。アクティブラーニングで代表的なのは Minerva Project が見せる教育です。こちらは少人数制でもあるので、 Cohort-basedでもあると言えるでしょう。

Cohort-Based Learningのメリットとしては、みんなと同じカリキュラムを学ぶため、少人数のグループ内で協力しながら課題をこなし、共通の目的(=プログラム修了)に向けて切磋琢磨できることです。この学習スタイルが、従来の教育(大人数で1年間など長期的なカリキュラムを学ぶ、もしくは個人単位で好きな科目を受講する)より効果的なのでは、ということで近年新たなアプローチとして取り上げられることが増えてきました。Cohort-Based Learning が特に注目を浴びてきたのは、EdTechの現場においてです。

MOOCsの限界

EdTechの起爆剤といえば、MOOCs(Mass Open Online Courses)。10年ほど前から台頭しはじめ、今ではすっかりオンライン学習の認知が広まりました。中でも著名なオンライン学習コースには Udemy, Coursera, Udacity, Khan Academy, edX などが挙げられます。

MOOCsのように、content-based そして self-paced な学習スタイルは、良し悪しがあります。学びたいコンテンツを選べるので、そういう意味では公立よく自分の学びたい内容をすぐに学べます。そして自分の好きな時間に学ぶこともできるので、非常に都合の良い学習方法です。

しかし、どうしても1人で学ぼうとしても、自発的にクリックし、日々学習を継続する気力がないと、確実に脱落してしまいます。実際、普及し始めた当初より、全体の受講者のうち修了者はたったの4%で、登録者の半数は初回の講座も見終わらないという散々な報告がされていました。そして2020年の今でも、あまり改善が見られていません

注目を浴びるSPOCs 

そんなMOOCsの弱点に対し、早速話題になったのはSPOCs(Small Private Online Courses)。選考を通過した少人数のグループが、短期間(数ヶ月など)一緒に学ぶ、厳選された受講生のためのオンラインコースです。つまり、SPOCsの基盤にはCohort-Based Learningがあるのです。

SPOCsは2013年から取り上げられて以来、現在もMOOCsより効果的なオンライン学習設計方法として紹介されています。ある研究では、SPOC受講生の修了率は75.9%と高い数値を記録しており、6割以上が脱落するMOOCsより圧倒的に良い結果が出されました。SPOCsの例として代表的なのは、HarvardがedXで実施しているコース、HarvardXです。

従来のMBAに対して高まる批判

一方、世間ではまた別の議論も同時並行で起きています。それは、従来のMBAに対する批判です。

従来のMBA、特にアメリカのトップスクールと呼ばれるところでは、とにかく費用が高い(準備含め総額2,000万円以上かかることも)。準備および受講するには時間と手間がかかる。このようなハードルのため、米国ではそうです。

ではオンラインのMOOCsを活用して学費をなんとか安くすれば良いのでは?と考えるかもしれません。しかし、前述した通り、最後まで続かない受講生が非常に多いのです。さらに、真のMBA資格にはかなわないという社会的観念は根強く、どうしても人々は実際に通学するMBAを選んでしまいます。今回、コロナで多くのMBAもオンライン授業に移行しましたが、やはり対面の体験がほしいという理由で留学を1年先送りした人も、周りの友人にも複数人いました。

SPOC形式の新たな"NAMBA"

そんな従来のMBAに革命をもたらそうとしている新しいビジネスもあります。マーケティング業界で著名なSeth Godinが(冒頭のWes Kaoとともに)創設したaltMBAや、イギリス・イスラエルに展開中のJoltによるNAMBA("Not An MBA")は、まさに前述したSPOC形式を取り入れた、新しいオンライン型MBAコースです。"NAMBA"という名の通り、従来のMBAを覆すような、より安価で質の高い教育を受け、ビジネスの実務家から学び、共に学ぶクラスメイトたちと一緒に切磋琢磨できるプログラムなのです。

このような新しいプログラムに対し、絶対批判や懐疑的な声もあるのでは?と思い調べていましたが、驚くことに、肯定的な声が多く感じられました...!ただ、やはりどのレビューも「人による」と書かれており、少数ですが「合わなかった」という人もいました。

altMBAの評価が複数まとめられている記事はこちら。

Cohort-Based Learningが主流になる日は来るのか?

技術の進化と時代のニーズとともに広まるEdTechの流れ。今はまだSPOCsのようなCohort-Based LearningはMBAなどリーダーシップ教育や高等教育の文脈で扱われるようですが、この流れに乗って、もっと広範囲に教育現場で応用される日は来るのでしょうか?

もちろん、課題も大いにあります。少人数グループを短期間、集中的に始動するので、教員側の負荷も大きいでしょう。どうやって質を担保しながら量産できるのかも疑問です。グループ内の相性によって効果はまちまちでしょうし、年齢や学習目的によって効果も異なることでしょう。大人を対象としたMBAコースや単発な数ヶ月の学習コースなら問題なくとも、初中等教育では厳しいかもしれません。

学校などの教育現場ではまだまだ先の話かもしれませんが、オンライン上の学習体験としてどうでしょう。MOOCsが限界となり、Zoom授業などリアルタイムのオンライン学習も多くの課題が見受けられる今、もしかしたらCohort-Based LearningはこれからEdTechの機会で増えていくかもしれません。冒頭で話した新しい事業も、どのような形で繰り広げられるのか、注目していきたいと思います。

最後まで読んでくださりありがとうございます!これからもVCとして日々学んだことを、記事として記録していきます。

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