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零れ落ちた幸せ

ふと、過去に自分が書いた作品を振り返りたくなる時がある。

特に理由はない。自分でもなぜだかは分からない。

ある眠れない夜の日も、去年自分が書いたとある作品を聴き返していた。


………なんて愛の溢れた曲だろう。

これを書いていた頃の自分は、確かに愛のある幸せに満ち溢れていた。

限りない(と思い込んでいた)愛を知り、その愛に抱かれ、その愛を生きる希望としていた。

あったかかった。


しかし、もうこの幸せはその後、この手から零れ落ちて、砕けてしまった。

この幸せを失った僕は、もうあの時書いていたような音楽を書けなくなってしまった。

それ故、今となっては、当時の作品を通して、零れ落ちた幸せに思いを馳せる事しかできない。


あの幸せを失い、同時に深い深い傷を負った僕に向かって「時間が解決してくれる」という言葉は通用しない。

その言葉は全くの嘘だ。

一度負った深傷は深傷として痛みごと残ったまま、嫌になるほど生き続ける。

それから逃げたいあまり、当時のように愛に潤わされた曲が書けていた頃に今すぐにでも戻ることができたなら、なんていう思考の呪いに今でもずっと苛まれる。


あの愛、あの幸せを失った今の僕に、何を書くことができるだろうか。

それとも、それと引き換えにもらった深傷を抱えて、何を書こうか。



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